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 大敵迫る    土井晩翠


千代田皇城鎮まれる
東都真近く大敵は
迫り来れり、一億の
民一斉に 心血を
搾り必死の努力せよ。

委任統治の昔より、
その名親しき南洋の
星羅の如き諸群島、
貿易風の吹くところ、
マーシャル、カロリン、マリアナの
要処次第に大敵は
侵して今やサイパンに、
太平洋上国防の
緊要地点サイパンに
上陸 ― 危機は日に迫る。

ガダルカナル、クェゼリン、
マキン、タラワに全滅の
忠魂義胆幾何ぞ、
尊き犠牲、その中に
金枝玉葉またまじる。


ああ南洋の珊瑚礁、
マーシャル、カロリン、マリアナの
岸を洗へる澎湃の
潮の底は海草の
繁み、花咲き藻は乱れ、
朝日夕日の燦爛の
光を透す波の中、
巨大の海魚鰭振ひ、
黄金 珊瑚 碧玉の
五彩の水に、悠々と
泳ぎも行くか 珊瑚礁、
自然の姿 今あらび、
魚雷の猛威、爆弾の
破烈に汐は陽と涌かむ。


サイパンすでに危機迫る、
大敵まさに面前に
近づき来る、一億の
民一斉に心血を
搾り必死の努力せよ。
必死の努力、これありて、
天佑神助来るべし。


鞠窮与力 死を堵して、
天佑ために 加はりて、
六百六十余年前、
潮の如く押し寄せし
蒙古大軍 十万を、
微塵となせし蹟を見よ。


神武 神聖わが皇祖、
大和橿原 即位より、
時の盛衰、世の治乱
重ね、春秋移り行く
二千六百零四年、
定まる天の経綸か、
四海の波は今荒び、
世界史上に空前の
危機 ― 帝国の興敗は
今なり、一億あゝ奮へ。


千載永く史に残る
昭和十六、十二月
八日ハワイの真珠湾、
敵、驕傲のアメリカの
太平洋艦全滅の
偉勲このかた三年余。


戦局次第に拡まりて、
他日の旆の飛ぶところ、
赤道帯の南北、
寒潮氷るアリューシャン、
又渺々の印度洋、
赫々挙げし奮戦の
成果数へて幾何ぞ。


破れし敵は立ちあがり、
『世界地図より日本を
拭へ』と叫び、尨大の
物資を頼み、砕けども、
砕けどもなほ寄せ来る、
機動部隊は侮どれず、
航空母艦 戦艦を
基幹となして大小の
数百の船と飛行隊、
艦砲並に爆撃機、
雨の如くに火器飛ばす。


『われ優秀の白人称、
異邦異色の民族を
わが鋼鉄の脚の下、
踏みて文化を進むべし、
弱の肉たゞ強の食』
非理を叫んで貪戻(たんれい)の
欲に飽かぎる白蛮奴、
その鉄鞭に悩まされ、
其鉄脚に蹂(にじ)られて、
悲想の涙飲み来る
亜細亜民族十億の
屈辱すでに足らざるや。


五大陸中第一の
位を占むる大亜細亜
天張り雲捲き星懸る、
方里数へて二千万、
万古を照す神聖の
教の光照りし郷(さと)
文武英雄千万の
雲の如くに群れし場(には)、
百年永く白蛮の
脚下に伏して慷慨の
悲憤の涙足らざるや。


天の経綸 時到り、
大詔一たび渙発し、
一億一心一斉に、
大日本の総力を
挙げて大敵打ち攘ひ、
東亜の禍根とこしへに
苅り、万邦の共栄の
実をあぐべき時到る。


玉と鏡と相並ぶ
剣の徳の象徴を
天祖賜へり、神三器、
三千余年培ひし
尚武の気象凛として、
金甌嘗つて欠くるなき
祖国を襲ふ敵迎へ、
金鉄微塵に砕くべし。


天は正義に与みすべく、
神は至誠に感ずべし、
衆を恃(たのみ)て驕る者、
末は必ず 敗るべし、
来れ白蛮、何者ぞ、
金剛不屈、意思われに、
千苦万難あく迄も
凌ぎ最後の勝遂げむ。


東海高く雲凌ぐ
富士の高嶺の高きより、
更に高きは 大和魂(やまとだま)、
嘆きて万朶の桜ばな、
凝りて百錬破邪の剣、
形あるもの一切は、
皆亡ぶとも 大和魂、
天地の正気 凛然と、
万古に亘り いや栄ふ。
一億一心一斉に、
天の使命をかしこみて、
必死の努力続け行く、
希望山より猶高く、
信は海より猶探し、
三千年の光栄の
国の伝統、天佑と
神助の常にあるところ、
五十鈴川のへ聖天子、
親しく祈願こめたまふ、
感激、熱き血をわかし、
粉骨砕身あく迄も、
努めぎらめや、奮はぎらめや。


    反歌

十億の亜細亜の友を導きて
   光に向ふ大八州国。


揺がざる望抱きて終まで
   忍びつとめよ勝われにあり。


          『公論』十九年八月号