第四四九号(昭二〇・六・二七)

 本土新戦場への覚悟        大本営報道部
 主要列車改正時刻表
 決戦下の乗車心得

決戦下の乗車心得

 分かつてゐるつもりで、その場に当つて案外分つてゐないの
が、最近の鉄道輸送のことについてである。
 知つてゐれば何んでもなく片附くことが、知らないばかり
に、はた迷惑をかけたり自分も損をしたりすることになる。
 そこで、決戦下、この位の鉄道常識はもちたいものだといふ
所を運輸省に答へて貰つた。

 

旅客列車の現象と速力の低下

 六月十日を期して全国的な旅客
列車の時刻改正が実施され、交通
機関も本土決戦の態勢に第一歩を
踏み入れました。
 されこの改正によつて幾何の列
車が減少したかといひますと、昭
和十七年十月を最初として、今回
の改正まで回を累ねること八回の
時刻改正を行ひ、その都度旅客列
車の減少を見たわけで、今回の改
正による状態を列車粁によつて
みますと、昭和十七年に対し約四十
%の減、これは宛(あたか)も昭和三、四年頃
即ち約二十年前に近い状態に相当
します。しかも当時の営業粁は現
在のそれに比し少いから、実際に
は更に強い圧縮率となるわけです。
 この列車圧縮と共に速力につい
ても可なりの影響があります。
 第一には急行列車の全廃(東京・
下関間に一往復があるがこれは一
般旅客は殆んど利用できない)。
 第二は東京・下関間と九州地帯
の直通列車が急行を除き僅かに一
往復となり、他はすべて大阪、京
都等で乗換へねばならないことに
なりました。
 これを時間的に見ますと、昭和
十一年に東京・大
阪間急行八時間、
普通十三時間半
が、昭和二十年に
は急行十時間四十
分、普通十四時間となり、東京・
下関間は急行が十八時間半、普通
二十七時間半が一急行二十四時間
半、普通三十時間、また東京・
青森間においては急行で十四時間
半であつたのが、急行が廃止さ
れたので今度は普通列車で二十一
時間半もかゝるやうになるわけで
す。
 従来旅客列車の削減、即ち時刻
改正の説明は常に貨物輸送力に転
移させるためでありましたが、今
回の改正は空襲の激化に対応する
態勢を整へるのと車輌その他資材
の温存にその主たる理由があり、
換言すれば正に国鉄の戦略的措置
として、これを断行せねばならな
くなつたのです。
 さて今回の改正で旅客列車は三
割減となつたわけですが、列車が
三割減ずれば一般旅客も三割減ず
るかといふと必ずしもさういふわ
けにはゆかないのです。即ち旅客
を質的に大別しますと、通勤旅客、
軍公務旅客、国策集団旅客、軍隊、
それに一般旅客といふことになり
ますが、戦時下においては如何に
輸送力が少くならうとも、軍隊は
勿論のこと、通勤、軍公務旅客、国
策的集団旅客だけは出来るだけそ
の輸送を確保しなければならない
性質のものですから、従つて削減
の対象となる旅客はすべて一般旅
客といふ結果になつて来ます。
 殊に時局の緊迫化に伴ひ、前述
の国策的旅客と通勤旅客とは増加
こそすれ減少の傾向はない、とす
れば一般旅客の圧縮率は更に強度
となり、到底三割では収まりませ
ん。線区によつては五割或ひはも
つとそれ以上に及ぶものと推定さ
れます。
 また、旅客列車が減少すれば、
それだけの率が直ちに貨物列車に
振り向けられると思ひ勝ちです
が、これとても必ずしもさうでは
ないのです。多少は貨物列車の輸
送力が増強されますが、資材不足
の折柄補強の面に使はれる力が大
きいので、従つて貨物輸送がそれ
だけ大きくなると解釈することは
間違ひです。
 以上の諸点を先づ確かり頭に入
れて自己の旅行態度を決定しなけ
ればならないのです。

私用旅行は出来ないか

 一般旅客輸送を半減するとなる
と、私用旅行は全然出来なくなる
かといひますと、結果からみると
さふいふことになる場合があるか
も知れませんが、しかし原則的に
は如何に私事旅行と雖も、或る程
度はこれを確保することとしてゐ
ます。
 今回の旅客列車縮減の根拠をな
す「大規模空襲下ニ於ケル陸上輸
送確保ニ関スル件要綱」の閣議決
定に基づいて決定された「旅客輸
送統制要綱」(三、一五次官会議)
にも特に旅客輸送力の減少に伴ふ
措置として「乗車券ハ其割当ヲ軍
公務公用旅行ト一般旅行トニ区分
シ各々ノ範囲内ニ於テ原則トシテ
順序発行ヲ為ス」また「緊急要務
者ニシテ前号ニ依リ乗車券ヲ購求
シ得ザリシモノニ対シテハ一定枚
数ノ特別発行ヲ為ス」としてゐる
わけです。
 申すまでもなく、旅行は国民生
活に至大の影響があるものですか
ら、私事といへども緊急要務に対
する乗車券確保の道は開かれてゐ
るのです。
 よく緊急な用務があるので駅に
並んでゐるが、乗車券がどうして
も買へぬといふ声を聞きますが、
この場合はどうしたらよいかとい
ひますと、先づ主要駅に旅行統制
官が配置されてをりますから、こ
の統制官に申出て用務の軽重を詮
議して貰ひ、統制官が必要旅行と
認めれば、直ちに乗車券発売の承
認をして呉れることになつてゐま
す。

旅行統制官事務所とは

 去る六月十日から東京、横浜
大阪の三都市に旅行統制官事務所
が開設されてをりますが、この
旅行統制官事務所はどういふ