国家改造案原理大綱
国家改造案原理大綱目次
緒 言
巻一 国民ノ天皇
憲法停止−天皇ノ原義−華族制廃止−普通選挙−国民自由ノ恢復−国家改造内閣−国家改造議会−皇室財産ノ国家下附
巻ニ 私有財産限度
私有財産限度−改造後ノ私有財産限度超過者−在郷軍人団会議
巻三 土地処分三則
私有地限度−私有地限度ヲ超過セル土地ノ国納−土地徴集機関−将来ノ私有地限度超過者−徴集地ノ民有制−都市ノ土地市有制−国有タルベキ土地
巻四 大資本ノ国家統一
私人生産業限度−私人生産業限度ヲ超過セル生産業ノ国有−資本徴集機関−改造後私人生産業限度ヲ超過セル者−国家ノ生産的組織−ソノ一銀行省−ソノニ航海省−ソノ三鉱業省−ソノ四農業省−ソノ五工業省−ソノ六商業省−ソノ七鉄道省−莫大ナル国庫収入
巻五 労働者ノ権利
労働省ノ任務−労働賃銀−労働時間−労働者ノ利益配当−幼年労働ノ禁止−婦人労働
巻六 国民ノ生活権利
児童ノ権利−国家扶養ノ義務−国民教育ノ権利−婦人々権ノ擁護−国民人権ノ擁護−勲功者ノ権利−私有財産ノ権利
巻七 朝鮮其他現在及将来ノ領土ノ改造方針
朝鮮ノ郡県制−朝鮮人ノ参政権−三原則ノ拡張−現在領土ノ改造順序−改造組織ノ全部施行セラルベキ新領土
巻八 国家ノ権利
徴兵制ノ維持−開戦ノ積極的権利
結 言
緒 言
今ヤ大日本帝国ハ内憂外患並ビ到ラントスル有史未曾有ノ国難ニ臨メリ。国民ノ大多数ハ生活ノ不安ニ襲ハレテ一ニ欧洲諸国破壊ノ跡ヲ学バントシ、政権軍権財権ヲ私セル者ハ只竜袖ニ陰レテ惶々ソノ不義ヲ維持セントス。而シテ外英米独露悉ク信ヲ傷ツケサルモノナク、日露戦争ヲ以テ漸ク保全ヲ与ヘタル隣邦支那スラ酬ユルニ却テ排侮ヲ以テス。真ニ東海粟島ノ孤立。一歩ヲ誤ラバ宗祖ノ建国ヲ一空セシメ危機誠ニ幕末維新ノ内憂外患ヲ再現シ来レリ。
只天佑六千万同胞ノ上ニ炳タリ。日本国民ハ須ラク国家存立ノ大義ト国民平等ノ人権トニ深甚ナル理解ヲ把捉シ、内外思想ノ清濁ヲ判別採捨スルニ一点ノ過誤ナカルベシ。欧州諸国ノ大戦ハ天其驕侈乱倫ヲ罰スルニノアノ洪水ヲ以テシタルモノ、大破壊ノ後ニ狂乱狼狽スル者ニ完備セル建築図ヲ求ム可ラサルハ勿論ノ事。之ト相反シテ、我日本ハ彼ニ於テ破壊ノ五ケ年間ヲ充実ノ五ケ年トシテ恵マレタリキ。彼ハ再建ヲ云うフベク我ハ改造ニ進ムベシ。全日本国民ハ心ヲ冷カニシテ天ノ賞罰斯クノ如ク異ナル所以ノ根本ヨリ考察シテ、如何ニ大日本帝国ヲ改造スベキカノ大本ヲ確立シ、挙国一人ノ非議ナキ国論ヲ定メ、全日本国民ノ大同団結ヲ以テ終ニ天皇大権ノ発動ヲ奏請シ、天皇ヲ奉ジテ速カニ国家改造ノ根基ヲ完ウセザルヘカラズ。
支那印度七億ノ同胞ハ実ニ我ガ扶導擁護ヲ外ニシテ自立ノ途ナシ。我日本亦五十年間ニ二倍セシ人口増加率ニヨリテ百年後少ナクモ二億四五千万人ヲ養ウヘキ大領土ヲ余儀ナクセラル。国家ノ青年ハ一人ノ百日ニ等シ。コノ余儀ナキ明日ヲ憂ヒ彼ノ凄惨タル隣邦ヲ悲シム者如何ゾ直訳社会主義者流ノ巾幗的平和論ニ安ンズルヲ得べキ。階級闘争ニヨル社会進化ハ敢テ之ヲ否マズ、而モ人類歴史アリテ以来ノ民族競争国家競争ニ眼ヲ蔽ヒテ何ノ所謂科学的ゾ。欧米革命論ノ権威等悉ク其浅薄皮相ノ哲学ニ立脚シテ終ニ剣ノ福音ヲ悟得スル能ハサル時、高遠ナル亜細亜文明ノ希臘ハ率先其レ自ラノ精神ニ築カレタル国家改造ヲ終ルト共ニ、亜細亜聯盟ノ義旗ヲ翻シテ真個到来スべキ世界聯邦ノ牛耳ヲ把リ、以テ四海同胞皆是仏子ノ天道ヲ宣布シテ東西ニ其ノ範ヲ垂ルヘシ。国家ノ武装ヲ忌ム者ノ如キ其智見終ニ幼童ノ類。
巻一 国民ノ天皇
憲法停止―天皇ハ全日本国民ト共ニ国家改造ノ根基ヲ定メンガ為メニ天皇大権ノ発動ニヨリテ三年間憲法ヲ停止シ両院ヲ解散シ全国ニ戒厳令ヲ布ク。
註―権力ガ非常ノ場合有害ナル言論又ハ投票ヲ無視シ得ルハ論ナシ。如何ナル憲法ヲモ議会ヲモ絶対視スルハ英米ノ教権的デモクラシーノ直訳ナリ。是レデモクラシーノ本面目ヲ蔽フ保守頑迷ノ者。其ノ笑フべキ程度ニ於テ日本ノ國體ヲ説明スルニ高天ケ原的論法ヲ以テスル者アルト同シ。
海軍拡求案ノ討議ニ於テ東郷大将ノ一票ガ醜悪代議士ノ三票ヨリ価値ナク、社会政策ノ採決ニオイテカルルマルクスノ一票ガ大倉喜八等[ママ]ノ七票ヨリ不義ナリト言フ能ハズ。由来投票政治ハ数ニ絶対ノ価値ヲ附シテ質ガ其以上ニ価値ヲ認メラルベキ者ナルヲ無視シタル旧時代ノ制度ヲ伝統的ニ維持セルニ過ギズ。
註―クーデターヲ保守専制ノ為メノ権力濫用ト速断スル者ハ歴史ヲ無視スル者ナリ。奈翁ガ保守的分子ト妥協セザリシ純革命的時代ニ於テクーデターハ議会ト新聞ノ大多数ガ王朝政治ヲ復活セントスル分子ニ満チタルヲ以テ革命遂行ノ唯一道程ナシテ行ナイタル者。又現時露国革命ニ於テレニンガ機関銃ヲ向ケテ妨害的勢力ノ充満スル議会ヲ解散シタル事例ニ見ルモクーデターヲ保守的権力者の所為ト考ウルハ甚タシキ俗見ナリ。
註―クーデタ−ハ国家権力則チ社会意志ノ直接的発動ト見ルヘシ。其進歩的ナル者ニ就キテ見ルモ国民ノ団集其者ニ現ワルゝコトアリ。奈翁レニン如キ政権者ニヨリテ現ハルゝコトアリ。日本ノ改造ニ於テハ必ズ国民ノ団集ト元首トノ合体ニヨル権力発動タラサルヘカラス。
註―両院ヲ解散スルノ必要ハ其レニ拠ル貴族ト富家階級ガ此改造決行ニ於テ、天皇及国民ト両立セサルヲ以テナリ。悪法ヲ停止スルノ必要ハ彼等ガ其保護ヲ将ニ一掃セントスル現行法律ニ求ムルヲ以テナリ。戒厳令ヲ布ク必要ハ彼等ノ反抗的行動ヲ弾圧スルニ最モ拘束サレザル国家ノ自由ヲ要スルヲ以テナリ。而シテ無智半解ノ革命論ヲ直訳シテ此ノ改造ヲ妨クル言動ヲナス者ノ弾圧ヲモ含ム。
天皇ノ原義―天皇ハ国民ノ総代表タリ、国家ノ根柱タルノ原理主義ヲ明ラカニス。
此ノ理義ヲ明ラカニセンガ為ニ神武国祖ノ創業明治大帝ノ革命ニ則リテ宮中ノ一新ヲ図リ、現時ノ枢密顧問官其他ノ官吏ヲ罷免シ以テ天皇ヲ補佐シ得ヘキ器ヲ広ク天下ニ求ム。
天皇ヲ補佐スヘキ顧問院ヲ設ク。顧問院議員ハ天皇ニ任命セラレ其人員ヲ五十名トス。
顧問院議員ハ内閣会議ノ決議及ビ議会ノ不信任決議ニ対シテ天皇ニ辞表ヲ捧呈スヘシ。但シ内閣及ビ議会ニ対シテ責任ヲ負フ者ニ非ス。
註―日本ノ國體ハ三段ノ進化ヲナセルヲ以テ天皇ノ意義又三段ノ進化ヲナセリ。第一期ハ藤原氏ヨリ平氏ノ過度期ニ至ル専制君主国時代ナリ。
コノ間理論上天皇ハスべテノ土地ト人民トヲ私有財産トシテ所有シ生殺与奪ノ権ヲ有シタリ。第二期ハ源氏ヨリ徳川氏ニ重ルマデノ貴族国時代ナリ。コノ間ハ各地ノ群雄マタハ諸侯ガオノオノソノ範囲ニオイテ土地ト人民トヲ私有シソノ上ニ君臨シタル幾多ノ小国家小君主トシテ交戦シ聯盟シタリモノナリ。シタガッテ天皇ハ第一期ノ意義ニ代ウルニ、コレラ小君主ノ盟主タリ幕府ニ光栄ヲ加冠スルローマ法王トシテ、国民信仰ノ伝統的中心トシテノ意義ヲモッテシタリ。コノ進化ハ欧洲中世史ノ諸侯国神聖皇帝ローマ法王ト符節ヲ合スルゴトシ。第三期ハ武士ト人民トノ人格的覚醒ニヨリオノオノソノ君主タル将軍マタハ諸侯ノ私有ヨリ解放サレントシタル維新革命ニ始マレル民主国時代ナリ。コノ時ヨリノ天皇ハ純然タリ政治的中心ノ意義ヲ有シ、コノ国民運動ノ指揮者タリシ以来現代民主国ノ総代表トシテ国家ヲ代表スル者ナリ。スナワチ維新革命以来ノ日本ハ天皇ヲ政治的中心トシタル近代的民主国ナリ。何ゾ我ニ乏シキモノナルカノゴトクカノ「デモクラシー」ノ直訳輸入ノ要アランヤ。コノ歴史ト現代トヲ理解セザル頑迷国体論者ト欧米崇拝者トノ争闘ハ実ニ非常ナル不祥ヲ天皇ト国民トノ間ニ爆発セシムルモノナリ。両者ノ救ウべカラザル迷妄ヲ戒シム。
注二 国民ノ総代者ガ投票当選者タリ制度ノ国家ガアル特異ナル一人タリ制度ノ留ヨリ優越ナリト考ウル「デモクラシー」ハ全ク科学的根拠ナシ。国家ハオノオノソノ国民精神ト建国歴史ヲ異ニス。民国八年マデノ支那ガ前者タル理由ニヨリテ後者タルベルギーヨリ合理的ナリト言ウアタワズ。米人ノ「デモクラシー」トハ社会ハ個人ノ自由意志ニヨル自由契約ニ成ルトイイシ当時ノ幼稚極マル時代思想ニヨリテ、各欧洲本国ヨリ離脱シタリ個々人ガ村落的結合ヲナシテ国ヲ建テタリモノナリ。ソノ投票神権説ハ当時ノ帝王神権説ヲ反対方面ヨリ表現シタリ低能哲学ナリ。日本ハカカル建国ニモアラズ、マタカカル低能哲学ニ支配サレタル時代モナシ。国家ノ元首ガ売名的多弁ヲ弄シ下級俳優ノゴトキ身振ヲ晒シテ当選ヲ争ウ制度ハ、沈黙ハ金ナリヲ信条トシ謙譲ノ美徳ヲ教養セラレタル日本民族ニトリテハ一ニ奇異ナル風俗トシテ傍観スレバ足ル。
注三 現代宮中ハ中世的弊習ヲ復活シタル上ニ欧洲ノ皇室ニ残存セル別個ノソレラヲ加エテ、実ニ国祖建国ノ精神タリ平等ノ国民ノ上ノ総司令者ヲ遠ザカルコトハナハダシ。明治大帝ノ革命ハコノ精神ヲ再現シテ近代化セルモノ。シタガッテ同時ニ宮中ノ廓清ヲ決行シタリ。コレヲ再ビスル必要ハ国家組織ヲ根本的ニ改造スル時ヒトリ宮中ノ建築ヲノミ傾柱壊壁ノママニ委スルアタワザレバナリ。
注四 顧問院議員ガ内閣マタハ議会ノ決議ニヨリテ弾劾セラルル制度ノ必要ハ、天皇ノ補佐ヲ任トスル理由ニヨリテ専恣ヲ働ク者多キ現状ニ鑑ミテナリ。枢密院諸氏ノ頑迷ト専恣トハ革命前ノ露国宮廷ト大差ナシ。天皇ヲ累スルモノハスベテコノ徒ナリ。
華族制廃止
華族制ヲ廃止シ、天皇ト国民トヲ阻隔シ来レル藩屏ヲ撤去シテ明治維新ヲ明カニス。
貴族院ヲ廃止シテ審議院ヲ置キ衆議院ノ決議ヲ審議セシム。
審議院ハ一回ヲ限リトシテ衆議院ノ決議ヲ拒否スルヲ得。
審議院議員ハ各種ノ勲功者間ノ互選オヨビ勅選ニヨル。
注一 貴族政治ヲ覆滅シタリ維新革命ハ徹底的ニ遂行セラレテ貴族ノ領地ヲモ解決シタリコト、当時ノ一仏国ヲ例外トシタリ欧洲ノ各国ガ依然中世的領土ヲ処分スルアタワザリシヨリモ百歩ヲ進メタルモノナリキ。シカルニ大西郷ラ革命精神ノ体現者世ヲ去ルト共ニ単ニ附随的ニ行動シタル伊藤博文ラハ、進ミタル我ヲ解セズシテ後レタル彼ラノ貴族的中世的特権ノ残存セルモノヲ模倣シテ輪入シタリ。華族制ヲ廃止スルハ欧洲ノ直訳制度ヲ棄テテ維新革命ノ本来ニ返エルモノ。我ノ短所ナシト考エテ新ナル長ヲ学ブモノト速断スべカラズ。スデニ彼ラノアルモノヨリ進ミタリ民主国ナリ。
注二 二院制ノ一院制ヨリ過誤少ナキ所以ハ輿論ガハナハダ多クノ場合ニオイテ感情的雷同的瞬間的ナルヲモッテナリ。上院ガ中世的遺物ヲモッテセズ各方面ノ勲功者ヲモッテ組織セラルルユエン。
普通選挙
ニ十五歳以上ノ男子ハ大日本国民タル権利ニオイテ平等普通ニ衆議院議員ノ被選挙権および選挙権ヲ有ス。
地方自治会マタコレニ同ジ。
女子ハ参政権ヲ有セズ。
注一 納税資格ガ選挙権ノ有無ヲ決セル各国ノ制度ハ、議会ノ濫傷(ランショウ)ガ皇室ノ徴税ニ対シテソノ費途ヲ監視セントシタル英国ニ発ストイエドモ、日本国自身ノ原則トシテハ国民タル権利ノ上ニ立テザルベカラズ。スナワチイカナル国民モ間接税ノ負担者ナラザルハナシトイウ納税資格ノ拡張セラレタル普通選挙ノ義ニアラズ。徴兵ガ「国民ノ義務」ナリトイウ意義ニオイテ選挙ハ「国民ノ権利」ナリ。
注ニ 国家ヲ防護スル国民ノ義務ハ国政ヲ共治スル国民ノ権利ト一個不可分ノモノナリ。日本国民タル人権ノ本質ニオイテ、ローマノ奴隷ノゴトク、マタ昇殿ヲモ許サレザル王朝時代ノ犬馬ノゴトク、純乎タリ被治者トシテアル治者階級ノ命令ノ下ニソノ生死ヲ委スベキ理ナシ。コノ権利トコノ義務トハ一切ノ条件ニヨリテ干犯サルルコトヲ許サズ。シタガッテ、タトイ国外出征中ノ現役将卒トイエドモ何ラノ制限ナク投票シカツ投票セラルべシ。
注三 女子ノ参政権ヲ有セズト明示セル所以ハ日本現存ノ女子ガ覚醒ニ至ラズトイウ意味ニアラズ。欧洲ノ中世史ニオケル騎士ガ婦人ヲ崇拝シソノ眷顧(ケンコ)ヲ全ウスルヲ士ノ礼トセルニ反シ、日本中世史ノ武士ハ婦人ノ人格ヲ彼ト同一程度ニ尊重シツツ婦人ノ側ヨリ男子ヲ崇拝シ男子ノ眷顧ヲ全ウスルヲ婦道トスル礼ニ発達シ来レリ。コノ全然正反対ナル発達ハ社会生活ノスベテニオケル分科的発達トナリテ近代史ニ連ナリ、彼ニオイテ婦人参政運動トナレルモノ我ニオイテ良妻賢母主義トナレリ。政治ハ人生ノ活動ニオケル一小部分ナリ。国民ノ母国民ノ妻タル権利ヲ擁護シ得ル制度ノ改造ヲナサバ日本ノ婦人問題ノスベテハ解決セラル。婦人ヲ口舌ノ闘争ニ慣習セシムルハソノ天性ヲ残賊スルコトコレヲ戦場ニ用ウルヨリモハナハダシ。欧米婦人ノ愚昧ナル多弁、支那婦人間ノ強好ナル口論ヲ見タリ者ハ日本婦人ノ正道ニ発達シツツアルニ感謝セン。善キ傾向ニ発達シタルモノハ悪シキ発達ノモノヲシテ学バシムル所アルベシ。コノユエニ現代ヲモッテ東西文明ノ融合時代トイウ。直訳ノ醜ハトクニ婦人参政権問題ニ見ル。(国民ノ生活権利参照)
国民自由の快復
従来国民ノ自由ヲ拘束シテ憲法ノ精神ヲ毀損セル諸法律ヲ廃止ス。文官任用令。治安警察法。新聞紙条例。出版法等。
注 周知ノ道理。タダ各種閥族等ノ維持ニ努ムルノミ。
国家改造内閣
戒厳令施行中現時ノ各省ノ外ニ下掲ノ生産的各省ヲ設ケ、サラニ無任所大臣数名ヲ置キテ改造内閣ヲ組織ス。
改造内閣員ハ従来ノ軍閥、吏閥、財閥、党閥ノ人々ヲ斥ケテ全国ヨリ広ク偉器ヲ選ビテコノ任ニ当ラシム。
各地方長官ヲ一律ニ罷免シ国家改造知事ヲ任命ス。選任ノ方針右ニ同ジ。
注 徳川ノ君臣ヲモッテ維新革命ヲナスアタワザル同一理由。タダシ革命ハ必ズシモ流血ノ多少ニヨリテ価値ヲ決スルモノニアラズ。アタカモ外科手術ニオイテ流血ノ多量ナル理由ヲモッテ少量ナル者ヲ不徹底ナリトイウアタワザルガゴトシ。要ハ手術者ノ力量ト手術セラルべキ患者ノ体質如何ニアリ。現時ノ日本ハ充実強健ナル壮者ナリ、ロシア・支那ノゴトキハ全身腐肉朽骨ノ老廃患者ナリ。古今ヲ達観シ東西ニ卓出セル手術者ノアラバ日本ノ改造ノゴトキ談笑ノ間ニ成ルベシ。
国家改造議会
戒厳令施行中普通選挙ニヨル国家改造議会ヲ召集シ改造ヲ協議セシム。
国家改造議会ハ天皇ノ宣布シタリ国家改造ノ根本方針ヲ討論スルコトヲ得ズ。
注一 コレ国民ガ本隊ニシテ天皇ガ号令者ナル所以。権力濫用ノ「クーデター」ニアラズシテ国民ト共ニ国家ノ意志ヲ発動スル所以。
注ニ コレ法理論ニアラズシテ事実論ナリ。露独ノ皇帝モカカル権限ヲ有スベシトイウ学究談論ニアラズシテ、日本天皇陛下ニノミ期待スル国民神格的信任ナリ。
注三 現時ノ資本万能官僚専制ノ間ニ普通選挙ノミヲ行ナウモ選出サルル議員ノ多数マタハ少数ハ改造ニ反対スル者オヨビ反対スル者ヨリ選挙費ヲ得タル当選者ナルヲモッテナリ。タダシ戒厳令中ノ議員選挙タリ議会開会ナルヲモッテ有害ナル候補者マタハ議員ノ権利ヲ停止スベキヲ得ルハ論ナシ。
注四 カカル神格者ヲ天皇トシタルコトノミニヨリテ維新革命ハ仏国革命ヨリモ悲惨ト動乱ナクシテシカモ徹底的ニ成就シタリ。再ビカカル神格的天皇ニヨリテ日本ノ国家改造ハロシア革命ノ虐殺兵乱ナク、ドイツ革命ノ痴鈍ナル徐行ヲ経過セズシテ整然タル秩序ノ下ニ貫徹スベシ。
天皇財産ノ国家下附
天皇ハミズカラ範ヲ示シテ皇室所有ノ土地山林株券等ヲ国家ニ下附ス。
皇室費ヲ年給三千万円トシ、国庫ヨリ支出セシム。
タダシ、時勢ノ必要ニ応ジ議会ノ協賛ヲ経テ増額スルコトヲ得。
