郵便貯金等の取扱はどうなる


 郵便貯金や簡易保険等は国の事業であ
り、空襲のやうな非常災害の場合でも、
その安全性については貯金の払戻し、為
替の払渡し、保険金の支払等を制限する
やうなことは絶対にない。
 むしろそのやうな場合には預け人や加
入者等のために、次ぎのやうな便利な非
常取扱をすることになつてゐる。

一、郵便貯金、郵便為替、振替貯金、
証券保管等の非常取扱

1 規定時間外でも取扱ふ。
2 他の郵便局で預入した貯金に対して
も、同一内一人五百円まで即時払戻
しをする。検閲のしてある金額の範囲
内ならばその制限もしない。
3 国債郵便貯金についても同一月一人
五百円まで現金で即時払戻しをする。
4 貯金通帳、定額貯金証書または特別
据置貯金証書をなくした者でも、適当
な保証人さへあれば、一回限り五十円
まで即時払戻しをする。
5 為替証書、貯金払戻証書または振替
貯金払出証書等を亡失した場合も前項
と同様。
6 据置貯金、定額貯金、積立貯金及び
特別据置預金等は据置期間内であつて
も払戻しを取扱ふ。
7 証券保管証をなくした者には、無保
管証のまゝ証券売却の請求に応ずる。
8 印章を亡失した者にも、拇印で取扱
ふ。
 なほ右のほか、被害の状況によつては、
再度通帳や再度証書の請求金額も免除
する。
 たゞ、空襲警報発令下においては貯金、
為替の窓口取扱は原則として一時停止
し、空襲の終つた後に以上の便宜な措置
をとるのである。
 また災害の大きい場合、郵便局の事務
が非常に繁忙になれば罹災者に対する払
戻しに力を注ぐため、払戻し以外の不急
事務は一時停止、或ひは制限することが
あるかもしれない。
 右に述べたやうに、貯金通帳、為替証
書、または印章をなくした場合でもそ
のまゝ即時に払戻しを受けられるが、こ
のやうな場合には、お互に面倒をかけ
ることになるから、平素から通帳等は
大切に保管すると共に、記号・番号等は
必ず手帳のやうなものに控へて置くこ
と、或ひは非常の際には、印象と共にす
ぐ持ち出せるやうにして置くことが肝要
である。

二、簡易保険、郵便年金の非常取扱

1 空襲による罹災契約者で、保険料払
 込の困難な者には、六月以内の払込猶
 予が認められる。
2 また次ぎのやうに保険金の即時支払
 が受けられる。
 イ 保険証書、保険料領収帳のない場
   合にも、契約の受持局がその保管書
   類により必要事項を確認し得る場合
   には、非常即時払がなされる。
 ロ 契約の受持局でなくても、附近の
   指定された郵便局に保険証書、保険
   料領収帳を提出して、非常即時払を
   受けることが出来る。
 ハ 保険料を完納した旨を証明してあ
   る保険証書を提出した場合には、右
   同様、最寄の指定された郵便局で非
   常即時払を受けることが出来る。
 右の場合、もし被保険者の死亡した
ことを事由として、保険金の非常即時
払を請求するには、被保険者の死亡証
明書を添へなばならぬことになつてゐ
るが、この書類は必ずしも医師の作
成した死亡証明書でなくても、最寄の
警察署、交番、派出所等の死亡証明で
もよく、またやむを得ないときには、
所属の隣組長や町会長、部落会長の証
明でもよいことになつてゐる。
 なほ、保険証書に保険金受取人が指
定されてゐないときにも、直ちに被保
険者の遺族に保険金が支払はれること
になつてゐるが、この場合には、保
険金請求人は保証書(雛形は最寄の郵便局
について問合せ願ひたい)を添へねばなら
ない。
 このやうに、空襲時には保険金が至
極簡単に支払はれることになつてゐる
が、保険証書、保険料領収帳もないと
きは、調査困難のため保険金の非常即
時払が出来ないこともあるから、加入
者は、保険証書、領収帳の保管を厳守さ
れるとともに、証書の記号・番号等を
しつかりと書き留めておくことが大切
である。
3 保険証書や保険料領収帳等がなくて
 も、契約の受持局で郵便局の保管書類
 によりその事実を確かめ得る場合に
 は、非常即時貸付が受けられる。
4 年金についても保険と殆んど同じうや
 うな取扱が受けられる。