第四三九・四四〇合併号(昭二〇・四・四)

  血に染む沖縄の山河  大営海軍報道部
  封ぜよ魔手
  戦ふ物資・塩  大蔵省

封ぜよ魔手  -- 本格化した敵の謀略攻勢 --

 イタリアの思想戦的敗北 

 戦前、敵イギリスの宣伝研究家
は、その著書の中で「イタリアに
対する思想謀略に成功することは
比較的容易である。イタリア国民
はファシズムの厳重な統制下にあ
りながらも、心の底には親英感情
を持つてゐる。われ/\は戦局が
進展して、イタリアの海岸からわ
が英国艦隊の遊弋するのを望見し
得、イタリア本土の上空にわが飛
行機が乱舞飛翔する時機を待てば
よい。その時期さへ来れば云々」
と述べてゐる。そして残念ながら
事実その通りになつてしまつたこ
とは、読者のよく知つてをられ
る通りである。
 米英軍の北阿上陸、続いてシシ
リー島の失陥と戦局が次第に不利
になつて来るにつれて、イタリア
の軟弱分子は士気沮喪し、酷(きび)しい
銃後生活に対しても悲鳴を挙げる
やうになつて来た。
 これを見て好機至れりとした
米英側は、或ひは大規模な都市空
襲によつて脅迫し、或ひは恐喝と
甘言とを陰険に織り交ぜた謀略放
送によつてたぶらかし、かうして
空襲にはおびえ慄き、甘言によつ
て前途に頼むべからざる希望を幻
想したイタリア軟弱分子を、あの
祖国を売る無条件降伏に追ひ込ん
でしまつたのであつた。
 米英のビラや放送による謀略宣
伝は、、或ひは敵はファシストであ
つてイタリア国民ではないと説き、
ファシストを打倒さへすれば、名
誉ある条件による休戦が可能だと
いひ、且つイタリアには戦後ヨー
ロッパにおける尊敬すべき地位を
保証する等との甘言を並べたので
あつた。
 しかしムッソリーニが失脚し、
イタリア国内が和平運動で混乱状
態に陥り、最早この頽勢を立て直
して戦争を続けて行くことは不可
能になつたと見たとき、米英側の
態度は掌を反すやうに一変した。
それまでの甘言謀略による約束は
他人の言葉であつたやうに無
視して、無条件降伏を押しつけた
のである。無条件降伏を余儀な
くされた後のイタリア国内の事情
がどんなものかは、外国電報がし
ばしば伝へて来てゐる通りであ
る。
 事実上米英軍の占領下に置かれ
てゐるイタリア国民が、米英の
兵隊の残忍な暴行に泣き、食糧そ
の他の物資は徴発されて飢餓と酷
寒に震へ、女性の誇りは踏み躙ら
れ、乳児幼児の死亡は激増する等
等、敗戦国の悲惨な状況はわれわ
れに耳を塞ぎ眼を蔽はせるものが
ある。かつて米英の謀略放送が述
べた、イタリア国民は敵ではない
とか、名誉ある休戦条件とかの内
容は、果して何処に発見すること
が出来ようか。
 以上、こと新らしくイタリアの
無条件降伏とその後の経緯をこゝ
に述べたのは、これだけのことを
一応頭に入れて置いて、さて現在
敵米がわれ/\日本人に対してど
んな思想戦を仕掛けて来てゐるか
を検討すると、敵が抱いてゐる考
へが、一目瞭然となつて来ると思
ふからである。