注 現時ノ皇室財産ハ徳川氏ノソレヲ継承セルコトニ始マリテ、天皇ノ原義ニ照スモカカル中世的財政ヲトルハ矛盾ナリ。国民ノ天皇ハソノ経済マタコトゴトク国家ノ負担タルハ自明ノ理ナリ。
巻二 私有財産限度
私有財産限度
日本国民一家ノ所有シ得べキ財産限度ヲ壱百万円トス。
海外ニ財産ヲ有スル日本国民マタ同ジ。
コノ限度ヲ破ル目的ヲモッテ財産ヲ血族ソノ他ニ贈与シマタハ何ラカノ手段ニヨリテ他ニ所有セシムルヲ得ズ。
注一 一家トハ父妻子女オヨビ直系ノ尊卑族ヲ一括シテイウ。
注二 限度ヲ設ケテ壱百万円以下ノ私有財産ヲ認ムルハ、一切ノソレヲ許サザランコトヲ終局ノ目的トスル諸種ノ社会革命説ト社会オヨビ人性ノ理解ヲ根本ヨリ異ニスルヲモッテナリ。個人ノ自由ナル活動マタハ享楽ハコレヲソノ私有財産ニ求メザルべカラズ。貧富ヲ無視シタル劃一的平等ヲ考ウルコトハ誠ニ社会万能説ニ出発スルモノニシテ、アル者ハコノ非難に対抗センガタメニ個人ノ名誉的不平等ヲ認ムル制度ヲモッテセントイウモ、コハ価値ナキ別問題ナリ。人ハ物質的享楽マタハ物質的活動ソノモノニツキテ劃一的ナルアタワザレバナリ。自由ノ物質的基本ヲ保証ス。
注三 外国ニ財産ヲ有スル国民ニコノ限度ノ及ブハ法律上当然ナリ。コレヲ明示シタリ所以ハコノ限度ヨリ免カルル目的ヲモッテスル外国ノ財産ヲ禁ズルヲ明ラカニシタルモノ。フラソス革命ノ時ノ亡命貴族ノ例。租界ニ逃居シテ財産ノ安固ヲ計ル現時支那官僚富家ノ例。
注四 社会主義ガ私有財産ノ確立セル近代革命ノ個人主義民主主義ノ進化ヲ継承セルモノナリトハコノユエナリ。民主的個人ヲモッテ組織サレザル社会ハ奴隷的社会万能ノ中世時代ナリ。シカシテ民主的個人ノ人格的基礎ハスナワチソノ私有財産ナリ。私有財産ヲ尊重セザル社会主義ハ、イカナル議論ヲ長論大著ニ構成スルニセヨ、要スルニ原始的共産時代ノ回顧ノミ。
私有財産限度超過額ノ国有
私有財産限度超過額ハスベテ無償ヲモッテ国家ニ納付セシム。
コノ納付ヲ拒ム目的ヲモッテ現行法律ニ保護ヲ求ムルヲ得ズ。
モシコレニ違反シタリ者ハ天皇ノ範ヲ蔑ニシ、国家改造ノ根基ヲ危クスルモノト認メ、戒厳令施行中ハ天皇ニ危害ヲ加ウル罪オヨビ国家ニ対スル内乱ノ罪ヲ適用シテコレヲ死刑ニ処ス。
注一 経済的組織ヨリ見タリトキ、現時ノ国家ハ統一国家ニアラズシテ経済的戦国時代タリ経済的封建制タラントス。米国ノゴトキハ確実ニ経済的諸侯政治ヲ築キ終レルモノナリ。国家ハ、カツテ家ノ子郎党マタハ武士ラノ私兵ヲ養イテ攻戦討伐セシ時代ヨリ現時ノ統一ニ至レリ。国家ハサラニソノ内容タル経済的統一ヲナサンガタメニ、経済的私兵ヲ養イテ相殺傷シツツアル今ノ経済的封建制ヲ廃止シ得べシ。
注二 無償ヲモッテ徴集スル所以ハ、現時ノ大資本家大地主ラノ富ハソノ実社会共同ノ進歩ト共同ノ生産ニヨル富ガ悪制度ノタメ彼ラ少数者ニ停滞シ蓄積セラレタルモノニカカワルヲモッテナリ。理由ノ第二ハ、公債ヲモッテコトゴトクコレラヲ賠償スル時ハ、彼ラハ公債ニ変形シタル依然タリ巨富ヲモッテ国家ノ経済的統一ヲ毀損シ得べキ力ヲ有スルヲモッテナリ。第三ノ理由ハ、国家トシテ不合理ナル所有ニ対シテ賠償ヲナスアタワズ、実ニソノ資本ヲシテ有史未曾有ノ活用ヲナスべキ切迫セル当面ノ経緯ヲ有スルヲモッテナリ。
注三 違反者ニ対シテ死刑ヲモッテセントイウハ必ズシモ希望スルトコロニアラズ。マタモトヨリ無産階級ノ復讐的騒乱ヲ是非スルニモアラズ。実ニ貴族ノ土地徴集ヲ決行スルニ、大西郷ガ異議ヲ唱ウル諸藩アラバ一挙討伐スベキ準備ヲナシタル先哲ノ深慮ニ学ブベシトスルモノナリ。二、三十人ノ死刑ヲ見バ天下コトゴトク服セン。
改造後ノ私有財産超過者
国家改造後ノ将来、私有財産限度ヲ超過シタル富ヲ有スル者ハソノ超過額ヲ国家ニ納付スべシ。
国家ハコノ合理的勤労ニ対シテソノ納付金ヲ国家ニ対スル献金トシテ受ケ明ラカニソノ功労ヲ表彰スルノ道ヲ取ルベシ。
コノ納付ヲ避クル目的ヲモッテ血族ソノ他ニ分有セシメマタハ贈与スルヲ得ズ。
違反者ノ罰則ハ、国家ノ根本法ヲ紊乱スル者ニ対スル立法精神ニオイテ、別ニ法律ヲモッテ定ム。
注一 現時ノ致富ト改造後ノ致富トガ致富ノ原因ヲ異ニスルヲ了解スベシ。
注二 最少限度ノ生活基準ニ立脚セル諸多ノ社会改造説ニ対シテ、最高限度ノ活動権域ヲ規定シタル根本精神ヲ了解スべシ。深甚ナル理論アリ。
注三 前世紀的社会主義ニ対スル一般カツ有利ノ非難、スナワチ各人平等ノ分配ノタメニ勤勉ノ動機ヲ喪失スべシトイウゴトキ非難ヲコノ私有財産限度制ニ移シ加ウルヲ得ズ。第一、私有財産権ヲ確認スルガユエニ尠シモ平等的共産主義ニ傾向セズ。シカシテ私有財産ニ限度アリトイエドモイササカモ勤勉ヲ傷ケズ。壱百万円以上ノ富ハ国有タリベキガユエニ、工夫ハ多クノ賃銀ヲ要セズ商家ハ広キ買客ヲ欲セズト思考スル者ナシ。
注四 私人壱百万円ヲ有セバ物質的享楽オヨビ活動ニオイテ至ラザル所ナシ。国民ノ国家内ニ生活スル限リ神聖ナル人権ノ基碇トシテ国家ノ擁護スル所以。数百万数千万数億万ノ富ニ何ラ立法的制限ナキハ国家ノ物質的統制ヲ現代見ルゴトキ無政府状態ニ放任スルモノ。国家ガ国際間ニ生活スル限リ国家ノ至上権ニオイテ国家ノ所有ニ納付セシムル所以。
注五 私産限度超過者ガ法律ヲ遵守セズシテ不可行ニ終ルべシト狐疑スルナカレ。刑法ヲ遵守セズシテ放火殺人ヲアエテスル者アルガユエニ刑法ハ空想ナリトイウ者ナシ。国憲ヲ紊乱スル者ニ課罰スル別個重大精密ナル法律ヲ制定スル所以ナリ。
在郷軍人団会議
天皇ハ戒厳令施行中、在郷軍人団ヲモッテ改造内閣ニ直属シタリ機関トシ、モッテ国家改造中ノ秩序ヲ維持スルト共ニ、各地方ノ私有財産限度超過者ヲ調査シ、ソノ徴集ニ当ラシム。
在郷軍人団ハ在郷軍人ノ平等普通ノ互選ニヨル在郷軍人団会議ヲ開キテコノ調査徴集ニ当ル常設機関トナス。
注一 在郷軍人ハカツテ兵役ニ服シタル点ニオイテ国民タル義務ヲ最モ多大ニ果シタルノミナラズソノ間ノ愛国的常識ハ国民ノ完全ナル中堅タリ得べシ。カツソノ大多数ハ農民ト労働者ナルガユエニ、同時ニ国家ノ健全ナル労働階級ナリ。シカシテスデニ一糸紊レザル組織アルガユエニ、改造ノ断行ニオイテ露独ニ見ルゴトキ騒乱ナク真ニ日本ノミモッバラニスベキ天佑ナリ。
注二 ロシアノ労兵会およびソレニ倣イタルドイツソノ他ノ労兵会ニ比スルトキ在郷軍人団ノイカニ合理的ナルカヲ見ルべシ。在郷軍人団ハ兵卒ノ素質ヲ有スル労働者ナル点リオイテ、労兵会ノ最モ組織立テルモノトモ見ラルベシ。
注三 現役兵ヲモッテ現在労働シツツアルモノト結合シテ、同族相屠フル彼ラハ悲シムベキ不幸ナリ。カツ日本ノ軍隊ハ外敵ニ備ウルモノニシテ自己ノ国民ノ弾圧ニ用ウベキニアラズ。
注四 国民ノ資産納税等ニ関与スル各官庁ヲ用イザル所以ハソレラト大富豪トノ結託ハスデニ脱税等ニ見ルゴトク事々国家ヲ欺キテ止マザレバナリ。第二ノ理由ハコノ改造ガ官僚ノ力ニヨル改造ニアラズシテ国民ミズカラガ国民ノタメニスル改造ナル根本精神ニ基ヅク重大ナル眼目。
注五 モトヨリ在郷軍人団ガソノ調査ト徴集ニ一ノ過誤失当ナキヲ期スルタメニ必要ナル官庁ヲシテ必要ニ応ジテ協力補佐セシムルハ論ナシ。シカシテマタモトヨリ者郷軍人団会議ハ各種ノ労働団体ニヨリテ協力補佐セラルルハ論ナシ。
注六 現在ノ在郷軍人会ソノモノニアラズ。平等普通ノ互選ト明示セルヲ見ヨ。
巻三 土地処分三則
私有地限度
日本国民一家ノ所有シ得ベキ私有地限度ハ時価拾万円トス。
コノ限度ヲ破ル目的ヲモッテ血族ソノ他ニ贈与シマタハソノ他ノ手段ニヨリテ所有セシムルヲ得ズ。
注一 国民ノ自由ヲ保護シ得ル国家ハ同時ニ国民ノ自由ヲ制限シ得ルハ論ナシ。外国ノ侵略マタハソノ他ノ暴力ヨリ完全ニソノ土地ヲ私有シ得ル所以ハスべテ国家ノ保護ニヨル。資本的経済組織ノタメニ国内ニ不法ナル土地兼併ガ行ナワレテ、大多数窮民ガソノ生活基礎タル土地ヲ奪取セラレツツアルヲ見ルトキ、国家ハ当然ニ土地兼併者ノ自由ヲ制限スベシ。
注二 時価拾万円トシテ小地主ト小作人トノ存立ヲ認ムル点ハ、一切ノ地主ヲ廃止セント主張スル社会主義的思想ト根拠ヲ異ニス。マタ土地ハ神ノ人類ニ与エタル人権ナリトイウガゴトキ愚論ノ価値ナキハ論ナシ。スベテニ平等ナラザル個々人ハソノ経済的能力事業オヨビ経済的運命ニオイテモ劃一ナラズ。ユエニ小地主ト小作人ノ存在スルコトハ神意トモイウべク、カツ社会ノ存立オヨビ発達ノタメニ必然的リ経由シツツアル過程ナリ。
私有地限度ヲ超過セル土地ノ国納
私有地限度以上ヲ超過セル土地ハコレヲ国家ニ納付セシム。
国家ハソノ賠償トシテ三分利付公債ヲ交付ス。タダシ私産限度以上ニ及バズ。
ソノ私有財産ト賠俵公債トノ加算ガ私産限度ヲ超過スル者ハソノ超過額ダケ賠償公債ヲ交付セズ。
違反者ノ罰則ハ戒厳令施行中前掲ニ同ジ。
注一 日本現時ノ大地主ハソノ経済的諸侯タル形ニオイテ中世貴族ノ土地ヲ所有セルニ似タリモ、所有権ノ本質ニオイテ全ク近代的ノモノナリ。中世ノ所有権思想ハソノ所有ガ奪取ナルト否トヲ問ワズ強者ノ権利ノ上ニ立テルモノナリキ。維新革命ハ所有権ノ思想ガ強力ニヨル占有ニアラズシテ労働ニ基ヅク所有ニ一変スルト共ニ、強力ガソノ強力ヲ失イテソノ所有権ヲ喪失シタルモノ。コレニ反シテコノ私有地限度超過ヲ徴集スルコトハ近代的所有権思想ノ変更ニアラズ。単ニ国家ノ統一ト国民大多数ノ自由ノタメニ少数者ノ所有権ヲ制限スルモノニ過ギズ。ユエニ私有財産限度以下ニオイテ所有権ニ伴ウ権利トシテ賠償ヲ得ルモノナリ。
注ニ ユエニ中世貴族ノ所有地ヲ現今ニ至ルモ解決スルアタワズシテツイニ独立問題ニマデ破裂セシメタルアイルランドノ土地問題ト、コノ私有地限度制トハソノ思想ニオイテモ進歩ノ程度ニオイテモ雲泥ノ差アルヲ知ルベシ。マタ現時ロシアノ土地没収ノゴトキハ明ラカニ維新革命ヲ五十年後ノ今ニオイテ拙劣ニ試ミツツアルモノニ過ギズ。彼ガ多クノ点スナワチ軍事政治学術ソノ他ノ思想ニオイテ遙カニ後進国ナルハ論ナシ。土地問題ニオイテ英語ノ直訳ヤ「レニン」ノ崇拝ハ佳人ノ醜婦ヲ羨ムノ類。
土地徴集機関
在郷軍人団会議ハ在郷軍人団ノ監視ノ下ニ私有地限度超過者の土地ノ評価徴集ニ当ルべシ。
注 前掲ノ如シ。
将来ノ私有地限度超過者
将来ソノ所有地ガ私有地限度ヲ超過シタリ者ハソノ超過セル土地ヲ国家ニ納付シテ賠償ノ交付ヲ求ムべシ。
コノ納付ヲ拒ム目的ヲモッテ血族ソノ他ニ贈与シマタハソノ他ノ手段ニヨリテ所有セシムルコトヲ得ズ。違反者ノ罰則ハ、国家ノ根本法ヲ紊乱スル者ニ対スル立法精神ニオイテ、別ニ法律ヲモッテ定ム。
徴集地ノ民有制
国家ハ皇室下附ノ土地オヨビ私有地限度超過者ヨリ納付シタリ土地ヲ分割シテ土地ヲ有セザル農業者ニ給付シ、年賦金ヲモッテソノ所有タラシム。
年賦金額年賦期間等ハ別ニ法律ヲモッテ定ム。
注一 社会主義的議論ノ多クガ大地主ノ土地兼併ヲ移シテ国家ソノモノヲ一大地主トナシ、モッテ国民ハ国家ノ所有ノ土地ヲ借耕スル平等ノ小作人タルべシトイウハ原理トシテハ非難ナシ。コレニ反対シテロシアノ革命的思想家ノ多クハ国民平等ノ土地分配ヲ主張シテマタ別個ノ理論ヲ土地民有制ニ築クモノ多シ。シカシナガラカカル物質的生活ノ問題ハアル劃一ノ原則ヲ予断シテスべテヲ演繹スべキモノニアラズ。モシ原則トイウモノアラバ、タダ国家ノ保護ニヨリチノミ各人ノ土地所有権ヲ享受セシムルガユエニ、最高ノ所有者タル国家ガ国有トモ民有トモ決定シ得べシトイウコトコレノミ。ロシアニ民有論ノ起ルハ正当ナルト共ニ、アイルランドノ貴族領ガ国有タルベキモ可能ナリ。スナワチ二者ノイズレカヲ決シ得ル国家ハソノ国情ノ如何ヲ考エテ最善ノ処分ヲナセバ可ナリトス。日本ガ大地主ノ土地ヲ徴集スルコトハ最高ノ所有者タル国家ノ権利ニシテ国有ナリ。シカシテ日本ガ小農法ノ国情ナルニ考エテコレヲ自作農ノ所有権ニ移シ、モッテ土地民有制ヲ取ルコトモ日本トシテノ物質生活ヨリ築カルベキ幾多ノ理論ヲ有ス。カツ動カスベカラザル原理ハ都市ノ住宅地ト異ナリテ農業者ノ土地ハ資本ト等シクソノ経済生活ノ基本タルヲモッテ、資本ガ限度以内ニオイテ各人ノ所有権ヲ認メラルルゴトク、土地マタソノ限度内ニオイテ確実ナル所有権ヲ設定サルルコトハ国民的人権ナリトス。
注二 コノ日本改造法案ヲ一貫スル原理ハ、国民ノ財産所有権ヲ否定スルモノニアラズシテ、全国民ニソノ所有権ヲ保障シ享楽セシメソトスルニ在リ。熱心ナル音楽家ガ借用ノ楽器ニテ満足セザルゴトク、勤勉ナル農夫ハ借用地ヲ耕シテソノ勤勉ヲ持続シ得ルモノニアラズ。人類ヲ公共的動物トノミ考ウル革命論ノ偏局セルコトハ、私利的欲望ヲ経済生活ノ動機ナリト立論スル旧派経済学ト同ジ。共ニ両極ノ誤謬ナリ。人類ハ公共的ト私利的トノ欲望ヲ併有ス。シタガッテ改造サルベキ社会組織マタ人性ヲ無視シタリコレラ両極ノ学究的臆説ニ誘導サルルコトアタワズ。
都市ノ土地市有制
都市ノ土地ハスべテコレヲ市有トス。
市ハソノ賠償トシテ三分利付市債ヲ交付ス。
賠償額ノ限度オヨビ私有財産トソノ加算ガ私有財産限度ヲ超過シタリ者ハ前掲ニ同ジ。
土地徴集機関マタ前掲ニ同ジ。
注一 都市ト限リテ町村住宅地ヲ除外セル所以ハ、公有トスべキ理由ガ町村ノ限度ニオイテハ完成セザルヲモッテナリ。
注二 都市地価ノ騰貴スル理由ハ農業地ノゴトク所有者ノ労力ニ原因スルモノニアラズシテ大部分都市ノ発達ソノモノニヨル。都市ハソノ発達ヨリ結果セル利益ヲ単ナル占有着ニ奪ワルルアタワズ。モッテコレヲ市有トスルモノナリ。
注三 都市ハソノ借地料ノ莫大ナル収入ヲモッテ市ノ経済ヲ遺憾ナカラシムルヲ得。シタガッテ都市ノ積極的発達ハコノ財源ニヨリテ自由ナルト共ニ、ソノ発達ヨリ結果スル借地料ノ騰貴ハマタ循環的ニ市ノ財源ヲ豊カニス。
注四 家屋ハ衣服ト等シク各人ノ極味必要ニ基ゾクモノナリ。三坪ノ邸宅ニ甘ズル者アルベク、数拾万円ノ高楼ヲ建ツルモノアルべシ。アル時代ノ社会主義者ノ市立ノ家屋ヲ考エシゴトキハ市民ノ全部ニ居常カツ終生画一ナル兵隊服ヲ着用セムベシトイウト一般、愚論ナリ。
注五 スデニ都市ノ私有地ヲ許サザルガユエニ、設定セラレタル地上権ヨリ利得ヲ計ルコトヲ得ズ。スナワチ借家ヲモッテ利得ヲナス者ハ家屋ソノモノヨリノ利得ニシテ、地上権ニ伴ウ利益ヲ計上スルヲ得ズ。コノタメニ市ハ五年目ゴトニ借地料ノ評価ヲナス。
国有地タルベキ土地
大森林マタハ大資本ヲ要スベキ未開墾地マタハ大農法ヲ利トスル土地ハコレヲ国有トシ国家ミズカラソノ経営ニ当ルベシ。
注一 下掲大資本ノ国家統一ノ原則ニヨル。
注二 ワガ日本ニオイテハ国民生活ノ基礎タル土地ノ国際的分配ニオイテ将来大領土ヲ取得セザルべカラザル運命ニアリ。ツタガッテ国有トシテ国家ノ経営スベキ土地ノ莫大ナルヲ考ウべシ。要スルニスベテヲ通ジテ公的所有ト私的所有ノ併立ヲ根本原則トス。
注三 日本ノ土地問題ハ単ニ国内ノ地主対小作人ノミヲ解決シテ得べカラズ。土地ノ国際的分配ニオイテ不法過多ナル所有者ノ存在スルコトニ革命的理論ヲ拡張セズシテハ、言論行動一瞥ノ価値ナシ。(「国家ノ権利」参照)
巻四 大資本ノ国家統一
