第三九五号(昭一九・五・一七)
決戦必勝
第三九回海軍記念日を迎へて 大本営海軍報道部
戦局の状況と総力戦 海 軍 省
甲種予科練の募集について 海 軍 省
戦力増強生活例 新職場に想ふ
戦時農園問答(二) 回答 農商省
戦局の現状と総力戦
東亜再侵略の開始
太平洋戦局は、去る二月上旬、敵の
マーシャル侵寇を転機として、米英の
東亜再侵略の開始といふ画期的段階へ
と突入するに至つた。即ち、一昨年八
月以来、一年十ケ月に及ぶ敵の反攻は
戦意、戦力些かも衰へをみせず、不逞
にも、神聖なる帝国領土を新戦場と化
す全く新たな様相を露呈したのであ
る。
しかも、眈々として侵寇の機を狙ふ
敵は、三月二十九日パラオ、四月三
十日トラックと、また/\十数隻の
空母、戦艦を基幹とする機動部隊を以
て来襲し、一方、四月二十二日には、
機動部隊掩護の下に、ニューギニア島
ホーランディア及びアイタペ附近に一
ケ師団強の兵力を以て上陸を開始し、
同二十七日夜にも、敵の機動部隊が
ホーランディア西方沿岸を遊戈するの
を発見する等、今や敵の機動部隊は我
が内南洋、ニューギニア、ニューブリ
テン島北方海面一帯に亘つて出没し、
基地航空部隊また、東部、南部各方面
から極めて緊密なる連繋の下に共同作
戦を展開してゐることは、最近頻々と
して、サイパン、メレヨン、トラック、
グァム等に対し、B24の如き行動半径
の大きい大型機が来襲する事実によつ
て容易に想像し得るところである。
このほか、ラバウルとその周辺地区
並びに我が生命線ともいふべき南方資
源地帯に対する爆撃は依然熾烈を極め、
四月十九日には、一昨年三月我が軍が
占領して以来はじめて、サマヴィル麾
下の機動部隊がスマトラ島西方海面
に出現して、サバンを空襲するとい
ふ新事態が生起し、他方、印緬、支那大
陸、アリューシャン方面等、今や敵は
太平洋の全域から我が心臓部めがけて
決定的な打撃を加へようとしてゐるの
である。
かくて、現戦局が如何に悽愴熾烈で
あるかは、太平洋全戦線における敵機
の来襲が、二月の二万一千四十四機、
三月の一万八千三百二十九機(以上中部
太平洋を除く)、四月の二万四千九十七
機なる事実によつて端的に実証される
が、それにもまして、その深刻さを象
徴するものは、この一年間に、聯合艦
隊司令長官である山本、古賀両元帥が、
ともに壮烈な機上戦死をされた厳粛な
る事実でなければならぬ。
現戦局の諸特徴
さて、太平作戦局は、これを大局的
に観れば、我が本土爆撃、南方資源地帯
の奪回、我が本土と南方地域との遮断
の三点を繞つて、日米の一大攻防戦が
展開されてゐるわけであるが、さらに
これを仔細に検討すれば
一、大海上機動戦の展開
散はマキン、タラワ上陸以来マーシャ
ル侵寇までに二ケ月、パラオ来襲まで
に一ケ月余、さらにトラック再来襲まで
に一ケ月、その間、間断なき連続爆撃を
実施した後、新作戦争を展開してゐる従来
の経過からみて、敵現在の間断なき爆撃
は、機動部隊を以てする次期新作戦開始
の準備行動と断じてよからう。敵は、
マーシャル侵寇には、「艦船数百隻、総ト
ン数二百万トン、主要作戦には空母二十
隻、艦載機千機を出動せしめた」と発表
してゐるが、現在、太平洋にはアメリカ
全艦隊の主力が集結してゐるとみて差支
へなく、「ニミッツ攻勢は、比島を経由し
て支那に達する中部太平洋を横断する回
廊を啓開するものだ」と豪語する敵の作
戦企図からすれば、敵は、今後も従来の
「島伝ひ」作戦を一層推進するとともに、
海上機動部隊の威力を放胆かつ縦横に駆
使するであらう。この点四月二十七日に
公表されたハルゼー麾下の南太平洋艦隊
の解散に伴ふニミッツ、マックアーサー
共同作戦の強化は示竣するところが深
い。それはひとり中部太平洋のみなら
ず、ニューギニアを西進して我が南方資
源地帯の奪還を狙ふ敵の積極的反攻企図
を表明するからである。
ニ、予備爆撃の強化 鉄量の戦ひ
敵はマーシャル侵寇には三日間に約一
万五千トンの鉄量を叩き込んだが、これ
は米英空軍の四月中の対独テロ爆撃の投
下弾量七万四千トンの五分の一に当
り、かゝる短期間に一地区に対する砲爆
撃としては歴史に前例がない。敵は今
後も、この鉄量に物を言はせるに相違
ない。
三、空母勢力の重視 対日攻撃の一番
槍は、空母の甲板から
敵の槻動部隊の根幹が空母であり、
アメリカが如何に空母勢力を重視してゐ
るかは、「対日攻撃作戦において、常に一番
