今年完勝への基礎を確立せん  
                                  情報局総裁 天羽英二

 大東亜戦争第三年の新春を迎へ、私は謹みて聖寿の万歳を
寿ぎ、彌栄えます竹の園生の御繁栄を祝賀し奉ると共に、御稜
威の下、聖戦二年余にして、この大東亜必勝の戦略態勢を確
立し、大東亜十億の結集をもたらし、敵米英撃滅に赫々の成
果を収めつゝある外、前線将兵の善謀勇戦と、内、銃後一億
国民の忠誠奉公とに対し、心からなる感謝を捧げ、一億国民
いよいよ結束を固め、来るべき勝利への進発を期さんとする
ものである。

敵米英の野望を破砕せよ

 年頭に当り、まづ静かに世界の地図を按ずるに、われわれ
の住む地球広しといへども、いまや、或ひは直接に、或ひは
間接に戦場ならざるはなく、全地球をあげて二大陣営に分立
し、人類史上いまだ見ざる凄烈なる世界戦争が、日夜を分
たず戦ひつゞけられてゐる儼然たる事実に対し、われわれ
は今更ながら深き感慨を覚え、重き責務を感ぜざるを得な
い。
 かつてヒトラー総統が、
「今次戦争は単純なる勝者と敗者との別を以て戦争の終局を見
る如きは全く予想することが出来ない。勝ち残つて栄えるもの以
外には、敗れて減亡するものがあるのみである。」
と喝破したが、この一戦こそは、正に、世界の国々にとつて
も、またわれわれにとつても皇國の隆替を決する戦ひであ
る。
 ちやうど今から九十一年前の西暦一八五三年、アメリカの
提督ペルリがわが国に来航した時のことである。彼は幕府の
役人が注意してもこれを顧みず、東京湾を自国の港湾である
かの如き態度で勝手に測量し、「自分はアメリカ法律は知つ
てゐるが、日本の法律は知らない」と空嘯いてゐたといふ
が、このアングロサクソソ特有の傲慢不遜な態度は、旧冬十
一月二十三日から二十七日のカイロ会談にも表はれてゐるの
である。このやうに傍若無人、世界を我物顔に振舞ひ、世界
各地を侵略し、搾取し、世界制覇の野望を逞しうしようとい
ふのが、敵米英の伝統的政策であり、今次の欧州戦争並びに
大東亜戦争以前の最近世界史は、実にかゝる米英の野望と、
飽くなき圧制とによつて貫かれて来たのである。
 大東亜戦争の当初、ルーズヴェルトを始め、米国官憲は、
日本が真珠湾で不意討を喰はしたといつて、「記憶せよ、真
珠湾!」と叫び、輿論の昂揚に狂奔したが、真珠湾の敗戦は、
決して日本の瞞討(だましうち)ではない。真珠湾敗戦査問委員会報告が
断定してゐる如く、米国政府も、軍部も、我が国との戦争を
予じめ準備してゐたのであつて、あの史上未曾有の惨敗を喫
したのは、全くハワイ防備責任者の怠慢であつたことは今や
周知の事実となつた。
 その後の戦況発表に際しても、米国官憲は、故意に事実を
秘匿し、或ひは歪曲してゐるが、この戦争は敵米英がたゞ
世界を征服せんとするための戦争に外ならない。ルーズヴェ
ルトその他が何かよい戦争名目を見出さうとして、「生き残る
ための戦争」とか何とかいつてみたところで、元来が名分の
立たぬ戦争であるから、如何にしても名実を一致せしめるこ
とは困難なのである。
 戦争挑発者ルーズヴェルトにひつばられて米英両国民とも
ずるずると戦争に引込まれてゐるものゝ、もともと何のため
に戦争してゐるか分らないのであるから、戦争が永びき、損
害が多くなり、生活が苦しくなればなるだけ、国民は戦争に
対する疑惑を深くする虞れがある。この点に思ひを致せば、
米英首脳者が焦り出してゐるのも無理はないのある。

