科學と日本精神松井元興

理學博士　松井元興著
科學と日本精神
績文堂刊

自　　序
　頑是ない子供に珍しい玩具を見せると、現に手ほ持つてゐるのはどんな立派なものであつても、何等の思慮も見さかひもなく、すぐそれを打つちやつてしまつて、新しいものに飛びついてくる。勿論、質の良否だとか、細工の巧拙だなどといふことには全然頓着夜く。
　我國民が新奇な學問なり、思想なり、文化なりに触れたときも、殆ど同様のことが見らるるのであつて、先づ以てその善悪邪正などを厳正に批判し鑑別しようなどとは露ほども思はず、直ちに舊來のものを弊履の如く打ち捨て、恰も流行衣裳を追ふ乙女のやうに新來のものに魔睡されてしまう。之は一面確に我國民性の長所でもあるが、他面常に警戒を要する缺點である。儒敎の輸入された時もさうであつたし、佛敎托渡來の折も同樣であつた。これらの到來物が我國風に同化されて國民性に悪い動揺を與へなくなるまでには、大小幾多の波瀾を卷き起し、混亂を生じ、非常に長い歳月を經て初めて安定するを得てゐる始末である。
　自然科學及び科學技術は古來殆ど我國には存在しなかつたものであつた關係上、國民の好奇心を刺戟したことも甚だしかつたであらうし、叉一方、科學技術は吾々の日常の生活上に大きな便利・利益を供するものであるから、之に對して、我國の上下が目を輝かし、心を躍らせて、吸ひつけられて行つたのは、別に不思議とするに當らない。叉事實さうであつたればこそ、七十年の比較的に短い期間内に於て、兎も角も歐米諸國に追隨して行けるやうになつたのであつた。然し振り返つて考へて見ると、この間に於て吾々は大きな數多い誤りを犯してきた。我國傳統の美風の數々は失はれ、甚だしきは宇宙の眞と美とを兼ね備ふる日本精神までも危く無くせんとしてゐたのであつた。さうしてそれでゐて、自然科學とは果してどんな學問であるか、科學技術には如何なる心得を以て接すべきであるかといふ根本問題に對する理解は、依然朦朧として淺薄不徹底を極め、幾たぴその振興が策せられても、元々科學や科學技術の持つ意義がわからないでゐるから、狙ひは常に的をはづれ、適々正論を吐く人はあつても大聲は俚耳に徹せず、大東亞戰爭勃發直前まで我國獨自の科學も科學技術も、尚形成さるるに至らないまま經過してきたといふだらしなさであつた。　我國今次の危急は、實に我國民にこの二重の罪と誤りとを清算せしめんがために、天の正に吾々に課した試煉とも難題とも見らるべきではあるまいか。大日本帝國隆替の分かるる現在の岐路に立つて、吾々國民は今、嚴肅なる覺悟を以て過去に於ける戰慄すべき一切の誤りを反省し、翻然として直ちに正道に復すると共に、宇宙自然の「在るがせせに成り」、「成るがままにある」靈妙なる實相に對し、敬虔にして謙虚なる昔ながらの日本人の眞の姿に歸つて、更に改めて自然美の根柢に橫たはる美盡くし善盡くすところの調和と秩序との熱烈なる探究者として精進せねばならぬ。これが即ち、内にあつては我民族を幾久しく繁榮せしむる道であり、外に向かつては遍く皇道を四海に布き、人類の進歩に貢獻する所以のものとなるのである。
　余はかかる信念と希望とを抱いて本書を編み、愚見の一端を開陳したのである。若し幸ひに、世の一般讀者に對し多少とも參考となる節があつて、ために幾分たりとも人心を正し、皇道を振起して、純日本的自然科學及び科學技術の建設に役立つたならば、著者の光榮と欣快とは、實に之に過ぐるものはない。
　余が亡實父廣羽元佐が明治戊辰の春討幕の軍に從ひ、
　　　いにしへのためしのまにま御軍を
　　　　　　　　守らせ賜へ志賀の大神
の一首をものして、博多の浦を舟出したときよわ數へて、本年は丁度七十七年目に當る。この事は本書第十二牽ほ於て一言述べて置いたのであるが、時恰も我國未曾有の國難に逢著せる今日、明治維新當時の困難を極めたる國情や、叉一私事ではあるが、亡父が嘗めたであらう惨憺たる筈心などを偲び、感慨特に深いものがある。今般、績文堂主人石上文七郎君の懇請に從ひ、本書を上梓するの機會を得たので、之を亡父の靈に捧げ、余が追憶の情を表することとした。申すまでもなく、忠と孝とは我國體の精華であり、敎育の淵源をなすものであつて、これあるによつて尊皇愛國の日本精神も、自然順應の科學精神も共に培はるるのである。余の平素のこの持論が本書を執筆するに當つても自ら外に現れ、遠く祖先を想ひ、亡父を慕はしめることとなつたのである。讀者幸ひに之を諒とせよ。

