顔なんてものは困つたものだ。生れた時から決定版にされてゐるので後で誤植を訂正するわけにも行かんし、
改正版を出すこともできない。嫌ひな物でも仕方がないから、一生がまんをする以外にない。鏡を見る毎に、
自分の貧窮な顔が療に鱗るが、伺うにも仕様のないことである。友人の説によると、僕の横顔は哲筆者のやう
ださうだが、前から見ると請負師のやうださうである。多分そんな両面の性格があるのだらう。哲畢者の方は
好いけれども、請負師の方は少々情けない。馬眞をうつしてもらふなら、自分で好きな方の側をお願ひしたい。

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