私人生産業限度
私人生産業ノ限度ヲ資本壱千万円トス。海外ニオケル国民ノ私人生産業マタ同ジ。
注一 私有財産限度ト私人生産限度トヲ同一視スべカラズ。合資株式合名マタハ自己ノ財産ニアラザル借入金ヲモッテ生産ヲ営ム後者ノ制限ハ財産ノ制限タリ前者ト全ク別事ナリ。
注二 限度ヲ設ケテ私人生産業ヲ認ムル所以ハ前掲ノ諸注ヨリ推シテ明ナルゴトク幾多ノ理由アリ。人ノ経済的活動ノ動機ノ一ガ私欲ニアリトイウモソノ一。新タナル試ミガ公共的認識ヲ待ツアタワズシテ常ニ個人ノ創造的活動ニヨルトイウモソノ二。イカニ発達スルモ公共的生産ガ国民生活ノ全部ヲ蔽ウアタワズシテ、現実的将来ハ依然トシテ小資本ニヨル私人経済ガ大部分ヲ占ムルモノナリトイウモソノ三。国民自由ノ人権ハ生産的活動ノ自由ニオイテ表ワレタルモノニツキテ保護助長スベキモノナリトイウモソノ四。数ウルニ尽キザルコレラノ理由ハ社会主義ガソノ建設的理論ニオイテ未ダ全ク世ノ首肯ヲ得ザル欠陥ヲ示スモノナリ。「マルクス」ト「クロポトキン」トハ未開ナル前世紀時代ノ先哲トシテ尊重スレバ可。
私人生産業限度ヲ超過セル生産業ノ国有
私人生産業限度ヲ超過セル生産業ハスべテコレヲ国家ニ集中シ国家ノ統一的経営トナス。
賠償金ハ三分利付公債ヲモッテ交付ス。賠償ノ限度オヨビ私有財産トノ関係等スべテ私有財産限度ノ規定ニヨル。
違反者の罰則ハ戒厳令施行中前掲ニ同ジ。
注一 大資本ガ社会的生産ノ蓄積ナシトイウコトハ社会主義ノ原理ニシテ明白ナルコト説明ヲ要セズ。シカラバ社会スナワチ国家ガ自己ノ蓄積セルモノヲ自己ニ収得シ得ルハマタ論ナシ。
注二 現時ノ大資本ガ私人ノ利益ノタメニ私人ノ経営ニ委セラルルコトハ人命ヲ殺活シ得ベキ軍隊ガ大名ノ利益ノタメニ大名ニ私用セラルルコトト同ジ。国内ニ私兵ヲ養イテ私利私欲ノタメニ攻伐シツツアル現代支那ガ政治的ニ統一セルモノトイウアタワザルゴトク、鉄道電信ノゴトキ明白ナル社会的機関ヲスラ私人ノ私有タラシメテ甘ンズル米国ハ金権督軍ノ内乱時代ナリ。国民ノ安寧秩序ヲ保持スルコトガ国家ノ唯一任務ナリトセバ、国民ノ死活栄辱ヲ日夜ニワタリ終生ヲ通ジテ脅威シツツアルコレラヲ処分セズシテハ国家ナキニ同ジ。無政府党ハ怖ルルノ要ナシ。国家ガ国家ミズカラノ義務ト権能トヲ無視スルコトヲ畏ルべシトナス。
注三 積極的ニ見ルトキ大資本ノ国家的統一ニヨ国家経営ハ米国ノ「ツラスト」ドイツノ「カルテル」ヲサラニ合理的ニシテ国家ガソノ主体タルモノナリ。「ツラスト」「カルテル」ガ分立的競争ヨリ遙カニ有理ナル実証ト理論ニヨリテ国家的生産ノ将来ヲ推定スベシ。
注四 大生産業ノ徴集エオイテソレラヲ有シ、サラニ土地徴集ニオイテモ各所ニソレラヲ有スル大富豪ラハ、要スルニタダ壱百万円ヲ所有シ得ルノミナリ。コレト同時ニ壱百万円以下ノ株巻ヲ有シ合資ヲ有スル者ハ、ソノ干与セル株式会社・合資会社ノ徴集セラルルトキ一ノ傷害ナキ賠償ヲ受クルモノナリ。スナワチイワユル上流階級ナルモノヲ除ケル中産以下ノ全国民ニハ寸毫ノ動揺ヲ与エズ。
資本徴集機関
私人生産業限度ヲ超過セル資本ノ徴集機関ハ在郷軍人団会議タルコト前掲ニ同ジ。
注 私有財産限度超過者の調査ト徴集ガ根本ナルヲモッテ土地超過者ト資本超過ノ処分ニ当ルコトハタダ根本ヲ収メテ枝葉ニ及ブモノニ過ギズ。在郷軍人団ヲモッテスル時、必ズシモ三年ノ戒厳令ヲ要セズ。
改造後私人生産業限度ヲ超過セル者
改造後ノ将来、事業ノ発達ソノ他ノ理由ニヨリテ資本ガ私人生産業限度ヲ超過シタル時ハスべテ国家ノ経営ニ移スベシ。国家ハ賠債公債ヲ交付シカツ継承シタル該事業ノ当事者ニソノ人ヲ任ズルヲ原則トス。
違反者の罰則ハ国家ノ根本法ヲ紊乱スル者ニ対スル立法精神ニオイテ、別ニ法律ヲモッテ定ム。
ソノ事業ガ未ダ私人生産業限度ノ資本ニ達セザル時トイエドモ、ソノ性質上大資本ヲ利トシマタ国家経営ヲ合理ナリト認ムル時ハ、国家ニ申達シ双方協議ノウエ国家ノ経営ニ移スコトヲ得。
注一 壱千万円以上ノ生産業ガ国営タルベキタメニ起ル凝惑ハ事業家ノ奮闘心ヲ挫折セシムべシトイウコトナリ。コレニ対シテ人類ハ公共的動物ナリトイウ共産主義者ノ人生観ガ半面ヨリ最モ有カニ説明シ尽シタルハ人ノ知ルゴトシ。カツ利己的欲望ソノモノヲ解剖スルモ、事業家ノ事業経営ニオイテハソノ手腕ノ発揮ヲ見ル自己満足、ソノ経営的手腕ノ社会ニ認識セラルルヲ欲スル功名的動機ガ多大ニ含有セラルルヲ発見スベシ。現代ノ将軍ラガ愛国心ノホカニコレラ功名的動機、軍事的手腕ヲ発揮セントスル自己満足ノ動機ノタメニ戦場ニ死戦スルヲ見ヨ。カノ戦国時代ノ将軍ラガ一州ヲ略セバ一州ヲ領シ一城ヲ抜ケバ一城ノ主タリトイウ私利的経済的欲望ヲ掲ゲタル争闘ヨリ劣ルモノナシ。モトヨリアエテスべテヲ事業家ノ公共的動機ニ要(モト)メズ。ソノ利己的欲望中ニ含有サルルカカル幾多ノ動機ハ、ソノ事業ヲ発展セシメタル国家的認識ト、国家ニ移レル事業ヲソノ人ニ経営セシムル手腕発揮ノ自己満足トニヨリテ、実ニ争イテ私人生産業限度ヲ超過セントスル奮闘心ヲ刺戟シ鞭鍵スベシ。イヮソヤカカル改造組織ノ後ニオイテハ、公共的動物タル人類ノ美性ハコレヲ阻害スル悪制度ナキガタメニ、イチジルシク国民ノ心意行動ヲ支配スルニ至ルハ確定シタル理論ヲ有ス。
注二 私人壱百万円ノ私的財産ヲ有スルニ至ラバ、、一切ノ私利的欲求ヲ断チテタダ社会国家ノタメニ尽クスベキ欲望ニ生活セシムべシ。私人壱千万円ノ私的産業ニ至ラバソノ事業ノ基礎オヨビ範囲ニオイテ直接カツ密接シテ国家社会ノ便益福利以外一点ノ私的動機ヲ混在セシムべキモノニアラズ。ユエニコノニ者ノ制限ハ現今マデ放任セラレタル道徳性ヲ国家ノ根本法トシテ法律化スルニ過ギザルナリ。
国家ノ生産的組織
ソノ一 銀行省
私人生産業限度以上ノ各種大銀行ヨリ徴集セル資本、オヨビ私有財産限度超過者ヨリ徴集シタル財産ヲモッテ資本トス。
海外投資ニオイテ豊富ナル資本ト統一的活動。他ノ生産的各省ヘノ貸付。私人銀行へノ貸付。通貨ト物価トノ合理的調整。絶対的安全ヲ保証スル国民預金等。
注一 現時ノ分立セル銀行トコノ銀行省トノ対外能力ヲ考ウル時、ソノ差等ハホトソド支那ノ私兵ト日本ノ統一軍隊ホドノ懸隔ヲ見ルベシ。私兵ヲ糾合シテ対外利権ヲ争ウガゴトキハ資本ノ乏シキ日本ニトリテ必敗ナリ。
注二 貿易順調ニシテ外国ヨリ貨幣ノ流入横溢シタメニ物価騰貴ニ至ル恐アル時、銀行省ハソノ金塊ヲ貯蔵シテ国家非常ノ用ニ備ウルト共ニ、物価ヲ合理的ニ調整スルヲ得ベシ。経済界ノ好況ヲカニッテ反対ニ国民生活ノ憂患トスル現下ノ大矛盾ハ一ニ国家ガ「金権」ヲ有セザルニ基ヅク。
注三 国民膏血ノ貯金マタハ事業ノ運命ヲ決スべキ預金等ガ銀行ノ破産ニヨリテ消散スルコトハ国民生活ノ一大不安ナリ。イカニ岩下清周ニ重刑ヲ課スルモ幾万人ノ被害者ニ何ノ補イタラズ。大日本帝国ガ国民ト共ニ亡ビザル限リ銀行省ノ預金ニ不安ナシ。
ソノ二 航海省
私人生産業限度以上ノ航海業者ヨリ徴集シタル船舶資本ヲモッテ遠洋航路ヲ主トシ海上ノ優勝ヲ争リべシ。造船造艦業ノ経営等。
注 コレ海上ノ鉄道国有ニ過ギズ。ソノ外国同業者トノ競争能力等ハ「トラスト」「カルテル」ヨリ推論シ得べク、以下ノ各省ミナ同ジ。
ソノ三 鉱業省
資本マタハ価格ガ私人生産業限度以上ナル各種大鉱山ヲ徴集シテ経営ス。銀行省ノ投資ニ伴ウ海外鉱業ノ経営。新領土取得ノ時私人鉱業ト併行シテ国有鉱山ノ積極的開発等。
注一 資本ノミナラズ鉱山ノ価格ヲ明示セル所以。機械ソノ他ノ設備ヲ資本トシテ鉱山ソノモノノ価格ガ資本ナルコトヲ忘レソトスル誤解ヲ防グ。
注二 国民ノ屍山血河ニヨリテ獲得シタル鉱山(例エバ撫順炭鉱ノゴトキ)ヲ少数者ニ壟断シツツアル現時ノ状態ハ実ニ最悪ナル政治トイウノホカナシ。愛国心ノ頽廃モ無政府党ノ出現モ国家ミズカラガ招クモノ。
ソノ四 農業省
国有地ノ経営。台湾製糖業オヨビ森林ノ経営。台湾、北海道、樺太、朝鮮ノ開墾。南北満洲、将来ノ新領土ニオケル開墾、マタハ大農法ノ耕地ヲ継承セル時ノ経営。
注 台湾ニオケル糖業オヨビ森林ニ対スル富豪等ノ罪悪ガ国家ノ不任不義ニ帰セラルルゴトキハ国家オヨビ国民ノ忍ビ得ベキモノリアラズ。将来台湾ノ幾十倍ナル大領土ヲ南北満洲オヨビ極東シベリアニ取得スベキ運命ニオイテ、同一ナル罪悪ヲ国家国民ノ責任ニ嫁セラルルコトハ日本ノ国際的威厳信用ヲ汚辱シ、土地ノ国際的分配ノ公正ノタメニ特ニ日本ノ享有セル領土拡張ノ生活権利ヲ損傷シ、イカナル大帝国建設モ百年ノ寿ヲ全ウスルアタワザルベシ。
ソノ五 工業省
徴集シタル各種大工業ヲ調整シ統一シ拡張シテ真ノ大工業組織トナシテ、各種ノ工業コトゴトク外国ノソレラト比肩スルヲ得ベシ。私人ノ企テザル国家的欠陥タルベキ工業ノ経営。海軍製鉄所、陸軍兵器廠ノ移管経営等。
注 工業ノ「トラスト」的「カルテル」的組織ハ資本乏シク列強ヨリ後レタル日本ニハ特ニ急務ナリ。マタ今回ノ大戦ニ暴露セラレタルゴトク日本ハ自営自給スルアタワザル幾多ノ工業アリ。自己ノ私利ヲ目的トスル資本制度ニ依頼シテ晏如タルコトハ、今日オヨビ今後日本ノ国際的危機ノ忍ブアタワザルトコロナリ。
ソノ六 商業省
国家生産マタハ私人生産ニヨル一切ノ農業的工業的貨物ヲ案配シ、国内物価ノ調節ヲナシ、海外貿易ニオケル積極的活動ヲナス。
コノ目的ノタメニスベテ関税ハコノ省ノ計算ニヨリテ内閣ニ提出ス。
注一 スデニ私有財産限度アリ、私有地限度アリ、私人生産業限度アリ。私人ハ悪用スベキ大資本ヲ奪ワレタルガユエニ国家ノ物価調節ニ反抗シテ買占メ売リ惜シミ等ヲナスコトアタワズ。シタガッテ国家ノ物価調節ハ一糸紊レズ整然トシテ行ナワルベシ。大地主ト投機商人トノ有スル大資本ガ米穀ノ買占メ売リ惜シミヲ自由ナラシメテ現時ノ米価騰貴ヲ現出シツツアルヲ見ヨ。スベテノ物価問題コトゴトクココニ発ス。彼ラノ大資本ヲ奪ワズシテ物価調節ヲイウゴトキハ抱腹スベキ空想政治ナリ。
注二 国内ノ物価ガ世界的原因、スナワチ世界大戦中ノゴトキ世界的物価騰貴ノタメニ騰貴スルトキハ、国家ハ一般国民ノ購買能力ト世界市価トノ差額ヲ輸出税トシテ課税スべシ。公私生産品一律ニ課税サルルハ論ナシ。カクシテ国内物価ノ暴騰ヲ防グト同時ニ、貿易上ノ利益ヲ国庫ニ収得スルヲ得ベシ。タダシコレラハ非常変態ノ経済状態ニシテ輸出税ヲ課スルゴトキ原則ニアラザルハ論ナシ。シカモ非常ニ遭遇シタルトキ国民ノ不安騒乱ヲ招クガゴトキ国家組織ヲモッテシテ、如何ゾ大日本帝国ノ世界的使命ヲ全ウスルヲ得ベキ。将来一大戦争ヲ覚悟スルナラバ特ニ非常時ニ安泰ナルベキ改造ヲ要ス。
ソノ七 鉄道省
今ノ鉄道院ニ代エ、朝鮮鉄道、南満鉄道等ノ統一。将来新領土ノ鉄道ヲ継承シ、サラニ布設経営ノ積極的活動等。
私人生産業限度以下ノ支線鉄道ハコレヲ私人経営ニ開放スベシ。
注一 鮮血ノ南満鉄道ガ富家ニ壟断サルルノ不義ト危険トハ鉱業省ノ注ニ述べタリガゴトシ。モシ将来ノ大領土ニオケル諸多ノ鉄道ヲ再ビ南満鉄道ニ学バシムルコトアラバ国民ニ闘志ナキコト明白ナリ。
注二 鉄道ノ国有ナルガユエニ現時ノゴトク民間ノ鉄道布設ガ阻害セラルルハ、第一国民ノ経済的自由ヲ蹂躙スルノミナラズ、国有鉄道ソノモノノ利益ヲ減殺スルモノナリ。陸上ノ鉄道ナルガユエニ山間僻村ノ支線ヲモ国有トシ、海上ノ鉄道ナルガユエニ全世界ニ通ズル幹線ヲモ民有トスべシトハ道理ニ合セザルモハナハダシ。鉄道ノ国有タルベキモノト民有タリべキモノト、マタ実ニ私人生産業限度ノ原則オヨビ大資本ノ国家統一ノ原則ノ下ニ律セラルベシ。国家ノ大本ハ一ニシテ二ナシ。
莫大ナル国庫収入
生産的各省ヨリノ莫大ナル収入ハホトンド消費的各省オヨビ下掲国民ノ生活保障ノ支出ニ応ズルヲ得ベシ。シタガッテ基本的租税以外各種ノ悪税ハコトゴトク廃止スベシ。
生産的各省ハ私人生産者ト同一ニ課税セラルルハ論ナシ。
塩、煙草ノ専売制ハコレヲ廃止シ、国家生産ト私人生産トノ併立スル原則ニヨリテ、私人生産業限度以下ノ生産ヲ私人ニ開放シテ公私一律ニ課税ス。
遺産相統税ハ親子ノ権利ヲ犯スモノナルヲモッテ単ニ手教科ノ徴収ニ止ム。
注一 国家ノ徴集シ得ベキ資本ノ概算ハ推想スルヲ得ベキモ、ソノ真実ヲ去ルハナハダ遠キコトハ在郷軍人団ノ調査徴集ヲ必要トスル所以ナリ。
注二 国家ノ生産的収入ノ増大スルニ従イテ、タダニ悪税ノミナラズ多クノ租税ヲ廃止シ得ルノ時来ルベキハ推想シ得ベシ。
注三 通産相続ヲ機トシテ国家ガ収得ヲ計ラントスル社会政策者流ノ人権的思想ニ不徹底ナルヲ思考スベシ。
巻五 労働者ノ権利
労働省ノ任務
内閣ニ労働省ヲ設ケ国家生産オヨビ個人生産ニ雇傭サルル一切労働者ノ権利ヲ保護スルヲ任務トス。
労働争議ハ別ニ法律ノ定ムルトコロニヨリテ労働省コレヲ裁決ス。コノ裁決ハ生産的各省個人生産者オヨビ労働者ノ一律ニ服従スベキモノナリ。
注一 労働者トハ力役マタハ智能ヲモッテ公私ノ生産業ニ雇傭セラルル者ヲイウ。シタガッテ軍人・官吏・教師等ハ労働者ニアラズ。タトエバ巡査ガ生活権利ヲ主張スル時ハソノ所属タル内務省ガ決定スベク、教師ガ増給運動ヲナス時ハ文部省ガ解決スべシ。労働省ノ与カルトコロニアラズ。
注二 同盟罷工ハエ場閉鎖ト共ニコノ立法ニ至ルベキ過程ノ階級闘争時代ノ一時的現象ナリ。永久的ニ認メラルベキ労働者ノ特権ニアラザルト共ニ、一躍コノ改造組織ヲ確定シタリ国家ニトリテハ断然禁止スベキモノナリ。タダシコノ改造ヲ行ナワズシテシカモイタズラニ同盟罷業ヲ禁圧セントスルハ、大多数国民ノ自衛権ヲ蹂躙スル重大ナル暴虐ナリトス。
労働賃銀
労働賃銀ハ自由契約ヲ原則トス。
ソノ争議ハ前掲ノ法律ノ下ニ労働省コレヲ決定ス。
注一 自由契約トセル所以ハ国民ノ自由ヲスべテニ通ゼル原則トシテ国家ノ干渉ヲ背理ト認ムルニヨル。真理ハ一社会主義ノ専有ニアラズシテ自由主義経済学ノ理想ニマタ犯スべカラザルモノアリ。等シク労働者トイウモ各人ノ能率ニ差等アリ。特ニ将来日本領土内ニ居住シマタハ国民権ヲ取得スル者多キ時、国家ガ一々ノ異民族ニツキソノ能率ト賃銀トニ干渉シ得ベキニアラズ。現今ニオイテハ資本制度ノ圧迫ニヨリテ労働者ハ自由契約ノ名ノ下ニ全然自由ヲ拘束セラレタル賃銀契約ヲナシツツアリ。シカモ改造後ノ労働者ハ真個ソノ自由ヲ保持シテイササカノ損傷ナカルべキハ論ナシ。
注二 自由(スナワチ差別観)ヲ忘レテタダ観念的平等ニ立脚シタル時代ノ社会主義的理想家ハ国民ニ徴兵制ノゴトク労働強制ヲ課セント考エシコトアリ。人生ハ労働ノミニヨリテ生クルモノニアラズ。マタ個々人ノ天才ハ労働ノ余暇ヲモッテ発揮シ得べキモノニアラズ。何人ガ大経世家タルカ大発明家、大哲学者、大芸術家タルカハ、彼ラノ立案スルゴトク社会ガ認メテ労働ヲ免除ストイウ事前ニ察知スべカラズシテコトゴトク事後ニ認識セラルルモノナレバナリ。社会主義ノ原理ガ実行時代ニ入レル今日トナリテハソレニ附帯セル空想的糟粕ハ一切棄却スベシ。
労働時間
労働時間ハ一律ニ八時間制トシ日曜祭日ヲ休業シテ賃銀ヲ支払ウべシ。
農業労働者ハ農期繁忙中労働時間ノ延長ニ応ジテ賃銀ヲ加算スべシ。
