第四五二号(昭二〇・八・二九)

   詔  書
   作らう秋作物           農 林 省
   秋野草の食べ方
   主要食糧の食べ方

 

これからの食糧増産には何がよいか

 戦ひの後に必ず襲ふものは最も苛酷な飢餓で、既に欧州諸国がその悲惨な災禍を受けけつゝあります。瑞穂の国といはれる我が国に於ても、一歩油断をすれはその状態が来ないとは断言できないのです。肥料、労力の不足に加ふるに海外からの補給が困難となつた今日、食糧の自給はまさに国家国民の死活を握る重要問題なのです。
 戦ひの意外な結末に徒らに茫然自失することなく、一億挙つて新たなる勇気を奮ひ起し、食糧自給の道をきり拓いていかねばなりません。短期間でとれ、相当な満腹感を与へる野菜、この野菜の栽培は応急的食糧増産といふ点からも目前極めて大切なことです。では、これからの野菜はどんなものを作ればよいか。
 大根 これは秋野菜の王で大根は秋野菜だけではなく、我が国の野菜の中で一番代表的なものといへませう。これは収穫が極めて多く、一坪から普通五、六貫、上手に作れば十貫に近い収穫も困難ではないでせう。
 時節柄主食に混ぜて、雑炊をはじめ、大根飯としたり、飯に大根葉を炊き込んだりして、これを重要なかてもの(混食物)としてゐる農村や山村は各地に尠くないでせう。
 また沢庵としたり、生のまゝ貯へて、冬中の野菜不足に備へることは、独り北の雪国だけのことではありません。生のまゝ貯へることも容易ですが、切干としたり、葉は乾葉として永く貯へられ、非常用に適当でせう。
 蕪菁 大根と比べると根の短いものたけに、どんな土地にも適し、また戦災地や開墾地等で、あまりよく整地の出来てゐない所でもよく出来ます。
 東北地方では毎年焼畑をしてはこの蕪菁を作つて(かのかぶといつてゐる。----かのとは焼畑のこと)混食にしてゐる所もあります。
 また蕪菁は大根に比べて生育が早く、多少遅まきがきゝます。
 大蕪は春まで容易に貯へられ、また一般にはあまり行はれてゐませんが、大根同様根部の切干、葉の乾燥もよく出来ます。
 人参 夏蒔きの長人参の蒔き時はもう過ぎ、これからは生育の早い三寸人参、五寸人参等です。
貯蔵し易く、栄養に富んだ野菜です。
 牛蒡 一般から特別な嗜好を持たれてゐます。これは春蒔きにもしますが、秋にも蒔きます。ただ収穫まで大部永くかゝるのが欠点でせう。
 白菜 宮城県や茨城県から送つて来てゐたやうな見事な結球白菜は、長距離の所を輸送したり、生で永い間貯へるには極くよいものですが、農薬が十分でないのと害虫の被害がひどいのと、肥料を十分やらないと満足な球とならないので、だんだん作られなくなりました。従つて、これは家庭菜園にも向くとはいへません。そこで、この代りに半結球や不結球白菜の類がいゝでせう。これは若し出来が悪くて球にならなくても差支へなく、また虫の害も少いので、結球白菜に比べてずつと作り易いので優れてゐます。また所謂菜漬にすると、結球白菜よりずつと保ちがよく、味もよい位です。
 漬菜類 これにはいろいろの種類があつて、秋から冬の大切な野菜で、家庭菜園にいゝものも尠くありません。
[体菜] 杓子菜ともいはれ、葉柄の根本がチリレンゲのやうによく太り、菜漬にすると保ちもよく、独特の風味があつて、東北、北海道等では特別の嗜好があるものです。生育が早いので五、六寸位の時に穫つて、浸し物や一夜漬等で食べるやうにする場合は、極く短期間で作れるので、野菜不足の時に急に青菜を作らうとする場合には極く重宝です。
[京菜(小菜)]寒さに強いので厳寒期の菜として多くつくられます。また早く蒔いて晩秋、初冬に穫つたり、晩生の系統のものは冬越をして春先に穫ります。苗の植替えがよく効き、丈夫で極く作り易いものです。
[高菜]九州地方に多いもので、これは主に春先、の立つて来た時に穫つて、所謂高菜漬にします。特有の辛味のために永く保ち、菜漬でも土用過ぎまで食べられます。この漬物はそのまゝ食べるほか、これを油で炒めたり、またその塩味を利用して雑炊の実に使つたりしますが、これは野菜の時局向のよい利用法といへませう。
[大阪しろ菜]これは小松菜と似て漬物より浸し物や汁の実、煮物等にする方の菜です。寒さに強いこと、収穫の多い点など誠に優れてゐます。この中に早生、中生、晩生があつて、蒔き時によつて早生を八月終りに蒔いたものは十月頃から、また十一月になつて中生や晩生の苗を植ゑて三月から四月に穫るまで、冬中の青菜としてよいものです。
[小松菜]東京ではお正月の雑煮用の菜として使はれますが、生育が早く丈夫で、極く作り易いものです。寒さにも強く、簡単な霜除をすると厳寒中にも穫れ、また冬越しをして早春の青菜としても出せます。
[油菜]油を採る菜種の中で日本種とか赤種、箒種等といはれてゐる方は、丁度小松菜のやうにその葉を野菜向とするのによく、極く丈夫なので、よく冬の菜として作られます。
[その他の菜いろ/\]以上の外、地方々々に特有の菜があつて、例へば東北、北海道の莖立菜、福島の信夫菜、新潟の長岡菜、信州から山梨の長善寺菜、関西の黒菜、広島の広島菜等、何れも郷土色豊かなものですが、多くは極く作り易くてよいものです。その地方で種子を手に入れ、また故郷から送つて貰つて作るといゝでせう。
 玉葱 貯蔵が容易で栄養分の多い玉葱は、案外作り易く、よく一坪から四、五貫、百五、六十箇の収穫が得られます。
 分葱 葱と似てゐますが、種球さへ手に入れて植ゑれば苗仕立の手数もなく、十二月頃から翌春四月末まで食べることが出来、収穫も尠くありません。
 葱 九月、苗床に来年向の種を蒔きます。家庭菜園では根深葱より葉葱の方が向くでせう。
 豌豆 豆と一緒に来春のために冬の間の畑を利用して作る豆類ですが、豆類の性質として肥しが要らない作物として、耕作に組入れて行く必要があります。僅か作つても日々の惣菜用として重宝で、また剥豌豆として混食に優れてゐます。
 豆 豆の収穫は一段歩四、五石もあつて、食糧として麦を遙かに凌駕して、米や藷と同等位の収穫があります。しかもこれは畑の周囲や道路縁、土堤等の利用でよく出来ます。
 菠薐草 ビタミンや灰分等の栄養に富んだ野菜で、春や秋に作れば極く生育が早く、また寒さに極く強いので、関東地方のやうな寒さのひどい所でも、極く簡単な霜除けで厳寒の時にも穫ることが出来ます。秋穫りには品種を問ひませんが、真冬から早春に穫るには寒さに強い日本菠薐草に限ります。
 不断草 春から夏にかけて、絶えず青菜として獲れる不断草は秋の野菜としても相変らず利用出来ます。

