御陵近き精舎に籠りて              元命婦 平田三枝

      これが至尊の御座所かと


 私の始めて御所に上りましたのは、明治十二年の十二月で御座いました。其の頃御所と申
しますのは、赤坂の仮皇居のことで、紀州家のお邸跡、御所とは申すものゝ、誠に御手狭な事で
聖上の御座所が、わづか十五畳の御一間と申すやうなわけ。而もそこで御食事も、何もかも遊
ばされるのでございました。
 御座所の後装飾なども、取立てゝ申し上げる程のことなく、至つて御質素で、わづかに、正
面に御床間、御違棚がある位のもの、随つて、皇后様の御座所とても其の通りで、とても只
今の人々の思ひもよらぬ程の御手狭な御窮屈なもので御座いました。私も、御所に上りました
最初、この御様子を拝見致し、これが一天万乗の大君の御座所かと驚き入つてしまひました。

 

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