敵焦躁の宣伝攻勢

 最近、米英が戦闘に並行して宣伝と謀略を激化し、枢軸側
を切り崩さうとしてゐるのも、この焦躁の現はれである。
 元来、宣伝謀略は敵米英の得意とするところである。米英
があれほど成功したと宣伝これつとめてゐた北阿の戦争も、
実は米英がヴィシー政府の副主席提督ダルランに働きかけ、
その裏切りによつてフランス軍を誘惑したためである。しか
し、そのダルランも用が済めば暗殺された。イタリアの切り
崩しもまた、米英がバドリオを懐柔した結果によつたのであ
るが、バドリオも、今では米英にも相手にされず、売国奴と
して当然受くべき運命を辿りつゝある。
 また米英は目的のためには手段を択ばず、その口に唱へる
人道主義、博愛主義も蹂躙して、たゞ戦ひ勝たんとして焦つ
てゐるのが彼等の現状である。
 彼等はベルリンその他の都市に対して無差別爆撃を行ひ、
無辜の老若男女を殺傷して、ドイツ国民を恐怖降伏せしめん
とし、また、あの一目瞭然たる標識をかゝげる病院船の如き
も彼等の好む攻撃目標であり、わが国の被害だけでも十二隻
に達するのである。
 敵米英は現在、あらゆる宣伝謀略によつて日独の国内を攪
乱し、日独国民の戦意喪失を図り、日独を離間しようとして
ゐる。即ちドイツを目標としては、バルカン、イベリア、
スカンディナビア方面の諸中立国に働きかけ、東亜において
は、重慶を中心として大東亜共栄圏内の諸国に頻りと働きか
けてゐるのである。
 旧冬のカイロ会談において、敵米英はわざわざ蒋介石を引
張り出し、わが国の領土を奪つてわが国を第三流国に落し込
まうといふ気休め決議によつて重慶の脱落を防ぎ、彼を利用
して、東亜民族を隷属化せんとする意図を明らかにした。大
東亜戦争の直前、大西洋憲章を以て米英が全世界に宣言した
領土不拡張主義、民族自決主義は果していづこへいつたので
あらうか。今では、米英はヨーロッパ諸小国の権利などは無
視し、今までひた隠しにしてゐた世界制覇の野望を臆面もな
く露呈し、いよいよその本性を発揮して来たのである。
 敵米英の肚はどこにあるか−南阿首相スマッツは旧冬十
一月二十五日、ロンドンの英帝国議員議会秘密会における
演説中で、「戦後の世界においては、米英ソの三国が指導国家
とならねばならぬ」と公言してゐるが、実際は米英はソ聯を
してドイツに当らしめ、また蒋介石をして日本に当らしめ
て、出来るだけソ聯及び中華民国を疲労せしめ、消耗せしめ
んとしてゐるのであつて、彼等のいふところが、三大国であ
らうが、四大国であらうが、実は米英アングロサクソンだけ
で世界を支配せんとしてゐるにほかならない。

