第四二〇号(昭一九・一一・八)
神風特攻隊出撃す 大本営海軍報道部
戦闘経過概要
必至空襲への構へ
昭和二〇年度高等・専門学校の入学者選抜 文 部 省
戦ふ物資 麻 農 商 省
神風特攻隊出撃す 大本営海軍報道部
敵必殺の魚雷を抱いて遠く真珠湾頭に、シドニー橋畔(けうはん)に、
或ひはマダガスカル島に、征きて再び還(かへ)らざる特殊潜航艇勇
士の物語が未だ一億国民の胸奥(きようあう)に生々しい記億をとゞめて
ゐるとき、われわれは今また比島海面に散つた「必死必中」
の空の烈士「神風特別攻撃隊」の報道に接し、全く熱鉄を嚥(の)む
の思ひである。
神風特別攻撃隊とは、爆装を施した機体をもつて搭乗員も
ろとも敵艦を爆砕する科学と肉弾とを渾然一丸とした日本的
捨身の特別攻撃隊であつて、もとより隊員自らの着想と猛訓
練の結果、これが採用方を上官に嘆願したものである。
神風隊の名称は、嘗て元寇の役において元の大軍を一挙覆
滅して国難を救つたかの神風を、いま若鷲の忠魂、肉弾をも
つて再現せんとの熱祷より生れたものであり、また第一次神
風特別攻撃隊を構成する敷島隊、大和隊、朝日隊、山桜隊等
の名称は、日本武士道精神の神髄を詠じた
敷島の大和心を人とはゞ
朝日に匂ふ山ざくら花
の古歌に因んで附せられたものであり、さらに菊水隊の名称は
かへらじとかねて思へば梓弓(あづさゆみ)
なき数に入る名をぞとゞむる
の一首を如意輪堂の壁に記して、還らざる大義の戦ひに征つ
た小楠公の道統(だうとう)を継(つ)がんとする心境を反映したものであら
う。また第二次神風特別攻撃隊に選ばれた忠勇隊、義烈隊、
純忠隊、至誠隊、誠忠隊は、その隊名を聞くだに帝国海軍軍
人精神の権化(ごんげ)を思はせるに十分である。
口に「必死必殺」を唱へ、筆に「征きて還らず」と記するは易
いことである。しかしこれらの勇士とても肉親の生める人情
の子であり、しかもいづれも早春を迎へた弱冠の青少年たち
である。家郷への愛着もあるであらうし、青雲の大望もある
であらう。しかもなほその若さで、心憎きまでに行ひ澄まし
て淡々水の如く、笑つて悠久の大義に生きんとする若鷲の姿
の何と崇高なることか。
神風特別攻撃隊の勇士を出した予科練揺籃の地、土浦航空
隊の荒鷲達は、先輩に続く心境を次ぎのやうに語つてゐる。
入隊当時は「死」などといふことは全然考へず、たゞ、ひたむき
に軍務に没頭するだけでした。ところが、それが期間半ばになる
と、先輩たちの体当りや自爆の話を聞いて「生死」の問題を考へるや
うになりましたが、しかしそれも聞もなく「生死」の問題よりは、
「任務」の方が重いといふことがはつきりとわかつて来て、生きる
とか、死ぬとかいふことは全然考へなくなりました。そして今で
はどうすれば最も有效に死ぬことが出来るかといふことを考へて
ゐます。従つて死ぬことが恐ろしいなどと考へてゐるものは予科
練には一人もゐません。
学帽に日の丸の襷(たすき)をかけて駅頭に歓呼した姿も、つい昨日
のやうに思はれるのに、わが若鷲達はもうこんなに生死を超
越した立派な帝国軍人になりきつてゐるのである。しかもひ
とたぴ前線に出動すれば、挙(こぞ)つて神風隊の勇士とならんこと
を切願するのである。まことに力強き限りであり、この若き
勇士ありてこそ日本は絶対に勝つのだ。
今は亡き山本元帥は、嘗て真珠湾底に散つた特殊潜航艇勇
士の心境に感激して、「近頃の青年はなどと口はゞたきことは
申す間敷(まじく)候」とて、世人の反省を促されたが、南国焼けの赭顔
に微笑を浮かべながら、再び還らざる大空へ、敵艦撃滅の燃え
る闘魂を抱いて勇躍出撃する若鷺の姿は、全く生ける軍神そ
のものである。「征つて参ります」と敬礼する愛する部下の肩