好機来とほくそ笑む敵

 敵はわれ/\日本人に対して、
いよ/\本格的な思想謀略戦を試
みて来てゐるのである。こゝに本
格的といふ文字を使つた意味は、
従来も敵はわれ/\に対していろ
いろな謀略を仕掛けて来てはゐた
が、それは現在に較べて比較に
ならぬ程弱体なものであつた。わ
れわれも敵の思想謀略といふこと
については繰返し警告され、これ
を撥ね返すべき心構へを説かれて
来たのであるが、この思想防衛の
頽勢をいよ/\強化すべき時が、
敵の本格的攻勢に伴つて今こそ来
たといふべきである。
 敵の思想攻勢が本格的になつて
来た事情から先づ考へて見ると、
第一に戦局は最近急速度に進展
し、戦線は本土に移り敵機の本
土空襲は頻繁の度を加へ、或ひは
機動部隊が近海に出没して、その
艦載機を以て内地を窺ふに至つ
た。この戦局が一見敵に有利に展
開して来たのを見て、敵が思想謀
略戦の時期至れりと判断したであ
らうことは、イタリアの場合と同
様である。
 一方、戦場が本土から遠く離れ
てゐる間は、敵も強力な思想謀略
の手段がなかつたが、今や敵機が
わが上空に飛来することとなつた
ので、敵は初めて前大戦以来の常
套手段である宣伝ビラの撒布を行
ふことが可能となつた。現に先般
の艦載機の関東地方来襲の際以
来、敵は多種の宣伝ビラを撒布す
るやうになつた。
 また放送についていつても、従
来わが国では短波の受信機は一般
には使用を禁止されてゐたため、
敵は遠い発信地から一挙にわれ
われの受信機の中にその声を飛び
込ませる手段がなかつたのであ
る。ところが最近は敵の前進基地
が段々と本土に近寄つて来たの
で、中波の放送でも本土に届くや
うになつた。敵は既にマリアナ方
面に発信施設を整備し、中波の放
送を開始してゐる。中波の放送な
らば、放つて置けば遠慮会釈もな
くわれ/\の受信機の中にもぐり
込んで来ることが出来る。現在
われ/\がまだ敵の声を聞いてゐ
ないのは、当局が万全の方途を講
じて、敵の放送を阻止してゐるか
らに他ならない。
 かう考へて来ると、敵は太平洋
の戦局から、また本土空襲から
われ/\国民の間には相当の精神
的動揺があると見て、思想謀略の
時機いよ/\到来とほくそ笑み、
また同時に空襲とか、放送とか強
力な謀略戦の手段を獲得するに至
つたのである。敵の思想謀略戦が
今後ます/\熾烈になるだらうこ
とは容易に想像出来るところであ
る。

敵は何をさゝやいて来るか

 それでは敵は宣伝ビラや放送な
どで、どんなことをいつて我々に
働きかけて来るだらうか。それは
従来敵が行つて来た謀略宣伝の内
容を検討して見ると、その狙ひが
大体判る。第一には日本の国内分
裂を企図するもの
、つまり軍官民
の離間、相剋を目的とするもので
ある。戦争は軍人か、或ひは或る
指導者が勝手にはじめたものだと
の宣伝、一般民衆はきびしい銃後
生活に苦しんでゐるが、軍人や高
官は相変らず暖衣飽食してゐると
いつたやうなデマなどはこの種類
に属する。第二はわれ/\国民の
間に厭戦、敗戦の思想を植ゑつけ
ようとする目的のもの
、例へば日
本の戦果発表は誇大であると誣(し)
ひ、敵側の戦果を大袈裟に伝へ、
或ひはまた敵の武力、生産力を過
大に宣伝し、かるが故に日本の敗
戦は必至であると説くやうなもの
がこの類である。第三は国内に和
平思想の擡頭を企図するもの
、例
へば緩和した和平条件の流布など
は敵が常套手段として用ひるとこ
ろである。前大戦に末期に米英がド
イツに対していつた無賠償不割譲
の和平方針の謀略宣伝のことは余
りにも有名であり、また今度の
ヨーロッパ戦争で米英が「名誉あ
る条件による休戦」、「戦後の尊敬
すべき地位」を餌に甘言謀略を行
つたことは冒頭に述べた通りであ
る。
 最近報道された敵米の対日処理
案など、不遜にも日本の國體の変
革にまで言及し、如何に彼等が
日本を恐れ、憎み、その抹殺を企
図しているかを彼自ら暴露したも
ので、これは宣伝からいへば、恐
喝宣伝に属するともいへるもので
実際に敵米の真の肚を見せたもの
である。しかし、われ/\の間に和
平気分を起こさせようとするために
は、敵は心にもないゆるやかな和
平条件などを流布したり、或ひは
今度の戦争は一部指導者が、或ひ
は軍が勝手に起したものであるか
ら、敗けても一般国民はひどい目
に遇ふ事はないといつたやうな甘
言を囁いて来ることは想像に難く
ない。
 いつたいわれ/\日本人は、恐
喝宣伝には断乎これを反撥する気
魄を持つてゐるが、甘言謀略に対
しては案外うつかりその手に乗る
といつたやうな人の好い弱点を持
つてはゐないだらうか。裏切りイ
タリアの惨状に鑑みて、よく/\
警戒を要する所である。