炳たり わが征戦目的

 敵側が何といはうと、われわれの戦争目的は極めて公正明
白である。米英が世界各地を侵略し、搾取し、世界制覇の野
望を逞しうせんとしてゐるのに対し、日独伊枢軸国は、世界
の各民族を米英の侵略と搾取より解放して、各々その所を得
しめ、新らしき、正しき世界をつくらんとして立ち上り、正
義のために戦つてゐるのである。
 われわれの戦争目的は、宣戦の大詔に拝する如く帝国の
自存自衛のため、やむなきに出でた戦ひであり、米英の大東亜
諸国に対する侵略を防ぎ、大東亜の安定を確保し、世界の平
和を維持せんとするものである。われわれは大東亜諸民族を
米英の桎梏より解放し、以て正しき世界を創らんとするので
あつて、こゝに大東亜諸国家、諸民族が翕然(きんぜん)立つてわが国と共に
に戦争の完遂を誓ひ、大東亜共栄圏の建設に邁進する所以が
あり、これを具現したものが過般の大東亜会議であり、大東
亜共同宣言であることは、こゝに説明するまでもなからう。
 この大東亜共同宣言に表明された大東亜建設綱領は、共存
共栄、独立和親、文化昂揚、経済繁栄、世界進運貢献の五原
則に要約されるが、これこそは実に大東亜建設の大憲章であ
り、世界再建の金字塔であるばかりでなく、大東亜の地域に
おいて着々と事実を以て具現されてゐるといふことは、われ
われにとつて何よりの強みであり、敵米英側にとつて何より
の脅威であるに違ひない。
 即ち、大東亜の豊富な資源は、大東亜各国家、各民族の協
力によつて日増しに戦闘資材化され、大東亜十億の民族は
日に日にその結束を固めつゝあるのであつて、前駐日米大使
グルーの如きも
「今にして日本を倒さずんば、近き将来においては、日本は全東
亜の賦存資源を活用して、その基礎の上に不動の抗戦態勢を整へ
るに至るであらう。その暁には、例へ日本一国を相手として戦ふ
時でも、実質的には全アジアを敵としてわれわれは戦はねばなら
なくなるのである」
といつてゐるほどである.
 一方、欧洲においては最近、反枢軸側は反攻作戦にでる
と同時に、得意の宣伝攻勢を以て今にもドイツが崩壊するか
の如く猛烈な宣伝を行つてゐるが、ドイツの東部宣戦では、
その後大した変化なく、イタリア方面でも、米英軍は当初の
意気込に反してその後は一向進まず、バルカン方面でも、ド
イツは先手を打つてレロス、サモス諸島を占領して東地中海
よりの攻撃に備へ、また大西洋からノールウェーの北岸一帯を
要塞化して敵の第二戦線結成に備へてゐる。
 敵米英のドイツの都市空襲も、その結果は全く彼等の予期
に反して、ドイツ国民は空襲によつて敵愾心を強め、対英報
復熱をいよいよ高め、いはゆる欧洲要塞に立て籠り、得意の
体制によつて敵軍を邀へ撃たんとしてゐるのである。
 かくの如くわが枢軸陣が、過去数ケ年の赫々たる戦果に
よつて不動の戦略態勢を強化したため、敵はいよいよ必死に
なつてこれが切り崩しに着手し、いまやその尨大なる生産力
を恃み、あらゆる犠牲を顧みず、こゝに東西に亘る総反攻作
戦を展開するに至つたのである。

熾烈化する敵の反攻

 南太平洋方面において敵は、ソロモン群島を飛石伝ひに北
上し、ブーゲンビル島から更にニューブリテン島の一角に辿
りつき、わが南方の重要基地たるラバウルを奪回せんとして
ゐる。一方、太平洋中央進攻路よりは、ギルバート諸島に基地
を前進し、マーシャル諸島をはじめ、内南洋のわが防衛圏を
狙ひ、さらに本土空襲を企図し、さらに西方、イソド方面より
も、海、空、陸より反攻の機を狙つてゐることは明白なる事
実である。
 かゝる情勢に直面し、わが皇軍は各所によく敵の量的優勢
に対抗して激闘を続け、敵に重大なる損害を与へ、旧冬の第一
次ブーゲンビル島沖航空戦以来、或ひはソロモンにおいて、
或ひはギルバート方面において、また支那大陸、ビルマ方面
において、相次いで赫々の戦果を収めてゐるのであるが、随
所に戦闘はますます悽愴苛烈となりつゝある。
 敵米英がかく必死となつて反攻に出て来る理由はどこにあ
るか。それはさきに述べたやうに敵米英の指導者が、大東亜
の諸国家、諸民族が相結束し、その豊富な資源が日に日に
戦力化され、日本の戦力が飛躍的に増強されつゝあるのに反
し、自国においては、物心両面に亘る苦悩漸く増大する不安
に直面して来たからで、自分が行詰らない前に、日本を叩
きつけなければ世界制覇の野望も何もあつたものではない
と、焦り出して来たのである。あの尨大な物質力を恃む敵米
英が死物狂ひに焦つてかゝつてゐるだけに、その反攻の大規
模にして執拗、その圧力の侮るべからざるもののあるのは、
現下の戦局が明白に物語つてゐるところである。
 かくの如き緊迫せる情勢に対処し、われわれの進むべき途
は何か。それは敵の反攻が熾烈であるだけに、またその焦慮
が甚だしいだけに、断乎としてこれに痛撃を加へるばかりで
ある。しかも必勝のためには、いま一刻の猶予も許さない。
 敵がかく必死の反攻に出て来たことは、考へやうでは敵
を捕捉攻撃する好機であり、いま敵の反攻を破砕することに
よつて、帝国は大東亜の天地に、真に攻防自在の態勢を確立
し、さらに敵に痛撃を加へ、つひに敵米英の戦争意志を放棄
せしめることが出来るのである。こゝ一年が帝国の隆替、東
亜の興廃の懸る年といはれる所以は、正にこゝにある。
 前線においては、暮も、正月もなく、冱寒も炎熱も物とも
せず、日夜激戦が続けられてゐる。支那でも、ビルマ方面で
も、ニューギニア戦線にしても、ソロモン戦線にしても、
峨々たる山岳や、千古の密林を戦場として、筆舌に絶する死
闘の連続である。このうち南方方面は遠く離れてゐる関係
からしても補給は甚だしく困難を極めてゐるが、海上輸送
部隊は、敵の絶えざる空爆と洋上を妨碍する敵魚雷艇群と
交戦しつゝ決死輸送に当り、第一線将兵また、敵の砲爆
弾の中に、極度に糧食を節し、不屈の戦意を以てあらゆる
困苦欠乏に堪へ、皇國の御楯として勇戦敢闘してゐるので
ある。
 これを思ひ、あのタラワ、マキン両島に玉砕した勇士の最
期を偲ぷとき、われわれ一億国民は悲憤やる方なく、奮起一
番ひたすら忠魂に応へまつらんことを期するのみである。

