季節と文学

 四季を文学にたとへて見れば、春は抒情詩、夏はドラマ、秋はエッセイ、冬は小説である。
 私は少年の時に春を好み、青年の時に夏を好み、そして今中年になつてから、秋と冬が好きになつて来た0
文学の方でも同じやうに、私は抒情詩人から出覆して、次第にエッセイストに撃つてゐる。もつと年を取つた
ら、或は小説家になるかも知れない。しかし今の私は、秋が一番身に弛みて好きである。それは春の詩人のや
ぅにロマンチストでもなく、冬の小説家のやうにレアリス★でもない。清明に晴れた秋の杢には、理智の冴え
た思想が瞳を凝らし、人生の意味深い「夢」と「現賓」を凝視してゐる。そしてこれが、エッセイといふ文学
の本質なのだ。
                                                        盛

 秋さぴし手毎にむけや瓜茄子  芭 蕉

 秋の詩情はさぴしく人生の孤濁と寂蓼とを訴へる。文畢する精神といふものは、常に魂の抱き合ふ友人を
 彗H叶、ノ.




求めて居るのだ。手毎に瓜の皮をむきながら、.一つの部屋に集まつて語り合ふ人々は、各ヒの心の中に、それ
ぞれの寂しい人生を感じて居るのだ。文学する精神といふものは、宇宙に於ける人間の弱小さと果敢なさを語
り合ひ、互に手を経り合つて泣く心である。