大切な秋野菜の蒔き時

八月 秋野菜の種蒔きはまだ暑さ酷しい土用過ぎの八月半ばから始まります。この頃はまだ強い日照りに畑も乾き勝ちで、下手をすると芽がよく出ないこともあり、種蒔きも中々技術が要ります。
 冬のために太い大根やよく巻いた白菜を作るには、八月の中旬から下旬にかけて蒔くことが必要です。然し数年前からこの適期にまいた大根や白菜には芯虫の被害がひどく、最近はこれを防ぐ薬剤も十分入手出来ないために、失敗することが多いので、大根は多少細くても辛抱したり、白菜等も結球でない半結球とか、不結球白菜を多く作るやうにすれば、多少遅く九月に入つて温度も涼しくなり、害虫の被害も少くなつてから蒔いてもいゝので、馴れない人達にもずつと作り易いでせう。
 勿論狭い家庭菜園では、熱心に作ればどんな丹精も出来るのですから、適期にまいて十分太つた大根、見事な球になつた白菜を穫ることも不可能ではないでせう。
九月 九月に入つてからお彼岸にかけては、前の大根や白菜の外、大かぶや中かぶを始め、体菜、小松菜、菠薐草、京菜、高菜等いろ/\な菜類の種蒔きが次ぎ/\と行はれます。
 大根にしても白菜類にしても、これ等は何といつても早目に蒔かないと、十分に成育したものは得られません。また菠薐草や京菜や高菜、大阪しろ菜等は、真冬から来春にかけて穫るために、もつと遅くも蒔きますが、年内に収穫するものはやはりこの月初めに蒔きます。蕪菁も大かぶ、中かぶは大根に次いで早目に蒔きますが、小かぶは生育が早いので、月初めに蒔いたものは十月中に収穫出来、十一月から十二月用としては月末近くになつて蒔くといふやうに、二、三度に蒔いて置く方がいゝでせう。体菜、小松菜、菠薐草のやうな育ちの早い菜も同様です。
 玉葱は九月の半ばに苗床へ種を蒔きます。関東地方から北の寒さがやゝ酷しい所では、それより十日ほど遅く、下旬になつてから直播きにした方が成績がいゝ場合が多いでせう。
 三寸人参、五寸人参も九月中旬、牛蒡も中旬から下旬にかけて蒔きます。
 さて九月二十三日(秋分)を中心としたお彼岸は、秋の種蒔きの好気節と云はれてゐますが、特に寒さに強いものを除いては、大抵の秋野菜の種蒔きは、寧ろこの時期で終わるのです。この時季を境に温度はめつきり寒さが加はるので、この前後で蒔き時が二、三日違つても後になると非常な相違になるもので、油断をしてゐると、僅か四、五日遅れたといつても、後の育ちは見違へるやうで、収穫はづつと落ち、種類によつては満足な収穫が得られなくなることも尠くありません。
十月 十月に入つては月初めにお正月の小松菜を蒔き、月半ばにお正月用の小松菜を蒔き、月半ばには豌豆、豆を蒔きます。これ等はあまり早く蒔いたり、またこれより遅過ぎたりして、冬の寒さの来る迄に育ち過ぎたり、あまり小さかつたりすると、寒さに痛み易く、冬越しが難しくなるので、意が肝要です。春用の菠薐草も同様で、これも中旬が適期です。この時には寒さに強い日本菠薐草を蒔きます。
 また十月半ばには二、三月に穫るために、厳寒の酷しい霜を葭簀で防いで(覆下といふ)、小松菜や小蕪、亀戸大根等を蒔きます。
十一月 寒さが酷しくなる前の十一月上--中旬は玉葱の苗の植付けです。また、晩生の大阪しろ菜の苗も、この頃植ゑて置けば早春の野菜に不自由をしないでせう。
 短い秋の日はまつしぐらに近づいて来る冬将軍の前に時季を逃さず蒔付けをして、必ず季節の野菜を確保し、野菜がきれて困るやうなことのないやうに致しませう。