大東亞戰爭第四年の春

　松　井　元　興

科學と日本精神

　目次

序　論

第　一　章　眞の科學的生活
第　二　章　自然料學の發達に伴ふ自然との離反
第　三　章　自然は動の姿なり
第　四　章　動の連續性と調和
第　五　章　地球は如何にして今日の中和を致したる乎
第　六　章　人間の本能は自然の聲
第　七　章　自然美と料學
第　八　章　科學最新の傾向
第　九　章　大小の世界と人生
第　十　章　日本精神と科學精神
第十一章　科學技術とその將来
第十二章　日本精神と婦人の母性愛

　　本著書を

　亡父廣羽元佐

　　在天の靈に捧ぐ

科學と日本精神

序　　論

　近時世間に於て科學・科學技術の問題につき・廣く色々の議論が行はれ、之に關する書籍の出版も隨分多く見受けらるる一方、政府當局に於ても、文科系の學課を修むるものと、理科系の專門に向かふものとの此率が甚だしく權衡を失してゐるのに氣がつき、俄に高等學校の理科ほ對する定員を增加したり、高等工業學校や帝國大學の工學部を或は增設し、或は擴張し、果ては高等工業學校に夜間部を新設したりして、その擴充に大童となつてゐる。
　然し、科學技術は申すまでもなく自然科學そのものも、宇宙間に存在する物、即ち吾々の感官によつて其存在を認識し得る森羅萬象を對象として研究する學術であり、而もこの學術は我國以外の地に於て發達したものであるから、何等の用意もなく、卒然として之を輸入し、漫然として研究を行つて居たのでは、たとへそれによつて科學や技術は振興せらるるにしても、一方我國の尊い傳統や優秀比類なき皇道などに思はない惡影響を及ぼすやうな結果を惹起しないとも限らない。かかる憂慮から、この際一日も速かに我國に於ける科學精神を樹立して、今後その向かふところを誤らぬやうにしたいといふ熱烈なる要求が起つたのは當然である。そこで文部省の敎學局に於ては、日本藷學の中に新に自然科學部を新設し、又國民精神文化研究所に於ても、科學精神の問題について新に研究を始むることとなつたのであると察せらるる。
　成る程、考へて見ると、今日まで我科學者は純外國製の着物を纏ふて得意となつてゐた。帝國大學の敎授ともあらう人々が、明治三十年頃までは英佛獨などの外國語で講義するのを當然のことのやうに考へ、或理科大學の先生の如きは、同じ一時間の講義中に三外國語を織りまぜて口述せられ、何時とはなしにその英語はフランス語に代り、フランス語は更にドイツ語に轉ずるので、學生は唖然としてペンを立てて先生を見つめてゐると、先生だけは得意滿面、どうだと云はぬばかりのその面相が、未だに眼底に殘つて思ひ出づるたぴに獨り自らほほゑまるるのである。
　全くのところ吾々の先輩料學者は借着で暮らしてゐたのだから、丈も身幅も體に合はず、色合ひ、縞柄も不合格だつたのは止むを得ないとしても、追々我國の科學が發達して、中には世界の檜舞臺に立つやうな名人も輩出するに至つたのだから、千兩役者の借衣裳姿では餘りにも滑稽である。柄も色も仕立ても是非日本人に適するすつきりとしたものにしなければならない。
　人によると、科學が研究の對象とするところのものは、洋の東西や國の内外に無關係のものであつて、その研究結果の形づくる科學は全く普遍的のものであるから、一國一洲に限つた特別の科學は考へられないではないか、と云ふ風の議論をする人もある。現に昭和十七年に文部省で開かれた官私立大學長會議の折にも、休憩室でその種の議論を耳にしたことがあつた。
　成る程、個々の事象について云へば正にをの通りであるが、然し吾々が物を物として認め、事を事として識るのは皆感官の齎す通信を頭腦で判斷するのであるから、金然主觀を離れた客觀はあり得ない。同じ鴉の鳴き聲でも、愁に住する人には悲調として響き、悦に浸つてゐる者には樂しく聞き取らるるのである。この主觀の影響を出來得るだけ取り除いて、純客觀性の上に立つて研究するのが料學であることは疑ふべくもないのであるから、簡単なる事實に關する限り、科學は普遍的であつて、國の中外によつて差別を生じないのであるが、學の奥深く行けば行くほど、主觀の影響は益々加はつて如何んともすることが出來ないやうになるのである。その上、今日までの如く、唯外國の受賣りばかりしてゐたのでは、外人の誤つた主張や意見せでそのまま之を受け入れて省みず、何時とはなしに外來の思想に感染して、立派な國民性を汚毒するに至る恐れが多分にある。
　一例を擧ぐると、嘗てサンガーとかいふ夫人が渡來して、各地で産兒制限のことを説き廻つた折、一般の國人は勿論、歴とした科學者までが、それが眞の科學的又は文化的の生活方法であるかの錯覺を起し、到る處で大に之を歡迎し、この背天の所説に傾聽したのであつた。實に恐るべき事ではないか。　然らば、吾々が見て以て日本科學であると爲すものは、一體如何なる性格を有するものであつて、如何なる心構への下に之を研究して行くべきかとの疑問を生ずるであらう。以下章を追ふて余の平素考ふる所を記述して行きたいと思ふ。