注 説明ノ要ナシ。タダシ余ノ時間ヲモッテ修養ニ享楽ニ自由ナル人権ニ基ヅキテ、家庭的労働ヲナシマタ他ノ営業ヲナスハ等シク個人ノ自由ナリ。
労働者ノ利益配当
私人生産ニ雇傭セラルル労働者ハソノ純益ノニ分ノ一ヲ配当セラルベシ。
コノ配当ハ智能的労働者およびカ役的労働者ヲ総括シタルモノニシテ、各自ノ俸給賃銀ニ比例シテ分配ス。
労働者ハソノ代表ヲ選ビテ事業ノ経営計画オヨビ収支決算ニ干与ス。
農業労働者ト地主トノ間マタコレニ同ジ。
国家的生産ニ雇傭セラルル労働者ハコノ利益配当ニ代フルベキ半期ゴトノ給付ヲ得ベシ。事業ノ経営収支決算ニ干与スル代リニ衆議院ヲ通ジテ国民トシテ国家ノ全生産ニ発言スベシ。
注一 労働者ハソノ労働ヲ売却スルモノナリトハ旧派経済学ノ誤説ナリ。企業家ガソノ企業的能力ヲソノ資本タル機械・鉱山・土地等ニ加エテ利益ヲ計ルト同ジク、労働者ハソレラノ資本ニ労働ヲ加エテ利益ヲ計ル者ナリ。機械ソノモノハ人類ノ知識ヲ結晶シタリ祖先ノ遺産タリ、社会ノ共同的産物タリ。鉱山土地等ソノモノハ全ク自然ノ存在ニシテソレヲ所有セシムルスベテノ力ハ国家ナリ。シカシテコレラノ資本ヨリ利益ヲ得ントシテココニ各種ノ人力ヲ要ス。企業家ハ企業的能力ヲ提供シ労働者ハ智能的力役的能力ヲ提供ス。労働者ノ月給マタハ日給ハ企業家ノ年俸ト等シク作業中ノ生活費ノミ。一方ノ提供者ニハ生活費ノミヲ与エテソノ提供ノタメニ生レタル利益ヲ与エズ他方ノ提供者ノミ、生活費ノホカニスべテノ利益ヲ専有スべシトハ、ソノ不合理ニシテ無智ナルコトホトンド下等動物ノ社会組織トイウノホカナシ。労働者ガ経営計画ニ参与スルノ権ハコノ一方ノ提供者トシテナリ。
注二 国家生産ノ労働者ニ利益配当ヲ用イザル所以ハ、国家ハ全生産ノ永遠的経営ヲ本旨トスルガユエニ、全国家ノ生産的活動ノタメニアル省ニハコトサラニ投売ヲ行ナワシメテ損失ヲ顧ミザルコトアルゴトク、アル省ヲ犠牲トシテアル省ノ対外競争ヲモッパラナラシムルコトモアルベキヲモッテナリ。カカル場合ニオイテ各別ニ利益配当ヲナス時ハ非常ナル不公平ヲ生ジ甲省ノ労働者ノ利益配当ヲ奪イテ乙省ノソレニ与タルガゴトキヲ生ズベシ。ツタガッテマタ生産方針ニ干与スルノ機ハ国家全局ノ生産成績ヲ達観シ得べキ衆議院ニオイテセザルべカラザル所以トナル。
労働的株主制ノ立法
私人生産業中株式組織ノ事業ハソレニ雇傭サルル肉体的精神的労働者ヲシテ、ミズカラソノ株主タリ得ル権利ヲ設定スべシ。
注一 コレ自己ノ労働ト自己ノ資本トガ不可分的ニ活動スルモノナリ。事業ニ対スル分担者トシテノ当然ナル権利ニ基ヅキテ制定サルベシ。別個生産能率ヲモ思考スベシ。
注二 私人生産業限度内ノ事業ニオイテ将来半世紀一世紀間ハ現代ノゴトキ腐敗破綻ヲ来タス怖レアルモノト推定スベシ。ツタガッテ、労働的株主ヲ併存セシムルコトハ内容的根本的ニツネニ該事業ヲ健確ニ支持スべシ。
注三 労働的株主ノ発言権ハ労働争議ヲ株主会議内ニオイテ決定シ、一切ノ社会的不安ナカラシムベシ。
借地農業者ノ擁護
私有地限度内ノ小地主ニ対シテ土地ヲ借料スル小作人ヲ擁護スルタメニ、国家ハ別個国民人権ノ基本ニ立テル法律ヲ制定スべシ。
注一 限度以上ノ土地ヲ分有セシムル大本ハ別ニ存セリ。シカモ小地主対小作人ノ間ヲ規定シテ一切ノ横暴脅威ヲ抜除スベキ細則ヲ要ス。
注二 一切ノ地主ナカラシメソト叫ブ前世紀ノ旧革命論ヲ、私有限度内ノ小地主対小作人ノ間ニ巣クワシムベカラズ。旧社会ノ情勢ヲ存セシムルスべテノトコロニ、旧世紀ノ革命論ハ繁殖スベシ。
幼年労働ノ禁止
満十六歳以下ノ幼年労働ヲ禁止ス。コレニ違反シテ雇傭シタリ者ハ重大ナル罰金マタハ体刑ニ処ス。
尊族保護ノ下ニ尊族ノ家族ニオイテ労働スル者ハコノ限リニアラズ。
注 国民人権ノ上ヨリ説明ヲ要セズ。満十六歳以下トセルハ下掲ノ国民教育期間ナルヲモッテナリ。体刑ヲ課スル所以ハ国家ノ児童ヲ保護スルニ最モ厳励ナルベキヲモッテナリ。実ニ国家ノ生産的利益ノ方面ヨリ見ルモ幼童ニシテ残賊スルヨリモソノ天賦ヲ完全ニ啓発スべキ教育ヲ施シタル後ノ労働ガ幾百倍ノ利益ナルハ論ナシ。四海同胞ノ天道ヲ世界ニ宣布セントスル者ガ、ミズカラノ国家内ニオケル幼少ナル同胞ヲ酷使シテ何ノ国民道徳ゾ。
婦人労働
婦人ノ労働ハ男子ト共ニ自由ニシテ平等ナリ。タダシ改造後ノ大方針トシテ国家ハツイニ婦人ニ労働ヲ負荷セシメザル国是ヲ決定シテ施設スベシ。
国家非常ノ際ニ処シ婦人ガ男子ノ労働ニ代フリ得べキタメニ男子ト平等ナル国民教育ヲ受ケシム。(国民ノ生活権利」参照)。
注一 現時ノ農業発達ノ程度リオイテハ婦人ヲ炎天ニ晒ラシテソノ美ヲ破リ、マタハ貧困者多キ近キ将来ニオイテハ婦人ヲエ揚ニ駆使シテソノ渠ヲ奪ウコトキ止ムヲ得ザル人間生活ナリ。シカシナガラ大多数婦人ノ使命ハ国民ノ母タリコトナリ。妻トシテ男子ヲ助クル家政労働ノホカニ、母トシテ保姆ノ労働ヲナシ、小学教師ニ劣ラザル教育的労働ヲナシツツアル者ハ婦人ナリ。婦人ハスデニ男子ノアタワザル分科的労働ヲ十二分ニ負荷シテ生レタル者。コレラノ使命的労働ヲ廃セシメテ全ク天性ニ合セザル労働ヲ詫スルハ、タダニ婦人ソノモノヲ残賊スルノミナラズ。直ニソノ夫ヲ残賊シソノ子女ヲ残賊スル者ナリ。コノ改造ニヨリテ男子ノ労働者ノ利得ガ優ニ妻子ノ生活ヲ保証スルニ至ラバ、良妻資母主義ノ国民思想ニヨリテ婦人労働者ハ漸次的ニ労働界ヲ去ルベシ。
注二 コノ点ハ女子参政権問題ニオケルガゴトク、日本ト欧米トガ全然発達ノ傾向ヲ異リシ来タリカツ異ニスベキ将来ヲ示スモノナリ。日本婦人ノ人格ハ欧米ノゴトク男子ノ職業ヲ争イテ認メラルべキ将来ヲ仮想スルノ要ナシ。国家組織ガ下掲ノゴトク母トシテマタ妻トシテノ婦人ノ生活ヲ保証シ、婦人ガ男子ト平等ノ国民教育ヲ受クルナラバ、ソノ妻トシテノ労働、母トシテノ労働ガ人格的尊敬ヲモッテ認識セラルルハ論ナシ。
注三 婦人ハ家庭ノ光ニシテ人生ノ花ナリ。婦人ガ妻タリ母タル労働ノミトナラバ、夫タル労働者ノ品性ヲ向上セシメ、次代ノ国民タル子女ヲマスマス優秀ナラシメ、各家庭ノ集合タル国家ハ百花爛漫春光飴蕩タルベシ。トクニ社会的婦人ノ天地トシテ、音楽・美術・文芸・教育・学術等ノ広漠タリ未墾地アリ。コノ原野ハ六千年間婦人ニ耕ヤシ播カレズシテ残レリ。婦人ガ男子ト等シキ牛馬ノ労働ニ服スべキ者ナラバ天ハ彼ノ心身ヲ優美繊弱ニ作ラズ。
巻六 国民ノ生活権利
児童ノ権利
満十五歳未満ノ父母マタハ父ナキ児童ハ、国家ノ児童タル権利ニオイテ、一律ニ国家ノ養育オヨビ教育ヲ受クベシ。国家ハソノ費用ヲ児童ノ保護者ヲ経テ給付ス。
父生存シテシカモ父ニ遺棄セラレタル児童マタ同ジ。タダシコノ場合ニオイテ国家ハ別途ソノ父ニ対シテ賠償ヲ命ジ、従ワザルモノハ労働ヲ課シテ賠償ニ充テシム。
父母ノ遺産ヲ相続セル児童、マタハ母ノ資産アルイハ特種能力ニオイテ教養セラレ得ル児童ハ、国家ト協議ノ上コノ権利ヲ放棄セシメラルべシ。
注一 人ノ居常カツ終生ノ憂惧ハ子女ノ安全ナル生長ニアリ。封建時代ノ武士ガスべテ後顧ノ憂ナキガタメニソノ道義的奮進マタハ犠牲的冒険ヲ敢行シ得タルゴトク、国民ハソノ子女ノ国家的保障ノタメ戦場ニオイテモ平和ノソレニオイテモナンラ後顧ノ憂ナシ。ソノ児童ノ権利トシテ児童ソノモノヲ権利主体トセルハ、父母ノ如何ニカカワラズ、第二ノ国民タル点ニオイテ国民的人権ヲ有スルヲモッテナリ。
注ニ 父ナキ児童ガ孤児ト同一ナル権利ヲ有スル所以ハ、婦人ハ男子タル父ト同一ナル労働ヲナスアタワザル原則ニ基ヅク。慈悲深キ賢母ヲ労働ノ苦役ニ駆リ貞節ナル良妻ヲ売淫ノ汚濁ニ投ズルハ、夫タリ子女タル国民ノ忍ブアタワザルトコロ。国家ハ夫ト子女ト婦人ソノモノトノタメニソノ義務ヲ完ウセザルべカラズ。タダシ母ソノ人ノ生活ハ母自身ノ維持スベキモノトス。
注三 父生存シテ遺棄セラレタル児童マタ同ジキハスベテコノ理由ニヨル。結婚ト単ナル情交トヲ差別セズ、シカシテ賠償ヲ別途ニ命ジテ同居ヲ父ニ強イザル所以ハ、遺棄シタル事情ガ背徳ニせヨマタハ積極的活動ノタメニセヨ干渉スべカラザル別事ナレバナリ。
注四 父母共ニナキ児童ヲ孤児院ニ収容セザル所以ハ、孤児院ノ弊害ハナハダシキト、児童ノ保護者トシテ血族長者ノ保護ニ優ル者ナキヲモッテナリ。全然保護者ナキ孤児ハ国家ノ収容スベキハ論ナシ。
注五 以上児童ノ権利ハオノズカラ同時ニ母性保護トナル。
国家扶養ノ義務
貧困ニシテ実男子マタ養男子ナキ六十歳以上ノ男女、オヨビ父マタハ男子ナクシテ貧困カツ労働ニ堪エザル不具廃疾ハ国家コレガ扶養ノ義務ヲ負ウ。
注一 実男子マタハ養男子トシテ婦人ニ扶養ノ義務ヲ負荷セシメザル所以ハ、婦人ハ自己一人以上ヲ生活セシムル労働力ナキ原則ニヨル。カツソノ女ガ他家ニ嫁シテ余力アル者トイエドモ、ソノ老親ノ扶養ヲ夫ノ資産労働ニ依頼セシムルコトハ、父母ノ屈従不安ヲ招キサラニ婦人ヲシテ夫ノ前ニソノ人格的尊重ヲ傷ツクリニ至ラシム。スナワチ婦人ニ老親ヲ負担セシメザルハ日本古来ノ不文律ニシテ同時ニ婦人人権ノ擁護ナリ。
注ニ 実男子マタハ養男子ニ貧困ナル老親ヲ扶養セシムルハ欧米ノ贋的個人主義ト雲泥ノ差アルモノ。カノ「ロイドジョージ」氏ノ試ミタル養老年金法案ノゴトキハ、国民ノ大部分ガ扶養スベキ男子ヲ有スルガユエニ、日本ニオイテハココニ掲グル例外的不幸ヲ除キテ無用ナル立法ナリトス。
注三 不具廃疾者ヲソノ兄弟遠族マタハ慈善家ノ冷遇ニ委スルハ不幸ナル者ニ虐待ヲ加ウルト同ジ。ソノ母マタハ女子ニ負荷セシメザル所以ハ、愛情アリトイエドモ扶養能力ナキガユエニ、結局ソノ兄弟マタハ娘ノ夫ノ負担トナリテ立法ノ精神ヲ殺スモノトナルヲモッテナリ。
注四 兵役義務ノタメニ不具廃疾トナレル者の国家扶養ノ義務ハ別ニ法律ヲモッテソノ扶養ヲ完ウスベシ。モトヨリ別個ノ問題ナリ。
国民教育ノ権利
国民教育ノ期間ヲ、満六歳ヨリ満十六歳マデノ十カ年間トシ、男女ヲ同一ニ教育ス。
学制ヲ根本的ニ改革シテ、十年間ヲ一貫セシメ、日本精華ニ基ヅク世界的常識ヲ養成シ、国民個々ノ心身ヲ充実具足セシメテ、オノオノソノ天賦ヲ発揮シ得べキ基本ヲ作ル。
英語ヲ廃シテ国際語(エスペラント)ヲ課シ第ニ国語トス。
女子ノ形式的マタ特殊的課目ヲ廃止シ小学、高等小学、中学校ニ重複スルモノヲ廃シテ一貫ノ順序ヲ正シクス。
体育ハ男女一律ニ丹田ノ鍛冶ヨリ結果スル心身ノ充実具足ニ一変ス。シタガッテ従来ノ機械的直訳的運動オヨビ兵式訓練ヲ廃止スべシ。
男女ノ遊戯ハ撃剣・柔道・大弓・薙刀・鎖鎌等ヲ個人的マタハ団体的ニ興味ヅケタルモノトシ従来ノ直訳的遊戯ヲ廃止ス。
コノ国民教育ハ国民ノ権利トシテ受タリモノナルヲモッテ無月謝、教科書給付中食ノ学校支弁ヲ方針トス。
男生徒ニ無用ナル服装ノ画一ヲ強制セズ。
校舎ハソノ前期ヲ各町村ニ存スル小学校舎トシ、後期ヲ高等小学校舎トシ、一切物質的設備ニ浪費セズ。
注一 男女共中学程度終業ヲモッテ国民タリ常道常識ヲ教育セラルルモノ。ヨウヤク文字ヲ解シ得ルカ得ザルカノ小学程度ヲモッテ国民教育ノ終了トスルハ国民個々ノ不具ト国家ノ薄弱ヲ来スモノナリ。コレ教育スべキ国家ノ窮乏セルト、教育セラルベキ国民ニ余裕ナカリシヲモッテナリ。一貫シタル十年間ノ教育ハ、ソノ終了ト同時ニ完全具足シタル男女タルベク、サラIニソノ基本ヲモッテオノオノソノ使命的啓発ニ向ッテ進ムヲ得べシ。
注ニ 女子ヲ男子ト同一ニ教育スル所以ハ、国民教育ガ常識教育ニシテアル分科的専攻ヲ許スベキ年齢ニアラザルト共ニ、満十六歳マデノ女子ハ男子ト差別スベキ必要モ理由モナキヲモッテナリ。シタガッテ女学校特有ノ形式的課目女礼式、茶湯、生花ノゴトキマタ女子ノ専科トセル裁縫、料理、育児等ノ特殊課目ハ全然廃止スべキモノトナル。前者ヲ強制スルハ無用ニシテ有害ナリ。後者ハ各家庭ニオイテ父母ノ助手トシテミズカラ修得スべシ。女子ニ礼式作法ガ必須課目ナラバ男子ニモ男子ノソレガシカルベク、茶ノ湯、生花ガシカルナラバ男子ニ謡曲ヲ課セザレバ不可。車夫ノ娘ニ「ビフテキ」ノ焼方ヲ教授シ外交官ノ妹ニ袴ノ裁方ヲ説明シ、月経ナキ少女ニ育児ヲ講義スルゴトキ、今ノ女子教育ノスベテハ乱暴愚劣真ニ百鬼夜行ノ態ナリ。学校ハスベテニアラズ。各人ノ欲スルトコロニ随ヒ各家ノ生活事情ニ応ジテ学ブベキ幾多ノモノヲ有ス。
注三 一切ニワタリテ英語ヲ廃スル所以。英語ハ国民教育トシテ必要ニモアラズ、マタ義務ニモアラズ。現代日本ノ進歩ニオイテ英語国民ガ世界的知識ノ供給者ニアラズ。マタ日本ハ英語ヲ強制セラルル英領インド人ニアラズ。英語ガ日本人ノ思想ニ与エツツアル害毒ハ英国人ガ支那人ヲ亡国民タラシメタル阿片輸入ト同ジ。タダ英語ホド普及セズシテシカモ英語思想以上ニ影響ヲ与エタルドイツ語ニヨリテソノ害毒ノ緩和セラレタル天佑ヲ有スルノミ。英語国民ノ浅薄ナル思想ヲ通ジテ空洞ナル会堂建築トシテ輸入サレタルキリスト教。人格権ノ歴史的覚醒タル民主々義ガ哲学的根拠ヲ欠如シタル民本主義トナソテ輸入サレツツアル「デモクラシー」。英米人ノ持続セントスル国際的特権ノタメニ宣伝サレツツアル平和主義・非軍国主義ガ、ソノ特権ヲ打破センガタメニ存スル日本ノ軍備オヨビ戦闘的精神リ対スル非難トシテ輸入サレツツアル内容皆無ノ文化運動。単ニコレラヲノミ視ルモ一利ニ対シテ千百害アルコト阿片輸入ノ支那ヲ思ワシム。言語ハ直チニ思想トナリ思想ハ直チニ支配トナル。一英語ノ能否ヲモッテ浮薄軽兆ナル知識階級ナルモノヲ作リ、店頭ニ書冊ニ談話ニソノ単語ヲ挿入シテ得々恬々(テンテン)トシテ恥無キ国民ニ何ノ自主的人格アランヤ。国民教育ニオイテ英語ヲ全廃スベキハ勿論、特殊ノ必要ナル専攻者を除キテ全国ヨリ英語ヲ駆逐スルコトハ、国家改造ガ国民精神ノ復活的躍動タリ根本義ニオイテトクニ急務ナリトス。
注四 国際語ヲ第ニ国語トシテ採用スル所以。シカシナガラ実ニ他ノ欧米諸国ニ見ザル国字改良、漢字廃止、言文一致、ローマ字採用等ノ議論百出ニ見ルゴトク、国民全部ノ大苦悩ハ日本ノ言語文字ノハナハダシク劣悪ナルコトニアル。ソノ最モ急進的ナルローマ字採用ヲ決行スルトキ、幾分文字ノ不便ハ免ルベキモ言語ノ組織ソノモノガ思想ノ配列表現ニオイテコトゴトク心理的法則ニ背反セルゴトハ、英語ヲ訳シ漢文ヲ読ムニスべテ日本文ガ顛倒シテ配列セラレタルヲ発見スべシ。国語問題ハ文字マタハ単語ノミノ問題ニアラズシテ言語ノ組織根柢ヨリノ革命ナラザルベカラズ。シカシテ不幸ナル幸ハ中学教育ニ英語ヲ課シ来レル慣習ノタメニ、ソノ程度ノ教育者モ被教育者モ、何ラカノ言語ヲ習得スベキコトヲ必須的ニ確信セルコトナリ。国際語ノ合理的組織ト簡明正確ト短日月ノ修得トハ世人ノ知ルゴトシ。成年者ガ三月マタハ半年ニテ足ル国際語ノ修得ガ、中学程度ノ児童、一ニ年ニシテ完成スベキコトハ、英語ガ五年間没頭シテナオ何ノ実用ニ応ズル完成ヲ得ザル比ニアラズ。児童ハ国際語ヲモッテ国民教育期間中ニ世界的常識ヲ得ベシ。シカシテ欧米ノ革命的団体ハ大戦ノハルカニ以前コレヲモッテ国際語トセント決議セシホドノモノ。最モ不便ナル国語リ苦シム日本ハソノ苦痛ヲ逃ルルタメニマズ第ニ国語トシテ並用スル時、自然淘汰ノ理法ニヨリテ五十年ノ後ニハ国民全部ガオノズカラ国際語ヲ第一国語トシテ使用スルニ至ルべシ。シタガッテ今日ノ日本語ハ特殊ノ研究者ニトリテ梵語、「ラテン」語ノ取扱ヲ受クベシ。