秋野菜の蒔き方と手入れ

大根
蒔き方
 太くて真直ぐな大根をとるには、畑をよく耕すことが大切です。耕したばかりの畑は土が落着かないために、土の間に隙間があつたりして、根が股になる因になりますから、畑はなるべく種蒔きの十日か二週間前に耕し、畦幅二尺か三尺五寸、(畦に二条蒔く場合)の高畦を拵へます。作土が深くて地下水の低い所では平畦でも差支へありませんが、普通四、五寸位の高畦と致します。
 肥しは元肥を根の真下の所にやると、これも股の出来る原因になるので、蒔き条と蒔き条の間にやつたりもしますが、多くは株と株の間に遣るのが普通です。 ()
 予じめ準備した畦を蒔く時に再び手直しをして、これに株間が一尺--一尺二寸になるやうに足跡をつけ、この足先の広い所に種を蒔き、(「踵」)の跡に肥しをやります。は一箇所七、八粒をパラリと蒔き、上から二分位の厚さに土をかけ掌で押えておきます。肥しはよく腐つた下肥を一坪について三升位、水で二倍位に割つて施し、種と一緒に土を覆ふやうに致します。
 種蒔きの頃はよく畑が乾くので、一雨降つて土がよく湿つた時を見計らつて蒔くことが成功の秘訣ですが、若し乾いてゐるやうでしたら、極く稀い下肥等を十分注いで土を湿らして蒔くやうに致します。
手入れ
 よく湿気があれば二--三日で発芽しますから、早速地蚤(のみむし)や芯虫を防ぐために、煙草の粉や除虫菊粉(のみとりこ)にその十倍位の木灰を混ぜ、一昼夜密閉しておいたものを、一日おき位に朝々葉の上から振りかけてやります。特に芯虫は小さな大根の芯の所に(「蛆」)が巣を食ふため、大根は芯止りになつて、そのまゝ生育が止まつてしまふ恐ろしい害をしますから、このを怠らずかけて防ぐことが肝腎です。
 そして三、四回にだん/\間引いて九月半ば過ぎ本葉七、八枚になつてから、一箇所一本宛に致します。
 間引の都度周囲の土を軟らげ、四、五倍に稀めた下肥を施し、その後は株間、畦の両肩の所、畦間といふやうに、十日目毎に四、五回、毎回下肥を坪当り二、三升位宛水で三、四倍に稀めて施し、終りに畦間が葉で一杯になつて止めます。
 地蚤や芯虫の害は本葉七、八枚になる頃には心配がなくなりますが、これい続いて青虫(モンシロテフの幼虫)や夜盗虫が着いて葉を喰ひ荒すことがありますから、これはよく見廻つて捕つて殺すことが大切です。

蕪菁
蒔き方
 大かぶ、中かぶ  二尺、又は三尺五寸で二条蒔き
 小かぶ  一尺五寸、又は三尺二条蒔き
 畑を耕し、右の畦幅に深さ三、四寸内外の肥溝を作り、これに元肥として、一坪について堆肥一貫五百匁--二貫匁、下肥二、三升を施し、土を覆つて低目(高さ一、二寸)の畦に仕上げます。その上に小蕪と中蕪は条蒔き、大蕪は株間七、八寸距てに一箇所十粒内外を点蒔にして上から薄く土をかけよく押へて置きます。
手入れ
 発芽と一緒に地蚤の害があり、また早蒔きにしたものは大根と同じ芯虫の被害があるので、大根に準つて防ぎます。
 二、三回に間引をして本葉五、六枚の時、大蕪は一本立とし、小蕪は株間二、三寸、中蕪は株間四、五寸と致します。
 そして搗き立ての餅のやうな肌をした、軟かい蕪をとるには、十分な追肥を与へることが必要で、収穫まで三、四回よく腐つた下肥を水で三、四倍に稀めて十分施すやうに致します。

人参
 (三寸人参、五寸人参)
蒔き方
 畦幅三尺に二条蒔きにするやうにして、