即刻、飛行機を、船を・・・・・

 我にもう少し飛行機と船とがあれば・・・・・.或る戦線で
某部隊長は、「飛行機を・・・・」と叫びつゝ「どうか自分が戦死
したあとは、祭具は一切金物を使はないで、飛行機を造る
方に廻して下さい。そして弟はどうか飛行兵に、次ぎの弟は
体は弱いが飛行機工場で働かして下さい。妹も女工にして飛
行機工場へやつて下さい」と切々の言葉を残し、七生報国を
誓ひつゝ護国の鬼と化せられたとのことである。
 前線にこんな思ひを残させてはまことに相済まない。われ
われ銃後の責任である。
 われわれが前線にいま直ちに十分の飛行機を供給するこ
とが出来るかどうかは、正に現下の戦局の大勢を決し、今
次の戦争の勝負を決するものである。大量を今すぐ生産す
る。即ち量と時とは航空戦力増強の絶対的要求なのである。
 戦局のかゝる要請に対して、政府は飛行機、船舶等の劃期
的増強をめざして各般の措置を進めてゐることはご存じの通
りである。今十九年度の生産計画は、航空戦力の最大極限を
発揮させることを目標として、その生産量も前年度の数倍の
緊急増産を期してゐる。
 これはもとより容易ならぬ業であるが、勝つためには何と
してでもこれをやり遂げねばならない。

生産隘路は努力にあり

 航空機増産の資材にしても、国家の現状としては十分にと
いふわけにはゆかない。如何にして最小限の資材と以て、最
大限の能率をあげるかについて真剣な工夫を要し、また人手
の点でもいろいろと困難もあらう。これに輸送問題なども考
へ合せると、いままでのやうな考へ方で、尋常一様の手段に
任すときは到底実現は至難であらう。即ち、従来の数字的の
観念を打破して職責の存するところ、これが完遂に向つて敢然
と驀進するといふ逞しい精神力を以て、難関障壁を事毎に各
個に撃破し、不可能を可能としなければならないのである。
 東条内閣総理大臣もいはれるやうに、結局それは人のカで
ある。勝たずんば止まず、如何なる困難も克服してゆく努力
と工夫とを以てすれば、どんな隘路も突破できるのであつ
て、責任感に徹することがまづ根本要義なのである。
 政府が、軍需生産露について軍需会社法の施行等により生産
責任制をとりつゝあるのも、当面の要請に伴ひ、生産責任の所
在を明確にし、責任の転嫁を絶対に撲滅せんとするにあるの
である。増産といふと何々が足りないとか、何が隘路だとか
いはれるが、この生産隘路といふ流行語に隠れて、自己の努
カを回避せんとする者が若しあれば、真に由々しき問題であ
る。隘路とは易きに就  (二字不明)努力と工夫とに欠ける人の頭にあ
る。もし生産の隘路ありとすれば、それはこれに従事する人々
の努力にありと極言してもよいと思ふ。

