第四三五・四三六合併号(昭二〇・三・七)
戦場本土に飛ぶ 大本営海軍報道部
現戦局を繞る空襲判断 防衛総司令部
全産業戦士空襲共済運動 大日本産業報国会
邀撃
戦場本土に飛ぶ 大本営海軍報道部
驕敵硫黄島を蹂躙し
帝都の表玄関に迫る
去る一月九日、ルソン島リンガエン湾に上
陸せる敵が、激戦一箇月にして二月三日遂に
マニラの一角に突入するや、敵将マックアー
サーは早くも「ルソン島作戦は既に終了した。
アメリカの軍の次ぎの目標は東京である」と豪
語したが、その後、時を閲する僅かに旬日に
して、敵は太平洋艦隊の主力を総動員し、一
部をもつてわが本土の表玄関たる硫黄島
に、さらに一部をもつて直接わが本土の心臓
部たる関東、東海地区に侵寇し来つた。
即ち硫黄島に対してはスプルーアンス麾下
の第五艦隊の空母を含む五十隻以上の艦艇が
多数の戦艦、輸送船を伴つて、二月十五日午
後、折柄の暗雲激浪を衝いて同島周辺に出現
し、わが陣地に対し海空呼応する熾烈なる砲
爆撃を加へ来り、さらに翌十六日も引続き執
拗に砲爆撃を反復しつゝあつたが、十七日朝
に至るや、敵は遂に同島東岸地帯二箇所に上
陸を試み、それと同時に南岸地帯にも上陸を
強行せんとした。
これに対しわが航空部隊ならびに同島守備
の皇軍は、十六、十七両日のみにても戦艦一
隻、巡洋艦三隻、艦種不詳三隻を轟沈、巡洋
艦一隻、上陸用輸送船四隻、掃海艇二隻を撃
沈、巡洋艦一隻、上陸用輸送船八隻を撃破、
さらに飛行機十三機を撃墜、七機を撃破する
の戦果を挙げて敵を四たび撃退した。しかし
わが痛烈なる反撃にも拘はらず、敵は飽くま
でも上陸を強行せんとした。そして尨大なる
鉄量を叩き込んでわが守備部隊の堅塁を破壊
し、遂に十九日朝に至り、上陸用輸送船約三
百隻をもつて同島南海岸に大挙殺到した。こ
れに対し我が軍は敵兵一千を水際に殪し、戦
車爆破炎上約三十輌、上陸用輸送船破壊炎上
十隻に及ぶ大損害を与へたが、敵は物量の圧
倒的注出によつて忽ち兵員一万内外、戦車約
二百輌の上陸強行に成功するに至つた。
こゝにおいて、攻撃の機到るを待ちつゝあ
つたわが航空部隊は、二十一日に至り神風特
別攻撃隊第二御楯隊を出撃せしめ、敵空母三
隻を轟沈、輸送船多数に全弾命中の戦果を得
た。またわが守備部隊は或ひは摺鉢山に、千
島(南)飛行場に、舟見台に、元山(中)飛行場
に、屏風山に、大阪山にと随所に奮戦、摺鉢
山頂上如きは一度は敵の星条旗を許したる
も、忽ちこれを奪還して再び日章旗を押立て
るといふ肉弾死闘を展開した。
かくて皇軍は全島寸土をも残さず要塞化し
た防塁拠り、寡兵果敢なる斬込みを反復し
て、敵ニミッツ司令部をして「上陸以来四十
八時間における米軍の損害三千六百に達す」
と歎ぜしめ、また「一分間に三名を失ひつゝ
あり」と自認せしめたほどである。そして敵
が十九日硫黄島上陸以来、二月末までの約
十日間における戦果中、確認されたるものの
みにても陸上戦闘による人的殺傷約一万三千
五百名、戦車炎上または擱坐二百二十六輌、
艦船の撃沈、航空母艦二隻、戦艦一隻、戦艦も
しくは巡洋艦一隻、巡洋艦四隻、艦種不詳七
隻、上陸用輸送船六隻、撃破、艦種不詳五隻、
上陸用輸送船二十五隻、掃海艇一隻、ほかに
陸上より認められたる大火柱七十四といふ
赫々たるものである。しかし二十七日以来、
敵は千鳥(南)飛行場を占領、これを修復して
早くも小型機を発着せしめるに至り、硫黄島
戦局の大勢は遺憾ながら極めて憂慮すべき
段階に立ち至つた。
わが本土侵寇を狙ふ
敵機動部隊に備へよ
一方この硫黄島上陸作戦と呼応して、敵は
ミッチェル麾下の航空母艦を主力とする再編
題五十八機動部隊をもつて、十六日早朝に至
るや、わが本土の極めて近海に出動し、十六
