手作りの琵琶を捧げて

　元掌侍　　吉田�ﾄ子

先帝様の嬪宮に祇候して

　私は、樹下定江様と同時に、明治二十年から御所に出まして、昭憲皇太后崩御まで丁度二
十八年の間、御仕へ申し上げました。
　随分永い間の御奉公で御座いましたが、何分にも老年のことゝて、記憶も確で御座いません
が、少しなりとお話申し上げて、明治天皇の御高徳を偲び奉りたいと存じます。
　今度大正天皇崩御につきまして、私たち年寄どもゝ、嬪宮に祇候させて頂きましたが、其の
折にも、明治天皇の崩御の時を思ひ出しまして、感慨一入で御座いました。
　御内儀の御苑の様子は、十数年前も同じこと、唯、先年の地震に土塀が崩れたため、柵に改
められましたのと、梅の木の下に大きなお手水鉢が置かれてあつたゞけの変り方、凡ては元の
通り、明治天皇御在世当時のまゝで御座いました。

「暑さは我慢すれば凌げる」

　御苑の一つの石を見ましても、一本の樹を眺めましても、凡てが思ひ出の種ばかりでござい
ます。宮城御落成の折の　聖上の御喜び、其の時の国民の心づくしなど、次から次へと泉のや
うに湧き出て参りました。
　表御座所は