http://kindai.ndl.go.jp/

憲法義解

 

竊に惟ふに皇室典範は歴聖の遺訓を祖述し後昆の常軌を垂貽
し帝国憲法は国家の大経を綱舉し君民の分義を明劃す意義精
確炳として日星の如く文理深奥、辞の賛すへきなし此皆宏謨遠
猷一にし聖裁に由る者なり博文竊に僚属と倶に研磨考究する
の余、録して筆記と為し、稿を易へ繕写し名けて義解と謂ふ敢て
大典の註疏と為すに非す聊備考の一に充てむことを冀ふのみ
若夫貫穿疏通して類を推し義を衍するに至ては之を後人に望
むことあり而して博文の敢て企つる所に非さるなり謹記

   明治二十二年四月  伯爵伊藤博文

 

大日本帝国憲法義解

恭て按するに我か国君民の分義は既に肇造の時に定まる中世屡々変乱を経、政綱其
の統一を弛へしに大命維新皇運隆興し聖詔を渙発して立憲の洪猷を宣へたまひ上
元首の大権を統へ下股肱の力を展へ大臣の補弼と議会の翼賛とに依り機関各々其
の所を得て而して臣民の権利義務を明にし益々其の幸福を進むることを期せむ
とす此れ皆祖宗の遺業に依り其の源を疏して其の流を通する者なり

 

第一章  天皇

恭て按するに天皇の宝祚は之を祖宗に承け之を子孫に伝ふ国家統治権の存する所
なり而して憲法に殊に大権を掲けて之を条章に明記するは憲法に依て新設の義を
表するに非すして固有の國体は憲法に由て益々鞏固なることを示すなり

第一条 大日本帝国は万世一系の天皇之を統治す

恭て按するに神祖開国以来時に盛衰ありと雖、世に治乱ありと雖、皇統一系宝祚の
隆は天地と与に窮なし本条首めに立国の大義を掲け我か日本帝国は一系の皇統と
相依て終始し古今永遠に亘り一ありて二なく常ありて変なきことを示し以て君民
の関係を万世に昭かにす
統治は大位に居り大権を統へて国土及臣民を治むるなり古典に天祖の勅を挙け
て瑞穂国是吾子孫可王之地宣爾皇孫就而治焉と云へり又神祖を称へたてまつりて始
御国天皇と謂へり日本武尊の言に吾者纏向の日代宮に坐つて大八島国知ろしめす
大帯日子淤斯
呂和気天皇の御子とあり文武天皇即位の詔に天皇か御子のあれまさ
む彌継継に大八島国知らさむ次とのたまひ又天下を調へたまひ平けたまひ公民を
恵みたまひ撫てたまはむとのたまへり世々の天皇皆此の義を以て傅国の大訓とし
たまはさるはなく其の後御(しろしめす)大八洲天皇と謂ふを以て詔書の例式とはなされたり
所謂「シラス」とは即ち統治の義に外ならす蓋祖宗其の天職を重んし君主の徳は八洲
臣民を統治するに在て一人一家に享奉するの私事に非さることを示されたり此れ
乃憲法の拠て以て其の基礎と為す所なり
我か帝国の版図、古に大八島と謂へるは淡路島、即今ノ淡路、秋津島、即本州、伊予の二名島、即四国、筑紫島、即九州、壱岐島津島、津島即対馬、隠岐島、佐渡島を謂へること古典に載せたり景行天皇
東蝦夷を征し西熊襲を平け疆土大に定まる推古天皇の時、

第二条 皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ継承ス

恭て按するに皇位の継承は祖宗以来既に明訓あり以て皇子孫に伝へ万世易ふるこ
と無し若夫継承の順序に至ては新に勅定する所の皇室典範に於て之を詳明にし以
て皇室の家法とし更に憲法の条章に之を掲くることを用ゐさるは将来に臣民の干
渉を容れさることを示すなり
皇男子孫とは祖宗の皇統に於ける男系の男子を謂ふ此の文皇室典範第一条と詳略
相形はす

第三条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス

恭て按するに天地剖判して神聖位を正す 古事記 蓋天皇は天縦惟神至聖にして臣民群
類の表に在り欽仰すへくして干犯すへからす故に君主は固より法律を敬重せさる
へからす而して法律は君主を責問するの力を有せす独不敬を以て其の身体を干涜
すへからさるのみならす併せて指斥言議の外に在る者とす