日には延一千機以上、十七日には六百機以上
の艦載機をもつて関東、東海地区に来襲、主
として飛行場、工場地帯、交通機関等に対し
大規模なる爆撃を加へ来つた。
これに対しわが航空部隊は、十六日、房総
半島南方海上に二十数隻より成る敵艦艇集団
を発見、これに出撃して艦種未詳大型艦一隻
を撃破炎上せしむると共に、本土防衛部隊は
十六日には撃墜百四十七機、撃破五十機以上
の戦果を収め、また翌十七日には撃墜百一
機、撃破二十八機以上の戦果を収め、結局、
両日来襲延千六百機の約四分の一を血祭り
に上げた。
かくて敵機動部隊は、十七日午後に至るや
急遽南方に後退したが、二十五日に至るや再
びわが近海に姿を現はし、艦載機延六百機を
もつて関東地区に対し、マリアナ基地よりす
るB29百三十機と連合共同して大空襲を行つ
た。
いまわが本土侵襲を窺ひつゝあるミッチェ
ル麾下の第五十八機動部隊は、台湾沖航空戦
において潰滅的損害を蒙つたとはいへ、その
後の急速なる修理、補充によつて再編された
敵の誇る太平洋海上航空部隊の最大へ威力であ
り、実に二千五百機の艦載機を自由に行動せ
しめ得ると敵は豪語してゐる。
そしてこの再編五十八機動部隊はだいたい
制式空母十隻、巡洋艦改装空母五隻位を主力
とし、これに数倍する戦艦、巡洋艦、駆逐艦
等の艦艇群によつて直衛されたものであり、
さらに敵は機動部隊の作戦期間を延長持続す
るために、損失航空機に対する補充を目的と
する特設空母及び油槽船群、並びに損害艦船
に対する修理を目的とする軽便なる工作船等
をも随伴してゐる模様である。
従つてこれらの観点よりすれば、敵機動部
隊のわが本土侵寇が、僅か一度や二度の失敗
でその企図を中絶しようはずは絶対にない。
敵太平洋艦隊司令官ニミッツの「今年こそは
いよ/\日本本土侵攻の年である」と嘯いた
言葉といひ、或ひはまた「次ぎの目標は東京
である」といひ放つた西南太平洋反枢軸軍司
令官マックアーサーの言葉といひ、いづれも
敵の大胆不敵なる野望と、旺盛執拗なる戦意
を最も赤裸に表示するものにほかならぬ。故
に敵機動部隊は恐らく時を移さず、必ずやわ
が本土に対して大規模かつ頻繁なる侵襲を加
へ来るであらうし、またわれ/\はそのこと
を十分予期して、これが物心両面の対策に一
点の遺憾なきを誓はねばならぬ。
敵軍のわが本土上陸
今や必至を覚悟せん
元来、敵が日本政略の手段として今日まで
い行ひ来り、また現在行ひつゝある戦略の狙
ひは、だいたい次ぎの二点に指向されてゐる
ものの如くである。即ちその第一は、敵の圧倒
的優勢なる航空兵力をもつて、日本本土の生
産を直接的に破壊せんとする戦略であり、こ
の企図よりして敵は、従来は支那大陸基地よ
りするB29長距離爆撃機によつて、主として
わが北九州、並びに満州方面の製鉄地帯の破
壊を狙ひつゝあつたが、昨夏マリアナ諸島が
敵手に入るや、敵はこんどはマリアナを対日
長距離爆撃の最大基地とし、同方面よりする
わが本土爆撃は、航空機工場等の軍需生産地
帯の破壊を主たる目標として、次第にその頻
度と規模とを高め来つたのである。
次ぎに敵の第二の戦略手段は、わが軍需生
産力の源泉をなす南方からの戦争資源の本土
への搬入を遮断せんとするものであり、敵の
「比島奪還作戦」の最大の目的は実にこの点に
あつた。そして敵はこの目的達成のために、ガ
ダルカナル島に上陸一歩を印してより以来二
箇年有半に亘り、ソロモン群島の北上陸作戦、
ニューギニア北岸の西進作戦等に莫大なる犠
牲を蒙りながらも、レイテ島、ミンドロ島の
血戦を経て遂にルソン島の上陸に成功したの
であつて、敵宿願の比島奪還作戦は、今や比
島海域一帯の制空権並びに制海権の把握によ
