私の孤独感

櫻の下に人あまたつどひ居ぬ
なにをして遊ぶならむ。
われも櫻の木の下に立ちてみたれども
わがこころはつめたくして
花びらの散りておつるにも涙こぼるるのみ。　（純情小曲集より）
　二十年近く皇日、まだ少年の頃に作つたこの詩情は、今も伶本質的に私のセンチメントを貫流してゐる0私
の詩人としての心境には、いろいろ多様な色彩が混じてゐるけれども、詩を思ふ情感の元は一つであり、いつ
もこの純情が動機であり、それの胸に込みあげてくることなしには、決して詩を作る欲情が起らない0
　この詩が語つてゐるやうに、私のセンチメントの本質は、要するに人生や、社食や、自然や、宇宙やに封す
るところの、張りつめた孤濁感の訴へである。この孤濁感の切賓に感じられ、それが耐へがたくなつてくると
き、ふしぎに詩を思ふ心が高調して、リズムや言葉や幻想やが湧き出してくる0だから私の詩はいつも「訴
へ」である。或る慰められない魂の哀傷であり、燈火に群がる蛾の羽ばたきである0
　かうした私の詩は、創作動機の本質上からして、多くの人と欒つてゐるので、好きな人には好かれるけれど
も、ずゐぶん成る向では厭やがられる。私は自分の詩の映鮎を知り、またそれに封する世の非難もよく知つて
る。けれどもそれ以上に、私自身をどうするといふこともできはしない0私は薄弱で非力だけれども、運命で
定められた自分の道を行くよりない。
散文作家としての私も、本質的には詩人としての私に攣りはしない0私の書く「情調哲畢」のやうなものも、
同様にやはり孤濁感に動機してゐる。この牡合や人生が、私と気質的にちがつて居り、どこに自分の地位する
環境もないことを知る時に、ぼつぜんとして思惟の欲情が起つてくる0春の麗らかな光の下で、世間が笛や太
鼓に浮かれてゐるとき、何故竺人がその仲間から除外されるか↑　私は棲の下に立ち、さびしく群集の廟を
見てゐる。彼等は橙愛し、快楽し、人生の中に満足してゐる0そして我々は何も持たない0ああ何の不合理
∫∂ク　随筆

ぞ！　不公平ぞ！　「私自身のため」にすら、人生を合理的にせねばならないのだ。
　かくして私は、常に改造思想の先頭に立つ。何物も、何物も、早く亡びてしまふが好いのだ。既に現在する
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ともがら
杜曾は・呪はれてあれ。そしてむしろ、人間そのものが呪はれてあれ。私はアナアキズムの輩と一致しない。ソ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　●
シアリズムには根本から敵意をもつ。しかしながら熱情は、彼等の中の巨頭とさへも劣らない。ただ私は、多
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数の徒薫の力でなく、私一人のカにょつて、私一人のために、「新しき世紀」を建てたいのだ。私は個人主義
の革命する勝利を見たい。私はエゴイストだ。エゴイストの故に政令の正義を愛するのだ。ああ、現在する如
き人生は亡びてあれ！
　詩はただ感情を訴へる。しかしながら散文は、むしろより思想の抽象観を訴へ告しばしば私は、散文家と
してエゴを饅展しょうと考へる。不幸にして、私の散文は世に容れられない。けれども勇気を失ふまい。私は
自分の非力を知る。才能の峯虞を知る。けれどもそれ以上に、私自身をどうするといふことも出来はしない。
世界がもし、私自身の思ふ通りにならないならば、始から存在のない方が好い。とにかくにも私は、自分の燈
火に向つて進んでみょう。果敢ない、蛾としての運命にひきずられて、巽を焦がすまでやつてみょう。
　私は孤濁の故に悲しみ、孤濁の故に怒り、孤濁の故に思想し、孤濁の故に阿片を吸ふ。私は人生を無責任に
するダダイストでない。私は彼等と享楽しながら、彼等の無費任に腹を立てる。私はもちろんレアリストでな
い0現害するものは興味がないから、之れを観照する意志をもたない。そして同時に、またアイデヤリストや
ロマンチストでも有り得穎い。私は肉感性を執着するから、抽象の観念界に超越できない。況んや私は神秘的
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ともがら
なスピリズムでなく、サイキを奉ずる唯美主義の輩でもない。そして伺且つ、私はデカダンに敵悔しっつ1ア
メリカ風の新時代を反感する。
　ああかくの如く、私は遂に何物でも無い。そしてそれ故に1かく眞に孤濁なのである。
ノタ0
州、紗那増十‥や。∴・