防空救護 図解


 空襲下 真つ先に負傷者を見つけて、救護に当るのは隣
組の人達や警防団の人達です。しかもその人達のやる最初の
処置、殊に止血や仮繃帯のよしあしが患者を生かしもし死な
せもするのです。例へば止血がうまくいつてゐれば助かつた
のに、止血がまづく、多量に出血して死んでしまつたとか、
繃帯が下手だつたために傷が化膿して癒るのが永引いたり、
死んだりすることが起り易いのです。また頭や胸や腹等に傷
を受けてゐるとき、どんな症状ならば重態だといふことを知
らなかつたため、不注意に患者を運び、そのために死んでし
まふやうなこともあります。かういふ失敗をしないために、
重要な傷の症状はよく覚えておき、止血法、三角巾の使ひ方
等、手当の仕方も十分に練習をつんでおいて下さい。

創傷の知識

一  ショック
 これは相当たくさん出ると思
ひますから、症状や原因をよく
覚えて置くこと。
症状
 強い脳貧血の症状に似てゐて
1 顔面が蒼白くなる
2 冷汗を流す
3 脈が多く、弱くなる
4 呼吸が浅くなる
5 体温が下り、手足が非常に冷たくなる
6 血圧も下降する
7 嘔気を起し嘔吐(はい)たりする
原因 このやうなショック症
状は頭、胸、腹等に傷を受け
内臓が損傷してゐる時や、一つ
一つは大した傷でなくても全身
にたくさんの傷を受けた場合、
例へば大腿骨などの骨折のやう
に大骨折を起した鳩合、大出血
をしてゐる場合等に起ります。

二 頭部の損傷
 これまでの統計では、戦死者
百人のうちの半数は頭部の損傷
であり、四月十八日の空襲の際
にもう50%は頭部の損傷で死んで
をり、今度の北九州の例でも一
部の調査では約40%に近い数に
なつてゐます。
 従つてこれからの空襲にも相
当発生するものと思はれますが、
とかく頭をやられたら必ず死
ぬといふやうな考へ方は誤りで
す。これを助けるためには、一
番大事なことはまづ止血、次ぎ
に感染を防ぐといふ手当があり
ます。では頭をやられるとどん
な症状を起すか、
症状 先づ一般症状として
意識の障碍を起します。大声で
呼んだり、疼みを与へてみても
反応のないやうな場合は重症と
思はねばなりません。次ぎには
圧迫整脈博といつて脈が緊張し
て遅くなり、もつと進むと駆り
たてられるやうに速く非常に小
さくなります。呼吸も同様には
じめ緩やかで、進むと浅く速くな
ります。体温は、もし意識全く不
明で高熱ならば、損傷が脳の中
枢に及び重傷ですが、もつと重
いものは異常に低くなります。
 局所症状としては手足が麻痺
し、言語の障碍を起します。脳
底骨折があると、この他に耳、
鼻、口等から出血します。
 手当をする上で特に注意する
ことは、現場で十分被覆繃帯を
すること。意識明、狂噪状態
を呈するから輸送中は細心の注
意が肝要で、脳の損掲者は特に
保温が必要です。頭部の受傷者
は輸送しない方がよい。しかし、
現場では十分の処置ができない
から、第一次救護所、或ひは第二
次救護所が、さう遠くないときに
は大急ぎでそこに収溶します。

三 胸部の損傷

 一番損傷を受け易いのは、肺
臓ですが、肺臓をやられると、
症状
 1 呼吸が困難となり、
 2 咳嗽(せき)が出、
 3 喀血したり、或ひは血痰
を出す。喀血はゴホンゴホンとい
ふせきと一緒に、鮮紅色の泡の
ある血液を吐くのが特徴です。
 4 いろいろのショック症状
が現はれます。
(注意)
 イ ひどく呼吸困難の者、
 ロ 心臓や大血管に損傷を受
   けるか、またほその疑ひ
   のある者、
 ハ ショック症状を呈してゐ
   る者等、
は特に安静にしなければならな
いから、輸送はしない方がよい。

四 腹部の損傷

 腹部には肝臓、脾臓、胃、小
腸、大腸、膵臓、腎臓、膀胱
のやうないろいろの内臓がある
ため、腹部に傷を受ければ、こ
れらの内臓が損傷され易いの
で、生命の危険も多い。
 傷を受けるとすぐショックそ
の他の重い症状を現はして来ま
すが、これが軽く現はれるか重
く現はれるかは、主として内出
血の程度によります。
 腹部の貫通創は症状の軽重に
拘はらず、内臓に損傷があるもの
として処置しなければなりませ
ん。
腹腔内出血の症状
 1 顔色が蒼白で貧血状とな
   る。
 2 冷汗を流す。
 3 脈が早く小さくなる。
 4 手足のはしはしが冷たく
   なる。
 5 精神が非常に不安状態と
   なる。
 6 はき気や吐いたりする。
 7 腹筋が緊張し、腹壁が板
   のやうに固くなる。
 8 腹部の圧痛がある。
 これらの症状があつたら現場
で止血剤、強心剤を用ひ、でき
るだけ早く後送します。
内臓脱出の場合の処置
 内臓が脱出してゐる場合、た
くさん出てゐなければ、その上
に滅菌ガーゼを当て、圧迫繃帯
をして後送します。もしたくさ
ん脱出してをれば、たとへ少し
ぐらゐ傷が汚れてゐても押し込
んでガーゼを当てキチッと繃帯
をして後送します。

五 骨折

 次ぎのやうな症状は骨折のあ
る証拠ですから、その処置をし
ます。
症状
 1 疼痛
 引張つたり圧したりしないで
も深部が非常に激しく痛む。骨
の折れたところを圧迫すると、