第四条 天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ

恭て按するに統治の大権は天皇之を祖宗に承け之を子孫に伝ふ立法行政百揆の事
凡そ以て国家に臨御し臣民を綏撫する所の者一に皆之を子孫に総へて其の綱領を
攬らさることなきは譬へは人身の四支百骸ありて而して精神の経略は総て皆其の
本源を首脳に取るか如きなり故に大政の統一ならさるへからさるは婉も人心の貳
三なるへからさるか如し但し憲法を親裁して以て君民倶に守るの大典とし其の条
規に遵由して愆らす遺れさるの盛意を明かにしたまふは即ち自ら天職を重んして
世運と倶に永遠の規模を大成する者なり蓋統治権を総攬するは主権の体なり憲法
の条規に依り之を行ふは主権の用なり体有りて用無けれは之を専制に失ふ用有り
て体無けれは之を散慢に失ふ
(附記) 欧州輓近政理を論する者の説に曰、国家の大権大別して二となす、曰立
法権行政権而して司法の権は実に行政権の支派たり三権各々其の機関の補翼に
依り之を行ふこと一に皆元首に淵源す蓋国家の大権は之を国家の覚性たる元首
に総へされは以て其の生機を有つこと能はさるなり憲法は即ち国家の各部機関
に向て適当なる定分を与へ其の経絡機能を有たしむる者にして君主は憲法の条
規に依りて其の天職を行ふ者なり故に彼の羅馬に行はれたる無限権勢の説は固
より立憲の主義に非す而して西暦第十八世紀の末に行はれたる三権分立して君
主は特に行政権を執るの説の如きは又国家の正当なる解義を謬る者なりと是の
説は我か憲法の主義と相発揮するに足る者あるを以て茲に之を附記して以て参
考に当つ

第五条 天皇ハ帝国議会ノ協賛ヲ以テ立法権ヲ行フ

恭て按するに立法は天皇の大権に属し而して之を行ふは必議会の協賛に依る天皇
は内閣をして起草せしめ或は議会の提案に由り両院の同意を経るの後之を裁可し
て始めて法律を成す故に至尊は独行政の中枢たるのみならす又立法の淵源たり
(附記) 之を欧州に参考するに百年以来偏理の論一たひ時変と投合し立法の事
を以て主として議会の権に帰し或は法律を以て上下の約束とし君民共同の事と
するの重点に傾向したるは要するに主権統一の大義を誤る者たることを免れす
我か建国の体に在て国権の出る所一にして二ならさるは譬へは主一の意思は以
て能く百骸を指使すへきか如し而して議会の設は以て元首を助けて其の機能を
全くし国家の意思をして精錬強健ならしむるの効用を見むとするに外ならす蓋
立法の大権は固より天皇の総ふる所にして議会は乃協翼参賛の任に居る本末の
間儼然として紊るへからさる者なり

第六条 天皇ハ法律ヲ裁可シ其ノ公布及執行ヲ命ス

恭て按するに法律を裁可し式に依り公布せしめ及執行の処分を宣明す裁可は以て
立法の事を完結し公布は以て臣民遵行の効力を生す此れ皆至尊の大権なり裁可の
権既に至尊に属するときは其の裁可せさるの権は之に従ふこと言はすして知るへ
きなり裁可は天皇の立法に於ける大権の発動する所なり故に議会の協賛を経と雖
裁可なけれは法律を成さす蓋古言に法を訓みて宣(のり)とす播磨風土記云う大法山

 


第七条 天皇ハ帝国議会ヲ召集シ其ノ開会閉会停会及衆議院ノ解散ヲ命ス
第八条 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス
 此ノ勅令ハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出スヘシ若議会ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ将来ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ
第九条 天皇ハ法律ヲ執行スル為ニ又ハ公共ノ安寧秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福ヲ増進スル為ニ必要ナル命令ヲ発シ又ハ発セシム但シ命令ヲ以テ法律ヲ変更スルコトヲ得ス

第十条 天皇ハ行政各部ノ官制及文武官ノ俸給ヲ定メ及文武官ヲ任免ス但シ此ノ憲法又ハ他ノ法律ニ特例ヲ掲ケタルモノハ各々其ノ条項ニ依ル

恭て按するに至尊は建国の必要に依り行政各部の官局を設置し其の適当なる組織
及職権を定め文武の材能を任用し及之を罷免するの大権を執る之を上古に考ふる
に神武天皇大業を定め国造県主を置た是を立官の始めて史乗に見ゆる者とす孝徳
天皇八省を置き職官大に備はる維新の初大宝の旧に依り増損する所あり其の後屡々
更張を経官制及俸給の制を定めらる而して大臣は天皇の親く任免する所たり勅任

