完勝の一点に総力を集中せよ


 天皇陛下には、畏くも第八十三回臨時議会に親臨あらせられ、
朕カ外征ノ帥ハ萬難ヲ排シテ隨處ニ勇戰奮鬪愈々其ノ威武ヲ發揚セリ而シテ大東亞ノ建設日ヲ逐ヒテ進ミ友邦トノ締盟ハ益々固キヲ加フ朕深ク之ヲ欣フ今ヤ時局洵ニ重大ナリ宜シク億兆一心更ニ總力ヲ發揮シ以テ敵國ノ非望ヲ破碎スヘシ
との優渥なる勅語を賜はつたことは、誠に恐懼感激の極みである。
 東條内閣総理大臣が、議会演説の劈頭において、謹んで聖旨を奉戴し、全力を挙げて決戦下重大なる職責の遂行に当り、速かに戦争目的を達成し、以て聖慮を安んじ奉らんことを深く期するものであることを述べたのは、とりもなほさず、一億国民の承詔必謹の決意を表明したものにほかならない。
 想へば宣戦の大詔を拝してより満二年に至らずして、御稜威の下、かくも偉大なる戦果を拡大し、かくも雄大なる建設を成就し得たことは、世界の歴史に未だかつて見ざるところであつて、万邦をして各々その処を得しめ、兆民をして悉くその堵に安んぜしむる我が肇國の大理想は、歩一歩と実現せられ、多年米英蘭の蹂躙に委せ、その搾取に苦しんでゐた東亜は、今や大東亜のための大東亜となり、道義に基づく新らしき世界建設の先駆として力強き歩みを続けてゐるのである。


 今や日満の交誼日に敦きを加へ、物心両面に亘る緊密なる両国の協力ぶりは、いまさら多言を要せず中華民国については、本年初頭以来、帝国が既定方針に従ひ租界の還付を始め、幾多の案件の具体的措置を進め、日華基本條約の根本的改訂についても具体化を急いでゐたが、十月三十日、日華同盟條約が締結せられ、日華関係はさらに劃期的な進展を遂げた。
 タイ国については周知の通り、先般、北部マライの四州及びシャン聯藩中の二州をタイ国の領土に編入するの措置を了し、両国関係は日に日に緊密の度を加へ、帝国としては同国の興隆のため、全幅の力を致さんことを期してゐるのである。
 ビルマ国は去る八月一日、御稜威の下、大東亜戦争下、大東亜に生誕した最初の国家として独立して以来、千六百万ビルマ民衆の宿望は達せられ、大東亜防衛の第一線において、いよいよ帝国と相携へて健闘をつゞけてをり、比国またこれに続いて十月十四日、めでたき独立の日を迎へたのである。四百年に瓦る他民族の支配より脱し、特に最近四十余年に及ぶ米国の欺瞞と圧制下より解放された千八百万比島民衆は、冬やラウレル大統領の逞しき統率の下に、「比島人の比島」を建設ると共に、帝国と相結んで大東亜戦争の完遂と、道義に基づく大東亜の建設に大いに寄与せんとしてゐる。
 さらにまた、マライ、スマトラ、ジャワ、セレべス等における原住民に対しても、さきの議会で声明された通り、それぞれの民度に応じて政治参与の具体措置が順調に進められ、インドネシア代表は、今や大東亜の民族としての自覚の下に、大東亜戦争完遂のため帝国に対しいよいよ協力の実を発揮してをり、ジャワ、スマトラ等においては、原住民の防衛義勇隊志望者相続ぎ、各種産業の復旧開発、木造船の建造などにも進んで挺身し、治安も極めて良好に保たれてゐる有様である。これらは、彼等が如何に我が公明正大なる施策に浴し、帝国の真意を解して心からなる協力を示してゐるかの証左にほかならない。