第一章　眞の科學的生活

　ドイツのグラーフ・フォン・デュルクハイムはその著書「獨逸精紳」の中に於て、　「凡を民族の本質的特性が最も端的に現れるものは、恐らくその自然に對する態度　であらう。自然は生命をもち、魂をもつものの生活の姿であるとともに、未だ形態　を具へざる物質界でもある。自然は萬象の渾然たる融合である。されば自然に對す　る態度のうちに、既に人間及び共同體に對する態度も神及び事物に對する態度も萠　してゐるのであり、自然によつて、觀照的な存在としての人間も、行動的な存在と　しての人間も顯現されるのである。」
と述べてゐる。之は確に至言であつて、米國を見、蘇聯を見、更に獨逸を見て、之を我國と比較考察すれば、明かにこの言の誤りなきを知ら得るのである。
　吾々は如何に萬物の靈長として知識に富み、感情は濃やかであつても、元々自然の産物であつて、自然の懐より生まれ、自然の懐に抱かれて初めて生存するを得るのであるから、常に自然の命ずるところを省み、自然の導く聲に耳を傾けて之に聽き入る必要がある。然るに事の實際を省みると、人間はその知識に慢心して餘りに自我的となつたため、自然の聲を聞く感覺を漸次に喪失して唯我獨尊となり、恰も自然と對立して自然の外に立つ存在ででもあるやうに自惚れるに至つた。人間の中でも、芭蕉のやうに常に愛敬の念を以て自然に對し、之と緊密な繋がりを失はぬやうにしてゐた人は、極めて敏感に自然の聲を聽くことが出来たらしく、嘗て一門人が動植物等の季節を諳んずる方法を尋ねたのに對し、「暫く冥目して考へて見よ、その季節の春なるや夏なるやはおのづから知り得らるるものぞ。」と諭したとの事である。
　天人一如の行を成じた芭蕪には、成る程季語に關する迷ひはなかつたであらうが、世の多くの人、特に近來人は自然との繋がりが極めて疎遠となつてゐるため、春行けども夏と知らず、秋來たれどもそれと氣附かず、全く自然と遊離したやうな生活を營んでゐる。昭和十八年の紀元節に法學を修めた或知人と京都市内を散歩してゐた際、その男が、外を歩いてゐると、冬と何等變らぬ寒さだが、それでも何となく春らしい氣特がする、どこの具合に由るのだらうか、と不思議さうに言ふのであつた。この自然を離れ去つた男には、柳の枯枝に少し靑味が蘇り來たつたと同じやうに、自分の身體にも春が囘りきつつあるのだとは少しも氣が附かぬらしい。もう春だと感得し得るのは四面の風景によるのではない。外氣の温度の高下のせいでも無論ない。自分自身の身體が春の息を吹き始め、細胞も血管も皮膚も骨も將又毛髪も、殘らず春を營みだしたからである。氣温は冬と同一でも、床の中で春眠曉を覺えぬ暖かさを感ずるのはそのためである。
一體、吾々は平生外だけと眺めて内のことを閑却してゐる。時候の寒暑に就いても寒暖計の指度ばかりを氣にして寒いと驚き、暑いと騒ぐのであるが、寒暖計の示す温度の高低を人が寒いと感じ、暑いと知る身體の生活機能は、人により又年齡の老若によりそれぞれ異るので、同じ低温に對しても小兒は大人程強くは感じないのである。