注五 国際語ノ採用ガトクニ当面ニ切迫セル必要アリトイウ積極的理由。下掲国家ノ権利ニ説クゴトク、日本ハ最モ近キ将来ニオイテ極東・シベリア・濠洲等ヲソノ主権下ニ置クトキ、現在ノ欧米各国語ヲ有スル者ノホカニ新タニインド人・支那人・朝鮮人ノ移住ヲ迎ウルガユエニ、ホトンド世界スべテノ言語ヲワガ新領土内ニ雑用セツメザルべカラズ。コレニ対シテ朝鮮ニ日本語ヲ強制シタルゴトク我ミズカラ不便ニ苦シム国語ヲ比較的好良[ママ]ナル国語ヲ有スル欧人ニ強制スルアタワズ。インド人・支那人ノ国語マタ決シテ日本語ヨリ劣悪ナリトイウアタワズ。コノ難問題ハ実ニ三、五年ノ将来ニ迫レルモノナリ。主権国民ガシベリアニオイテ露語ヲ語リ濠洲ニオイテ英語ヲ語ル顛倒事ヲナスアタワザルナラバ、日本領土内ニ一律ナル公語ヲ決定シ彼ラガ日本人ト語ルトキノ彼ラノ公語タラシメザルベカラズ。劣悪ナル者ガ亡ビテ優秀ナル者が残存スル自然淘汰律ハ日本語ト国際語ノ存亡ヲ決スルゴトク、百年ヲ出デズシテ日本領土内ノ欧洲各国語、支那、インド、朝鮮語ハマタ当然ニ国際語ノタメニ亡ブベシ。言語ノ統一ナクシテ大領土ヲ有スルコトハタダ瓦解ニ至ルマデノ槿花(キンカ)一朝ノ栄ノミ。
注六 体育ヲ丹田本位ト決定スル所以ハ、タダ肉体ノ一面ノミヲ見ルモ根本的体育タルヲモッテナリ。スデニ日本ノ各方面ニ先覚者の簇出シテ実証ヲ示シツツアルトコロナリ。コレラニ示サルルゴトクインドニ起リタルアジア文明ハ世界ヨリ封鎖セラレタル日本ヲ選ビテ天ノ保存シタルモノ。単ニ手足ヲ動力シ器具ニ依頼シ散歩遠足ヲモッテ肉体ノ強健ヲ求ムル直訳的体育ハ実ニ根本ヲ忘レテ枝葉ニ走リタリ彼ラノ悪摸倣ナリ。特ニ女子ヲシテ優美繊麗ノママニ発達シタル強健ヲ得セシムルニハ丹田ノ根本ヲ整ウル以外一ノ途ナシ。変性男子ノゴトキ醜キ手足ヲ作リテシカモ健康ノ根本ヲ培ワザル直訳体操ハトクニ厳禁ヲ要ス。
注七 兵式体操ヲ廃止スル所以ハ、ソノ形式マタ実ニ丹田ノ充実ヲ忘レタル外形的整頓ニ捉ワレタルモノニヨルモ一理由ナリ。カツ下掲ノゴトク日本国民ハ永久ニ兵役ノ義務ヲ有シ、カツ一年志願兵特権ハコレラノ訓練アルヲ一理由トナスヲモッテソレヲモ廃止スルガユエニ、兵役ニオイテスベキコトハスべテ兵営ニオイテスベシ。サラニ他ノ一理由ハ日本ノ将来ハ陸上ニアルト同一以上ノ程度ニオイテ海上ニアルガユエニ、国民教育ニオイテタダ陸軍的模倣ヲナサシメテ海兵的訓育ヲ閑却スルコトノ矛盾ナルヲモッテナリ。国民教育ノ要ハ根本ノ具足充実ニアリ。丹田本位ノ心身ヲ鍛冶シ十年間一貫ノ常識教育ヲ施サバモッテ海兵ニ用ウベクモッテ陸兵ニ用ウベシ。兵ノ素質ニオイテニ等卒モ今ノ少尉級ニ劣ラズ。
注八 単純ナル遊戯トシテ男子ガ撃剣柔道ニ遊ビ女子ガ長刀(ナギナタ)鎖鎌ヲ戯ルルハソノ興味ニオイテ「ベースボール」「フートポール」等ト雲泥ノ相違アリ。精神的価値等ヲ挙ゲテ遊戯ノ本旨ヲ傷クベカラズ。コハ生徒ノ自由ニ一任スべシ。現今ノ武器ノ前ニ立チテコレラニ尚武的価値ヲ求ムルニ及バズ。日本人ノ一般生活ニ没交渉ナル直訳的遊戯ヲ課スルノ滑稽サハ床柱ヲ背ニシテ小猿ノゴトク跪坐スル洋服姿ト同ジ。
注九 国民教育ノ児童リ対シテ無月謝、教科書給付、中食ノ学校支弁トスル所以ハ、国家ガ国家ノ児童ニ対スル父母トシテノ日常義務ヲ果スモノナリ。現今ノ中学程度ニオケル月謝ト教科書トハ一般国民ニ対スル門戸閉鎖ナリ。無月謝ヨリ生ズル負担ハ各市町村コレヲ負ウベク、教科書ハ国庫ノ経費ヲモッテ全国ノ学校ニ配布スベシ。中食ノ学校支弁ノ理由ハ第一ニ登校児童ノタメニ毎朝母ヲ労苦セシメザルコトナリ。第ニノ理由ハソノ中食ニ一塊ノ「パン」薩摩芋、麦ノ握飯等ノ簡単ナル粗食ヲナサシメ、モッテ滋養価値等ヲ云々シテ其ノ生活ヲ悟得セザル科学的迷信ヲ打破スルニアリ。第三ノ理由ハ幼童ノ純白ナル頭脳ニ口腹ノ欲ニ過ギザル物質的差等ヲモッテ一切ヲ高下セントスル現代マデノ悪徳ヲ印象セシメザルニアリ。学校トシテハ簡単ナル事務ニシテ、モシ児童ノ家庭ガ悪感化ニヨリテ食事ヲ肯ンゼザル者アラバ教師ノ権威ヲモッテソノ保護者ヲ召喚訓責スベシ。
注一〇 今ノ中学程度ノ男生徒ニ制服トシテ靴洋服ヲ強制スルコトハ実ニ門戸閉鎖ノ有力ナル一理由ナリ。ソノ不合理ナルコトアタカモ現時ノ欧米ニ「キモノ」服ガ普及シタルヲモッテソレヲ室内ノ制服トシテ強制セントイウト一般ナリ。和服ノ不便ナル裁方ナリトイウハ別問題ナリ。居常ノ衣服ヲ登校ニ用ユルヲ得ザル大々的不便ヲソノ父母ノ経済ニ課シテ何ノ便不便ゾ。実ニ今ノ日本教育ノスベテハ教育ニアラズシテタダ外形ノ摸倣ナリトス。
注一一 校合ニ巨費ヲ投ズルハマタ最悪ナル直訳的摸倣ナリ。コノ国民教育ノ根本的革命ハ戒厳令施行中ヨリ実施スベキモノナルヲモッテ、現時ノ校合ヲ直チニ使用スべキコトヲ明示シタリ。器械的科目タル理化学ニオイテモ今ノ中学校程度ニオイテ別個ノ教室ヲ設備スルゴトキ摸倣的浪費ノ一。
注一ニ 以上ノ国民教育ノ説明ニヨリテ大学オヨビ大学予備校ノ方針、マタソレガ生徒ノ自費タリコト等ハ推想シ得ベシ。シカシテ不用ナルべキ各地ノ中学女学校舎ハアルイハコレヲ取リ毀(コボ)チ、マタハ大学予備校ノ校舎マタハ単科大学ノ校舎トナスヲ得。
婦人人権ノ擁護
ソノ夫マタハソノ子ガ自己ノ労働ヲ重視シテ婦人ノ分科的労働ヲ侮蔑スル言動ハコレヲ婦人人権ノ蹂躙ト認ム。婦人ハコレヲ告訴シテソノ権利ヲ保護セラルル法律ヲ得べシ。
有婦ノ男子ニシテ蓄妾マタハソノ他ノ婦人ト姦シタル者ハ婦ノ訴エニヨリテ婦人ノ姦通罪ヲ課罰ス。
売淫婦ノ罰則ヲ廃止シソレヲ買ウ有婦ノ男子ハコレヲ拘留シマタハ罰金ニ処ス。
注一 現行法律ニオケル離婚ノ理由タル虐待云々ノ意味ニアラズ。カツコノ訴エハ必ズシモ離婚ヲ目的トセズ、実ニ婦人ガ男子ノ労働ニ衣食スルカノ誤解アリテ、男子ノ労働ガソノ実カエッテ婦人ノ分科的労働ノ助力アルガユエニ行ナワルルヲ忘却スル横暴ナル行為ヲ禁ジ、特ニ法律ヲモッテ婦人ノ人権ヲ擁護スルモノナリ。モシコノ立法ガ男子ノ道念ニヨリテ行ナワレザルナラバ忌ムベキ婦人労働トナリ婦人参政権運動トナルベシ。
注二 男子ノ姦通罪ヲ罰スルコトハ第一ニ一夫一婦タル国民道徳ノ大本ヲ明ラカニスルガタメナリ。国家ノ興廃ハコトゴトク男女ノ大本ノ清濁ニアリ。現時ノ欧洲諸国ニ「ノア」ノ洪水ガ来レル所以ヲ考エ、同胞残害シテ地獄ヲ現世ニ示シツツアルロシアヲ考エヨ。イカニ早クスデニコノ大本ガ腐爛シ尽シタルカヲ見ン。日本国民ガ全アジアノ盟主タル大使命アルナラバ、人倫ノ大本ヲ厳守励行スル立法ハ実ニ一日ヲ忘ルべカラズ。第二ノ理由ハ国家ガ国家ノ児童ニ対シテ大父母タル立場ニオイテソノ生ミノ父母ハ単ナル保姆ノ任ヲ負ウモノナリ。保姆ノ一方ガ残虐ナル苦痛ヲ他ノ一方ニ加エテ横暴ト悲惨トヲ居常見聞セシメラルル児童ノ悪感化ニ対シテ、国家ハ大父母ノ権利ニオイテ残虐ナル一方ヲ所罰スベシ。第三ノ理由ハ婦人人権ノ擁護ナリ。
注三 コノ一夫一婦制ノ励行ハカノ自由恋愛論ノ直訳革命家ト人生ノ理解ヲ根本ヨリ異ニセルモノナリ。カレニ従エバ男子ノ姦通罪ヲ罰スル法律ノ代リニ女子ノ姦通罪ヲ罰スル現行法律ヲ廃止セバ足レリトイウベシ。自由恋愛論ノ価値ハ恋愛ノ自由ヲ拘束スル時代ノ政治的経済的宗教的阻害者ヲ打破セントスル点ニアリ。コレヲ途方モナキ一夫一婦制ニ対スル反逆ト考ウルハ、アタカモ政治的特権者ニ向ッテ叫バレタル政治ノ自由ヲ平等ナル国民間ニ脱線セシメテ、相犯サザル各自ノ自由ヲ蹂躙スルコトモ等シク政治ノ自由ナリトイウ低能者ノ昏迷ナリ。国民平等ノ自由ガ特権ニアラザルゴトク一夫一婦制ハ何ラノ特権ニアラズ。自由ハ自由ノ侵害者ヲ拘束セザルベカラズ。一夫一婦制ハ妻ノ恋愛ヲ自由ナラシメンガタメニ夫ノ濫用セントスル恋愛ノ自由ヲ拘束セントスルナリ。彼ラノ昏迷セル自由ノ解釈ハ、自由ヲモッテ放火ノ自由殺人ノ自由モ自由ナリト結論セシムルモノナリ。スベテノ自由ガ社会ト個人ソノ人ノ利益ノタメニ制限サルルゴトク、恋愛ノ自由マタ国民道徳トソノ保護者トノタメニ制限セラルルハ論ナシ。コノ一夫一婦制ハ理想的自由恋愛論ノ徹底シタル境地ナリ。タダシ今ハコレヲ説クノ時期到来セズ。
注四 現行法律ガ売淫婦人ヲノミ罰シテ買淫男子ヲ罰セザルハ姦通罪ガ婦人ヲノミ罰シテ男子ニ及バザルト等シキ片務的横暴ナリ。貞操ノ売買ハコノ改造組織ノ後ニオイテハ漸次消滅スベキコトヲ信ズト共ニ、シバラクノ近キ将来ニ存在スべキソレラニ対シテ、国家ハ両者共ニ法律ヲモッテ臨マザル方針ヲ取ルベシ。タダシ有婦ノ男子ガ淫ヲ買ウハ明ラカリ一夫一婦ノ大本ヲ紊(ミダ)ル者ナルヲモッテ別個ノ意味ニオイテ加罰スルモノナリ。拘留前金ヲモッテセルハ婦ノ訴エナキ場合ニオイテ姦通罪ヲ検挙セザル原則ニヨル。カクシテ軽キ国家ノ制裁ヲ受クルコトニヨリテ、男子ハ家族ニ対スル権威ヲ失シ交友ニオケル信用ヲ損スル重大ナル苦痛ヲ受クルヲモッテオノズカラ身ヲ慎ミマタモッテ婦人人権ノ擁護トナリ、全家族生活ノ保障ヲ加ウルコトトナルベシ。
注五 独身ノ男子ヲ除外セルハ決シテソノ性慾ヲ正義化スル所以ニアラズ。婦人ガ純潔ヲ維持スルゴトク男子ガソノ童貞ヲ完ウシテ結婚スルコトハ双方ノ道義的責務ナリ。ソノコレヲ罰セザル理由ハ、未婚婦人ガ純潔ヲ破ルモ法律ノ干与セザルト等シク道徳的制裁ノ範囲ニ属スルヲモッテナリ。
国民人権ノ擁護
日本国民ハ平等自由ノ国民タル人権ヲ保障セラル。モシコノ人権ヲ侵害スル各種ノ官吏ハ別ニ法律ノ定ムル所ニヨリテ半年以上三年以下ノ体刑ヲ課スべシ。
未決監ニアル刑事被告ノ人権ヲ損傷セザル制度ヲ定ムべシ。マタ被告ハ弁護士ノホカニ自己ヲ証明シ弁護シ得ベキ知己友人ソノ他ヲ弁護人タラシムベキ完全ノ人権ヲ有スべシ。
注一 人権ヲ蹂躙シテカエッテ得々タルコトワガ国ノ官吏ノゴトキハ少ナシ。コレ欧米諸国ヨリ一歩ヲ先ンゼントスル国民的覚醒ヲ裏切ル大汚濁ナリ。体刑ト明示セル所以ハソノ弊風実ニ体刑ヲモッテセズンバ一掃スルアタワザル官吏横暴国ナルヲモッテナリ。コノ戦慄ヨリ来タリ反省改過ハ鏡ニカケテ見ルガゴトシ。
注ニ 未決監ニアル被告ヲ予備囚徒トシテ待遇シツツアルコトハ純然タル封建ノ遺風ナリ。コレヲ反対ニ無罪ナル者ト仮定スルトキ現時ノゴトキ凌辱ナシ。警察マタ然リ。要スルニ有罪ヲ仮定スルガユエニ未決期ノ日数ヲ刑期ニ加算スル等ノコトアルニテ明ラカナリ。コノ根本ニシテ明白ナラバ未決監中ノ人権蹂躙ハオノズカラニシテ跡ヲ絶ツべシ。
注三 被告人ハ罪人ニアラズシタガッテ弁護人ノ自由ヲ無視マタハ制限サルル理由ナシ。特ニ職業弁護人ト限ラルルガタメニ被告ノ平常事件ノ真相ニ通ズル者ヲモッテ直接ニ法官ト対セシムルアタワズ。タメニ事件ノ鑑察、法ノ適用ニオイテ遺憾多ク、被告ノ不利オヨビ延(ヒ)イテ法官ノ判断ヲ誤リ法ノ威厳ヲ損傷スルハナハダシキ現状ナリ。
注四 社会主義者ノアル者ノゴトク一切ノ犯罪ナキ理想郷ヲ改造後ノ翌日ヨリ期待スルハ空想ナリ。モトヨリ現今ノ政治的経済的組織ヨリ生ズル犯罪ノ大多数ハ直チニ跡ヲ絶ツベキハ論ナシ。国家ノ改造トハソノ物質的生活ノ外包的部分ナリ。終局ハ国民精神ノ神的革命ナラザルベカラズ。十年一貫ノ国民教育ガ改造ノ根本的内容的部分ナリ。
勲功者ノ権利
国家ニ対シマタハ世界ニ対シテ勲功アル者ハ、戦争・政治・学術・発明・生産・芸術ヲ差別セズ、一律ニ勲位ヲ受ケ、審議院議員ノ互選資格ヲ得、イチジルシク増額セラレタル年金ヲ給付セラルベシ。
婦人マタ同一ナルハ論ナシ。タダシ政治ニ干与セザル原則ニヨリテ審議院議員ノ互選資格ヲ除ク。
注一 国民ハ平等ナルト共ニ自由ナリ。自由トハスナワチ差別ノ義ナリ。国民ガ平等ニ国家的保障ヲ得ルコトハマスマス国民ノ自由ヲ伸張シテソノ差別的能力ヲ発揮セシムルモノナリ。カノ勲位ヲ忌ミ上院制ヲ否ム革命的思想家ハ、人類ノ進化程度ヲ過上ニ評価セル神学者的要求ニ発足スル者ナリト見ルべシ。
注二 勲功ニ伴ウ年金ガ現時ノゴトキ消極的ノ小額ナルハ不可ナリ。スベテノ光栄ハソレヲ維持スベキ物質的条件ヲ欠クベカラズ。
私有財産ノ権利
限度以下ノ私有財産ハ国家マタハ他ノ国民ノ犯スベカラザル国民ノ権利ナリ。国家ハ将来マスマス国民ノ大多数ヲシテ数十万数万ノ私有財産ヲ有セシムルコトヲ国策ノ基本トスルモノナリ。
注一 社会主義共産主義ヲ誤解シテソノ私有財産ヲ分与スルモノナルカノゴトク考エ、マタハ国民ノスベテニソノ日暮シソノ年暮シノ生活ヲナサシムルモノト考ウルガゴトキハ、現実的改造ノ要求セラレツツアル現代社会革命説ノ躍進的進歩ヲ解セザル者ナリ。シタガッテコノ改造後ノ国民ニシティカナル思想ニ導カルルニセヨ、国民ノ財産権ヲ犯ス者ハ、人類社会ノ存スル限リ存スベキ法律ノ原則ニヨリテ、強窃盗トシテ罰セラレマタハ乞食トシテ待遇セラルルハ論ナシ。
注二 年々多大ノ収益アリテ近ク私産限度ヲ超過スベクシカシテ超過額ヲ国家ニ納付スルヲ欲セザル目的ヲモッテ、限度以下ノ時ニオイテ、自己自身ノ欲望ニ従イテ消費セントスルハマタ国民ノ権利ナリ。コノ権利ハ国家ノ保障スル所有権ノ行使ニシテソノ消費ガ道徳的ナルト酒色遊蕩ナルトヲ問ウノ要ナシ。人ハオノオノソノ人ヲ中心マタハ分子トシタル小社会ヲ国家内ニ有シ、アル者ハ国境ヲ超越シタル大社会ノ中心マタハ分子タリシタガッテソノ消費セルトコロヲ収得スル者ハ国家ノ手ヲ経由セザル国民ナリ。私産限度制ハ国家ト国民ヲ害セザル程度ノ富ノ限度ヲ定ムルモノノミ。コレヲ誤解シテ限度超過額ノ上納ヲ促スモノトシマタハ国民ノ独自放胆ナル消費ヲ拘束スルモノト考ウベカラズ。
平等分配ノ遺産相統制
特定ノ意志ヲ表示セザル限リ、父ノ遺産ハソノ子女ニ平等ナル分配ヲモッテ相続セラル。父ノ妻タルソノ母マタ同ジ。
母ノ遺産ハ夫タル父ニオイテスべテ相続セラルべシ。
注一 遺産相続ノ正義ヲ規定スルニ見ルモ、合理的改造案ガ必ズ近代的個人主義ノ要求ヲ一基調トスルコトヲ知ルベシ。
注二 現代日本ニノミ存スル長子相続制ハ家長的中世期ノ腐屍ノミ。父母ノ愛ノ百千分ノ一ニ足ラザル長子ノ愛情利害ニ一切弟妹ノ運命ヲ盲従セシムルハ没人情ノ極。本然ノ人情ソノモノガスべテノ法律道徳ノ根源ナルヲ忘ルべカラズ。
注三 遺産相続ニ際シテ国家ガ課税ノ理由ナキコトハ、相続者則被相続者ノ肉体的延長ナルヲモッテナリ。
巻七 朝鮮ソノ他現在オヨビ将来ノ領土ノ改造方針
朝鮮ノ郡県制
朝鮮ヲ日本内地ト同一ナル行政法ノ下ニ置ク。朝鮮ハ日本ノ属邦ニアラズマタ日本人ノ植民地ニアラズ。日韓合併ノ本旨ニ照シテ日本帝国ノ一部タリ一行政区タル大本ヲ明ラカニス。
注一 朝鮮ヲシテ日本ノアイルランドタヲシムルゴトキコトアラバ、将来大ローマ帝国ヲ築カントスル日本ハ全然ソノ能力ナキコトヲ第一歩ニオイテ立証スルモノナリ。由来朝鮮人ト日本人トハ米国内ノ白人ト黒人トノゴトキ人種的差別アルモノニアラズ。単ニ一人種中最モ近キ民族ニ過ギザルナリ。シタガッテ過般ノ暴動ト米国市中ノ黒白人争闘トヲ比較スルトキソノ恥辱ノ程度ニオイテ日本ハ幾百倍ヲ感ゼザルべカラズ。朝鮮問題ハ同人種間ノ問題ナルガユエニイワユル人種差別撤廃問題ノ中ニ入ラズ。タダ一ニ統治国タル日本ソノモノノ能力問題タリ、責任問題タリ、道義問題タリトス。
