ラムネ・他四綱
ーフムネ
ラムネといふもの、不思議になつかしく愉快なものだ0夏の水屋などでは、板に丸い穴をあけて、そこに幾
ガ ス
つとなく、ラムネを逆さにして立てて居る0それがいかにも、瓦斯のすさまじい鳩慧日を感じさせる。僕の或る
ヽ ヽ ヽ ガ ス
友人は、ラムネを食つて腹が張つたと言つた。あれはたしかに瓦斯で腹を充満させる。
だがこの頃、ラムネといふものを久しく飲まない0僕の子供の時には、まだシャンパンサイダといふものが
なく、主としてラムネを飲用した0この頃では、もうラムネが古風なものになり、俳句の風流な季題にさへも
なつてしまつた0それで僕が上野に行くと、あの竹の垂の休み茶屋でラムネを飲む。それがいかにも、僕を田
ヽ ヽ ヽ ヽ
合者らしく感じさせ、世間を離れた杢の上で、旗のへんぽんたるものを感じさせる。僕はラムネを飲むと、ふ
しぎに故郷のことを聯想するから。
アイスクリーム
帝劇にバンドマン歌劇が来た時、二階も桟敷も、着飾つた西洋人で一杯だつた。女たちは黒い毛皮の外套を
着て、壌数の背後から這入つて衆た。連れの男がそれを脱ぐと、皆眞自な肌を出した0牛裸膿の彫傑だづた○
この裸憶の人魚たちが、幕間にぞろぞろと廊↑を歩いた○自智の肌の匂ひと、香水の匂ひとでぎつちりだつ
ヽ ヽ ヽ ヽ
た。ところどころに、五六人の女が集まり、小さな群圃をつくつてゐた〇一人がアイスクリームのグラスを持
ち、皆がそれを少し宛、指につまんで喰べてるのである0その女たちの指には、薄い鹿皮の手袋がはめてあつ
た。
僕は始めて知つた。アイスクリームといふものは、鹿皮の手袋をした上から、指先でつまんで食ふものだと
いふことを 。女たちは嬉々としてしやべつてゐた0
ソーダ水
むぎわら
ソーダ水に委梓の管をつけて吸ふこと、同じやうに西洋文明の趣味に属する0あれは巴里の伽排店で、若い
女と菊の軽い話をしつつ、静かに時間を欒しんで吸ふべきものだ0日本の慌ただし㌢生活と、東京の雑駁なる
市街の店で、いかにあの変梓は不調和なるかな！僕は策謀ソーダ水から、あの『腹の立つもの』を取り捨
ててしまふ。
玉露水
昔は玉露水といふのがあつた。厚い掛の茶碗の中に、汲み立ての冷水を盛つて飲むのである0いつか遠い昔
のことだ。死んだ組母に連れられて伊香保から榛名を越えた0山の中腹の休み茶屋で、砂糖の少し入つた玉露
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∫0ア 随筆
■野一
文明論・融合風俗時評
■野一
文明論・融合風俗時評