冬野ほある一垂の野秦が凍てつづく低温ほ先づ犯さるるのは､外部ほある叫見岩丈ら
しく見える親葉であつ乍､中央にある窮々しい若芽は少しも痛めらるることが在いﾊ)
之は仝く生活ｶの相違によるものである｡これと同じ鏑係が人間にも見らるる｡老人
ほは到底堪へられ拍寒風ほ晒され夜がら､少年少女の群は手足を金のやうほ冷たくＬ
<､嬉々とし<月外で遊んでゐるではないか｡
生物の中に於て自然との繋がゎを離れ去っ溌生活を沓むものは人間だけであつて､
動植物は皆確らず自然に順鷹し自然と離合し､自然の一部として終始してゐる｡をの
ため人間のやう夜知識才費があるでも夜くして､をの種族計丁水く持ち穎くることが出
衆るのだと思はるる｡二三の資例に就いて余の気付きたる粘､ど述べ<みょう｡
樟は南圃産のものｾあるｶめか､初夏に立沃在新芽を生ずる外､士用中にも土用芽
と呼ばるる芽を生ずるのである｡この見事在る士用芽が伸び伸びて葉が晴線色となつ
て伸び止むと見るとき､靖蛤はをの椅高く飛び出し､法師蝉の撃がをこらほ悶かるる
やうけなる｡暦を調ぶると､不息議在性どをれが立秋の季と叫致して寸分の蓮払も夜
い程だ.人悶はどうし<ゐるかと見ると､秋衆たるとは知らずし乍-相壁らず輿夏の
やう在気持ちで路衣がけで氷を噛ら､藤冷えをしたら､下痢を煩ったらしてゐる｡人
ほして患ほだも如かざるべけんやと云払たくなる程である｡
党の初音が､里に於て何日頃開けるものかといふことを考へてみた人は少いと思ふ
が､余は過去数年ほ亙っ乍､余の庭ほ衆鴨く驚の初音日を記録してみｶのである｡す
ると､をれは大鰐紀元節を過ぎた五日目位になることが列った｡節分から数へると､
約二週間を過ぎた頃に曹る｡多くの人はせだ春だとは気付かずほゐるけれども､をの
身憶は曹然驚と同じく春の働きを替み始め<ゐるに相逢夜い｡而も自らは之を知らず
陀ゐる｡
芭蕉が巻きたる歌仙夏の月の巻ほ
ふきの芽とらに行燈ゆﾄけす
といふ芭蕉の句があら､之に付け<去衆の
造心の蚤♭は花の苓むとき

の句がある｡ふきの芽とい払､花の昔むとい払､南句共春の初頭を季としてゐる.帥
ちこの季範ほ於ては人憶も赤春の酒動を始むる頼果､心も何となく動塙して落ちつき
を失払､或は春愁ほ閉ざされ､憂彰を戚じ､時には無常観ほ許はれ<遁世する在どの
事態を引き起すことも珍しく在いのであるが､この蓮句は最も手際よくこの間の滑息
を侍へてゐると息はるるのである｡由衆､俳人は自然に親しみ､自然と一つと夜ら､
天人合一の戚輿を詠じ出すものであるから､天地無撃の牽を聴いて之を人に停へるこ
とが出凍るのである｡
余の了解するところほよれば､科聾的生汚とは､今侍蚤達の中途ほある科拳を生か
じらして得たる一知牛解の知識ほ慢心して自然の兇であるといふ人間本凍の立場を
忘れ､自然に封する敬塵なる心を喪失し､科寧の輿ふる唯物的利金･便利のみに陶酔
して心も身も瞭落し行くことでは勿論在い｡日ほ深みゆく科拳知識によつ{自然の具
の婁を正観し､自然の命ずる厳粛なる章を傾塘することであらねばなら氾.斯くてこ
を自然科畢は人生陀故ぐべからざる貴重の畢術となるのである.
第二章自然科革の蚤達に件ふ自然
との離反
人間は動もすれば生みの母穴る自然を離れて我意を悉にせんとする不孝見たる性癖
を有するものであるが､この意癖は自然科畢の敬蓬に伴ふて益と助長せられ､一時文
明図の人岡は悉く背天の腐鬼に化し去らんとした程であつたっ西暦二十世紀に入るほ
及んで幸払ほ迷払の歩は漸く醍めはじめた､大宇官に於けるそこ払なき具理の大海ほ
封し<は､自然科畢は恰も小さい破れたる手柄の如きものであつ<､如何ほ汲めばと
て､をん在小さい租未在器では､到底汲みほせるものではないといふことが列つ<き
た｡然しをれが列つ詑のは斯造の碩撃大家だけのことであつて､一般人の迷払は何曳
罷するに至つてゐない｡恐らく､氷英両帽や蘇棚の如きはこの迷払を背負払つつ昏迷

