この頃の思ひ


 僕は元来、政治家といふ人種が嫌ひであつた。なぜなら彼等は、いつも一時的の現象しか考へないで、政略や俗衆を煽情する目的から、真の永遠の真理や、哲人、詩人の言葉を歪曲して、卑俗な方便主義に利用するからである。ところがこの頃になつて、僕が何よりも日本に欲しいと思ふのは、哲学者でもなく詩人でもなく、さうした「俗衆指導者」の政治家である。僕にもし実行的才能があるならば、ゲーテのやうに、僕自身が政治家に成りたいとさへ思ふ位である。これは僕自身の心境の変化だらうか、否、おそらくは、日本の現状に於ける、社会環境の著るしい変化であらう。そして僕ばかりではなく、すべての日本人と日本の有識者とが、同じことを考へてるのではないだらうか。