を叩いて「元気で征け、立派な手柄をたてよ、御苦労さん」
と血涙を呑んで壮途を見送る司令官の心中は、金く肺腑(はいふ)を抉(えぐ)
られ、腸を断たれる思ひであらう。
しかし日米決戦の現段階は、今やその好まざる犠牲をも、
涙を呑んで敢へて断行せねばならぬほどに緊迫してゐるとい
ふことを、われわれ一億国民はこの際はつきり銘記せねばな
らぬのである。然り、戦局は正に重大である。台湾沖航空戦
における皇軍の圧倒的大戦果にも拘はらず、敵は反転して比
島海面に、太平洋艦隊の総力を結集して殺到し、すでに約四
箇師団の兵力をレイテ島に上陸せしめたのであつて、その物
質の大規模なるにおいて、またその戦意の旺盛執拗(しつえう)なるにお
いて、戦局は絶対に楽観を許さぬのである。しかも万一にも
比島を敵手に奪還されるが如き場合発生せんか、わが本土防
衛要線の一角が崩れると同時に、日本と南方占領地帯との輸
送線が妨害される結果は、わが戦争遂行力に重大なる支障を
来すことはいふまでもないのである。
しかしながら比島は、従米のギルバート、マーシャル、マ
リ諸島の如き絶海の眇(べう)たる小島の場合とは全く異り、む
しろ大陸的な特性をもつた大島である。従つて敵の「沈む空
母基地」の来襲に対し、我は無敵の「沈まざる陸上基地」を全
島に具有(ぐいう)してをり、また敵は我に数倍する補給線の長大化に
伴ふ莫大な消耗を犠牲にせねばならぬのに対し、我は極めて
短小なる補給線をもつて好む時、好む地点に兵力を結集し得
る、いはゆる内線作戦の利点を確保してゐるのである。そして
その故にこそ、われわれはそこに待望の勝機を発見し得るの
である。しかしてその勝機を掴み得る唯一の鍵が航空機であ
るとすれば、一億国民は全力を傾倒して航空機増産にひたぶ
るに努めなければならね。
しかし近代戦争は、すでにいひ古された言葉ではあるが正
に「総力戦」であり、日米戦争はつまりアメリカ一億三千万国
民と、日本一億国民との総力を動員した食ふか食はれるかの
決戦である。従つて日本一億の国民がそれぞれの持場々々に
おいて、敵アメリカ国民に負けたなれば、いかに前線勇士が
奮闘しようともこの戦争に勝つことは出来ない。即ちわれわ
れ一億国民がそれぞれの持場々々において、同じ持場におけ
る敵アメリカ人を圧倒し得たときに、日本の勝利がはじめて
期待されるのである。さあ、頑張らう。頑張らねば、神風特
別攻撃隊の英魂に申訳ないではないか。
そして銃後生産陣に日夜奮励される諸君よ、 一機でも多
く、そしてその一機は神風隊員の神魂を乗せて敵撃滅に突撃
する神機であることを思はねばならぬ。前線には飛べる飛行
機さへあれば、喜んで敵撃滅の体当りを敢行する神風持別攻
撃隊の若鷲達が、我も我もと鶴首待機してゐるのである。
さうだ、白鉢巻も凛々(りり)しい紅顔の若武者が、慈母(じぼ)の懐(ふところ)に
でも抱かれるが如く嬉しさうに微笑みつゝ愛機にをさまつ
て、還らざる征途に勇躍出撃する姿が、いまわれわれの眼前
にまざまざと彷彿(はうふつ)するではないか。増産だ。頑張りだ。体当
りだ。
戦闘経過概要
わが神風特別攻撃隊は去る十月二十五日以
来三十日までにスルアン島東方、スリガオ東
方洋上、レイテ湾、ラモソ湾東方海面等にお
いて「一機一艦」の体当りにより、敵空母九隻
を筆頭に敵艦撃沈実に十九隻といふ赫々た
る大戦果を挙げてゐるが、その戦闘経過の大
要を示せば次ぎの如くである。
十月二十五日 神風特別
攻撃隊の敷島隊は○○基地を
飛び立ち誘導直捲機に導か
れ、正午頃スルアン島東方に
行動中の空母四隻を基幹とす
る敵機動部隊を捕捉、敵グラ
マン戦闘機群の抵抗を排除し
て驀(まつしぐ)らに敵巨艦に殺到、中
型空母一隻に対し二機命中、
大火災を生ぜしめてこれを撃