の中ほ没落するほ至るかも知れ在いと思はるる｡我囲の如きも思へば賓ほあぶ在かつ
た｡何等の反省もなく米英の後塵を拝しっつ同じ迷払の滞に階落せんとし<ゐｶので
あつｶ｡
自然征服といふ言乗の流行しｶのは､僅ばからの科畢知識や扱縮ほ慢心し､自然に
封して優也戚や支配威を抱いたがためであつて､斯くの一如き時代の人間は､昏然人閏
の一持ねなければならない敬度在る情操を失払､身の■凝知らずの自惚れほ陪み､手り附
けやうも在い腕白の限多をつくしたの■であつた｡地球衷面の雛に過ぎ在い数千米の山
ほ登っ<も､自然の征服だ在どと考へ溌わ､僅々数ｷＰ米のﾄﾝﾈﾙを穿ち得ても､
人岡の捜術が天工を凌いだと鼠っねら､虜ほ字苗の大を知ら氾をの愚劣なる稚気は唯
々欄笑するの外はないのである｡試みに字宙の大竪不す二三の数字を拳げてみると､
地球ほ山番近い天憶溌る月との距離も三十八薗ｷﾜ米であぁ､地球担頼の中心たる太
陽とは一億五千常ｷⅤ米駐れ<ゐるのであ♭､而も之等の距離は之を宇昏の大ほ此故
すれば殆ど零にも近き徴小の数であつ乍､大字宙の争篠は一砂開托三十寓ｷⅤ米の速
度と以て倖はる光が､十四億年の長き歳月と費すほ非ぎれば､通遇し得ない糧の互大
なるものであﾄ､而してこの大字苗に存奄する大小の小字富の島は､殆ど敷ふるに逢
なき程の彩しき数空不し､我太陽系の太惨よ♭吏ほ吏ほ大夜る星が数限わも在く存在
するとのことである｡この大宇笛ほ比すれば､我太陽系の如きも粘の存在であら､人
間の自然に封するｶや仕事の如きは､塵境の浮動にも劣る濃の無力徹小なるものに過
ぎ在いことが知らるるのである｡斯く考へ家たると､自然征舶とい皇一戸菜は､人間の
無知にし{裁面皮なる自惚れを現す以外の何物でも在いことが列るではないか｡
自然科撃の教達と平行して唇畢の各部門に亙る進歩も亦極めて日登せしく､人憶の
構造･組織･生理等のことが詳細ほ知らるるに至つて､ここでも亦人は多く唯物観ほ
補はれ{しせつた｡人間を日するほ有機的器械と以ｲ｢ﾚ､保健も衛生も病束の診療も
肉憶のみを和手として行はるろこととなつた｡之を食.払ほ就い{みると､鰹内に壌取
せられた後の蚤熱量だけを考へ乍､大人一日の所要は澱粉･脂肪･蛋白等の幾瓦にて
可なみと勘定して保健食料り厭立を定めたのであつた｡明冶二十四年頃中等枚で数へ

られた保健食料戯立の標準ほは､白米何合･牛肉何匁･野農米匁といふ風ほ記述され､
人閏憩質の相達などは仝然考へられ<をらず､又果物の如き生物は､仝く厭立の中ほ
は見られ在かつた｡一時欧米の諸図ほ於ﾉし人造食料品が持て嚇され､人造ﾉｸ･人造
蜂蜜などは天産のものと同一債値を有するやに恩はれ溌のであつたが､これ在ども凝
熱量一本槍の贋兵法であることが後に在つて列明しｶ｡
私の敬愛する京都松尾病院の院長である箕和拭益二博士は､をの著書｢自然健鹿法｣
中に於て次の如く述べ<をらるる｡
｢野生の動物は住居を有せず､衣服を纏はず､食物は調理すること在く､野生のせ
曾､而も貯ふることを知ら在い故､をの季節に熟するもののみを食して生活Ｌてゐ
る.而して是等野生の動物の疾病の敷は人間のりてれほ此すれば造かに勘く､且つ又
をの病気にも容易に犯されないのを常とする｡又其書命に至つ<は成熟ﾄきつた時
の五倍以上､印ち二年にて大人になゎきるものは十年以上､三年ほて成熟しきるも
のは十五年以上生存する.
我々人同は如何ほといふほ､専命ほ於ては､二十五年で初めて大人に在むきるのほ
五十を超ゆる頃から､早くも老衰を始め､七十年を趨ゆるは舌家稀とされ允のであ
る.今日ほ於乍､吏ほ寿命は穎縮せられつつある情勢ほあるめみ在らず､日骨生活
に於<も､疾病に脅さるることは､文仏の進むと共ほ停止するところと知ら恥有様
である.
これは文化が進むほつれて勤弊階級の仕事は益々非衛生的と夜み､又一面各民族間
に於ける抗季は纂々劇仏の一路を辿♭､我々の努ｶも益々劇しさを加へっっあら､
又多少鎗裕のある仕事ほ従事するものも､文化と共ほその生活が温室の草花化する
食夜どと相待つ乍.轟々健康は低下の一路を辿つてゐると言つ<も過言では夜い.
森に正凍の都倉集中生活､工場曾敢の勤歩等は益々健康の低下を水しっっある｡
これ等の悪懐件に加ふるほ､間違つた醤畢の希寄生鼻や徴菌を恐れるの結果､煮蟻
したるもののみを食し､仝く生の果箕･野兵等を食せ氾希に起る種々の退行性病襲､
脚気､小鬼の疫痢､噂息･糖尿病･何倖病･ﾊﾞｾｒ'氏病等が起つ<くる｡これ等の