つて、こゝに一応段落を告げるに至つた。
従つて比島戦局の一段落と
共に、同方面における敵の
作戦にも新らしき指標が齎
されることは勿論である。
そこで比島奪還によつ
て、日本本土と、その「外郭
地帯」たる南方占領地域と
を遮断すべき目的達成が可
能となつた現段階における
次ぎの新らしき戦略目標
は、比島海域の制空権、制
海権を更に南支那海一帯に
まで拡大することによつ
て、日本本土と、これを包
むその「内郭地帯」たる満
洲、支那大陸との聯関関係
をも切断して、わが本土を
文字通り孤立無援の状態に
陥れんとしてゐることであ
る。そこでこの敵の企図よ
りして、敵は或ひは大陸、台湾を飛び越えて
わが南西諸島方面に長駆その対日基地を前進
し来るかもしれぬ。
そして敵のこの傾向は、敵がブーゲンビル
島の次ぎの基地を、ラバウルのわが堅塁を飛
び越えて一挙にアドミラルティ諸島に設定
し、またマーシャル群島の次ぎの基地を、
トラック島のわが強大なる根拠地には眼もく
れずに一躍マリアナ諸島にと設定した過去の
戦跡が、既にわれ/\に生きた戦訓を示して
ゐる。
硫黄島を有力基地に
戦爆連合の常時爆撃
いま地図を披いて敵の対日政略態勢を一瞥
すれば、敵はマリアナ諸島とフィリピン群島
とを結ぶ一千を底辺とし、その頂点をわが皇
都東京に置くだいたい二等辺三角形的布陣を
もつて、わが本土攻略の作戦を展開しつゝあ
ることが明瞭である。ところが敵はそのマリ
アナの拠点を硫黄島に前進せしめることによ
り、マリアナ--東京間の距離二千四百キロを
一挙半分に短縮し得るのである。そこで、も
し仮りに敵が比島の拠点をわが南西諸島に更
に前進せしめるとせば、これまた比島--東京
間の距離を半滅することになるのであつて、
かくて若し万一にもマリアナと比島を結ぶ底
辺が、硫黄島と琉球方面とを結ぶ底辺によつ
て置き換へられたならば、敵のわが本土攻略
態勢の基盤が如何に劃期的強化を齎すかはい
ふまでもない。
敵は硫黄島の占領によつて、こゝに逸早く
航空基地を推進せしめるであらうが、硫黄
島--東京間の距離は僅かに千二百キロにし
て、B24やB25の爆撃機、並びにP38はじめ
P51やP61等の長距離戦闘機の自由なる行動
半径内において、今後敵機の本土来襲は常時
反復されることであらう。そこで、敵が硫黄
島への基地推進によつて今後行ふべき戦法と
しては、B29やB24等の爆撃機を掩護する戦
闘機の参加によつて、こゝに戦爆連合の航空
部隊をもつて、わが航空兵力の減殺と、生産
力の破壊と、併せて人心攪乱とをめざして、
熾烈なる本土爆撃を大規模に常続強行するこ
とはいふまでもない。従つて硫黄島を敵手に
委ねることは、単なる「絶海の一孤島」の喪失
として、この事態発生を軽視するが如きは断
じて禁物である。
しかし、かくの如き敵の空中よりするわが
本土爆撃が如何にその頻度を加へ、また如何
にその規模を大にしようとも、これに対する
わが防空態勢さへ完璧であつたならば、その
損害の予想外に軽少なることは、盟邦ドイツ
の生産現状や、ラバウルの皇軍健闘の事実が
われ/\に力強き戦訓を指摘してゐる。従つ
てわれ/\は防空万全の対策によつて、空爆
から生産と国民生活を護り抜くなれば、敵機
のわが本土来襲の如きは絶対にわが戦力の致
命傷とはならぬ。しかし固よりそのために
は、軍需工場並びに国民生活の地下潜入、地
方分散等の適切有效なる各種対空施策が、万
難を排して即時断行されねばならぬことは勿
論である。
日本の永久抹殺を企つ
敵の「戦後日本処分案」
かくして敵の硫黄島を最前線基地とする日
本本土空襲はいよ/\本格化するであらう
が、それと同時に敵の次ぎの作戦であり、且
つ敵の企図する最終作戦たる敵機動部隊の