ビラを拾つた途端に思想戦の最前線へ

 かうした敵の思想攻勢に対する
わが方の対策は如何なものであら
うか。勿論当局はこれに対してあ
らゆる手を打つてゐる。まえにも述
べたが、敵が謀略放送をやつてゐ
ても、われ/\の耳に未だ敵の声
が入つて来ないのは、当局の施策
のお陰である。
 敵機の撒くビラにしても、最近
に出た内務省令によつて、われわ
れはそれを発見したり拾得したり
した場合は、早速警察官なり、憲
兵なりに届け出る義務を負ふこと
になつた。敵のビラの内容や、謀
略放送の内容を人に話したりする
と、人心を惑乱するものとして流
言蜚語の罪に問はれることは、従
来の通りである。
 しかし考へて見れば、かうした
当局の措置は思想戦防衛策で、い
はゞ消極策である。守るよりも攻
める方が有利なことは、武力戦で
も思想戦でも相違はない。敵は現
在謀略戦に攻勢を執り得る立場に
立つてをり、われはこれを防禦す
る態勢が強い。敵がその機上から
ビラを投下することを阻止する方
法がない限り、敵の宣伝ビラがわ
れわれの頭上に落ちて来る事は免
れない。当局の有效適切な措置に
も拘はらず、敵の声が瞬間的にで
もわれ/\の受信機に入つて来る
ことが全然ないとは保障出来な
い。われ/\が敵の思想戦攻勢の
矢玉の前に曝されることは、今は
避け難いといつても過言ではな
い。そして、われ/\が銘記しな
ければならないことは、この思想
戦の弾丸は、武力戦のそれと同様
に、恐るべき破壊力を持ち得るこ
とである。武力戦における弾丸
は、眼の前に死傷者を出すから恐
れられるが、思想戦の紙と声の弾
丸は、肉体的な危険がないだけ
に、兎角その恐ろしさ、精神的な
危険が軽視され勝ちである。しか
し、ビラや放送も敵のわれに対す
る恐るべき攻撃だといふことを忘
れてはならない。
 敵が思想謀略戦の陰険悪辣な
る老手であることは既に定評があ
る。しかし、それだからといつ
て、わが防衛が彼の攻勢に劣ると
早合点する必要は毫もない。敢へ
て宣伝研究専門家の所説を引用す
るまでもなく明らかなことであ
るが、宣伝者の行ひ得る手段には
自ら限度がある。
 敵は機上からビラを撒くことは
出来るが、敵の行為はビラを投下
するといふところまでが限度で、
それから先は、われ/\がどうす
るかにまかせなければならない。
下界にゐるわれ/\を無理にビラ
の落ちてゐる所まで連れて行つ
て、それを読ませる方法は敵には
ないのである。放送についても同
様で、敵は謀略放送の電波を発射
することまでは出来るが、その放
送を聞くか聞かぬかは実はわれわ
れの勝手なのである。この点に思
ひを致すと、敵のかうした思想謀
略の努力を無效にする鍵は、われ
われの手中に在ることを知るので
ある。
 とは言ふものの、たとひわれわ
れが敵のビラなどには目もくれな
い、敵の放送などには耳も藉すま
いと思つてゐても、眼の前にビラ
が降つて来、或ひは足下にビラを
発見したとき、これを見ずに過す
ことは出来ないだらう。また国内
放送を聞いてゐるとき、突然、敵の
放送が受信機に入つて来たとし
たら、間髪を容れずに両耳を塞ぐ
ことは不可能である。かうした場
合には、われ/\は自分の意思に
反して、敵の魔手に直接接してし
まふことになる。この場合、われわ
れは否応なしに敵の思想戦攻勢に
対する防衛第一線に立たされてゐ
る。われ/\は自分自身を防衛す
ると同時に、われ/\の背後にあ
る同胞に敵の毒手が届かぬやうに
戦はなければならない。そのため
にはわれ/\はどうしたらよい
か。
 或る人が、「敵の宣伝ビラを見た
らその末尾に、・・・右の如くお信
じ下さらば幸甚に存じ奉り候 敬
具 ルーズヴェルト、チャーチル
より、・・・といふ文句を附け加へ
て見るとよい」といつたが、至言
だと思ふ。
 いまこれを真似て、敵のビラを
見たり放送を聞いたりしたら、
途端にあの日本抹殺を呼号し、
硫黄島の勇士を玉砕させ、また
テロ爆撃でわれらの同胞を無残
に殺戮したルーズヴェルト、チャ
ーチルの憎々しい顔を想ひ出し、
此奴等がこんなことを言つて来て
ゐるのだぞ、と考へて戴きたいと
思ふ。さうすれば、ビラや放送の
内容が如何に陰険な虚偽に充たさ
れたものであるか一目瞭然となる
だらう。
 敵のビラを見、放送を聞いた者
は、その時その場で、思想戦攻防
の第一線に立つたのだといふこと
が前に述べた。この人達が第二線
以後を防衛する道は、敵の宣伝の
内容を他に伝播せぬことをもつて
最とする。