 かくの如く、大東亜戦争の共同遂行、大東亜の共同建設の歩みが着々と進められつゝある時、去る十月二十一日、自由インド仮政府の樹立をみたことは誠に意義深いものがある。前号でも詳述した通り、インドにおいては、今や百余年に亘る英国の虐政と英米軍の暴戻とが、つひに空前の食糧飢饉を生み、志ある者は悉く牢獄に投ぜられ、無辜の民衆は飢ゑに泣くといふ世界の悲劇を演じつゝあるのであるが、この秋、インドドの志士スバス・チャンドラ・ボース氏が、かつての英国東亜支配の根拠地、昭南及びビルマより祖国解放を叫び、自由インド仮政府の下に、憂国のインド人は結束して起ち上り、堂々米英に宣戦布告、インド独立戦争を開始したことは、虐政に喘ぐインド民衆に、「光は東方より」といふ大いなる希望を与へると同時に、敵陣営に対して絶大の衝動を与へずには置かなかつた。
 東條総理が声明された如く、「インドの完全なる独立と、自由と、しかしてインド四億民衆の永遠の繁栄こそは、帝国の衷心より念願するところであり、しかもこの帝国のめざすところは、大東亜全民族の心からなる協力を得るは勿論、更に世界人士の志を得るものなること」を信じて疑はないのである。
 かく大東亜の情勢を通観するに、多年米英の野望に塗炭の苦しみを重ね来つた大東亜の諸国家、諸民族を解放せんとする大事業は、極めて堅実な歩みを以て着々としてその其礎を築きあげてをり、帝国が国際信義の上に立つて約束したところは、常に必ず我々の眼前において現実の姿となつて顕はれてゐるのであつて、これ実に八紘為宇の肇國の大理想顕現にほかならない。敵側が何をいはうとも、大東亜の共栄といふこの事実はがん儼として動かすこと出来ないのである。


 敵米国のAP通信社の太平洋戦線特質員クラーク・リーといふ男が、このほど「リ−ダース・ダイジェスト」といふ雑誌に論文を発表して、
 「恐ろしいことながら日本の必勝の態勢は着々と固められてゐる。日本が世界最強の国家になるために必要なことは、その新帝国を開発し、発展させ、且つ自分の指揮下にアジア諸民族を結集するための時間だけだ。
 もし米国が直ちに日本に対し攻撃を開始し、且つ重慶政権が戦争を継続するに必要な援助を受取らなければ、日本軍が占領した広汎な領域を米国が奪回することは出来なくなるかも知れない…日本軍の占領地帯は着々と日本化し、原住民には日本語が数へられてゐる・・・現在の占領地帯を日本軍が抑へてをれば、日本はアジア民族を結集して強力な戦争機関を作り上げ、世界制覇への大道を辿ることが出来よう・・・」
といつてゐるのでも分る通り、この大東亜建設の現実と将来こそ、敵米英の最も脅戚を感じてゐる点であり、必死の総反攻もまたこゝに発してゐるのである。
 即ち、緒戦に惨敗を喫した敵米英は、帝国を中核とする大東亜における人的結束と、その豊富なる資源の戦力化とによつて、帝国の戦力が急速に拡充しつゝある事実に直面し、愕烈として帝国に一大反攻を加へ、一日も早く帝国を圧倒しようと決意するに至つたのである。
 議会における東條総理大臣の戦況報告にもあるやうに、ソロモン、ニューギニア方面など、
 敵の戦法はまづその優秀な航空兵力を以て確実に制空し得た地点に上陸し、飛行基地を急速に設置し、さらここれを根拠として制空範囲を拡大しつゝ、一歩々々作戦を進めて来てをり、しかも上陸後も、わが地上部隊の勇戦を恐れて、その地上兵力を以てする力攻を避け、専ら兵力を増強する一方、その優勢なる航空機及び艦船を以てわが後方補給の遮断を行ひ、わが地上第一線戦力の低下を待つて攻勢をとるを例としてゐるのである。
 我々の当面する戦局が如何に重大であり、苛烈悽愴を極めつゝあるかは、十分、認識を深めなければならないのであるが、我々の今日最も緊要なことは、量においても敵を撃滅するに足る航空戦力の増強であり、制空権の拡大であることは、こゝに更めて説明するまでもない。