病気は野生の動物にはないことは勿論､敬熱甘しない｡帥ち徹歯性の病束でない.
これ等遇行性病気の噂加は､人間がやはら大自然の生物であることを忘れ､間蓮つ
た文化生活の所塵であることは言ふ迄もない｡
然し夜がら此間達つね文化生活の食ほ起る健ｶり低下は畢ほ逓行性病葬の蚤病ほ便
あるのみならず､徴薗性の朗謂数州性病に封してもをの抵抗ｶは低減せられ､人間の
寺命仝倍をも短縮せしむる｡これ人開ほ成熟し切るせでの二十五年の五倍､即ち曹
二†五年の長生の君を見ざる所以である｡｣
博士は以上の如く論じて､近代人の食物ほ封する不自然生活ほ就い†論難し､藍に
家屋内ほ<の執蕗､陸眠時の密閉主義､をの他生活の各方面に亙る不自然を畢げ乍､
この際自然健庚法の虞く叫般人士の間ほ行はるるに至らんことを切豊してゐらるるの
である｡
西暦十九世紀は貸に器械心酵の時代であつた｡人間の身照さへ之を有横的の器城と
見倣し､食物はこの器械の蓮樽ほ必要なる熱量を供給するものであつ乍､をれりみほ
ょって保健･督養のことは充分であると考へてゐたのである.含水泉素･脂肪･蛋白
質の外ほ重要革るﾃﾞｨｸﾐｿやﾎﾙﾓﾝ夜どの存在するといふことなどは夢にだも想
は在んだ｡如何ほ人間の科聾生活なるものが滑稽極せるものであるかは､この一事に
ょっても明かである｡一知牛解の′知識ほ基く生兵法ほど恐ろしいものはない｡
所謂西洋留撃在るものは今叫つ大琴る誤らを犯してゐる｡人間の身憶を器械以外の
何物でも在いとする唯物恩想の下では､異の治療も養生も到底行はれ得夜いといふ事
が､近代ほなつ<斯く了解されてきたやうである｡京都帝団大撃醤撃部の助数授であ
る小笠原登博士は､｢療造｣の第九年八月戟ほ於て､
｢精紳なるものは､身健と卒行して存在してゐて物の仝鰹を形成してゐるのであ
る｡如ち心身一如であつて､分割を許さ氾ものである｡帥ち心は身憶ほ影響し､身
憶は心ほ影響する.｣
とＬ<精紳療法を以て親しく疫驚や尖童韻姪を除かれたことや､難治在る指栢症を治
埼せしめられた例を巷げてをらるる｡

人健の病息の由つ<凍たる原困は､種々異つたものがあるであらうが､をの少から
の部分は､をの人の恩想･行動が自然を離れ､天に背くところに歴胎するものらしい｡
余が自然科畢を益ﾐ教達せしめ夜ければ在ら在いと考ふる所以は､をれにょつ<目前
の利益を獲ようとか､奪移賛揮を極めょうとかするためでは決し<夜い｡唯之に由つ
<天の命合､自然の畢を誤あ在く閲き取らんとする敬虚夜る念願托根ざすものに外な
ら在い.
第三章自然は動の委なり
週去ﾆ１三官年の短き期間ほ於て､自然秤拳の日費せしき蚤達と､をの蚤達ほ倖ふ
鷹用方面の紡々たる事菜とは､人類の台代よわの生活棟式を一襲すると共ほ､をの知
識･思想の上ほも著しき襲革を粛したのであつた｡恐らくは過去敷千年､人類の歴史
あつて以凍､嘗てこれ程の長足の進歩を途げ熊時代は他ほ在かつたであらう｡
人間が外界ほ封して好奇の眼を閑き､自然界ほ於ける各種の事象を研究し始めね昏
時ほあつ<は､宇富の輿相を閲明しようといふやうな朗謂具･善･美の具計求めんと
する崇高なる慾求からではなく､生活上何等かの利優を此虞ほ見出さんとする慾望ほ
騒られたのであつ溌｡例へば､天文畢の如きは､農作物の耕作ほ役立っ暦を作らたい
といふ希望から､或は航海や漁菜等の希ほ潮の満干と月との陶係を明かほしたいとい