注二 朝鮮人ガ異民族タル点ハソノ言語ト風俗トノ一部ナリ。国民生活ノ根本タル思想ニオイテハ有史以来日本ノ文明交渉ガ朝鮮ヲ経由シタルニヨリテ明ラカナルゴトク全然同一系統ニ属スルモノナリ。シカシテ現在ノ血液ガイカニ多量ニ朝鮮人ノソレヲ混ジタルカハ人類学上日本民族ハ朝鮮・支那・南洋オヨビ土着人ノ化学的結晶ナリトセラルルニテモ明白ナリ。トクニ純潔ノ朝鮮人ノ血液ヲ多量ニ引ケル者ハ彼ト文明交渉ノ密接セシ王朝時代ノ貴族ニ多ク、現ニ公卿華族ト称セラルル人々ノ面貌多ク朝鮮人ニ似タルハスベテソノ類型ヲ現スモノナリ。スデニ王朝貴族ニ朝鮮人ノ血液ガ多量ナリトイウコトハ、実ニソノ貴族ノ血液ガ皇室ニ入リ得ベキ特権階級タリシ点ニオイテ、日本ノ元首ソノモノガ朝鮮人ト没交渉ニアラズトイウコトナリ。アエテ今次ノ朝鮮太子ト日本皇女トノ結合ヲモッテ日鮮ノ融合ガ試ミラルルニアラズ。コレ決シテ人種問題ノ範囲ニアラズ。
注三 要スルニスベテノ原因ハ朝鮮ガ日本・支那・ロシアノ三大国ニ介在シテ自立スルアタワザリシ地理的約束ト、ソノ道義的廃頽ヨリ一切ノ政治・産業・学術・思想ノ腐敗萎微ヲ来シテ内外相応ジテ亡ピタルモノナリ。朝鮮ソノモノノ歴史ガ示スゴトク、マタ清国ガコレヲ属国トセンガタメニ起リタル日清戦争、オヨビ満洲ニ来タレルロシアガソレヲ侵略セントセシガタメニ破レタル日露戦争ニ示スゴトク、ソノ亡国タルべキ内外呼応ノ原因ハ統治者ガ日本タラザル時ハ露支両国ノイズレカナリシハ明白ナリ。日本ノ国防ニ取リテ彼ガ日本ノ脅威タル強国ノ領有マタハ同盟者タル危機ハ、アタカモ英国ニ取リテベルギーガドイツノ領土タリ同盟国タルソレト同ジキ存亡問題ナリ。今次ノ大戦ニオイテモシベルギーガドイツト握手シシカシテ英国ノ軍隊ガソレヲ撃破シテベルギーニ滞陣セシトセヨ。彼ハ講和会議ニオイテソノ独立ヲ承認セザルノミナラズ明ラカニソノ領有ヲ主張スベキハ論ナシ。朝鮮ノ亡国的腐敗ハコトゴトク事大的国是トナリテ現ワレ、日清戦争ニオイテハ清国ニ従イ、日露戦争ニオイテハロシアヲ迎エ、イササカモ英国トベルギーノ結託ニ似タルモノナカリシハ開戦原因ヲ顧レバ明白ナリ。コノ間ニオイテカノ革命党ノミハ大局ヲ達観シ日本ト結ビテ独立ヲ企画シテ労苦止マザリシトイエドモ、ツイニ日露開戦ニ至ルマデ国政ヲ把リテ志ヲ行ナリアタワザリキ。シカシテ戦争中日本ノ朝鮮ニオケル立場ハ英国ノベルギーニオケルゴトクナラズ、朝鮮全部ヲ掩有スルニ実力ヲモッテシタリ。国内ノ革命党ハ依然トシテ志ヲ得ズ、露国マタ依然トシテ強大ヲ維持シ講和条約ハ単ナル休戦条約トシテ調印セラレタリ。自立シアタワザル地理的約束ト其個契盟スルアタワザル亡国的腐敗ノタメニ、日本ハ露国ノ復讐戦ニ対スル自衛的必要ニ基ヅキテ独立擁護ノ誓明ヲ取リ消シタルコトガ真相ナリ。コレ侵略主義ニアラズ、マタイウトコロノ軍国主義ニアラズ。朝鮮ヲ領有スル結果ヨリ見テ、アタカモ百万円ヲ貯蓄シタル結果ヨリ見テ、ソレガ高利貸ニヨルト忠実ナル労働ニヨルトヲ考査セズシテ等ツク守銭奴ト詈(ノノシ)リ侵略者ト誣(シ)ユルハ昏迷者の狂言ナリ、重大ナル罪悪ナリ。朝鮮ノ亡国史ヲ知リ露国ノ脅威ニ戦慄シタル危機ヲ顧ルナラバ、アイルランド独立問題ヲ朝鮮ニ直訳シテ論及スルノ理ナシ。空疎守旧ノ学説ト薄弱ナル意志ト衆愚ノ喝采ヲ足レリトスル虚栄ト、実ニ通俗政治家ノ標本タル「ウイルソソ」輩ノ通弁ニ得々タリシイワユル学者ナル者ノ反省ヲ要ス。
注四 ユエニ日本存立ノ国防上ヨリ朝鮮ハ、永久ニ独立ヲ考ウべキモノニアラズ。ロシアノ脅威ガ「ツァール」ノ亡ビタルヲモッテ去レリト考ウルゴトキハ歯牙ニ足ラザル浅慮。「ツァール」ガ侵略シ来レルト「レニン」ガ幾多ノ謬妄ヲ附帯セル社会革命説ヲ奉ジテ殺到シ来ルべキト、日本ガ国防上朝鮮ニ拠リテ戦ウコトハ国家ノ国際的権利ナリ。特ニロシアノ脅威ハ過渡時代ノ「レニン」ニアラズシテ「レニン」ナキ後真ニ再建セラルベキ十年後ノ将来ニ存ス。ヨウヤク中世史ノ革命ヲ学ビツツアル未開後進ナル彼ニ対スルニハ現代的再建ヲ想像スルヨリモ、反動ノ襲来マタハ真乎ノ建国者ニヨリテ「ピーター」大帝ノ再現ヲモ打算外ニ置クアタワズ。
注五 コノ国防上朝鮮ヲ独立セシメズトイウコトハ、英人ガインドヲ独立セシメズマタアフリカ植民地ヲ独立セシメズトイウコトトハ全ク別事ナリ。インドガ英国ノ属邦タリ英領アフリカガ植民地タルニ対シテ、朝鮮ハ日本ノ属邦ニアラズマタ植民地ニアラズト明示セシ所以ナリ。インドマタハアフリカノ住民ガ全然英人ト人種ヲ異ニセルニ対シテ、日鮮人ハ古来ノ混血融合ノミナラズ同一人種中ノ最モ近キ異民族ナル点ニオイテ属邦タルべカラズマタ植民地タルベカラズ。朝鮮ハ日本ノー部タルコト北海道ト等シク正ニ「西海道」タルベシ。日本皇室ト朝鮮王室トノ結合ハ実ニ日鮮人ノツイニ一民族タルベキ大本ヲ具体化シタルモノリシテ、泣ク泣ク匈奴ニ皇女ヲ降嫁セシメタル政略的ノモノニアラズ。実ニ現時ノ対鮮策ナルモノハ甚ダシク英国ノ植民政策ヲ摸倣シタルガユエニ、根本精神ヨリシチ日韓合併ノ天道ニ反スルモノナリ。朝鮮ガ日本ノ西海道ナル所以ヲ明ラカニスルトキ百般ノ施設コトゴトク日鮮人ノ融合統一ヲ来タサザルモノナク、独立問題ノゴトキ希ウトイエドモ生誕セザルハ論ナシ。
注六 「コルシカ」島民ノ大皇帝ハ「コルシカ」独立ノ戦陣ニ孚(ハグク)マレ独立ノ憤ヲ抱キテ敵国ノ士官学校ニ学べリ。シカモ革命フランスガ「コルシカ」ヲフランスノ本国ト平等ナラシメ「コルシカ」島民ヲフランス人ノ自由ニ開放スルヤ、独立党ノ青年士官ハフランスニ対スル愛国心ヲ「エルバ」島ニ葬ルマデ変ゼザリキ。日本海ヲ庭池トシテ南北満洲ト極東シベリアトニ軍命大帝国ヲ建ツル時、朝鮮ハ特ニソノ心臓肺肝ノ重キヲナサントス。日本本国ノ一部トシテノ平等、日本人トシテノ自由ヲ対鮮策ノ眼目トナス。
朝鮮人ノ参政権
約ニ十年後ヲ期シ朝鮮人ニ日本人ト同一ナル参政権ヲ得セシム。
コノ準備ノタメニ約十年後ヨリ地方自治制ヲ実施シテ参政権ノ運用ニ慣習セシム。
注一 コレ流行ノイワユル民族自決主義ニアラザルハ論ナシ。朝鮮ガ日本ノ西海道タリ朝鮮人ガ日本人ト大差ナキ民族タル理由ニヨリテ、日本国民タル国民権ヲ最初ニカツ完全ニ賦与セラルルヲ明ラカニスルモノナリ。
注二 ナポレオンノ世界統一主義ニ対シテ起レル民族主義ガ近世史ノ一大潮流ナリシハ言ウノ要ナシ。タダコレガカノ暗昧ナル「ウイルソソ」ノ口ヨリ民族自決主義ト呼バルルニ至リテ空想化シ滑稽化シタルナリ。自決トハソモソモ何ゾヤ。アル民族ガソノ国家組織ヲ失ウ所以ハ外部的圧迫ト内部的廃頽トニヨリテ自決スル力ヲ欠ケルガタメナリ。覚醒セル民族ガ内部的興奮ニヨリテ外部的圧迫ヲ排斥セントスル時、コレ無用ナル自決ノ文字ヲ加エザル伝来ノ民族主義ナリ。幾多ノ民族ノ中ニオイテ自決スルヲ得ル覚醒的民族ト然ラザル者トアルハ、アタカモ等シキ人間ノ中ニオイテ自決スルアタワザル八十歳ノ老婆アリ十歳ノ少女アルガゴトシ。民族主義ノ本旨ハ人道主義トイウガゴトキ合理的命題ナリ。コレヲ民族自決主義ト名ヅクルニ至リテハ人道主義ノ命題ニ代ウルニ人間自決主義トイウガゴトキ笑倒ノ沙汰。老幼男女ヲ静ゼズ各人ノ人格ヲ認識スル人道主義ヲ滑稽化シテ八十歳ノ老婆ニモ生活ヲ自決セシムベク十歳ノ少女ニモ恋愛ヲ自決セシムべシトイワバ如何。アル民族ハ老婆ノゴトクアル民族ハ少女ノゴトシ。コノ国際間ニオケル民族ノ老幼ヲモ圧迫シ虐遇セザルべキ人道主義ガスナワチ民族主義ノ終局理想タルベキモノナリ。現時ノ強国中各種老幼ノ民族ヲ包有セザルモノナキコト各家庭ニオイテ老婆少女ヲ有スルガゴトシ。コレラニ向ッテ自決ヲ迫ラバ各家庭ノ分散スベキゴトク一切ノ強国ハ分解スベシ。強国ノ無用ヲイウカ。シカラバ 「ウイルソソ」 ハ 「ヴェルサイユ」 ニ行カズシテスイスノ社会党大会ニ列席スべカリシナリ。シカシテソノ主張ヲ堂々タル非国家主義世界統一主義ニ宣明スル彼ラハ大イナル歓迎ヲモッテ噴飯スベキコノ命題ノ製造者ヲ嘲弄スベシ。
注三 実ニ朝鮮ハ合併以前自決ノ力ナカリシコトハ八十歳ノ老婆ノゴトク、合併以後未ダ自決ノ力ナキコト十歳ノ少女ノゴトシ。末節枝葉ニオイテイカナル非難アルニセヨ、朝鮮ハロシアノ玄関ニ老婆ノゴトク窮死スベカリシ者ヲ、日本ノ懐ニ抱カレテ少女ノゴトク生長シツツアルハコレヲ無視スルアタワズ。スデニ日本ノ懐ニ眠レル以上、日本建国ノ天道ニヨリテ一点差別ナキ日本人ナリ。日本人トシ日本人タル権利ニオイテソノ生長ト共ニ参政権ヲ取得スべキ者ナルハ論ナシ。
注四 約十年トイイ約ニ十年トイウ年限ヲ予定シタルハ、過去ノ専制政府等ガ民権連動ニ譲歩スルトキナルベク長ク専制ヲ維持セント欲スル期間ノ留保ニアラズ。数百年間ノ半亡国史ハ実ニ朝鮮人ノ道念ヲモ生活ヲモ腐敗シ尽シタルヲモッテ、其ノ国家的覚醒アル鮮人ハコレヲ現在新精神ニヨリテ教育セラレツツアル人々ノ生長ニ待ツノホカナキヲモッテナリ。教育トハ必ズシモ「サーベル」教師ニアラズ。必ズシモ日本語ノ教科書ニアラズ。愛国的暴動ノゴトキコレヲ覚醒シテ顧ルトキ貴重ナル政治教育ノ一ナリ。医学ニ万能ノ薬品ナキニカカワラズ政治学ニ参政権ヲ神権視スルコトハ欧米ノ迷信ナリ。カノ投票神権説ニ累セラレテ、鮮人ニマズ参政権ヲ与エテ政治的訓練ヲナスべシト考ウルハ、ソノ権利ノ根本タル覚醒的生長ヲ閑却シタル愚人ノ云為ナリトス。日本ハ真個父兄的愛情ヲモッテ、カカル短時日間ニコノ道義的使命ヲ果タシ、モッテ異民族ヲ利得ノ目的トセル白人ノイワユル植民政策ナルモノニ鉄槌一下セザルベカラズ。
三原則ノ拡張
私有財産限度、私有地限度、私人生産業限度ノ三大原則ハ大日本帝国ノ根本組織ナルヲモッテ現在オヨビ将来ノ帝国領土内ニ拡張セラルルモノナリ。
注一 東洋拓殖会社ノ横暴ハ実ニ当年ノ東インド会社ニ学バントスル一大罪悪ナリ。日本ノアジアニ与エラレタル使命ハ英人ノ罪悪ヲ再ピスルヲ許サズ。拓殖会社ノ土地ハ土地私有限度ニヨリテ一度国家ニ徴収スルト共ニ、朝鮮ニアル内鮮人ハ平等ノ権利ニオイテソノ分配ヲ受クベシ。日本建国ノ精神ハ内外人ニヨリテ正義ヲ二ニセザルコトヲ誇リトス。朝鮮ニオケルイワユル拓殖政策ナルモノマタ実ニ欧人ノ罪悪的制度ヲ直訳シタルモノ多シ。日本ハスベテニオイテ悪摸倣ヨリ蝉脱シテソノ本ニ返ラザルべカラズ。
注二 将来ノ帝国領土中、先住国民ノ大富豪大地主アリテ多大ノ土地ヲ独占シマタハ生産業ヲ専有スル時コレヲ是認スルゴトキアラバ、日本国家ハタダ彼ラノ不義ナル財産ノ保護ヲ負担セシメラレ、日本国民ハタダソノ小作人タリ労働者タルニ過ギザルべシ。コレ主権国民タル自負ト欲望ニオイテ忍ブアタワザルトコロ。タメニツイニ国家ノ法律ヲ抂(マ)ゲテ自国民ヲ保護シ彼ラノ財産ヲ奪ワントスル非違ヲ頻出シ不仁ノ名ヲ国家ニ冠セシムルニ至ル。ユエニ日本本国ニオイテマズコノ三大原則ヲ確立シテ拡張セラレタル領土ニ臨ムトキ、真ノ公平無私ハオノズカラニシテ得ベシ。大領土ヲ有スル名実具足ノ大日本帝国ヲ考ウルモノコノ三大原則ヲ確立スル日本ミズカラノ改造ガ実ニ将来ノ建設リ避クベカラザル準備ナルヲ悟得スベシ。
現在領土ノ改造順序
朝鮮・台湾・樺太等ノ改造ハコノ三大原則ヲ決定スルニ止メ、漸ヲ追イテソノ余ヲ施行シ、十年ナイシニ十年後ニオイテ日本人ト同一ナル生活権利ノ各条ヲ得セシムルヲ方針トス。
タダシ日本内地ノ改造ヲ終リ戒厳令ヲ撤廃スルト同時ニ三大原則ノ施行ニ着手ス。
コレラノ領土内ニ在郷軍人団ナキヲモッテ、国家任命ノ改造執行機関ヲシテ土地資本財産ノ調査徴集ニ当ラシム。
改造執行機関ハ日本内地ノ改造ニ経験ヲ得タル官吏マタハ同ジキ在郷軍人団中ヨリ任命ス。
注一 日本ノ改造ヲ終リタル後ニ着手スル所以ハ、無智ト事情不通トノタメニ日本内地ト同時ニ着手スルトキハ、内地ノ紛囂ヲ誤伝シタル不安騒擾ヲ醸スベキヲモッテナリ。第二ノ理由ハ在郷軍人団ナル好適ノ機関ナク、今ノ植民政策的頭脳ノ総督府等ニコノ大任ニ当ラシムルハ明白ニ不正不義ヲ残シテ改造ノ精神ヲ傷クルノミナラズ、アルイハ意外ノ変ヲ招クベキヲモッテナリ。第三ノ理由ハ三年間ノ日月ハ日本ノ整然タル改造組織ヲ伝聞セシムルニ十分ナルガタメニ、日本大多数国民ノ歓喜ヲ伝エテ彼ラノ大多数国民マタ速ヤカニソノ福利恵沢ニ浴センコトヲ欲スルニ至ルべキヲモッテナリ。
注二 過般朝鮮ノ内乱ハ今ノ総督政治ガ一因ナラズトハイワズ。シカモ根本原因ハ日本資本家ノ侵略ガ官憲ト相結ビテ彼ラノ土地ヲ奪イ財産ヲ掠メテ不安ヲ生活ニ加エ怨恨ヲ糊口ノ資ニ結ビタルコトニ存スルヲ知ラザルべカラズ。「ウイルソン」輩ノ呼号何ノ影響アラン。
国家ノ内外ヲ毒シテツイニ大ローマヲモ亡ポシタルモノノ金権政治ナリシコトヲ忘ルベカラズ。
改造組織ノ全部執行セラルベキ新領土
将来取得スべキ新領土ノ住民ガソノ文化ニオイテ日本人トホボ等シキ程度ニアル者ニ対シテハ、取得ト同時ニコノ改造組織ノ全部ヲ施行スベシ。タダシ日本本国ヨリ派遣セラレタル改造執行機関ニヨリテ改造セラルルモノナリ。
ソノ領土取得ノ後移住シ来レル異人種異民族ハ、十年間居住ノ後国民権ヲ賦与セラレ日本国民ト同一無差別ナル権利ヲ有スベシ。
朝鮮人台湾人等ノ未ダ日本人ト同一ナル国民権ヲ取得スベキ時期ニ達セザル者トイエドモ、コノ新領土ニ移住シタル者ハ居住三年ノ後右ニ同ジ。
注一 タトエバ濠洲ヲ取得シタル時ソノ住民ノ文化程度ハ直チニコノ改造組織ノ下ニ生活スルヲ得ベシ。極東シベリアノゴトキハソノ程度マズ三大原則ヲ施行シ順ヲ追イテ施行スベキモノナリ。
注二 将来ノ新領土ハ異人種異民族ノ差別ヲ撤廃シテ日本ミズカラソノ範ヲ欧米ニ示スベキハ論ナシ。濠洲ニインド人種、支那民族ヲ迎エ、極東シベリアニ支那・朝鮮民族ヲ迎エテ先住ノ白人種トヲ統一シ、モッテ東西文明ノ融合ヲ支配シ得ル者地球上只一ノ大日本帝国アルノミ。シタガッテコノ改造組織ヲソレラノ領土ニ施行シテ主権国民ミズカラ私利横暴ヲ制スルト共ニ、先住ノ白人富豪ヲ一掃シテ世界同胞ノタメニ其個楽園ノ根基ヲ築キ置クコトガ必要ナリ。単ナル地図上ノ彩色ヲ拡張スルコトハ児戯ナリ。天道宣布ノタメニ選バレタル日本国民ハマサニ天譴(テンケン)ニ亡ビントスル英国ノ二舞ヲナサザルハ論ナシ。
注三 朝鮮人台湾人ガソノ故郷ニアリテ未ダ取得スル時期ニ達セザル国民権ヲコノ領土ニオイテ三年後ニ取得シ得ベキ理由ハ、スデニ移住シ居住スルホドノ者ハ大体ニオイテ優秀ナルヲモッテナリ。第二ニ白人ノ新移住者、インド人、支那人ノ移住者ガ取得スルトコロヲ、スデニ早ク日本国民タリシ彼ラニ拒絶スべキ理由ナキヲモッテナリ。第三ノ理由ハ東西文明ノ融合ヲ促進スルタメニ、特ニ日本ノ思想制度ニ感化セラレタル彼ラノ移住ヲ急トスルガユエナリ。
注四 日本人ノ改造執行機関ヲモッテシテ土着人ニ当ラシメザル所以ハ主権本来ノ性質トシテ現明ノ要ナシ。
巻八 国家ノ権利
徴兵制ノ維持
