第三七四号(昭一八・一二・一五)
大東亜戦争第二周年記念日に当りて 内閣総理大臣 東条 英機
戦局の回顧と展望 陸軍省報道部
太平洋戦局の転機 大本営海軍報道部
大東亜戦争二ケ年間の敵米英軍に与へた人的損害
飛行機の武装(航空常識講座第七回)
大東亜戦争日誌
大東亜戦争第二周年記念日に当りて 内閣総理大臣 東條英機
昭和十六年十二月八日、畏くも、宣戦の大詔を拝し奉り、我等一億同胞、斉しく醜の御楯とならんことを誓ひ奉つてより、正に二ケ年を経過いたしたのであります。
顧みますれば、皇軍は開戦以来、御稜威の下、善謀勇戦、特に最近に至つては、敵の大規模反攻の好機を捉へて、相次いで比類なき大戦果を挙げ、究極の勝利に向つて力強き歩みを進めてをるのであります。私はこゝに、諸君と共に皇軍将兵の健闘に対し、満腔の謝意を表すると共に、忠烈なる戦歿勇士に対しまして、謹んで敬弔の誠を捧げ、且つこの間、戦ひ抜く国民諸君の並々ならぬ御苦労に対しまして、深甚なる敬意を表するものであります。
自信と希望に満つ大東亜
正に二年前の今日、帝国は、米英の経済的、軍事的圧迫による帝国存亡の危局を打開し自存自衛を全うするため、蹶然干戈を執つて起ち上るのやむなきに至つたのであります。正義の師、一度進むや、米英の侵略勢力は忽ちにして東亜の全地域より駆逐掃討せられ、大東亜諸民族の自覚と熱情とは、澎湃として大東亜の天地に漲るに至つたのであります。
今や大東亜諸国家諸民族は、真に兄弟の関係に立ち、いよいよ提携を密にし、豊富なる資源を日に増し戦力かしつゝ、道義に基づく大東亜を建設し、万邦共栄の楽を偕にすべき共同の目的達成に向つて一路邁進いたしてをるのであります。しかして大東亜十億民族の牢乎たる共同の決意は、過半の大東亜会議によつて、彌が上にも強固にせられたのであります。これを開戦前の状況に比すれば、大東亜の様相は全く一変し、今や我等の前途は豁然として拓け、自信と希望とに満ちてをるのであります。
一方、欧州における盟邦は戦意ますます旺盛に、あらゆる困苦に打ち克つて勇戦敢闘を続けてをるのであります。而して帝国はこれら盟邦との提携は、日に日に緊密の度を加へ、東西相呼応して米英の野望を粉砕し、世界新秩序を建設すべき共同目標に向つて勇躍前進を続けてをるのであります。
飜つて敵米英の指導者は口に正義人道、博愛仁義を叫びつゝ、その為すところは、表裏全く相反するものがあるのであります。重なる我が病院船に対する暴戻極まりなき行為の如きは、正に言語同断であります。彼等は、自己本位の繁栄追求のためには、他国家他民族の犠牲の如きは恬としてこれを顧みないのであります。特に、東亜に対しては門戸開放、機会均等を唱へながら、自国の領土内においては、東亜の諸民族に対し常に門戸を閉鎖し、不平等の待遇を与へ、結局彼等の東亜民族に求むるものは、その永久の隷属化であつたのであります。
非望を中外に暴露する敵米英
最近、カイロ会談において彼等米英の指導者は、擅(ほしいまゝ)に東亜の処置を論じ、帝国を三流国たらしめんと高言してをるのであります。これ正に戦ひに疲れ、前途の不安に襲はれ焦燥する彼等指導者が、当面の失敗を糊塗せんとする謀略的夢物語でありまして、洵に笑止の至りであります。しかも多年彼等が掠奪し来れる全世界に亘る領域と、現に彼等の規範の下に塗炭の苦しみを重ねつゝある被圧迫民族の解放に関しては、この夢物語においてすら、一言も触れてをらないのであります。