ふ目的などからその研究は始せつたものであ♭､植物撃の如きは主として草根木皮か
ら唇築を凍取せんとするのが其仕事であゎ､化撃の初期である錬金術の時代ほあつて
は､畢者は尊ら鉛を金ほ襲ずる事と不老不死の宴薬を製出せんとする事ほ熱中し､毒
と線とほ封する儀く夜き慾望ほ引かれて資厳を行つたのである｡かかる研究目的の純
不純は別とし乍-日夜熱心なる賓験観測を行払ゆく中ほ､何時とはなしほ営時の科畢
者達も科畢の輿の研究方法を曾得するやうほ夜ると共ほ､漸次に蓄積せる賓脇結果を
綜合し通魔し<､騰げながらも自然の奥深く存在する一種の耀かしい美ほ気附き始め
ｶ｡天地の美観は､唯日月星辰の外観や山河江海の呈する藤景のみほ止せるものでな
い｡深く森羅寓象の内面ほ立ち入つ<研究に手を加ふれば加ふる程､天界地上共其美
は牢､美ほ､其妙は愈と妙を加ふるの事箕を蚤見し{､庶異の眼を見張つｶのである｡
科撃あつ<以凍今日せで､科畢者共は-牒何を見出したのかと尋ねてみると､彼等
は､天地常有一切のもの悉く動くといふ動の字宙を見出したのであつた｡寂然とし{
動か在いと息つ<ゐた地球は賓は動いてゐた｡而も大きい速さを以て自帝と公時との
ﾆ重の租堵を行つてゐることむ知った｡赦灼とし<輝く太虜は､とこしへほ光と熱と
を書々ほ意む一定不易の火の玉では夜く､をの衷而ほ於<も､穣氏六千度の帯温を保
ち､之ほ必要在る数甚猛烈在る剰々の大襲仏を在し､をの襲他ほ伴ふて各一分間毎ほ
三億噸の重量を頭失し<ゐるらしいのである｡遠い遠い過去よ♭今日ほ至る曾で､太
陽の光熱が減じたと戚ぜられないのは､如何ほ太陽の亘大夜るかを物語るものであつ
て､一分間ほ三億噸の重丑を失つ<も､侍格家十五常竜年は現妖を持績し得べしとさ
れてむろ〕宇宵間の組べてのものは動くとして､宇宙をの物はどうであるかと尋ねて
みｽむと､ｴﾃﾞｨｿﾄｿ(藤九牽参ｍ)等の近時唱へるところほよると､宇宙は恰もｺﾞﾑの
風飴玉か夜んぞのやうほ極めて大きい逮度を以て膨脹し､而も刻々をの速皮を加へて
ゐる.現在に於<室閏の牛筏の堵加は光の速度以上ほ達してゐるらしい｡若し濁Ｌて
さうだとすると､今後光がどん在にあせっても､未衆永劫三千大千故界を一叩爪するこ
とは出家在く在る謬であつて､なんだか無常迅速の戚在きを得夜い｡
虜大無凌なる天界を去つて級小なる吾々の■世界に蹄って考へてみると､地上ほある