流言蜚語は利敵行為

 敵の宣伝の内容を他に伝へるこ
とは利敵行為であることを知らな
ければならない。前にも述べたや
うに、敵の宣伝行為には限度があ
る。われ/\が偶然ビラを見、放
送を聞く、それまでが敵のなし得
るところである。若し偶然敵の宣
伝を見聞きしたものが、それを近
所合壁に伝へたとしたら、それ
は、敵の為に敵のなし得る限度以
上の所を手伝つてゐるわけであ
り、利敵行為といつて少しも過
言ではないのである。
 流言蜚語の恐るべきことを知ら
ない人は、今では一人もあるまい
と思ふ。しかも国内に流言蜚語が
絶えず、見やうによつては、戦局
が急迫するに連れて却つて増加し
てゐることは情けない話である。
これは主として人間の弱点である
ところの好奇心、知つたか振りか
ら生ずるもので、利敵行為と意識
してゐることではなからうが、最
近敵が撒いたビラの内容について
も、「今度は何処其処を空襲する」
と書いてあつたとか、「この次ぎ
は何月何日に来襲する」と書いて
あつたとか、全然事実無根のこと
が相当広範囲に流布されてゐるに
至つては、言語道断といはざるを
得ない。これでは敵のビラや放送
の内容を他に伝へるやうな、敵の
手伝ひをしないどころか、全然敵
に代つて謀略を行つてゐるものも同
様である。どうもわれ/\は好奇
心や知つたか振りがひど過ぎるや
うである。余程戒心せねばならな
い。
 以上は当面の問題になつて来て
ゐるといふ意味で、主として宣伝
ビラや謀略放送のことのみについ
て述べて来たのであるが、敵がわ
れわれに仕掛けて来る思想謀略
は、何もビラや放送に限つたもの
でないことは勿論である。飛行機
から投下するものもビラばかりで
はない。偽造紙幣を投下して経済
攪乱を狙つたり、偽造の衣料切符
を撒布して配給を混乱させたり、
或ひは飲食物や嗜好品を投下して
平和時代の安楽さを偲ばせ、或ひ
は爆薬を仕掛けた玩具や万年筆等
を投下して、思はぬ被害に精神を
動揺させうようとしたり、敵のあの
手この手には際限がない。
 ヨーロッパの戦場の例を見て
も、イタリア侵入に先立つて大量
にばら撒かれた百リラ紙幣、ドイ
ツ領ライン上流の森や畠に、風に
吹かれて散乱してゐた衣料切符や
食糧切符、イタリアで撒かれたチ
ョコレートやマカロニ等々、枚挙
に遑なしである。現に、先般敵の
艦載機は銚子方面で爆薬を仕掛け
たシャープペンシルを投下したと
伝へられてゐる。また、何も宣伝
ビラを投下しなくても、敵は空爆
それ自体を思想戦の手段に用ひて
ゐる。最近のわが都市に対する夜
間爆撃が、いはゆるテロ爆撃で、
人心を恐怖と不安と混乱の底に叩
き込み、そしてわが戦意を挫折し
ようと狙つた思想戦的空襲であつ
たことは言ふまでもないのであ
る。