国家ハ国際間ニオケル国家ノ生存オヨビ発達ノ権利トシテ現時ノ徴兵制ヲ、永久ニワタリテ維持ス。
徴兵猶予一年志願等ハコレヲ廃止ス。
現役兵ニ対シテ国家ハ俸給ヲ給付ス。
兵営マタハ軍艦内ニオイテハ階級的表章以外ノ物質的生活ノ階級ヲ廃止ス。
現在オヨビ将来ノ領土内ニオケル異民族ニ対シテハ義勇兵制ヲ採用スルモノアルべシ。
注一 支那ニオイテ傭兵トイウモノ英米ニオイテ義勇兵ト名付ク。スナワチ雇傭契約ニヨル兵士ナリ。コレ彼ラノ国民精神ニ適合スル制度ナリ。米国ノ建国ガ社会契約説ヲ理想トシテ植民セル者ノ契約結合ナルハ前説ノゴトシ。英国マタ実ニソノ謬説ノ誕生地ナルヲモッテ、今ナオ「ジョソブル、ソサイテー」ト名ヅクルゴトク英帝国ソノモノヲ組合視シ会社視シテコトゴトク社会契約説ニ基ゾク立法ナラザルナシ。シタガッテソノ国防ニオイテモ組合ト組合員トノ間ニ雇傭契約ヲ締結スルハ、米ノ建国トシテマタ英ノ国家組織トシテ少シモ不可ナシ。シカモコノユエヲモッテ 「ヴェルサイユ」会議ニオイテ英米ガ傭兵制度ヲ日本ニ強イタル何タル迷妄ゾ。日本ハ建国精神ヨリ、マタ現代国民思想ノスベテニオイテ、日本帝国ヲ契約ニヨリテ組織シタリモノト一考セシコトモナシ。日本国民ノ国家観ハ国家ハ有機的不可分ナル一大家族ナリトイウ近代ノ社会有機体説ヲ、深遠博大ナル哲学的思索ト宗教的信仰トニヨリ発現セシメタル古来一貫ノ信念ナリ。徴兵制度ノ形式ハ独仏ニ学ビタルモ、徴兵制度ノ精神タル国民皆兵ノ義務ハ、中世封建ノ期間ヲ除キテ、上世建国時代ニ発源シサラニ現代ニ復興シテ漲溢(チヨウイツ)シツツアル国民的大信念ナリ。日本ノ講和委員ハ何ガユエニ英米ト日本トガ国民精神ノ根本、国家組織ノ信念ヨリ異ニスル所以ヲ指摘シテ、日本国民本有ノ国家有機体的信仰ヲ彼ラニ訓ユルコトナカリシカ。徴兵制ソノモノガ直チニイワユル軍国主義ニアラザルコトハ、徴兵制ナリシガユエニ辛ウジテドイツヲ防止スルヲ得タルフランスガ、会議ノ人々ヨリ軍国主義ナリシトテ攻撃セラレザリシガゴトシ。日本ノ講和委員ハ何ガユエニ、「カイゼリスム」 ト日本ノ国家有機体的信仰ヨリ結果セル国民皆兵主義トヲ混同シテ臨ミシ無智ノ昏迷者ニ学バシムルトコロナカリシカ。軍国主義ナルカ否カハ傭兵ト徴兵トニヨリテ決セラルルモノニアラズ。軍備ニ依頼シテ弱国ヲ併呑シモッテ私慾ヲホシイママニセントスル意味ノモノガ軍国主義ナラバカツテ陸上ニオイテドイツガ然リシゴトク、海上ニオイテ英国ノナシツツアルモノハ実ニ遺憾ナク完成シタル海上軍国主義ナリ。コノ軍国主義ガ、単ニ自己ガ問題外ナル傭兵制ナリトイウノ理由ヲモッテ、他ノ徴兵ニヨリテカカル軍国主義者ノ侵害ヲ防衛セントスルモノニ己ノ冠ヲ冠セントセシハ悪(ニク)ムべシ。カノ愚昧ナル善人ガカカル悪魔ノラッパ卒ニ使役セラレテソレヲ日本ニ向ッテ吹キシコトハ米国史上空前ノ恥辱ナリトス。
注ニ シタガッテ傭兵ト撤兵トノ強弱ヲ論ズルコトハ無用ナル詮議ナリ。英米ノ国情ニオイテハ必ズシモ強兵ヲ意味セズシテ、日本ノ建国ト信念トニオイテハ傭兵ハ必ズ弱兵ナルハ論ナシ。コレ徴兵制ヲ明確ニ永久ノ制度ナリトセル所以ナリ。タダドイツガ最後ニ破レタルガユエニ徴兵制ノ価値ヲ疑ウハ非常ナル妄断ナルコトヲ注意ス。一人ト五人ト角力シテスデニ三人ヲ倒シタル者ガ他ノ二人ヨリ足ヲ奪ワレタルヲ見テソノ人ヲ弱者ナリトイウアタワズ。特ニドイツノ実戦シタル軍隊ハ徴兵制ノフラソストロシアニシテ、甲ノ徴兵国ガ乙ノ徴兵国ニ破ラレタリトイイ得ベシ。今次ノ大戦ニオケル英米ハタダ海上封鎖ニヨリテ食料ト軍需品トヲ遮断シタル任務ニ働キシ者。英米ノ傭兵トドイツノ徴兵トノ優劣ハ実戦ニヨリテ立証セラレタルモノニアラズ。タダ退却将軍ノ報告文トシテ古今独歩ノ文豪「へーグ」元帥ニヨリテ英国傭兵ノ光栄ハ十分ニ認知セラレタルハ周知ノゴトシ。
注三 アル理想マタハアル信仰ニ基ヅキテ徴兵ヲ拒否セントスル者ノ欧米リ多キヲモッテ、日本ガ国家ノ権利トシテ主張スルヲ非議スル者アラン。シカシナガラ政治ノ自由、経済ノ自由、恋愛ノ自由ガ他ノ社会的生活ヲ犯サザル自由ノ意味ニオイテ、思想ノ自由信仰ノ自由マタ絶対的ノモノニアラザルハ論ナシ。自由ノ誤解セル解釈ヨリ来ル思想ノ自由信仰ノ自由ハ、自由恋愛説ノ注ニ説明シタルトコロヲ移シテ直チニ説明トスルヲ得ベシ。思想マタハ信仰ノ点ヲ考ウルトキ、実ニ価値ナキマタハ有害ナルモノヲ神ノゴトク裁決シ得ルノ大処ニ立ツヲ要ス。インド人ガ生殖器ノ形像タル「リソガム」ヲ頸ニ掛ケ寡婦ガミズカラ薪ヲ抱イテ夫ニ殉死スルコトヲ天国ニ行ク道ナリト信仰ストモ、チベット人蒙古人ガ諸神ト動物トノ生殖行為ノ彫像図画ヲ礼拝シテ極楽行ヲ信仰ストモ、キリスト教徒中ノ旧教一派ガ一度結婚シタル者ノ離別ハ地獄ノ火ニ焼カルト信仰ストモ、コレラノ信仰ガ信仰ナルガユエニ自由ナリト認ムルアタワザルコトハ、恋愛ナルガユエニ自由ナリト認ムルアタワザルト同ジキ意味ト程度ニオイテ然リ。思想信仰ノ価値ハソノ民族精神マタハ世界思想ニ戦イテ凱歌ヲ挙ゲタリ時ニ認メラルルモノナリ。戦ノ中途ニオイテマタハ退却アルイハ降伏ノ状態ニオイテ信仰ノ自由ヲ鳴号スルゴトキ信仰ハ、ツイニ十字架上「ワレ勝テリ」トシテ国家ト世界ノ上ニソノ自由ヲ建設スル価値ナキモノナリ。カノ兵役忌避ヲ本旨トスル 「クエーカー」宗ノゴトキハ、小乗教ノキリストニオイテスラ天国ノ戦ヲ指シ、地上ニオイテナオワレ刃ヲ出サンガタメニ来レリト宣シテツイニローマヲ天火ニ亡シタル一面ヲ有スルニカカワラズ、タダソノ殺スナカレノ一項ヲ盾トシテ盲守スルニ過ギザル者。同ジキ一神教ニオイテ 「マホメット」ハ刃ヲ出サンガタメリ来レルヲ明言シテ「殺スベシ」ト教ウルニアラズヤ。「コーラン」ト共ニ剣ヲ示シテ殺スべシトイウ信仰ト殺スナカレトイウ信仰トヲ両立セシムルニ、Libertyナル「アルファベット」七個ニ依頼セントスルガゴトキ浅薄ナル信念ニテ何ノ信仰ゾ。「クエーカー」宗ノ価値ハ天理教ヨリ遙カニ以下ニシテ「リンガム」礼拝ヨリイササカ以上ナル程度ノモノナリ。彼ラノ信仰ガ強固ニシテ犠牲ヲ甘ソズル事例ヲ挙ゲテ対抗スルナラバ宗教ノ低級ナルモノニオイテカカル例ノ他ニ無数ナルモノヲ挙グベク、サラニカク頑迷移サザルモノ多キガユエニ殺スべシトイウ回教ノ信仰ニヨリテ答エザルベカラズ。神ハ全智ニシテ全能ナルガユエニ、イニシエ「ノア」ノ洪水ヲモッテ大殺戮ヲナシ、現時マタ六月ニ十八日ニ始マリテ六月ニ十八日ニ終レル五年間ノ屍山血河アリ。神ヲ信ジテシカモ殺スコトヲ否ム「クエーカI」宗徒ハ、神ノ能力ト智見ガコノ殺戮ヲ防グアタワザリシ完キ者ニアラズトイウ信仰根本ノ矛盾ニ立ツ者。キリストソノ人スラ彼ノ弟子ラニ向イテ明ラカニ「ワガ神」「汝ノ神」トシテ神ソノ者ニ自他彼此大小高級ヲ差別シタリ。日本国民ノ神ハ 「クエーカー」教徒ノ神ニ対シテ弥陀(ミダ)ノ利剣ヲ揮(フル)ウベキノミ。生死ノ煩悶ヲ天空ニ求ムルゴトキ低級極マル小乗的信仰ヲモッテ、インド文明ノ密封セラレタル宝庫トシテヨウヤクマサニニ十世紀ノ今日ヲ待チテ開カレソトスル日本民族ノ大乗的信仰ニ対セントスルゴトキハ、真ニ竜車ニ向ウ蟻榔ノ斧。信仰スデニ然リ。イワンヤ学者文士輩ノ口耳ヨリ濫造七ラレタル思想ナルモノノ自由ヲヤ。将来「クエーカー」宗ノゴトキマタ浅薄ナル非戦主義ノゴトキヲ輸入シテ徴兵忌避ヲ企ツル者アラバ、刑罰ハ断々トシテソノ最モ重キモノヲ課シテ可ナリ。
注四 徴兵猶予一年志願兵等ハ現時ノ教育的差等ヨリ結果セルモノナルヲモッテ、十年一貫ノ国民教育ニヨリテコレラヲ存置スル善悪一切ノ理由ハ消失スベシ。トクニソノ兵質ガ、前注説明ノゴトク今ノ少尉級ニ匹敵スベキヲモッテオノズカラ現役年限ノ短縮トナルベク、一年マタハ一年半ノ軍隊的軍艦的訓練ハイカナル専門的使命アル者モ身心ノ根源ヲ培養シテソノ使命ノ大成ヲ準備セシムルモノナリ。今ノ徴兵猶予ハ速成学士ノ「ロ−ズ」物ヲ官庁会社ニ売出サントスル現経済組織ヨリ来レルモノ。トクニ彼ラノホトソドスベテハ今ノ大学教育ナル高等職業紹介所ニ入ルコトヲモッテ一種ノ特権階級ノゴトク考エ、心裏実ニ徴兵忌避ノ私ヲ包蔵シテソノ猶予ヲ求ムルモノナラザルハナシ。コノ一点ヲ寛過スルハ実ニ国家ノ大網ヲ紊ルモノ。他ニ百利アリト仮想スルモ存置セシムベキ除外例ニアラズ。
注五 現役兵ニ俸給ヲ給付スベキハ国家ノ当然ナル義務ナリ。俸給ガ傭兵ノソレト全ク別個ノ義ナルハ論ナシ。国民ノ義務ニセヨ、父母妻子ノ負担アル男子ヨリソノ労働ヲ奪イテ何ラノ賠償ヲナサザルコトハ国家ノ権利ヲ濫用スルモノナリ。コノ権利濫用ノ下ニ血涙ヲ呑ミシ爆発ハ眼前ニ見ルロシアノ労兵会ノ蹶起ナリ。軍隊ノ強盛ヲ念トスル軍事当局スラコノ強兵ヲナス根源ヲ提唱スル者ナク、スべテノ国民ハ国民ノ義務ナル道念ニ忍ビテ一ニタダ忘却ニ封ジツツアルトキ、兵卒ソノモノガ憤恨ニ爆発スルノ日ハスナワチ労働者ト結合シタル労兵会ノ出現ナラザルベカラズ。「ポルセヴィキ」ハコレヲ防グベク、「ポルセヴィキ」ヲ必然スル義務ノ忘却ハ可ナリオイウノ理ナシ。アルイハ国庫ノ負担堪エザルヲイワン。シカラバ多大ナル俸給ニヨル傭兵ヲモッテ戦イシ英米ヲ見ヨ。生産各省ノ収入優ニ余リアリ。
注六 兵営マタハ軍艦内ニオケル将校ト兵卒トノ物質的生活ヲ平等ニスル所以ハ自明ノ理ナリ。古来将ハ卒伍ノ飲食ニ後(オク)レテ飲食ストイウガゴトク、口腹ノ慾ニ過ギザル飲食ニ差等ヲ設ケテ部下ノ反感ヲ平時ニ養成シ戦時ニモ改メザルゴトキハホトンド軍隊組織ノ大精神ヲ知ラザル者ナリ。敗戦国マタハ亡国ノ将校ガツネニ兵卒ノ粗食飢餓ヲ冷視シテオノレ独リ美酒佳肴ヲ列(ナラ)べシハ一ノ例外ナキ史実ナリ。コレニ反シテ皇帝ニ堕落セザル以前ノナポレオン軍ノ連勝セシ精神的原因ハ、彼ノ無慾トソノ物質的生活ガ兵卒ト大差ナカリシ平等ノ理解ニ立チシガユエナリ。日本ノ最モ近キ将来ハナボレオンノ軍隊ヲ必要トス。乃木将軍ガ軍事眼ヨリ見テ許スベカラザル大錯誤ヲナシテカノ大犠牲ヲ来タセシニカカワラズ、彼ガ旅順包囲軍ヨリ寛過サレシ理由ノ一ハオノレミズカラ兵卒ト同ジキ弁当ヲ食イシ平等ノ義務ヲ履行セシガユエナリ。士卒ヲ殺シテ士卒ニ赦サルル将軍ハ日本ノ最モ近キ将来ニオイテ千百人トイエドモ足レリトセザル必要アリ。マサカニ兵卒ト同ジキ飲食ニテハ戦争ニ堪エズトイウ者アルマジ。コレソノ飲食ヲナス兵卒ガ戦争スルアタワズトイウモノ。カカル唾棄スべキ思想ガ上級将士ヲ支配スルトキ、ソノ国ノ往クベキ唯一ノ途ハ革命力亡国カナリ。労兵会ヲ作ラシムベキ宮廷ノ権臣ト腐敗将校トハ、実ニ日本ニ「レニン」ノ宣伝ヲ導クべキ内応者ナリトイウベシ。タダシ家庭等ノ隊外生活ニオイテ物質的差別アルベキハ、兵卒ガ等シクソノ範囲ニオイテ貧富ニ応ジタリ自由アルガゴトシ。
開戦ノ積極的権利
国家ハ自己防衛ノホカニ不義ノ強力ニ抑圧サルル他ノ国家マタハ民族ノタメニ戦争ヲ開始スルノ権利ヲ有ス。(スナワチ当面ノ現実問題トシテインドノ独立オヨビ支那ノ保全ノタメニ開戦スルゴトキハ国家ノ権利ナリ)。
国家ハマタ国家自身ノ発達ノ結果他ニ不法ノ大領土ヲ独占シテ人類共存ノ天道ヲ無視スル者ニ対シテ戦争ヲ開始スルノ権利ヲ有ス。(スナワチ当面ノ現実問題トシテ濠洲マタハ極東シベリアヲ取得センガタメニソノ領有者ニ向ッテ開戦スルゴトキハ国家ノ権利ナリ)。
注一 近代ニ至ツテ世界列強ガ戦争ヲ開始セントスルトキコトゴトク自他ヲ欺ク旧道徳的名分ヲ掲ゲ、マタハコレヲ自己防衛ノ口実ニ求ムルハ国家生活ノ権利ヲ半解スルヨリ来ル卑怯ナリ。真ノ徹底的理解ハオノズカラニシテ正々堂々タル宣布トナルモノ。日本ガ積極的発展ノタメニ戦ウコトノ単ナル我利私欲ニアラザルコトハ、他ノ氏族ガ積極的覚醒ノタメニ占有者マタハ侵略者ヲ排除セントスル現状打破ノ自己的行動ガ正義視セラルルゴトク正義ナリ。自利ガ罪悪エアラザルコトハ自滅ガ道徳ニアラザルト同ジ。シタガッテ利己ソノモノハ不義ニアラズシテ他ノ正当ナル利己ヲ侵害シテオノレヲ利セントスルニ至ッテ正義ヲ逸ス。正義トハ現在ノ状態ソノモノニアラザルハ論ナシ。英国ガインドヲ牛馬視シテオノレヲ利シツツアル現状ガ正義ニアラザルゴトク、日本オヨビ近接ノアジア七億ノ民族ヨリ濠洲ヲ封鎖シツツアル現状ハ同一ナル不義ナリ。支那ヲ併呑シ朝鮮ヲ領有セントシタル「ツァール」ノ利己ガ当時ノ状態ニオイテ不義ナリシゴトク、広漠不毛ノシベリアヲ独占シテ他ノ利己ヲ無視セントスルナラバ「レニン」政府現在ノ状態マタ正義ニアラズ。正義トハ利己ト利己トノ間ヲ画定セントスルモノ。国家内ノ階級争闘ガコノ画定線ノ正義ニ反シタリガタメニ争ワルルゴトク、国際間ノ開戦ガ正義ナル場合ハ現状ノ不義ナル画定線ヲ変改シテ正義ニ画定セントスル時ナリ。英国ハ全世界ニ跨ル大富豪ニシテ露国ハ地球北半ノ大地主ナリ。散粟ノ島嶼ヲ画定線トシテ国際間ニオケル無産者ノ地位ニアル日本ハ、正義ノ名ニオイテ彼ラノ独占ヨリ奪取スル開戦ノ権利ナキカ。国内ニオケル無産階級ノ闘争ヲ認容シツツヒトリ国際的無産者ノ戦争ヲ侵略主義ナリ軍国主義ナリト考ウル欧米社会主義者ハ根本思想ノ自己矛盾ナリ。「ヒュース」ガ労働者出身ナリトモ、「レニン」ガ社会主義者ノ尊敬スベキ同志ナリトモ、国際的対立ヨリ見テ彼ラガ大地主タルコトハ、昔時魚売リタリシ大倉喜八郎、貧書生タリシ加藤高明ガ無産階級ヨリ見テ富豪タルト同ジ。国内ノ無産階級ガ組織的結合ヲナシテカノ解決ヲ準備シマタハ流血ニ訴エテ不正義ナル現状ヲ打破スルコトガ彼ラニ主張セラルルナラバ、国際的無産者タル日本ガカノ組織的結合タル陸海軍ヲ充実シ、サラニ戦争開始ニ訴エテ国際的画定線ノ不正義ヲ巨スコトマタ無条件ニ是認セラルベシ。モシコレガ侵略主義軍国主義ナラバ日本ハ全世界無産階級ノ歓呼声裡ニ黄金ノ冠トシテコレヲ頭上ニ加ウべシ。合理化セラレタル民主社会主義ソノモノノ名ニオイテモ日本ハ濠洲ト極東シベリアトヲ要求ス。イカナル豊作ヲモッテストモ日本ハ数年ノ後ニオイテ食ウベキ土地ヲ有セズ。国内ノ分配ヨリモ国際間ノ分配ヲ決セザレバ日本ノ社会問題ハ永遠無窮ニ解決サレザルナリ。タダドイツノ社会主義ニコノ国際的理解ナク、カツ中世組織ノ「カイゼル」政府ニ支配セラレタルガタメニ、英領分配ノ合理的要求ガ中世的組織ノ破滅ニ殉ジテ不義ノ名ヲ頒チタルコトヲ注意スベシ。シタガッテ今ノ軍閥ト財閥ノ日本ガコノ要求ヲ掲グルナラバドイツノ轍ヲ踏ムべキハ天日ヲ指スゴトシ。改造セラレタル合理的国家、革命的大帝国ガ国際的正義ヲ叫ブトキコレニ対抗シ得ベキ一学説ナシ。