ものは生物たると無生物ｶるとほ論在く､皆有希増襲のはか在き運命と辿ﾄつつある
ことが誰ほでも直ちほ気附かれる｡別に科撃的の槍討を加へ在くとも､奴に遠い昔か
ら諸行無常の併敦思想が現れ<ゐるのをみ<も列るのである｡科嬰の蚤達するにつれ
て､此恩想は科撃的ほ確められ､質澄されたかの観がある｡といふのは､組べてのも
のが督襲化して行く中ほあつて物質組織の琴刃牌たる原子だけは叫つの除外例であ
って､これだけは決して他のものほ奨化し夜い頑穴る不動の存在である｡恐らく此敏
粒子が､不動不麺の個性を有する宇笛閏に於ける唯一の貸在だらうと永く考へら爪/｣
ゐねのであつた｡然るに西暦千八首九十八年ほ､元素のあるものが放射能といふ不思
蕎夜性質を有することが敬見された｡印ちｸﾗｴｸﾑといふ元素はα縛β線及びｒ祐
の三種の放射線を放出して漸次に崩壊を進め､四つの新元素の階段を経<有名在るﾗ
ﾃﾞｸﾑといふ新元素に襲み､吏に此１ﾌﾃﾞｸﾑも亦九つの階段を経て鉛に襲ずることが
列つた｡放射線の教現は原子の襲換に伴ふ現象であつたのである｡此敬見以殊､色々
の手段を用■以<人ｴ的に}筒の元素を他元索に軽ずることも出凍るやうに怒♭､其鴇
換方汰の如何托よみ､原子景の大なる元繋を原子革り小さい元索ほ襲ずることも出凍､
又反封に､原子量の小さい元素よﾄ原子塵の大きい元索を作ﾄ､或は一筒の元素ｼこ一
筒の新元率に分州苧でしむることも出凍､多数の元素が色々と轄換さるるに至った｡鴇
換作用ﾓ超す方法としては､ﾃﾞ中ﾄﾝとかα槻とか､或は豪水素在どの突撃によﾊﾉて
原手を破壊するのである｡今一二の例を畢ぐると､攻のやう在ものである｡
｢ﾃﾞﾛﾄﾝの突撃ほよら
七や廿ﾄ(､こ↓､′ヾ寸ﾄ(心)
義激(ﾛ)↓～㌧ｑ卜(･こ
塘弧内の敷字は原手量で､之等の場合には原子量の大きいものが小さいものに襲っ
<ゐる｡
二､∝粒子の突撃ほよわ
七ややﾄ(､こ↓竜激(-｢)
ぇヾ七やﾄ(っ)↓ｌ野｣洲(-柑)

義沸(--)↓拍仙珊(-ｅ
之等の場合には原子量の小さい元素が皆大きい原子量の元素ほ特換する.
三､重水索を突寧に使ふと､
豊壮(--)↓♪七寸卜(Ａ)
のやうに､原子量の大きいものから小さいものに誕ることもあ♭､又
牌油(-ｅ↓難劫(-ほ)什♪ヾや卜(心)
碍沸(-ｅ↓蚊劫(-ｅ什～ヾ寸卜(Ａ)
の如く､叫つの元素から二つの元素を生ずることもある.
四､中性子の突撃によると､
鮮沸(-帖)↓義池(--)
碍池(-ｅ↓鮮淑(】止)
の如く原子量の大きいものが小さいものに壁る.
斯く元素が互け時換すると在ると､この由襖を可領在らしむるやう夜構成が原子け
備はつてゐなければ夜らないのであつて､各原子が本質的ほ兵つた濁立の存葎であつ
ては､此の如き襲化は漁想され夜い｡をこで､をの構成ほ閲し色々と考へらるる中の
一訟として､目下虜く世ほ行はれ<ゐるものを一つ此虞で述べょう｡
をれに依ると､原子は元素の何であるかほ拘らず､骨ﾌﾟ廿ﾄｿとｴﾚｸﾄ￠ﾝ土か
ら成わ立ってゐる｡ﾃﾞ℡ﾄｿは陽電気の粒子で各原子の中核ほ集せゎ､ﾕﾚｸ･ﾄﾛﾝ
はﾌﾟﾜﾄﾝに封する陰電気の粒子で､之は一部ﾃﾞⅤﾄｿと共に原子の中核に存在する
が､一部は大き在軌造を通つて､高速度を以てﾃﾞ下ﾄｿの周囲を廻鴇してゐる｡ｱﾛ
ﾄｿの･質畳はｴﾚｸﾄ甘ﾝのｲＴへ百倍にも普るから､原子量は原子の中核ほあるﾃﾞﾛ
ﾄｿの質量で定せゎ､元索の性質は､軌這を視鴇するｴﾚｸﾄ下ﾝ托よつて支配さる
るものとされてゐる｡今をの構成を二不す模型の例とし乍､原子量の小ぎい水素とへり′
ｸﾑ及び最大の原子量を有するｸｰﾌｴｸﾑとを次ほ記することほする｡
水素は似にある如く､中核にﾃﾞⅤﾄｿ二つ､外輪にｴﾚｸﾄﾛﾝ一つがあつて､原
子量は一であ♭､ﾍｸｸﾑは中核にﾃﾞ℡ﾄﾝ四つ､軌造上を担るｴﾚｸﾄⅤﾝ二っ､