秦憲兵司令官ノ訓話
本訓話ハ昭和七年十ニ月十六日初度巡視ニ際シ姫路憲兵隊本部及分隊点リ対シ行ハレタルモノニシテ内容ハ絶対部外秘トス
初度巡視ニ於ケル秦憲兵司令官ノ訓話
一、「まこと」ノ道ノ解
本日ノ学科ニ依テ「まこと」ノ道ハ概ネ普及徴底シテ居ルコトハ認メルガ中ニハ勅諭勅語ノ御趣旨ト「まこと」ノ道ノ精神ヲ別物ノ様ニ考ヘテ居ル傾向ガアルカラ直接私カラ之ヲ説明スルコトトスル
元来「まこと」ノ道ハ天然自然ノ有ルガ健ナル純真ノ姿ノ現ハレデアツテ其精神ハ御勅諭ノ忠節、礼儀、武勇、信義、質素ノ五ケ条ヲ一貫スル至誠デアリ教育勅語ノ精神デアツテ決シテ別物テナイ之ヲ古今ニ通ジテ謬ラス之ヲ中外ニ施シテ惇ラヌ天地自然ノ神ながらの道デアツテ天地ノ公道人倫ノ常径デ実ニ天地人ヲ一貫スル宇宙ノ大道デアリ又宇宙大生命ノ根源デアル実ニ「まこと」ノ道ハ国体精華ノ根源トモ皇道ノ真髄トモ言フべキモノデ従テ御勅諭ヤ御勅語ノ精神ガ即チ「まこと」ノ道ノ真理デアルト言フコトニナル 此ノ「まこと」ノ道ハ言葉デ説明スルコトノ出来ヌモノデ之ヲ説明シヨウト思ヘバ不充分ナモノニナルガ其ノ真理ノ一端ヲ知ラントスレバ概ネ次ノ様ニナル
『図1』
即チ「まこと」ノ道ノ個人心身上ノ現レハまじめ(代傍点為太字以下同断)ト云フコトニナリ祖先ニ対シテハまつリトナリ他人ニ対スル現ハレハまつらうトナリ万民ニ対シテハまつリごとトナル此ノ四方面カラ眺メルト「まこと」ノ本体ガ直感サレルコトト思フ之レヲ今少シ具体的言ヘバまじめトハ心身一致、知行合一、神人一体トナルコトデアツテ従来皆ガ唱ヘテ来タ精神教育トハ「まこと」ノ道ノ一部デアル(精神教育卜言ハズ心身教育心身一致ノ道卜言フべシ)精神ノミナラズ一歩進ンデ心身ガ一致セネバナラヌツマリ「心ニ思フコト」ト「身ヲ以テ行フコト」ガ全然一致シテ此ノ間ニ少シノ隙間モナイコトデアル自分ガ思ツタコトハ直チニ実行ニ移スコトガまじめデアツテ例ヘバ此処ニ今人ノ物ヲ盗マウトスル盗ムト言フコトガ大変ナ決心ガ必要デアツテ心身一致デナケレバ出来ナイ故ニ人ノ物ヲ盗ムト思ツテ直チニ実行スルコトハまじめニナルガ此ノまじめハ唯「まこと」ノ道ヲ表現スル一階梯ニ過ギナイカラ之ダケデハ真ノ「まこと」ニナラナイノデアル何故ナレバ盗ムト言フまじめガアツテモ其行為ヲ一方他人ニ対スルまつらうノ精神カラ考フレパ全ク一致シナイコトニナル 即チ盗マレル者テトツテハ誠ニ困ルコトトナルカラ盗ミハ出来ナイコトニナル 之ヲまつリノ精神カラ見テモ同様デアル仮リニ乃木大将ヲ崇拝シテヰテモ唯思ツタダケテハ「まこと」デナイ之ヲ自分ノ家ニ祀ツテ朝夕拝ンデ其徳ニ肖カラネバ真ノ「まこと」デハナイ此ノまつリノ精神ヲ最モ克ク実行サレルノハ 皇室デアル如何ナルコトガアツテモ過去三千年来一回モ欠カサレ給フタコトハナイ
