日満官吏の交流
このごろ内地においては各省官吏の交流といふことが問題になつてゐる。そこには確に正しい思想があるであらう。今日の政治に必要なのは綜合性でありまた統一性である。しかも日本の従来の政治に最も欠けてゐたのはまさにこのものであつた。政治の綜合性と統一性との実現されるためには官吏が綜合的な知識と経験とを有することが大切であり、単に自分の省の立場にのみ局限されず全体的な見地から必要な仕事が決定され遂行されるやうにならねばならぬ。それには各省官更の交流は適切な方法であるといへるであらう。これまで予算の分捕りなどに見られたやうな各省の割拠主義が矯正されなければならない。
現代は或る意味において綜合の時代と称することができる。独裁政治にはもちろん種々の弊害があるけれども、それは従来の自由主義の政治が陥つてゐた割拠主義を破つて政治の綜合性と統一性とを実現し得るといふところに一つの意義を有するであらう。ひとり政治においてのみでなく、現代文化のあらゆる方面において綜合性と統一性とが要求されてゐる。新しい全体主義が必要とせられる理由はそこからも考へられるであらう。
しかしながら現在の状態で各省官吏の交流が行はれる場合、それは単に人事の融通の便宜のために、官吏の出世主義のために利用される危険がある。そのために一つの仕事に身を入れてやるといふことがなくなり易い。かやうな弊害は既に従来も著しく認められたものであるが、各省官吏の交流が行はれることによつてその弊害が一層助長されることになり易いのである。その弊害をなくするためには官吏の頭を根本的に改造して掛からねばならぬ。人間の改造なしには制度の改革もほんとには行はれないのである。
各省官吏の交流の問題はともかく、我々が実現を希望することは、在満の日本人官吏と内地の官吏との交流である。これは各省の間に考へなくても、一つの省の内部においても考へ得ることである。
日満官吏の交流が行はれるやうになり、将来内地において重要な地位に就くべき官吏はぜひ一度は満洲国で働かねばならぬといふことになれは、満洲国の側にしても有能な日本人官吏を得ることが極めて容易になるであらう。また主として満洲国で仕事を為すべき官吏も時に東京て働くといふことになれば文化的に遅れる心配はなくなるであらう。
いはゆる東亜協同体の建設が政治においても、経済においても、文化においても、今日の新しい理念になつてゐる。この理念の実現されるためには日満支の間にあらゆる活溌な交流が行はれるやうにならなければならないいそして差当り日満官吏の交流が要求されてゐる。日満一体の政治が可能になり、日本の政治も満洲国の政治も孤立的、割拠的になることなく、つねに一つの全体的な立場に立つて綜合的、統一的に行はれるやうになるためには、まづ日満官吏の交流が必要であると思ふ。
(十一月二十四日)