明治天皇の御宇に於て、我が邦の隆運、真に曠古の進暢を致したるは、
中外の倶に驚歎崇仰して措かざる所なり。
 武門の政治を一転して、王政の古に復せられ、五箇条を神明に誓ひて、
開国の皇謨を決せさせ給ひ、憲法を欽定して、議政の府を開かせられ、
国防を充実し、法制を整備し、教育を奨め、産業を励ませ給ひ、国威維
れ揚り、邦光維れ宣ぶ。これ固より皇祖皇宗の遺烈、列聖余沢の積成せ
し所に是由るべしと雖も、又実に 天皇の叡明無比、允武允文にわたら
せられし御稜威、御懿徳の自ら発して、此の前古未曽有の盛代を実現す
るに至りしものたるに外ならず。
 天皇の御偉業、百代に卓越するものあるは、将来史家の記述して、余
蘊なき所たるべし。然れども御偉業の内面に充ちたる日常御盛徳の、自
ら千古に儀表たるものあるに至つては、九重雲深うして、外間の拝聞し
得ざりし所多く、而も当年側近に奉仕したる勲宿凋残漸く少からむとす。
今にして我が 聖皇の鉅大なる余光余声を永く拝瞻するの方途を講ぜず
むば、或は遂に閘揚し奉るを得ざるに至るの虞なしとせず。
 是雑誌「キング」の附録として、篤志なる経画の下に、側近奉仕者の
謹述せし所を輯め「明治大帝」の一冊子を編纂して、之を世に刊行する
の挙、大いに我が意を得たるものある所以なり。
 庶幾くは世の読者、本書の記述し奉る所に依つて、斉しく 天皇の御
徳量、御風度、真に偉大崇高なるものあらせられしを親しく景瞻し奉り、
各人修養激励の金鑑として、愈鑽仰の誠を致すあらむことを。

  昭和二年七月

          内務大臣法学博士  鈴木喜三郎 敬識