此ノ様ニ「まこと」 ハ唯一方面ノ現ハレノミデハ真ノ「まこと」ニナラヌ「まこと」ノ道ハ此ノ外社会万般ノ事象ニ適用サレルモノデ其精神ハ永久不滅真ニ誤ノナイ宇宙ノ大真理デアル
ニ、「まこと」ノ道卜国家改造運動
此ノ「まこと」ノ道即チ皇道ノ鏡ニ照シテ各種改造運動ヲ眺ムレバ正邪ノ区別ハ自ラ判定スル 例ヘバ太陽ナル中心ナクシテ地球ノ存在シ得ナイ様ニ 皇室ナル中心ナクシテ人民ノ存在シ得ナイノハ当然デアルノニ動モスレバ大衆運動又ハ国民運動ニ重点ヲ置イテ皇室ヲ国民ノ方便ニ利用セントスル如キ或ハ徒ラニ物質ニ捉ハレ経済生活ニ重点ヲ置イテ精神生活ヲ軽ンズルガ如キ又ハ宗教ニ重キヲ置イテ実生活ヲ軽視スルガ如キ又指導原理ハ美辞麗句ヲ掲グルモ実行ノ之ニ伴ハナイガ如キ何レモ「まこと」ノ道ニ反スルモノデアルコトハ明瞭デアル
三、国家社会主義ノ本質
然ルニ現在最モ流行シテ居ルノハ国家社会主義デアルガ之レ程不徹底ナ思想ハナイコンナモノハ到底我国体卜相容レナイ矛盾ダラケノ主義デアツテ之ヲ図解スルト次ノ様ニナル
即チ国家社会主義トハ満洲事変ヲ機トシテ現ハレタ曖昧ナ主義デアツテ赤松克麿等ノ如キ社会主義ヨリ一国社会主義ヲ標傍シテ転向シタモノト従来ノ国家主義カラ皇道ニ対スル認識不足ヨリ国家社会主義ヲ軽信シ之卜妥協シタルモノ及従来ヨリ国家社会主義社会ヲ唱ヘテ来タモノトノ三方面カラ合致シテ出来上ツタ主義デアツテ此ノ右翼転向ニハ元来社会主義ヲ信奉セル人々ガ我国ニ於テ之ヲ実現スル為メ国家主義卜妥協シ一時ノ方便ニ国家社会主義ヲ唱ヘ実ハ機ヲ見テ国家主義者ヲ獲得シ究極ノ目的ハ社会主義国家ヲ作テント計画シアルモノト、一方国家主義者ガ国家社会主義ヲ利用シ国家主義ニ獲得セントシテ参加シテヰルモノト、又両者共国家社会主義ニアラザレバ社会ノ改革ハ期セテレズト妄信スルモノトノ四種ニ区別スルコトガ出来ル
抑々国家社会主義ノ指導原理トシテハ現在早大教授林癸未夫博士ノ説ク日本社会主義統制経済ヲ基礎トシテ居ルガ此ノ主義ガ不徹底極マルモノデ過般憲兵司令部ニ於テ講演ノ際私ノ質問ニ充分ナ答辞ガ出来ナカッタ 質問ノ要点ハ
問 国家社会主義ハ国家主義ニ一部ノ社会主義ヲ実施セントスルモノナリヤ 社会主義ニ一部ノ国家主義ヲ取入レントスルモノナリヤ 又ハ国家主義卜社会主義ヲ同様ニ混同セントスルモノナリヤ
之ニ対シテ林博士ハ
答 国家主義ニ社会主義政策ヲ実現セントスルモノナリ(左図(1)ノ如シ)
之ニ依ルト国家社会主義デハナク国家主義デアル国家主義ニ統制経済卜言フ社会政策ヲ行フニ過ギス然ラバ国家社会主義統制経済ニアラズシテ国家主義統制経済デアル 其後博士ハパンフレットヲ送ツテ閲覧ヲ求メテ来タガ依然国家社会主義統制経済ノ名称ヲ使用シテ居夕 又赤松克麿ノ如キモ現在国家社会主義ノ理論的矛盾ヲ少シズツ認識シ私等ニ対シテハ日本主義的ナコトヲ言ツテ居ルガ一方同志ニ対シテハ依然社会主義的ナコトヲ言ツテ大衆ニ迎合セントシテヰル宛モ両刀使ヒノ様デアル 又国家社会主義ヲ利用セント計画シテ渦中ニ投ジタ者モ結果ハ彼
