この書は「人間と実存」と題するが、私の哲学論文集である。「人間」の意味は「人間学とは何か」で閘明したつもりであり、「実存」の意味は「実存哲学」で論述した。配列の順序は内容上の考慮に基いてゐる。執筆の年月は発表の場所と共に各論文の終わりに記して置いた。いづれも多少の修補を加へた。「人生観」と「哲学私見」とは一般的考察であり、その次の三論文は特殊問題の考究であるが、人間存在が常に視点の中核になつてゐる。「ハイデッガーの哲学」は叙述と簡単な批評とであるが、人間実存の意味を理解する一助となるであらう。「日本的性格」は特定の歴史的国民として実存する人間の構造分析にほかならない。人間とか実存とかいふことは、それに関連する諸問題と合はせて、哲学の最も重要な問題であると私は考へてゐる

   昭和十四年四月 

                   京都にて

                      筆者