「日本本土上陸作戦」の段階がひり/\と肉薄
しつゝあることを、われ/\はこゝに改めて
凝視せねばならぬ。「戦場わが本土に移る」と
いふ言葉は従来の如き戦意昂揚を愬へる抽象
概念としてではなく、敵軍のわが本土上陸と
いふ生々しき現実を目前にして叫ばねばなら
ぬ段階に突入したのである。即ちわが日本は
今や熾烈なる「空爆の洗礼」を全土に浴びつ
つ、しかも次ぎの「上陸の危機」に直面して
ゐるのである。しかも驕敵ひとたびわが本土
に鉄靴を踏み入れんか、敵はわが光輝ある國
體と国民を、彼等の獣欲のまに/\蹂躙せん
と企ててゐることは、敵のいはゆる「対日処
分案」の如きをみても明らかである。
いま敵の「対日処分案」なるものの内容を一
昨年末、ルーズベルト大統領、チャーチ
ル首相並びに蒋介石を中心に行はれた「カ
イロ会談宣言」、及び今年一月中旬米国ホッ
ト・スプリングに開催の太平洋問題調査会第
九回大会で米英はじめ反枢軸十二箇国の民
間代表によつて採択された「日本戦後処分
案」等を綜合してみるに、敵は日本の無条件
降伏を前提とし、わが軍事、政治、経済の根
本的解体を企図してゐることが一目瞭然で
ある。即ち敵は、前大戦においてはドイツに
対する条件が寛大であつたために、再びドイ
ツの擡頭となつたのである。従つて今回こそ
は、完膚なきまでに日独両国を処分せねばな
らぬとの前提よりして、日本並びに日本民族
の永久的抹殺を行はんとしてゐる。そして敵
はまず日本の全面的軍事的占領によつて、わ
が陸、海一切の軍備を完全に武装解除し、
軍需産業を徹底破壊すると共に、航空、航海
権を剥奪し、戦争責任者として政治家、軍人
はもとより、財界、軍需生産担当者等をも包
含して苛酷なる処罰を加へるべきこと等を企
図してゐる。またわが領土処分に関しては、
日清戦争以後において日本が獲得せる新附の
領土は悉くこれを奪還し、日本の存在をわが
本土のみに局限し、日本を恰も徳川時代当時
の原始状態に置かんとしてゐる。しかもわが
日本帝国の領土を分割するのみか、万世一
系、二千六百余年の皇統に燦くわが國體をも
変革せしめんとの不逞なる野望をも抱いてゐ
るのである。この事実よりしても敵機の伊勢
大廟への冒涜行為は、正にかくの如きわが國
體抹殺の恐るべき魂胆より出でたるものな
ることは最早や火を睹るよりも明らかであ
る。
かくて日米の決戦場は、従来の「城外戦線」
から、今や完全に「城内戦線」に逆行し、戦闘
は正に日の丸の国旗飜へる大日本帝国領土内
において展開されるに至り、皇統二千六百年
間、未だ嘗て外的の侵寇を許すことがなかつ
たわが皇土が、遂に碧眼紅毛の洋夷蛮敵によ
つて蹂躙されるかもしれぬ段階にさへ立ち至
つたのである。
敵は今や、わが 天皇陛下の統べ給ふ尊厳
なる國體を潰滅し、日清、日露両役以来、同胞
幾万の殉血によつて護持されたるわが国土を
剥奪し、わが民族一億の存在をも抹殺し去ら
んとしてゐるのである。われ/\はこの敵の
野望を、徒らに「痴人の白昼夢」なりとして一
笑に附する前に、その「日本処分案」に露呈さ
れたる敵の不逞なる企図と、残虐なる実体を
静視して、これに処するの決意を新たにせね
ばならぬ。
敵撃滅の国力は十分
一億の底力を戦力へ
敵陣営の「日本処理案」が米国において伝へ
られるとき、ヨーロッパにおいてもまた時を
同じうして「ドイツ処分案」が宣言された。
即ちそれは、去る二月四日より約一週間に
亘り、クリミア半島の一角ヤルタにおいて行
はれたルーズヴェルト、チャーチル、スターリ
ンの米英ソ三巨頭会談の結果として発表され
たる、いはゆる「クリミア宣言」によつてその
全貌を明らかにしたのであつて、該案の内容
は日本に対する「ホット・スプリング宣言」の