等ニ利用サレテヰル 例ヘバ大川周明博士ノ如キモ国家主義ニ利用
仕様トシタノガ反対ニ利用セラレ不知ノ間ニ国家社会主義者ノ仲間
ニ入ラサレテヰル現ニ今回日本国家社会主義学盟卜日本社会主義研
究所卜合同ニ俵ル日本国家社会主義学盟改組宣言ヲ見テモ学盟役員
ニ大川博士ハ加盟シタコトニナツテヰル 戦術ノ原則「迂回セント
スル者ハ迂河セラル」ノ通リ国家社会主義ヲ利用セントスレバ自ラ
利用セラレテヰル
実際ニ於テ国家主義卜社会主義トハ両者相反スルモノデ此ノニツ
ガ一緒ニナル等ハ之ヲ唱ヘル者自身ガ初メカラ理論的誤謬ヲ冒シテ
ヰルモノデアツテ一時的ノ空想ニ過ギズ到底実現スルモノデハナイ
四、社会状勢ノ右翼推移
私ノ所ヘモ色々ノ階級ノ人ガ面会ニ束テヰルガ私ハ斯ク言フ「君
ノ言フ理論ハ如何ニモ立派デアルガ結局ハ国家主義デアルカ社会主
養デアルカ社会主義トスレバ我々国家主義者ニハ日本ノ国体ニ於テ
到底社会主義ノ如キハ実現出来ルモノデハナイト信ジ又実現サセテ
ハナテナイ故徹底的反対ノ立場ニ出ヅルモノデアル故ニ態度ヲハツ
キリト区別シ社会主義者ナラ社会主義者トシテ堂々男ラシク一戦ヲ
交ヘ潔ク雌雄ヲ決シ様デハナイカ」ト言ツテ居ル、私ノ言ニ動カサ
レテ翻然悟リ従来ノ社会主義国家社会主義、ヲ地秦シ国家主義ニ転
向シタモノガ多イ大阪ニ於ケル勤労者前衛同盟ノ執行委員長ノ如キ
英一例デアル
如斯現在ノ社会状勢ハ逐次国家社会主義ヨリ国家主義ヘ更ニ日本
主義ヘ更ニ又皇這主義ヘト推移シツツアル斯ル動向ニ就テハ特ニ我
我ノ厳ニ注意ヲ払ハネバナラナイトコロデアル
国家社会主義ノ不徴底ナコトハ前述ノ通リデアルガ更ニ国家主義
卜言ツテモ充分デハナイ国家至上主義ハ一国家ノミノ利益ヲ単位ト
シテ居ルカラ他国トノ関係ニナルト排他的トナリ遂ニ衝突トナリ所
謂まつらうノ精神ニ合致セヌ日本主義ニ琴アモ之卜同様デ一日本ノ
繁栄発達ノ、、、ヲ目的トスル日本至上主義ハ世界各国ガ自国至上主義
ヲトレバ利宰相反シ「まこと」ノ道ノ如ク之ヲ中外ニ雄シテ悸ラズ
ノ精神ニ反スル故ニ兵ノ建国主義ニ適応スルニハ世界万国ニ通ジテ
惇ラヌ我建国三千年古今ヲ通ズル国体精華ノ根源トモ称スべキ鼻道
ノ外ニハナイノデアル
五、皇道、皇国、皇軍ノ真髄
講ハ前ニ返ツテ如斯国家社会主義ハ凡有団体ヲ網羅シテ国家改造
運動ニ役頭シテ居ルガ其何レモ軍部ヲ利用セントシテヰル又軍部ノ
少壮現役将校ニ於テエニ時ノ憤慨ニ駆ラレテ斯ル団体ヲ利用セント
シテ牌係スルモノガ砂クナイ 琴l於テ我々ハ皇軍ノ兵琴一就テ充