飛行機増産も一億総力の結集

 飛行機を造れ、船を造れ・・・・といふと、直接これらの産業
に携はつてゐないと生産戦に参加してゐないやうに考へる者
があるが、これは大変な間違ひである。飛行機も、船も、一
億がみんなで造り、みんなで前線に送り、これによつてみん
なが戦つてゐるのである。もはや、前線、銃後の区別はない。
国内が戟場であり、国民すべてが戦士であり、銃後の職場
も、前線とその重要さにおいて決して劣るものではない。こ
の凄烈なる生産補給戦の実相を鑑みるとき、銃後の職場にお
いて、今こそあの逞しい前線精神が発揮されねばならぬので
ある。
 一口に航空機工業といつても、決して飛行機の組立工場と
いふやうな完成品に近い部面ばかりを頭に措いてはならない。
飛行機といふものが近代科学の綜合化されたものであるだけ
に、関連部面は実に広範囲であつて、世上、生産の隘路など
といはれるのも、むしろかうした関連工業部面や原材料、素
材料にあるとも聞いてゐる。
 私は詳しいことは知らないが、一台の飛行機を分解してみ
ても使用材料としてのアルミニウム軽合金、マグネシウム
軽合金をはじめ、貴重元素を含んだ特殊鋼、各種非鉄金属は
勿論、合成樹脂から造る有機ガラス、合成ゴム、防音材料、
塗料等の非金属材料等の広範囲に亘り、最近の木製飛行機に
なると、ブナなどの木材や牛乳カゼイン等も急速に需要を増
してゐるのであつて、これ等のどれ一つが欠けても飛行機の
増産は出来ないことになる。
 大工さんや指物屋さんも、少し勉強すれば不要不急の邸
宅を建てる代りに、飛行機工場で立派な仕事が出来るし、舵
に羽布を張つたり、落下傘を縫ふのは全くの婦人の職場であ
る。
 かう考へてみると、直接飛行機を造る工場ばかりでなく、
原材料工場や、部分品工場には、われわれの腕を生かす職場は
いくらもあり、そこにわれわれのすべてが勤労を通じて直接、
戦力の増強に寄与し、国家に御奉公する道が拓けてゐるので
ある。
 応徴して工場や鉱山で働くことは、それだけ国民の勤労力
を直接間接に国家の要請する方向へ捧げることであり、現情
勢からみれば、その緊要さは前線に銃をとるのに決して劣ら
ぬことを知らねばならない。
 或る炭坑の話である。前線の激闘の模様を聴いた採炭夫
が、「俺はもうじつとしてゐられない。ブーゲンビルでも、
ニューギニアでもよい、この鶴嘴持つ手で敵をやつつけて来
てやりたい」といきり立つたといふことを聞いたが、その気
概は嬉しいが、その人には先づやつてもらはねばならぬこと
がある。石炭が足りなければ飛行機の増産は出来ない。石炭
を倍も三倍も掘るといふことが、いま当面その採炭夫に課せ
られた御奉公の道であり、それを通じて立派に敵を撃つこと
が出来るのである。
 銃後の職場が戦場であり、前線であるといふのもこの意味
からであり、一億国民がこの認識に徹することが今こそ必要
なのである。