第十一条 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
第十二条 天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム
第十三条 天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス
第十四条 天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第十五条 天皇ハ爵位勲章及其ノ他ノ栄典ヲ授与ス
第十六条 天皇ハ大赦特赦減刑及復権ヲ命ス
第十七条 摂政ヲ置クハ皇室典範ノ定ムル所ニ依ル
 摂政ハ天皇ノ名ニ於テ大権ヲ行フ

  第二章 臣民権利義務

第十八条 日本臣民タルノ要件ハ法律ノ定ムル所ニ依ル
第十九条 日本臣民ハ法律命令ノ定ムル所ノ資格ニ応シ均ク文武官ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就クコトヲ得
第二十条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ従ヒ兵役ノ義務ヲ有ス
第二十一条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ従ヒ納税ノ義務ヲ有ス
第二十二条 日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ居住及移転ノ自由ヲ有ス
第二十三条 日本臣民ハ法律ニ依ルニ非スシテ逮捕監禁審問処罰ヲ受クルコトナシ
第二十四条 日本臣民ハ法律ニ定メタル裁判官ノ裁判ヲ受クルノ権ヲ奪ハルヽコトナシ
第二十五条 日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外其ノ許諾ナクシテ住所ニ侵入セラレ及捜索セラルヽコトナシ
第二十六条 日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ秘密ヲ侵サルヽコトナシ
第二十七条 日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルヽコトナシ
 公益ノ為必要ナル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル
第二十八条 日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス
第二十九条 日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス
第三十条 日本臣民ハ相当ノ敬礼ヲ守リ別ニ定ムル所ノ規程ニ従ヒ請願ヲ為スコトヲ得
第三十一条 本章ニ掲ケタル条規ハ戦時又ハ国家事変ノ場合ニ於テ天皇大権ノ施行ヲ妨クルコトナシ
第三十二条 本章ニ掲ケタル条規ハ陸海軍ノ法令又ハ紀律ニ牴触セサルモノニ限リ軍人ニ準行ス

  第三章 帝国議会

第三十三条 帝国議会ハ貴族院衆議院ノ両院ヲ以テ成立ス
第三十四条 貴族院ハ貴族院令ノ定ムル所ニ依リ皇族華族及勅任セラレタル議員ヲ以テ組織ス
第三十五条 衆議院ハ選挙法ノ定ムル所ニ依リ公選セラレタル議員ヲ以テ組織ス
第三十六条 何人モ同時ニ両議院ノ議員タルコトヲ得ス
第三十七条 凡テ法律ハ帝国議会ノ協賛ヲ経ルヲ要ス
第三十八条 両議院ハ政府ノ提出スル法律案ヲ議決シ及各々法律案ヲ提出スルコトヲ得
第三十九条 両議院ノ一ニ於テ否決シタル法律案ハ同会期中ニ於テ再ヒ提出スルコトヲ得ス
第四十条 両議院ハ法律又ハ其ノ他ノ事件ニ付各々其ノ意見ヲ政府ニ建議スルコトヲ得但シ其ノ採納ヲ得サルモノハ同会期中ニ於テ再ヒ建議スルコトヲ得ス
第四十一条 帝国議会ハ毎年之ヲ召集ス
第四十二条 帝国議会ハ三箇月ヲ以テ会期トス必要アル場合ニ於テハ勅命ヲ以テ之ヲ延長スルコトアルヘシ
第四十三条 臨時緊急ノ必要アル場合ニ於テ常会ノ外臨時会ヲ召集スヘシ
 臨時会ノ会期ヲ定ムルハ勅命ニ依ル
第四十四条 帝国議会ノ開会閉会会期ノ延長及停会ハ両院同時ニ之ヲ行フヘシ
 衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ貴族院ハ同時ニ停会セラルヘシ
第四十五条 衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ勅命ヲ以テ新ニ議員ヲ選挙セシメ解散ノ日ヨリ五箇月以内ニ之ヲ召集スヘシ
第四十六条 両議院ハ各々其ノ総議員三分ノ一以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開キ議決ヲ為スコトヲ得ス
第四十七条 両議院ノ議事ハ過半数ヲ以テ決ス可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
第四十八条 両議院ノ会議ハ公開ス但シ政府ノ要求又ハ其ノ院ノ決議ニ依リ秘密会ト為スコトヲ得
第四十九条 両議院ハ各々天皇ニ上奏スルコトヲ得
第五十条 両議院ハ臣民ヨリ呈出スル請願書ヲ受クルコトヲ得
第五十一条 両議院ハ此ノ憲法及議院法ニ掲クルモノヽ外内部ノ整理ニ必要ナル諸規則ヲ定ムルコトヲ得
第五十二条 両議院ノ議員ハ議院ニ於テ発言シタル意見及表決ニ付院外ニ於テ責ヲ負フコトナシ但シ議員自ラ其ノ言論ヲ演説刊行筆記又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公布シタルトキハ一般ノ法律ニ依リ処分セラルヘシ
第五十三条 両議院ノ議員ハ現行犯罪又ハ内乱外患ニ関ル罪ヲ除ク外会期中其ノ院ノ許諾ナクシテ逮捕セラルヽコトナシ
第五十四条 国務大臣及政府委員ハ何時タリトモ各議院ニ出席シ及発言スルコトヲ得