分ナ認識ヲ把捉セネバナラナイ最近克ク「皇軍意識」ト言フ言葉ヲ
聞ク 皇軍トハ皇国ノ軍隊デアル 皇国ハ皇道ヲ以テ建国ノ精神ト
シテヰル皇道即チ「まこと」ノ道デアル
而シテ皇軍ノ真髄ハ統帥掛ニ′ル統帥権ハ確立シテ居ルカラ万歳
ヲ唱ヘ喜ンデ死ニ就ク大犠牲ガ生ズルノデアル 我国ノ軍隊ハ 天
皇ノ統率シ給フ所デアツテ 天皇ノ命令ナクシテ軍ノ行動ハ絶対ニ
許サレナイ而シテ軍隊ハ国家ノ心臓デアル軍隊ガ破壊スレバ国家ハ
滅亡スル国家ノ存立ハ皇軍ノ健全ニヨツテ維持サレテヰル故ニ御勅
山諭ニモ
「朕か国家を保護して上天の恵に応し祖宗の恩に報いまゐらす
る事を得るも得さるも汝等軍人か其の職を尽すと尽さ1るとに
由るそかし」
ト御論ニナツテヰルノデアル此ノ皇軍ガアツテ始メテ皇国ガ毅然ト
シテ傭存シ世界ニ冠絶セル国威ヲ中外ニ宣揚シテヰルノデアル即チ
統帥権ヲ真髄トスル皇軍ノ使命ヲ皇軍意識−呈一口フ
抑々我国体ノ精神ヲ説明シタモノハ昔カラ今日迄随分沢山アルガ何
レモ不完全ナモノバカリテアル之ヲ分薪シテ見ルト概ネ次ノ様ニナ
レ
ノ
ュ、常識的説明
之ハ我国体ヲ常識的ニ説明シタモノデ万世一系トカ三千年来ノ
歴史ヲ有スルトカ或ハ外国ヨリ侮ヲ受ケタルコトナシトカ忠君愛
国ノ美風ヲ有スルトカ十数ケ条モ数ヘルコトガ出来ルガ之デハ本
当ノ国体ヲ説明スルノニハ未ダ不充分デアル
02
、え、皇室本位ノ説明
之ノ説明・ハ我皇室ノ美点ヲ披渥シ皇統連綿トシテ永久ニ尽キナ
イ御稜威ヲ有スルトカ或ハ国民ハ 皇室ヲ中心トスル忠誠ノ念ニ
燃エ皇室ハ建国以来 天照大神ノ御詔勅ヲ継承スルーカ色々我
固体ノ 皇室ヲ称揚シテ各国1義絶セル所以ヲ説明シテ居ルガ之
モ皇国ノ真髄ニ触レルコトニハ未ダ不充分デアル
3、比較法ニ依ル説明
比較的ノ現明トハ我国卜外国トノ歴史ヲ比較シテ我国ノ美点ヲ
挙ゲル説明デアツテ外国ニハ万世一系ノ 天皇ハナク人民ノ自由
意思ニ依テ元首ヲ擁立シテヰルーカ我国ハ三千年前既ニ建国ノ基
礎ハ定マッチネルケレ共外国ハ革命1哀テ出来夕国デアルトカ言
ツテ外国ノ悪口ヲ言ヒ我国ノ美点ヲ指摘仕様トスル 併シナガラ
我国ノ美点ヲ挙ゲルニ於テハ外国デモ亦美点ヲ拳ゲテ居ルダヲウ
例ヘバ英国ハ我皇室ガ最モ正シイト思フシ仏国米国モ自分ノ国ガ
一番立派デアルト思ツテヰルニ達ヒナイ ソレハ結局両方ノ水掛
論ニ終テ兵ノ国体ヲ説明スルトハ言ヘナイ 寧甘地国ノ欠点ヲ指
ヽ ヽ ヽ ヽ
摘スルガ如キハ所謂まつらうノ精神ニ合致シナイコトニナルカラ
斯ル比較等の説明法ハ一顧ノ価値モナイコトこlナル
4、道義的説明
之ハ所謂道徳的問題デアツテ古来ヨリ支那ノ孔子ヤ孟子ノ教ヲ
貌イテ其長所ヲ採用シタ我国ノ美点ヲ拳ゲテ居ルケレ共之モ最早
現在ニ於テハ兵ノ国体ヲ貌明シタト首ヘナイ