沈、さらに他の中型空母一隻
に対し一機命中撃破、空母を
直衛する巡洋艦一隻にも一機命中、轟沈し
た。
敷島隊に呼応した○○隊はスリガオ島東
方に空母を含む敵機動部隊を捕捉、敵直衛
機の猛烈な妨害を冐して制式空母一隻に命
中炸裂してこれを撃破した。さらに他の一
機も進発したが、戦果報告の任をもつ直掩
機も全機還らず、戦果不明。
二十六日 ○○隊は午後零時半頃スリ
ガオ島東方○○浬洋上に行動中の空母四隻
を基幹とする敵機動部隊を発見、上空直衛
のグラマン戦闘機六十余機の一斉挑戦と対
空防禦砲火を衝いて、二機は敵大型空母一
隻に命中、全艦炎々たる猛火に包まれ沈没
するのを確認、さちに他の空母一隻の艦橋
側甲板に一機命中するや、敵艦は約四十度
傾斜したが、その後復原し、この艦が沈没
したかどうかは確認されなかつた。
二十七日 純忠隊は二十七日午後七時
頃レイテ湾在泊の敵艦船攻撃のため進入
したが、夕靄濃く敵艦型を識別すること困
難なるため、指揮官○○海軍大尉は攻撃中
止を決意したが、敵戦闘機の妨害によつて
他機との連絡がとれず、二番機、三番機は
相次いで突撃を決行、そのうちの一機は輸
送船に命中沈没させたが、他の一機の戦果
は確認できず、指揮官機、直捲機の一部は
基地に帰還し、さらに突撃隊は誘導直掩機
に護衛されつゝ午後六時過ぎレイテ湾の
敵艦船群に殺到、一番機は敵戦艦後部に命
中、これを中破せしめ、二番機は巡洋艦に
命中して大破させ、三番機は突撃の途中敵
弾を受けたが、なほも怯まず大型輸送船の
船尾下に突入した。
二十八日 二十七日薄暮レイテ湾に出
撃したが、夕靄のため艦型確認困難のため
基地に引返した純忠隊指揮官○○大尉機
は、この月午前四時半ごろ単機基地を進
発、部下の散つたレイテ湾に突撃を敢行し
たが、直掩機を伴はなかつたため戦果は確
認し得なかつた。
二十九日 ○○隊は午前ラモン湾東方
○○浬洋上で空母四隻(うち三隻は大型)戦
艦二隻乃至四隻、その他巡洋艦、駆逐艦を
含む二十余隻より成る敵機動部隊を
捕捉、直ちに攻撃に移り、アイランド
型空母一隻の艦橋附近に一機命中、
濛々たる黒煙を吐かせ、また艦種不
詳の二隻、巡洋艦一隻が炎上するを
確認した。各艦に対する命中機数は
敵直衛機の妨害のため確認し得ず。
三十日 ○○隊は午前スルア
ン島南東からレイテ湾に侵入せんと
する大型空母一隻、中型空母一隻、戦
艦一隻、小型空母または巡洋艦、そ
の他の艦艇より成る敵有力機動部隊
発見の報に接し、勇曜基地を進発、
スルアン島○○浬でこれを発見、午
後二時半ごろ上空に殺到して大型空
母一隻に一挙に三機が命中、敵艦は
一瞬停止したが、忽ち大爆発を起し沈没し
た。さらに中型空母一隻に一機命中、大火
災を生ぜしめたほか、小型空母一隻にも一
機命中、炸裂煙が認められたが、大型空母
の吐く猛煙のため状況を確認し得ず、また
他の一機は敵戦艦の艦尾に命中、これを撃
破した。
神 風 特 別 攻 撃 経 過 一 覧 表 | |||
轟 撃 沈 | 撃 破 | ||
25日 | スルアン島東方並びにスリガオ東方洋上 | 空母(中型) 一 巡洋艦 一 |
空母(中型) 二 |
26日 | スリガオ 東方洋上 |
空母(大型) 一 | 空母(大型) 一 |
27日 | レイテ湾 | 輸送船 一 | 戦艦 一 輸送船 一 巡洋艦 一 艦種不詳 一 |
29日 | ラモン湾 東方洋上 |
空母(大型) 一 巡洋艦 一 艦種不詳 一 |
|
30日 | スルアン島東方洋上 | 空母(大型) 一 | 空母(中・小型) 二 戦艦 一 |
綜 合 戦 果 | 空母 三 輸送船 一 巡洋艦 一 |
空母 六 戦艦 二 輸送船 一 巡洋艦 二 艦種不詳 三 |
週報420号 1943.11.8