  第四章 国務大臣及枢密顧問

第五十五条 国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス
 凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス
第五十六条 枢密顧問ハ枢密院官制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮詢ニ応ヘ重要ノ国務ヲ審議ス

  第五章 司法

第五十七条 司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ
 裁判所ノ構成ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五十八条 裁判官ハ法律ニ定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス
 裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルヽコトナシ
 懲戒ノ条規ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五十九条 裁判ノ対審判決ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ法律ニ依リ又ハ裁判所ノ決議ヲ以テ対審ノ公開ヲ停ムルコトヲ得
第六十条 特別裁判所ノ管轄ニ属スヘキモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第六十一条 行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ属スヘキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラス

  第六章 会計

第六十二条 新ニ租税ヲ課シ及税率ヲ変更スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ
 但シ報償ニ属スル行政上ノ手数料及其ノ他ノ収納金ハ前項ノ限ニ在ラス
 国債ヲ起シ及予算ニ定メタルモノヲ除ク外国庫ノ負担トナルヘキ契約ヲ為スハ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ
第六十三条 現行ノ租税ハ更ニ法律ヲ以テ之ヲ改メサル限ハ旧ニ依リ之ヲ徴収ス
第六十四条 国家ノ歳出歳入ハ毎年予算ヲ以テ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ
 予算ノ款項ニ超過シ又ハ予算ノ外ニ生シタル支出アルトキハ後日帝国議会ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
第六十五条 予算ハ前ニ衆議院ニ提出スヘシ
第六十六条 皇室経費ハ現在ノ定額ニ依リ毎年国庫ヨリ之ヲ支出シ将来増額ヲ要スル場合ヲ除ク外帝国議会ノ協賛ヲ要セス
第六十七条 憲法上ノ大権ニ基ツケル既定ノ歳出及法律ノ結果ニ由リ又ハ法律上政府ノ義務ニ属スル歳出ハ政府ノ同意ナクシテ帝国議会之ヲ廃除シ又ハ削減スルコトヲ得ス
第六十八条 特別ノ須要ニ因リ政府ハ予メ年限ヲ定メ継続費トシテ帝国議会ノ協賛ヲ求ムルコトヲ得
第六十九条 避クヘカラサル予算ノ不足ヲ補フ為ニ又ハ予算ノ外ニ生シタル必要ノ経費ニ充ツル為ニ予備費ヲ設クヘシ
第七十条 公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需用アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ帝国議会ヲ召集スルコト能ハサルトキハ勅令ニ依リ財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得
 前項ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
第七十一条 帝国議会ニ於テ予算ヲ議定セス又ハ予算成立ニ至ラサルトキハ政府ハ前年度ノ予算ヲ施行スヘシ
第七十二条 国家ノ歳出歳入ノ決算ハ会計検査院之ヲ検査確定シ政府ハ其ノ検査報告ト倶ニ之ヲ帝国議会ニ提出スヘシ
 会計検査院ノ組織及職権ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム

  第七章 補則

第七十三条 将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アルトキハ勅命ヲ以テ議案ヲ帝国議会ノ議ニ付スヘシ
 此ノ場合ニ於テ両議院ハ各々其ノ総員三分ノ二以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲ為スコトヲ得ス
第七十四条 皇室典範ノ改正ハ帝国議会ノ議ヲ経ルヲ要セス
 皇室典範ヲ以テ此ノ憲法ノ条規ヲ変更スルコトヲ得ス
第七十五条 憲法及皇室典範ハ摂政ヲ置クノ間之ヲ変更スルコトヲ得ス
第七十六条 法律規則命令又ハ何等ノ名称ヲ用ヰタルニ拘ラス此ノ憲法ニ矛盾セサル現行ノ法令ハ総テ遵由ノ効力ヲ有ス
 歳出上政府ノ義務ニ係ル現在ノ契約又ハ命令ハ総テ第六十七条ノ例ニ依ル