S、科学的現明
西洋カラ輸入サレタ物質万能主義ヨリ凡有物ヲ科学的ニ説明仕
様トスル気運ガアリ現1ニ里見岸雄等ハ国体主義ノ体系化ヲ説明シ
テヰルガ此ノ科学的説明ヲ我国ニ通用仕様トスレバ 天皇ニ対ス
ル認識不充分ニナツタリ反国家的祝明ニナツタリスル我国体ノ真
髄ハ科学等ニテ説明出来ルモノデハナイ
6、信仰的祝明
ヽ ヽ ヽ ヽ
之ノ説明ハ古来数千年ノ昔ヨリ釈迦キリストニ依テ色々精神的
本位ニ静釈シテヰルガ果シテ現在ノ社会ガ明ルタナツタカ反対ニ
ヽ ヽ ヽ ヽ
益々社会ハ悪タナツテ今頃釈迦やキリストガ何千人現ハレテモ現
在ノ社金ハ明ルクナラナイダラウ日邁宗ノ如キモ其説ク所ハ国体
ノ本義ニ適応シタ宗教デアルト言フケレ共依然宗教ノ中ニ閉デ籠
ツテ国体ノ有難サヲ眺ソテヰル之デハ真ノ国体ニ即シタ宗教トハ
言ヘナイ 最早信仰的説明ハ試験済デアル
以上ノ如夕国体ノ説明ハ数限リナクアルガ之ヲ如何ニ説明シテモ
「まこと」ノ一事ニ到達セネバ本当ノコトハ鮮ルモノデハナイ「ま
こと」ノ一事サヘ倍レバ国体ノ専サガ本当ニ理鮮サレテ自分ノ生命
卜一致スル故エコノ「まこと」コソ国体精華ノ根源デアリ皇道ノ真
髄デアル故ニ此ノ「まこと」ノ道サヘ充分ニ認識シテ居レバ皇国ヤ
皇軍ノ真髄モ自ラ判明スルコトニナル此ノ点ヲハツキリト承知シテ
居ラナイト現在ノ様ニ軍隊ノ中カラ一時的ノ憤激ニ駆テレテ自ラ皇
軍ヲ破壊ニ導ビコウトスル者ガ出テ来ル彼ノ十月事件ノ首謀者デア
ル重藤大佐ヤ橋本中佐等ガ共通リデ私ハ彼等ニ金沢ニ居ル時カラ色
々卜忠告シタガ聞キ入レナカッタ 彼等ノ主張ハ斯ウデアル
軍隊アツテノ国家デハナイ国家アツテノ皇軍デアル国家ガ今ヤ
破滅セントシテ居ルトキ之ヲ救フ為ニ国家ノ一部デアル軍隊ガ
犠牲トナルノハ当然デアル
ト一応尤モニ聞エルガ此ノ理論ハ大キナ誤謬ヲ冒シテ居ルノデアル
即チ
軍隊ハ国豪ノ一部デハアルケレドモソレハ恰モ身体ニ於ケル心臓
デアツテ身体ノ中カラ心臓ヲ取去レバ人ハ死亡スルト同様デ国家カ
ラ心臓デアルトコロノ軍隊ヲ破壊スレバ国家ハ滅亡ヨリ外ニナイ此
ノ道理ガ判ラズニ軍隊ガ国家改造運動ノ渦中ニ投ズルコトハ自ラ軍
隊ヲ破壊シ国家ヲ墓穴ニ導クモノデアル
我国ノ皇軍ハ決シテ一部ノ国家社会主義者ニ利用サレタリ私兵ノ
如ク独断ニ動クモノデハナイ 軍ノ行動ハ一ニ 天皇ノ命令ニノミ
ョルモノデアル 天皇ノ命令ナクシテ軍隊ヲ動カセバ反逆デアル足
利専氏ニナルカ椅正戌ニナルカノ岐路デアル
現在ノ社金制度ハ決シテ充分デハナイ幾多ノ矛盾ヤ欠陥ガアツテ
之ヲ改革セネバナラナイノハ事実デアルガ大衆自ラガ其時機ヲ作ツ
テハナテナイ時櫻ガ到来スレバ 天皇御自ラノ御命令ガ出ルモノト
固ク信ジテヰル往時建武ノ中興ニ於テ楠正成ハ 天皇ノ御命令ニ依