槍を承るものは空母勢力である」との米
海軍航空局長ラムゼーの言明に徹しても
明らかである。前海相ノックスの公言す
るところによれば、「現在、五十隻以上の
空母が太平洋作戦に参加してゐる」との
ことであるが、「米国は、目下、四万五千
トン級の空母群を建造中だ」と作戦部長
キングも最近発表してゐる。
現在、我が本土爆撃の公算最も多きは、
東方洋上からであることに想到すれば、
敵の空母勢力に対しては、不断の警戒を
必要とする。
四、敵の迂回戦法 基地設営力戦
敵はアッツ、ソロモンでもさうであつ
たが、我が弱点々々と迂回戦法をとる。
マーシャルでも、敵はハワイから最も近
いマロエラップ島や、ウォッセ島及びギ
ルバートから最短距離のヤルート島やミ
レ島には目もくれずに、一挙に、クェゼ
リン及びルオットに飛び込んでゐる。従
つて、我が太平洋基地は全面的にこれを難
攻不落化せねばならぬ。こゝに太平洋戦
局が、日米の基地設営力の争覇戦であり、
その設常力の強弱が、勝敗に至大の関係
あることを知るべきである。
五、科学戦的相貌 日米料学技術決戦
命的変化を来した如く戦局の現状は、
いよ/\科学戦的相貌を濃化してゐる。
既に今日は、真珠湾におけるが如き奇襲
攻撃は、容易に出来るものではないが、
新兵器の出現による奇襲攻撃は出来ない
ことはない。従つて戦局打開の道は、一
にかゝつて新兵器の奇襲的出現によつて
のみ期待されるといつても敢へて過言で
はない。外電は一日として、敵味方ともに
新兵器の出現を伝へない日はなく、現在
交戦各国が、科学技術の総力を挙げて新
兵器の考案作製に必死となつてゐる事実
を忘れてはならない。
等によつて特徴づけられるであらう。
一億無条件全力発揮
このやうに戦局の現状は国と国と
の体当り戦であり、国家総力を挙げ
ての血戦死闘である。それと共に今
日の大消耗戦では、従来のやうなス
トックだけでは絶対に戦争は出来な
い。どうしても生産しつゝの戦争で
なければならぬ。そしてまた、第一線
の戦力を常に維持増勢するためには、
どうしても後方からの不断の補給を必
要とする。それから、あらゆる部面に
科学技術力が無限に要求されてゐるこ
とは、戦争が「人間」を主体とする当然
の帰結であつて、大消耗戦、大補給戦、
大生産戦、大科学戦が同時に行はれて
ゐるところに、現代戦の性格がある。
従つて、この中の一つでも敗れれば、
戦局は一弛し、一退する。どうしても
これ等の戦ひを、同時に且つ全面的に
戦ひ抜き、勝ち抜かねば勝利を得るこ
とは出来ない。
そこで今日では、第一線に活躍する
もの、船上輸送に従事するもの、国内
にあつて工場で働くもの、食糧を増産
するもの、家庭で一針の針を動かすも
の、その他あらゆる人が老幼男女の別
なく、一億全員が同一の重要さと資格
とを持つ戦闘員であることが理解さ
れるであらう。そこには、もはや前線
銃後の区別はなく、軍官民一本となつ
た形があるだけで、この全戦闘員が総
力を結集発揮したときに、はじめて国
家の真の戦力が生れる。これが総力戦
であり、真の体当り戦だ。
戦局は、たしかに苦しい。だがこれ
は我が方に戦略資源がないといふこと
ではない。南方には世界最大の宝島が
ある。だが船腹の関係、敵潜水艦の海
上妨害、現地に自己生産力、自己補給力
がない等の事情のため思ふやうにいか
ない。とすれば、この際は歯をくひし
ばつても国内で自給自足せねばならな
い。決戦輸送、食糧増産、鉱物資源の
再開発、節電、企業整備、徴用強化、金属
回収、貯蓄等はみなこのためである。
一本の箆麻、一キロワットの電力でも、
全国的に集計すれば大きい。それ等が
すベて敵撃滅の戦力となるのである。
自分一人位と考へ勝ちであるが、戦争
をしてゐるのは、他の何人でもない。
我々自身なのだ。
我々が以上の四つの戦ひを勝ち抜
いて、戦力を飛躍的に増強すれば、次い
で来るものが我が一大進攻作戦の時
期であることは、余りにも明瞭な事実
でなければならない。敵は日本に時
を藉すなと強引に反攻してゐるが、
その「時」は一方にのみ味方するもの
ではない。日米双方に、同様に作用し
てゐるのであつて、我々はこの目前の
「時」を一分一秒たりとも最大限に活用
して、必勝撃滅の戦力をいやが上にも
増強せねばならない。戦機は転瞬にし
て推移する。我々は今こそ、総力戦の
真義に徹して、
て生かすべきであらう。
(大本営海軍報道部)