日常生活を戦力化せよ

 全国の各家庭からたつた一枚づゝのニケル貨を国家に差
出して紙幣と引換へたとしても、それだけでも、実に三万五
千台の発動機に使ふ鋼が集まり、ニッケル発動機のほかに
飛行機の車輌や主動軸や戦車や牽引車や火砲、弾丸等にも使
はれるといふことである。
 また数百万石の外米を持つて来るには百万トンもの船腹を
要するが、この船腹でボーキサイドを道んでアルミニウムを
造り、数万台もの飛行機が出来ると聞けば、外米を輸入し
ないで済むやうに、一方では食糧を増産し、一方では消費節
約に一段の努力を致すことが、戦力の増強であり、それによ
つて「敵米英を撃つことが出来るのだ」といふことがはつきり
して来ると思ふ。
 農村は決してたゞ自分たちだけのために食糧を増産するの
ではない。飛行機や船を一つでも多く造るためにも増産し、
大きくいへば「戦争に勝つために」増産といふ至上命令を受け
てゐるのである。増産に汗を流し、戦時下の食糧を確保する
ことが農村の必勝の道である。
 これまた東條内閣総理大臣が地方長官会議で強調された点
であるが、国民の戦争意志崩壊を促進する最たるものは飢餓
であり、武力の崩壌よりも飢餓に基づく銃後の崩壊が屈服の
直接原因となつたことは戦史に明らかである以上、食糧の増
産確保こそは、戦争遂行上、現下における喫緊の要求であ
る。戦争の重大な鍵を握る農村の責任また重大といはねばな
らない。
 要するに一億国民のすべてが、それぞれの職場を通じて、
その日常生活を挙げて戦力の増強のために捧げつくして戦ふ
ところにのみ、前線と銃後を一体とする逞しき完勝への道が
開けるのであつて、現下の戦局がわれわれに要求するところ
もまたこゝにあるのである。
 それは決して安易な道ではない。戦局の進展と共に、われ
われの決戦態勢はさらに強化され、われわれの生活も日々切
り詰められることもあらう。父祖伝来の家業を棄てて転業
する者もあらうし、いはゆる白紙召集で応徴して新らしい職
場に進発する者も多いであらう。戦ふ以上、幾多の困難に遭
遇し、生活の不自由を味はふこと位は、最初から覚悟の前で
ある。味方の苦しいときは、敵はさらに苦しいのであつて、
こゝで歯を喰ひしばつて頑張り通した者が最後に勝つこと
は、これまた戦史の常に教へるところである。最後の岐れ目
は実に紙一重なのである。
 あの尨大なる物資力を誇る敵アメリカでも、ルーズヴェル
トは、そのクリスマス演説において、
「戦争は今や米軍が戦死、戦傷並びに行方不明の大きな数字を覚
悟しなければならない段階に到達した。勝利への容易な途は存せ
ず、戦ひの終局は未だ眼に見えない。・・・欧洲と東亜とに亘る来
るべき大量反攻には、前線においては勿論、国内における各工場
においても、米国民並びに反枢軸国民は最後の一オンスに至るま
であらゆる精力と忍耐とを傾注しなければならない。月曜日に大
攻勢を注文し、土曜日に注文品を受取るといふわけにはいかな
い」
と、米国民の楽観気分を警告し、今後に処する覚悟を促して
ゐる。

最後に勝つもの

 いまさらいふまでもなく、戦争は意志と意志、戦意と戦意と
の闘ひである。世界の列強も、すでに国力を挙げて戦ふこと
教年、それぞれ疲労困憊して一日も早く戦争を熄めたいとい
ふのが実情であらうから、こゝでもう一押し、押し切つた方
が、最後の勝利を獲得するのである。
 過日、学徒出陣の際、私は親しく兵営において青年諸君の烈
々たる気魄に触れ、これあれば皇国は必ず勝つとの信念を深
めたのであるが、われわれには、すでにみた如く必勝の戦略
態勢あり、三千年来金甌無欠の世界に冠たる國體と、これに
淵源する尽忠報国、赤心の伝統あり、しかもわれわれ一億の
闘魂はかく敵米英の反攻に火と燃え上つてゐるのである。あ
れを思ひ、これを思ふとき、われわれの努力する限り、神国
は絶対不敗、必ず勝利は我に帰する確信をいよいよ固くする
のみである。
 今や帝国の隆替、東亜の興廃を決すべき大東亜戦争第三年
を迎へて、この重大局面に直面せる世界情勢に思ひを致すと
き、われわれは日本のため、否、大東亜のため、否、世界全
人類の進運貢献のためにも、この戦ひに勝ち抜かねばならな
い。そして完勝への鍵は、決して遠きにあるのではなく、実
にわれわれ自らの手にあることを知るのである。
 昭和十九年、この一年を輝かしい決勝の基礎確立の年たら
しめるペき責任は、われわれ一億の双肩にあり、またかくあ
らしめることを、この年頭に当り、一億国民相共に固く心に
誓はんとするものである。