テ戦ツタ到底勝算ハナタトモ君ニ対スル忠誠ノ念ハ七度生レテ朝敵
ヲ討ツトノ団キ信念ヲ以テ莞爾トシテ死ニ赴イタ当時
天皇ハ朝敵ノ為痛ク御簾襟ヲ悩マシ給ヒ一夜ノ夢ニ南ニ向イテヰ
ル木ノ枝ハ茂ツテヰルノ暗示ヲ受ケサセヲレ琴l棉正成ヲ御見出ニ
ナツタ如斯概ガ熟スレバ 皇室ニ於カセヲレテ神々ヨ,何等カノ暗
示ヲ受ケ給フニ達ヒナイ其処ニ於テ姶メテ皇軍ニ命令ガ下リ楠正成
トナルノデアル 寧不卜言ヘバ先日有力ナル知名士ノ某ガ血相変ヘ
テ私ノ所ニ束リ「自分ハ確カニ昨夜軍隊奮起ノ時機到来シタト言フ
神ノ御告ゲヲ受ケタカラ是非共荒木陸相ニ告ゲテ貰ヒタイ」ト重大
決意ヲ現ハシテ来タカラ私ハ「今少シ冷静ニナツテ社会ノ状勢ヲ見
ルガ宜イ軍隊ガ奮起スル必要ガアレバ君等ニ暗示ガアル迄一l琴l陛
下ニ御暗示ガ下ル筈デアル如斯軽率無暴ナ言動ハ厳ニ慎ムべキテア
ル」ト懇諭シタ処漸ク本人モ冷静ニ復リ自分ノ軽率ヲ詫ビテ帰ツテ
行ツタ此ノ様ニ皇軍ヲ利用セントスル者ハ数限リナクアル神武会ヤ
生産党ヤ国家社会党等何レモ軍部ニ縁由ヲ求メント言ヒ寄ツテ来ル
之ニ動カサレテ若シ軍隊ガ渦中ニ投ジ一挙ニ革命ヲ成就シタ場合誰
力天下ヲ取ルカ軍隊ガ天下ヲ取ルトスレバ足利専氏ノニノ舞ヲ演ズ
ルノ、、、ナラズ結局社会主義者ニ利用セラルルコト、ナル 又軍部外
ノ者ガ天下ヲ取ルトシテモ亦現在ノ状勢デハ一部ノ国家社会主義者
f棚b約附l鎚網棚門リ糾柏憎柏絹リ附=粥絹
L
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
(≠ナクトモ社会主義者ハ此ノファッショノ波ニ乗ツテ天下ヲ取ラン
/ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
トシテ居ル現ニ第三インターナショナルハ最近「ファッショ革命ヲ
助成シ之ヲ内乱ニ導クべシ」トノ密令ヲ日本共産党員ニ発シテ居ル
最近極度ニ日本共産党ノ潜行運動ガ激化シテ来タノモ之ガ為デアル
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
現役軍人ガ此ノファッショノ波ニ乗ツテ策動スルガ如キハ恰モ共産
党ノ革命運動ヲ援助スルト同様デ英ニ重大問題デアル
03
斯ル情勢ニ直面シテ我々憲兵ハ琴−重大決意ヲセネバナテナイ此
ノ皇軍ガ楠正成lニノルカ足利尊氏ニナルカハ一ニ憲兵ノ指導如何エ
アル私ガ本科ニ希望シテ来タノモ其真意ハ此処エアルノデアル
我々ハ此ノ非常時ニ際シテ克ク社会情勢ノ動向ヲ観察シ一旦事ア
ル場合ニハ一死以テ国難ニ殉ズルノ固キ信念卜決意ヲ以テ憲兵ノミ
ラアモ国家ヲ擁護シ最後ノー兵トナル迄モ楠正成タランコトヲ望ム
モノデアル
之ヲ以テ講話ヲ終ル ハ了)