彼等の求むるところは正義に非ず、はたまた人道に非ず、手段を択ばざる自己繁栄であり、旧態依然たる飽くなき他民族の搾取であります。今や彼等は、没落の一途を辿れる重慶政権に対し小策を弄し、甘言を用ひ、これをして、無益の抗戦を継続せしめんことを、只管これ図つてをるのであります。その真意は正に大東亜諸国家諸民族間の離反を永続化し、これによつて再び東亜を米英の植民地に転落せしめ、米英本位の東亜制覇の野望を達成せんとするに在るのであります。カイロ会談こそは、正にかゝる非望を中外に暴露し、彼等窮極の戦争目的が那辺に存するかを、自ら世界に向つて公言するの愚を演じたものにほかならないのであります。万邦との交誼を篤うし、人種的差別を撤廃し、普く文化を交流し、進んで資源を開放し、もつて世界の進運に貢献せんとする大東亜各国共同の崇高なる精神とは、全く相容れざる米英本位の非望を端的に世界に声明したものであります。
かくの如き横暴非道なる指導者に飜弄せられ、戦争の苦悩日増しに加はる米英国民大衆が戦争目的に疑念を抱くに至るべきは必定と信ぜらるゝところであります。しかも飽くなき野望達成のために狂奔する米英の指導斜塔は焦慮の余り、今後、いよ/\その国民大衆を欺瞞しつゝ、苦しまぎれの執拗なる反攻を繰返すべきは、当然予期せらるゝところであります。戦局いよ/\激化し、長期化すべきは、我々の夙に覚悟してをるところであります。
勝利の鍵はわれ/\自身の手に
この秋に当り、非道なる米英に対し、我等の執るべき途は炳乎として昭らかであります。敵米英が暴力をもつて、その野望を達せんとする以上、我は、実力をもつてこれを破砕するばかりであります。隠忍と自重との最大限を重ね、自存自衛のため、やむにやまれずして起ち上つた二年前の今日の決意を常に新たにし、必勝の信念の下、いよ/\大東亜の結束を強化して、どこまでも米英撃摧の一路を邁進するばかりであります。敵の反攻如何に熾烈なりといへども、何ぞこれを意に介するものでありませうか。断乎、鏖殺殲滅をもつてこれに応ふるのみであります。さらに進んで、飽くまでも、どこまでも、徹底的痛撃を加へて、遂に彼等を屈服せしむるばかりであります。
蓋し、戦勝は空しく坐して贏ち得らるゝものではないのであります。一億国民が、外に在ると内に在るとを問はず、それ/"\の職域において、はたまた日常の生活において、一切を捧げて徹底的に奉公の誠を致すことにより、初めて獲得せらるゝものであります。勝利の鍵はわれ/\自身の手に在るのであります。素朴熱烈なる忠誠心、烈々たる闘魂、旺盛なる滅敵意志こそは戦勝の基礎であります。一億同胞一致団結、最善を尽して決死奮闘するならば、勝利の栄冠は必ずや、我等の上に輝くのであります。
大東亜十億民族と共に
諸君、皇軍将兵は、最近またもやブーゲンビル、ギルバート方面において、また、中支那方面等において、奮戦激闘、見敵必殺、もつて赫々たる戦果を挙げてをるのであります。悠久の大義に生きんとするこれら将兵は、生還もとより期するところではないのであります。また、喜んで家と職とを残して前線に赴き、または学窓を去つて戦陣に馳せ参ずる等、国民各層の熱烈なる闘魂を見るとき、我々は、真に必勝の信念を固くするものであります。
国民諸君、総員戦闘配置にある国民諸君、我々一億同胞は、各々その職域において、悉く戦場に在るの決意を新たにし、戦時生活に徹底し、戦力を増強し、戦争自給の構へを固め、もつて戦争第三年を決勝の年となさんことを誓ふものであります。かくしてこそ我等は、天与の試練を突破して、皇國護持の途を全うすることが出来るのであります。
而して、この我等一億の心は即ち大東亜十億の心であります。大東亜戦争の完遂なくして、大東亜の建設はないのであります。大東亜十億の民族が、悉くその堵に安んじ、共存共栄し得るに至るか、或ひは再び転落して米英の秕政の下に被圧迫民族の苦悩を嘗むるに至るか、正にこの大戦争に懸つえゐるのであります。我等一億同胞は、大東亜十億民族と共に相携へて戦争を完遂し、建設を完成せんことを、更めて固く期するものであります。
こゝに大東亜戦争第二周年記念日を迎へ、国民諸国と共に、二年前の決意を新たにし、いよ/\必勝の信念を堅持して、 御稜威の下、帝国の隆替、東亜の興廃を決すべき大東亜戦争を勝ち抜き、誓つて聖旨に応へ奉らんことを期するものであります。