それと全く大同小異のものなることはいふま
でもない。そしてまた今回の大戦が、ドイツ
民族の「死滅か、繁栄か」の二者いづれを選ぶ
かのほかに絶対に途なき戦争であることは、
敢へて「クリミア宣言」を俟つまでもなく、
ヒトラー総統が開戦劈頭夙に絶叫したところ
である。
しかしその故にこそ、ドイツは今や東部戦
線からはソ聯軍がオーデル河突破の勢ひに乗
じて、既にベルリンを指呼の間に殺到し、西
部戦線において米英軍はライン河の線に
肉薄するといふ最後の関頭に直面しながら
も、徹底抗戦を続けてをり、また最後の一人
まで抗戦することは最早や疑ひの余地なきと
ころである。従つてわれ/\は盟邦の徹底敢
闘を衷心期待するものなることは敢へていふ
までもないが、しかしわれ/\は盟邦の活躍
に対して徒らに他力本願的希望のみをかける
ことは、今日のわが国難打開の上に些かの寄
与をも齎すものでないことを自覚せねばなら
ぬ。そして最後の関頭に逢着して頼み得るも
のは、結局自力以外に絶対にないことをわれ
われは今こそ確かりと心に刻み置かねばなら
ぬ。
それと同時にまたわれ/\は、「ドイツ人も
日本人も同じ種類の野蛮人であるが、しかし
黄色野蛮人の始末は白色野蛮人よりも一層徹
底的に断行せねばならぬ」といひ、また「わ
れわれの戦争目的は太平洋の野蛮人を抹殺す
るにある」と叫ぶ敵の日本民族に対する恐
るべき残忍性を今こそ再認識せねばならぬ。
そしてまたわれ/\は、かくの如き残忍極ま
る敵の野望の実証を明確に把握することによ
つて、今後仮りに、敵が或ひは如何やうなる
民心攪乱の謀略手段を呈し来るとも、われわ
れは断じて敵の手に乗せられるが如きことの
なきを銘記せねばならぬ。前大戦において「ド
イツがもしも、もう一週間頑張つたならば、
英国は手を上げねばならなかつたであらう」
とは、時の英宰相ロイド・ジョージ自らが告白
せるところである。ところが前大戦における
ドイツは、ウイルソン米大統領のいはゆる
「十四箇条」の「寛大なる和平条件」に乗せら
れて、遂に「屈辱の和平」を甘受せねばならな
かつたのである。
われ/\は「ウイルソンの十四箇条」の空手
形に釣られて敗れたドイツの苦杯を忘れず、
今後いかに狡猾なる偽装謀略の魔手が行
使されやうとも、断乎としてこれを完封する
と共に、われ/\の進むべき途はたゞ一つ徹
底抗戦以外に絶対にないことを覚悟せねばな
らぬ。
われ/\一億国民悉くが特攻体当りの「一
人一殺」を決行するとき、たとひ一億の驕敵
わが本土に押寄せるとも、これが撃滅は蓋し
期して待つべきである。しかしながら近代戦
において、敵としても決して赤手空拳をも
つて来寇するのではないから、我に「一人一
殺」の戦果を可能ならしめるべき戦力、なか
んづく航空戦力の用意が絶対要請されること
はいふまでもない。そして我はたとひその国
力の絶対量においては遺憾ながら敵に及ばず
といへども、敵が蜿蜒一万浬に及ぶ長遠なる
補給線の末端に運び込む物量に対して、我は
わが本土においてすらも、これに対抗し得ぬ
ほどにわが国力は劣弱なものでは断じてな
い。われ/\の持つこの国力を、政治の施策
と国民の努力とによつて完全に戦力化すると
き、われ/\は驕敵撃滅に十分なる戦力が必
ずや湧然としてその巨体を擡(もた)げるべきことを
信じて疑はぬ。従つて作戦用兵の妙法と、国
民の努力とが遺憾なく発揮されれば断じて勝
ち得るこの決戦である。手を拱(こまぬ)いて空しく
自らの死滅を待つか、物心総力を捧げて最後
の勝利を求めるか。
いふまでもなく今こそ日本民族「一億の底
力」を発揮せねばならぬ最後の関頭であり、
父祖殉皇の熱血一滴だに流るれば、草莽匹夫
正に決然蹶起すべき秋である。