角力と電撃戦
ラヂオで角カの放迭を開いてると、南力士が土俵に現はれてから、仕切直しをする時間が非常に長く、容易
のことでは立上らない。だが「立ちました」と放達者が言つたと思ふと、その瞬間にもう勝負が経つてる。賓
に電光石火の早業である。ところで今度の欧洲大戦で、濁逸のやつた作戦が、丁度日本の角力を聯想させる。
宣戦布告をしておきながら、敵と睨み合ひをしてゐるばかりで、一向立上る気色もなかつた濁逸が、急に腺起
したと思つた瞬間、ハツといふまに、マヂノ線を突破し、呆気にとられた聯合軍が、まごまごしてゐる中に、
忽ちその大軍を包囲して繊滅戦に陥入れてる。濁逸の所謂「電撃戦」は、日本の角力道の精神と、本質に於て
極めてょく似たものを感じさせる。