注二 インド独立問題ハ来ルべキ第ニ世界大戦ノ「サラエヴォ」ナリト覚悟スべシ。シカシテ日本ノ世界的天職ハ当然ニ実力援助トナリニテ現ルベシ。タトイ英国ガ彼ラノイワユル自治ヲ許容シテ「ジョソブル、ソサイテー」ノ組合ヲ脱セシメザラント計ルトキモ、彼ニシテ全然没交渉ナル独立ヲ欲シテ蹶起スルナラバモトヨリ然ルベキハ論ナシ。大戦中ニオケルインド独立運動ノ失敗ハスべテ日本ガ日英同盟ノ忠僕タリシガタメニシテ、シタガッテ英国ガ一時的全勝将軍タルガタメニ瞬時雌伏スルニ過ギズ。シカシテ日本ノ実力援助ニツキテ大方針トスベキハ海上ニオイテノミ彼ノ独立ヲ援護スルコトナリ。インドノ独立ハナオ米国ノ独立ノゴトシ。米国ノ十三洲独立戦ハソノ始メツネニ英兵ニ敗ラレツツ幾年ヲ経過シタル後、最モ有力ナル実力援助ヲ与エタルフラソス海軍ガ英国海軍ヲ 「メーン」岬ニ決定的ニ撃破シテ陸兵輸送ヲ不可能ナラシメタルコトニ存ス。外力ノ援助ナクシテ植民米人ガ戦ウベキ武力ヲ有セザリシゴトク、一切ノ武器ヲ奪ワレシインド独立軍ニ対シテホシイママニ鎮圧軍ヲ輸送セシムルナラバソノ独立ハ、永久ニ期待スベカラザルモノナリ。真ニ米国ノ独立ヲ決定シタル者ガフランス海軍ナリシゴトク、インド独立ノ能否ヲ決定スル者ハ一ニタダ英国海軍ヲ撃破シ得べキ日本オヨビ日本ノ同盟スベキ国家ノ海軍力如何ニアリ。日本ノ陸軍援助ハ多ク有用ナラズ。カニッテ戦後ニオケル利権設定等ノ禍因ヲ播キ、インドソノモノヨリハ何ラノ報謝ヲ求メザル天道宣布ノ本義ニ汚点ヲ印シヤスキハ予メ深ク戒ムべシ。「レニン」政府ノナオ存続シテ陸上ヨリノ援助ヲ仮想ストモ、決定的成否ハスデニ海軍力ヲ喪失セル露国ニアラズ。日本ハコノ改造ニ基ヅク国家ノ大富力ヲモッテ海軍力ノ躍進的準備ヲ急グベシ。日英両国ハ中立的関係ニ立ツアタワズシテ、彼ノ従属的現状ヲ維持スルカ彼ノ分割ヲ結果スル征服者タルカノ二ナリ。日本ガ永遠ニ政治的言語的思想的属邦トシテインドノ志士ヲ屠ラソトセバ止ム。国ヲ挙ゲテ道ニ殉ズル天道ノ使徒トシテ世界ニ臨マントセバ、英国ノ海上軍国主義ヲ砕破スルニ足ルべキ軍国的組織ハ不可欠ナリ。「カイゼル」ハ海上ニアリ。コレフランスガ陸上ノ英国ニ対シテ軍国的組織ヲ放棄シ得ザリシ所以。日本ニ加冠セラレタル軍国主義トハインド独立ノ 「エホバ」ナリ。コノ万軍ノ 「エホバ」 ヲ冒涜シテ誣妄ヲ逞シウスルイワユル平和主義ナル者ハ、ソノ暴戻悪逆ヲ持続セントシテ「エホバ」 ノ怒ヲ怖ルル悪魔ノ甘語ナリトス。英人ヲ直訳スル輩ハ 「レニン」 ヲ宣伝スルヨリモ百倍ノ有害ナリ。
注三 支那ハマタ大戦ノ結果ニヨリテ急転直下純然タルインドタラントス。日本ガインドノ独立ヲ欲スルゴトク支那ノ保全ヲ希ウナラバ、眼前ニ迫レル支那ト英国トノ衝突ハ日英同盟ヲ存立セシメザルモノナリ。英国ガ早クスデニ支那ヲ財政的准保護国トセルコトハ説明ノ要ナシ。タトイ平家全滅ノ前ノ隆盛ノゴトキニセヨ、英国ガ今次ノ大戦ニオイテ本国ヲ脅威セシドイツト、インドヲ脅威セシ露国トニ恐怖ナキニ至レルコトハ、支那ニオイテ二国ガマタ同様ナル脅威ヲ満蒙ト青島ヨリ加エタリ恐怖ヲ除去シタルモノナリ。英国ハ日本ヲホカニシテ支那ニ恐ルべキ実力ヲ見ズ。シカシテ日本ノ奴隷的臣従ハ大戦中ト講和会議トニオイテ彼ノ十分ニ安意シタルトコロ。スナワチ彼ハチベット独立ノ交渉中ニ青海・四川・甘粛ノ一部ヲ包有スル要求ヲ加エ来レリ。コレ日露戦争ニヨリテロシアガ南下ノ途ヲ日本ノ満洲ニ塞ガレタルガユエニ、直路中央アジアヨリ中部支那ニ殺到セントセシ大道ノ継承ヲ要求スルモノ。インドヲ基点トシテスデニアフガニスタンニ及ビべルシャニ及ビタル彼ガ中央アジアニ進出スルハ論ナク、極東海上ノ基点香港ト相応ジテ中部支那以南ノ割取ヲ考エ始メタルハ明白ナリ。コレ往年ロシアノ満洲ニ進出シタルヨリモ支那ノ一大危機。シカシテ支那保全主義ヲ堅持スル日本ハ彼トノ衝突ニオイテソノ支那経略ノ根拠地香港ノ有害ナルコトハ、日露戦争ニオケル旅順・ウラジオストックノ根拠地ニ優ルトモ劣ラズ。彼ハ日本ノ口舌的抗議等ヲ眼中ニ置カズ天下無敵ノ全勝将軍トシテ支那ニ臨ムベシ。コレ単ナル推定ニアラズ。事実ヲモッテ立証セラルルノ日ハスナワチ日英両国ガ海上ニ見(マミ)ユルノ日ナリ。支那保全ニオケル日英開戦ハスデモ論議時代ニアラザルナリ。
注四 日本ハ支那ニオイテ東洋ノドイツヲ学バントスル野心国ナリトイウ世界ノ批評ニ対シテ男子的ニ是認シシカシテ男子的ニ反省シ改過スベシ。周知ノゴトク英独協商ハ香港ヲ根拠トセル英国ト青島ヲ根拠トセルドイツトガ、支那分割ノアフリカ大陸ノゴトク実現スべキコトヲ確信シテ、北支那ヲドイツニ中央支那以南ヲ英国ニ妥協シタルモノナリ。カノ津浦鉄道ガ南北ニ分割サレテ列車ヲ直通スルアタワズ、南段ノ英資ニ対シテ北段ノ独資ナルハマズ投資的分割ニ現ワレタルモノ。シカルニ今次ノ大戦中ニオイテ日本ハドイツノ青島ヲ領有シテ支那ニ還附セザランコトヲ企ツルト共ニ、ドイツノ投資ヲ継承シサラニ北支那ニ投資的侵略ヲ学ビタルコトコトゴトクドイツノ跡ヲ追ウ者ナラザルハナシ。天道ハ甲国ノ罪悪ヲ罰シテ乙国ノ同一ナルソレヲ助クルモノニアラズ。日本ガ東洋ノドイツナリトイワレ、ドイツト等シキ軍国主義侵略主義ノ国ナリトイワレ、列国環視ノ問「ウィルソソ」輩ノ口舌ニ萎縮シテ面上三斗ノ汗ヲ拭ウノ恥晒シヲナセシモノコトゴトクコレ天意。アエテ軍閥内閣ト党閥内閣トニ差等ヲ付スルノ要ナシ。明治大帝ナキ後ノ歴代内閣ノナストコロコトゴトク大帝降世ノ大因縁タル日露戦争ノ精神ニ叛逆セザルモノナシ。一幸徳秋水ノミガ大逆罪ニアラズ。ソノ罪マサニ大帝ノ陵墓ヲ発(アバ)クノ大逆政策ヲ改メズシテ支那ノ排日ヲ怒リ米国ノ排日ニ憂エナオカツ茫々然トシテ天佑ヲ夢ム。彼ラハ講和会議ニオイテ英国ノ保護ヲ蒙リテドイツノ利権ヲ継承スルコトヲ認容セラレタルトキ相賀シテ 「国難去レリ」トイエリ。何ゾ然ラン。英国ハ英独協商ノ相手方ヲ日本ニ代エタルガユエニ、今ヤ該協商ノ目的タリシ中部支那以南ノ領有ヲ現実ナラシメントシテココニ青海・四川・甘粛ヲ包有セルチベット独立ノ要求トナリテ現レタルナリ。早クスデニ楊子江流域ハ英国ノ勢力範囲ナリトイワルル今日、日本ヲ相手方トシテ英独協商ヲ日英協商トシテ支那ニ臨ム時、明治大帝ハ何ノタメニ日露大戦ヲ戦イシカヲ解スベカラザラントス。日本ハ「ヴェルサイユ」ニ救ワレタル同盟ノ誼ニヨリテ英国ノ支那本部併合ニ報謝スべシトイウカ。排日ノ声ガ支那ト米国トニ一斉ニ挙レル所以ハ日露戦争ニヨリテ保全サレタル支那ト、日露戦争ヲ有力ニ後援シテ日本ニ支那ヲ保全セシメタル米国トガ、天ニ代リテ当年ノ保全者ニ脚下ノ陥穽ヲ警告スルモノナリ。驕児「カイゼル」 ハ世界的排斥ニ反省セズシテ陥穽ニ墜落シタリ。米支両国ノ排日ニ省悟一番シテ日露戦争ノ天道宣布ニ帰ル時、日本ハ排日ノ実ニ天寵限リナキヲ見ルべシ。英国ノ恩恵ノ下ニ青島ニ租借地ヲ得ルヨリモ、英国ソノモノノ香港ヲ奪イテ日本ノ海軍根拠地トセヨ。香港ニ根拠セバ青島ノゴトキハ無用ノ長物ナリ。山東苦力トシテ輸出セザルベカラザルホドニ人口漲溢セル支那ノ貧弱ナル一角ニ没頭スルヨリモ、支那ソノモノヨリ広大ニシテ豊饒ナル英国ノ濠洲ヲ併合セヨ。日本ニトリテ支那ハタダ分割サレザレバ足ル。四千年住ミ古シタル支那ヲ富源ナルカノゴトク垂涎スル小胆国民ニシテ、如何ゾ世界的大帝国ヲ築クヲ得べキ。日本ガ首ヲ擡ゲテ英領ヲ直視スル時、支那ノ排日ハ根本的ニ永久的ニ跡ヲ絶ツベシ。
注五 コノ支那保全主義ノ徹底ヨリ見ル時、日本ノ極東シベリア領有ハ日本ノ積極的権利タルト同時ニ、支那ヲ北方ヨリ脅威セルロシアノ伝統的国是ヲ打破スルモノ。日本ガ東清鉄道ヲ取得シテ、極東シベリアトヲ結合スル時、内外蒙古ハ支那ミズカラノ力ヲモッテ露国ノ侵略ヲ防禦スルヲ得ベシ。カクシテ日本ハ北ニ大ナル円ヲ画キテ支那ヲ保全シ、支那マ夕日本ノ前営タルベシ。ロシアノ外蒙古進出ニ押サレテ日本マタ内蒙古ニ進出シテ防備ヲ試ミントスル軍閥ノ支那保全策ハ、アル程度ニオイテ支那ヲ保全シツツアル程度ニオイテ支那ヲ分割スル者、ソノ無策ト不徹底ト断ジテアジア聯盟ノ盟主タルベキ器ニアラズ。トクニ「セミョノフ」輩ヲ用イテ内外蒙古ノ独立ヲ策シツツアルゴキ誠ニ小策士ノ陰険手段。国家ノ有スル開戦ノ積極的権利ヲ心解セバ公々然日本オヨビ支那ノ必要ヲ主張シテ「レニン」ソノ人工向ッテ極東シベリアノ割譲ヲ要求スべシ。「チェック、スローバック」援助ノ口実ノ蔭ニ国家ノ当然ナル権利ヲ陰蔽スルガユエニ野心ヲ包蔵ストナシテ敵味方ノ警戒ヲ受クルナリ。日本ノ対外行動ハ取ルベカラザル者ヨリ寸土ヲ得ザルト共ニ、天日照覧ノ下イヤシクモ奪ウベクンバ全地球ヲモ大ナリトセザルべキ大丈夫ノ健脚ニ立ツベシ。
注六 要スルニ日本ハ日本海・朝鮮・支那ノ確定的安全ノタメニ、スナワチ日露戦争ノ結論ノタメニ、極東シベリアヲ領有スベクロシアニ対スル大陸軍ヲ欠クベカラズ。シカシテインド独立ノ援護、支那保全ノ確保、オヲビ日本ノ南方領土ヲ取得スベキ運命ノ三大国是ニオイテ、英国ト絶対的ニ両立セザルガユエニ実ニ大海軍ヲ急務トス。モシ今次ノ大戦ニ際シテ大西郷アリ明治大帝アリシナラバ、ドイツノ陸軍ト東西呼応シテ一挙露国ヲ屈服セシメ、海軍マタ東西ニ相分レテ英国艦隊ヲ本国トインド・濠洲トノ防備ニ両分セシメ十分ナル優勢ヲ持シテオノオノコレヲ撃破シ、朞年(キネン)ナラズシテ早クスデニ北露・南濠ニ大帝国ヲ築キタリシハズ。ドイツノ敗因実ニソノ始メニオイテ背後リ迫レル露軍ノタメニパリ占領ノ好機ヲ逸シ、サラニ英国艦隊全部ヲ本国ニ集中セシメタルガタメニ一挙根本ヲ屠ルアタワザルノミナラズ、カエッテソノ艦隊ヲ「キール」軍港ニ封鎖セラレテ国内物質ノ空乏ヲ来シワズカニ潜航艇戦ノ窮策ニ訴ウルヤ、マタカエッテ米国ヲ脅威シテコレヲ敵ニ駆リシニ基ヅク。開戦当初ヨリ露ノ陸軍ト英ノ海軍トヲ両分シ得べキ日本一国ノ向背実ニ世界大戦ノ勝敗ヲ決シタルヲ見ルベシ。日本ハ明ラカニ英独ノ間ニ「キャスチングヴォト」 シテソノカヲモッテドイツヲ亡ボシ英国ヲ活カセシモノ。シカルヲ挙国一致コノ天寵ヲ逆用シテカエッテ両立スベカラザル敵国ノ犬馬ニツキ、救国ノ恩主倒マニソノ脚下ニ俯伏シテ糞土ニ値セザル小群島ト一青島トヲ哀訴ス。国政ヲ執ッテ国ヲ亡ポサントスルカクノゴトキ者ニ加ウベキ大逆罪ノ法文ナキヲ如何セン。
注七 タダ一大事因縁ヲ告グ。「ヴェルサイユ」ニオケル調印ハドイツヲ目的トシテ聯合シタル列強ガ、サラニ英国ヲ第二ノドイツトナシテ新タナル聯合軍ヲ組織スベキ天与ノ一大転換。日本ハ米独ソノ他ヲ糾合シテ世界大戦ノ其個決論ヲ英国ニ対シテ求ムべシトイウコトコレナリ。講和会議ハインド洋ノ波涛ヲ「テーブル」トスべシ。米国ノ恐怖タル日本移民。日本ノ脅威タルフィリッピンノ米領。対支投資ニオケル日米ノ紛争。一見両立スベカラザルカノゴトキコレラガ、ソノ実イカニ日米両国ヲ同盟的提携ニ導クベキ天ノ計ライナルカノゴトキ妙諦ハ今コレヲイウノ 「時」ニアラズ。一ニタダコノ根本的改造後ニ出現スベキ偉器ニ待ツモノナリ。天皇ニ指揮セラレタル全日本国民ノ超法律的運動ヲモッテマズ今ノ政治的経済的特権階級ヲ切開シテ棄ツルヲ急トスル所以ノモノ、内憂ヲ痛ミ外患ニ悩マシムルスベテノ禍囚タダコノ一大腫物ニ発スルヲモッテナリ。日本ハ今ヤ皆無カ全部カノ断崖ニ立テリ。国家改造ノ急迫ハ維新革命ニモ優レリ。タダ天寵ハコノ切開手術ニオイテ日本ノ健康体ナルコトニアリトス。
結 言
「マルクス」ト「クロポトキン」トヲ墨守スル者ハ革命論ニオイテローマ法皇ヲ奉戴セントスル自己矛盾ナリ。英米ノ自由主義ガオノオノソノ民族思想ノ結べル果実ナルゴトク、独人タル 「マルクス」ノ社会主義露人タル「クロポトキン」ノ共産主義ガ幾多ノ相異扞格セル理論ヲモッテ存立スルコトハオノオノソノ民族思想ノ開ケル花ナリ。ソノ価値ノ相対的ノモノニシテ絶対的ニアラザルハ勿論ノコト。
ユエニ強イテコノ日本改造法案大網ヲ名ヅケテ日本民族ノ社会革命論ナリトイウ者アラバハナハダシキ不可ナシ。シカシナガラモシコノ日本改造法案大網ニ示サレタル原理ガ国家ノ権利ヲ神聖化スルヲ見テ「マルクス」ノ階級闘争説ヲ奉ジテ対抗シ、アルイハ個人ノ財産権ヲ正義化スルヲ見テ「クロポトキン」ノ相互扶助説ヲ戴キテ非議セント試ムル者アラバ、ソレハ疑問ナク 「マルクス」ト「クロポトキン」ノ智見到ラザルノミト考ウべシ。彼ラハ旧時代ニ生レソノ見ルトコロ欧米ノ小天地ニ限ラレタルノミナラズ、浅薄極マル哲学ニ立脚シタリガユエニ、躍進セル現代日本ヨリ視ル時単ニ分科的価値ヲ有スル一ニ先哲ニ過ギザルハ論ナシ。過去ニ欧米ノ思想ガ日本ノ表面ヲ洗イシトキ今後日本文明ノ大波濤ガ欧米ヲ振撼スルノ日ナキヲ断ズルハ何タル非科学的態度ゾ。「エジブト」「バビロン」ノ文明ニ代リテギリシア文明アリ。ギリシア文明ニ代リテローマ文明アリ。ローマ文明ニ代リテ近世各国ノ文明アリ。文明推移ノ歴史ヲタダ過去ノ西洋史ニ認メテシカモニ十世紀ニ至リテヨウヤク真ニ融合統一シタル全世界史ノ編纂ガ始マラントスル時、ヒトリ世界史ト将来トニオイテノミソノ推移ヲ思考スルアタワズトスルカ。インド文明ノ西シタリ小乗的思想ガ西洋ノ宗教哲学トナリ、インドソノモノニ跡ヲ絶チ、経過シタリ支那マタタダ形骸ヲ存シテヒトリ東海ノ粟島ニ大乗的宝蔵ヲ密封シタルモノ。ココニ日本化シ更ニ近代化シ世界化シテ来ルべキ第二大戦ノ後ニ復興シテ全世界ヲ照ス時往年ノ「ルネサソス」何ゾ比スルヲ得べキ。東西文明ノ融合トハ日本化シ世界化シタルアジア思想ヲモッテ今ノ低級ナルイワユル文明国民ヲ啓蒙スルコトニ存ス。
天行健ナリ。国ハ興リ国ハ亡ブ。欧洲諸国ガ教百年以上ニ「ジンキス」汗「オゴタイ」汗ラ蒙古民族ノ支配ヲ許サザリシゴトク、「アソグロサクソソ」族ヲシテ地球ニ潤歩セシムルナオ幾年カアル。歴史ハ進歩ス。進歩ニ階梯アリ。東西ヲ通ジタル歴史的進歩ニオイテオノオノソノ戦国時代ニツギテ封建国家ノ集合的統一ヲ見タルゴトク、現時マデノ国際的戦国時代ニツギテ来ルべキ可能ナル世界ノ平和ハ、必ズ世界ノ大小国家ノ上ニ君臨スル最強ナル国家ノ出現ニヨリテ維持サルル封建的平和ナラザルべカラズ。国境ヲ撤去シタル世界ノ平和ヲ考ウル各種ノ主義ハソノ理想ノ設定ニオイテ、コレヲ可能ナラシムル幾多ノ根本的条件スナワチ人類ガサラニ重大ナル科学的発明ト神性的躍進トヲ得タル後ナルべキコトヲ無視シタルモノ。全世界ニ与エラレタル現実ノ理想ハ何ノ国家何ノ民族ガ豊臣徳川タリ神聖皇帝タリカノ一事アルノミ。日本民族ハ主権ノ原始的意義、統治権ノ上ノ最高ノ統治権ガ国際的ニ復活シテ、「各国家ヲ統治スル最高国家」ノ出現ヲ覚悟スべシ。「神ノ国ハスべテ謎ヲモッテ語ラル。」カツテトルコノ弦月旗アリキ。「ヴェルサイユ」宮殿ノ会議ガ世界ノ暗夜ナリシコトハソレヲ主裁シタリ米国ノ星旗ガ黙示ス。英国ヲ破リテトルコヲ復活セシメ、インドヲ独立セシメ、支那ヲ自立セシメタル後ハ、日本ノ旭日旗ガ全人類ニ天日ノ光ヲ与ウべシ。世界ノ各地ニ予言サレツツアル「キリスト」ノ再現トハ実ニ「マホメット」ノ形ヲモッテスル日本民族ノ経典ト剣ナリ。
日本国民ハ速カニコノ日本改造法案大綱ニ基ヅキテ国家ノ政治的経済的組織ヲ改造シモッテ来ルべキ史上未曾有ノ国難ニ面スべシ。日本ハアジア文明ノギリシアトシテスデニ強露べルシャヲ「サラミス」ノ海戦ニ砕破シタリ。支那・インド七億民ノ覚醒実ニコノ時ヲモッテ始マル。戦ナキ平和ハ天国ノ道ニアラズ。
大正八年八月稿於上海
北 一輝
無数千万衆 欲過此険道 − 時有一導師
強識有知慧 明了心決定 在険済衆難
− 慰衆言勿僧 汝等入此城 各可随所楽
(妙法蓮華経化城喩品)