 さきに、政府が「現情勢下における国政運営要綱」を決定し、これに基づいて「国内態勢強化方策」を着々と実施してゐるのも、第一の主眼とするところは、舵空兵力をはじめ軍需生産の急速かつ飛躍的増強を図ることにあり、敵米英があらゆる危険を冐し、手段を選ばず、猪突猛進を敢へてしつゝあるこの機に乗じ、帝国が彼等に痛撃を加ふべき必勝の戦力を、最も敏速に、しかも間断なく整備して、以て遺憾なく前戦の要求を充足せんとする積極的な意図に基づくものである。
 政府はかゝる情勢に対応して従来の官庁の伝統、行き懸り等に一切拘泥することなく、いやしくも必要な施策は、思ひ切つて強力にこれを断行することに決意し、今回の臨時議会には生産責任制を確立すべき劃期的な軍需会社法案をはじめ、時局に関し緊急なる法律案並びに予算案等を提出、これが協賛を得て、着々速かに実施を期すると共に、行政運営の決戦化方策として、十一月一日を期して、軍需省、運輸通信省、農商省の設置をはじめとして、行政機構の整備を行ひ、再びその職員の大幅縮減をはかり、また官庁事務の刷新をはかると共に、予算を徹底的に単純化する方針を実施したのである。
 軍務並びに軍需生産に必要なる国民動員の強化についても、今回兵役法を改正して兵役年限を満四十五歳まで延長することにしたほか、学生等に対する一般徴集猶予の停止、徴集徴用の範囲の拡大、普遍化等に対する措置を急速に進め、一億の戦闘配置を強化し、国内防衛態勢の強化についても、防空総本部の設置、防空法の改正等によつて重要都市における人員、施設を疎開する方針を決定し、劃期的前進を途げたことは周知の通りである。


 かゝる国内態勢の徹底強化が、最も迅速に、最も力強く実行されるか否かは、東條総理もいはれるやうに、正に大東亜戦争の成否を決するものであり、その責任は我一億の上にかゝつてゐるのである。
 この責務たるや、決して生易しいものではない。従来の考へ方、従来の行き方では到底成し遂げられるものではない。官も、民も、ほんたうに一億国民ことごとくが、真に一切の惰性を放擲し、一切の行き懸りを擲つて渾身の力を傾倒してこそ初めて果し得るものなのである。
 軍需生産の増強にしても、十分な資材と労力とを揃へて当るのなら、極めて容易であらうが、それは平時のことである。限りある資材と労力と設備を以て、何としても国家の要請に応ずるだけの生産を、今すぐやり途げねばならぬところに、我々の克服すべき戦争の厳しい現実があり、生産に従事する者の発奮すべき御奉公があるのである。
 要は、産業人といはず、一億国民すべての頭の切り替へが必要である。官も民も、長年もち来つた一切の行きがゝりや頭といふものを、一切捨て去つて、ほんたうの裸になつて、そして新らしく生れ変つた気魄を以て出直すことである。前戦では命を賭して戦つてゐる将兵の心持、あの一片の私心もなくたゞ勝つことだけを考へてゐる気持になり切つてかゝらねば、この戦局を乗切ることは出来ない。東條総理は、頭の切替への出来ないやうな者は日本人として取扱はないとまでいはれてゐる。
 最近、敵は「時は敵なり」と盛んにいつてゐるが、我々にとつても「時は敵」である。今こゝでほんたうに国内の決戦態勢を切り替へて頑張らねば、敵の出鼻を撃つことが出来ないばかりか、却つて敵の反抗に名をなさしめる虞れまたなしとしないのである。
 しかしながら、この際、戦局の現段階を転機として、一億官民ことごとくが直ちに戦闘配置につき、いよいよ決意を新たにして、一切を大君のために捧げまつり、真に総力を米英撃摧の一点に集中するならば、この正義の大戦争究極の勝利が我に帰すべきは、我々の信じて疑はないところである。