思想戦の根本を忘れるな

 敵は今後ともあらゆる陰険、悪
辣な手段方法で、われ/\の思想
攪乱を試みて来ることは必せりで
ある。
 しかし繰返していふやうだが、
思想戦の問題は敵が如何に巧妙
な、或ひは強力な方法で敵が攻め
て来るかゞ問題ではなくて、これ
受止めるわれ/\の心構へがし
つかりしてゐるか否かゞ、勝敗を
決する鍵であることを忘れてはな
らない。
 こゝで冒頭に述べたイギリスの
宣伝研究家の言を今一度検討して
見よう。彼は、「イタリア国民の心
の底には親英感情がある」と指摘
してゐる。尚ほ且つ捨て得なかつた親英
感情、これがイタリアが敵の思想
謀略の前に腑甲斐なく屈服した最
大の原因ではあるまいか。
 戦線が本国近くに移つて来たの
におびえ、必勝の信念を失つたこ
と、はじめから自国の戦争目的に
対して確乎たる信念が足りなかつ
たこと等々が、イタリアの思想戦
的敗北の原因だつたのではない
か。この思想戦上の弱点があつた
ればこそ、米英の謀略がつけ込む
隙を与へてしまつたのである。
 今やわれ/\は本土決戦を覚悟
し、ひたすら戦力の充実に努力し
てゐるのである。政府も軍当局も
機会ある毎に、神機を捉へて敵を
殲滅すべき覚悟と自信とを表明し
てゐる。
 国民は万一この戦争に敗れたな
らば、如何なる運命が神国日本の
前に待つているかをよく承知し、
是が非でも戦争に勝たねばなら
ぬ。また勝つためにはどんなこと
でもする必勝の信念に燃えてゐる
のである。
 この鉄壁の思想戦態勢のある限
り、敵がどんな思想謀略を試みて
来ても、それは鋼鉄の扉を赤手で
叩くやうなもので、てんで歯の立
ちやうはないのである。われ/\
は根本の問題として、この鉄壁の
構へをいよ/\強化しなければな
らない。
 空襲に怯えて仕事に手のつかな
い者はないか。眼前の戦局にうろ
たへて必勝の信念に動揺を来して
ゐるものはないか。厳しい銃後生
活に悲鳴を挙げかけてゐる者はな
いか。万一少しでもそんな気持を
持つ人が出たら、それこそ敵の着
け目である。「戦争は先に負けた
と思つた方が負ける」とは思想戦
の根本を衝いた名言である。前大
戦でドイツが手をあげた時、「もう
一週間ドイツが戦ひ続けたら、イ
ギリスの負けだつた」とは、イギ
リスの戦争指導者の偽らぬ述懐だ
つたのである。
 われ/\はこの思想戦の根本を
しつかりと把握した上で、さて敵
の試みて来るビラや放送などの、
あの手この手に乗せられぬやうに
警戒する。かうして、敵の思想謀
略の努力を水泡に帰せしめてやら
うではないか。