出陣の学徒に贈る
文部省
晴れの出陣を祝す
大東亜戦争の様相、日々苛烈の度を
加へ、時局いよいよ緊迫し来れると
き、学徒の志気はますます昂揚し、未
曾有の国難に処して一死以て君国に報
ぜんとする尽忠の至誠は、学徒の間に
澎湃として漲つて来た。
この秋に当り、十月二日公布の勅令
をもつて、学徒の在学徴集延期の制度
が撤廃され、十月二十五日より全国一
斉に臨時徴兵検査が執行され、全国の
徴兵適齢の学徒諸君は、挙つて大君
の御楯として御召にあづかるのであ
る。
学徒諸君は、これまで静かに学窓に
学びつゝも、遙かに戦場の第一線に思
ひを馳せ、脾肉の歎をかこつて来たこ
とと思ふが、いよいよこゝに晴れの出
陣の日を迎へるのである。皇國の興廃
の岐れる重大な秋に際し、学徒が銃剣
をとつて勇躍、壮途に赴くことは、男
子の本懐として学徒諸君も必ずや感激
に胸躍らせてをられることであらう。
こゝに満腔の熱誠をこめて、学徒の出
陣を送り、栄えある征途を祝したい
と思ふ。
学徒諸者が大学、大学予科、高等学
校、専門学校等忙おいて、積年学業を
修めて今日の御召に備へ得たことは、
洵に皇國に生を享けた学徒にとつて
無上の光栄である。申すまでもなく、
諸君が学校で受けられた教育は、悉く
これ君国に報いるための準備である。
これまで学窓において学業の修得や
心身の鍛錬に努めて来た諸君の努力
は、そのまゝ戦場にも通ずるであら
う。諸君は、今こそ文武一体の教育の
成果を身をもつて示すべき秋が来た
のである。
将来、皇軍の幹部となり、精鋭とな
るべき諸君は、その精神や気魄の点に
おいても、智能や体力の点において
も、学徒出身として決して恥かしから
ぬやう、特に諸君の自重と奮励とを祈
つてやまない。
入営・入団への措置
文部省では、今回、入営・入団する学
徒の取扱に関し、教育上、特別の考慮
を加へ、諸君を壮途に送るため万遺憾
なきを期してゐる。そのうち主な事項
をあげると、
一、入営・入団に至るまで、本人の便
宜を特に考慮して重点的に教育を行
ふこと。つまり、今後極めて短期間
に出征後のことも考へて、ぜひとも
必要な教育を行ふことになる。
二、入営・入団する学生生徒に対して
は、兵役に服してゐる期間中、休学
の取扱をするとともに、その学年修
了、卒業、復学等については特に左
の取計らひをする。
(イ)大学、大学予科、高等学校、
専門学校(これに準ずる学校を含む)の
学生生徒で、明年九月に卒業でき
るものと認められる者については、
本年十一月に仮卒業証書または仮
修了証書を授け、明年九月になつ
て正式に卒業または修了させる。
右の学生生徒が、武運恙なく除
隊帰還した場合には、これらの学
生生徒の実力涵養のため設けられ
る課程に従つて、補講を受けるこ
とが出来る。
(ロ)明後年以後卒業する筈の学生
生徒に対しては、左の通り取扱ふ。
大学学生については、学籍は現
在のまゝとし、除隊帰還した場合
の復学については、その時期の如
何にかゝはらず、原学年に復して
修学せしめる。
大学予科、高等学校、専門学校
生徒については、本年十一月、当該
学年修了の取扱となし、除隊帰還
した場合の復学については、上級
学年で修学せしめる。ただし、そ
の時期と本人の都合によつて、原
学年で修学させることも出来る。
現下の重大時局に当り、国家の要請
に応へて学徒諸君が身を挺して国難に
殉ぜんとするに際し、かゝる措置をと
るに至つた所以は、申すまでもなく、
諸君が一切を大君に捧げ奉り、心を安
んじて軍務に精励し、皇軍の幹部とし
て渾身の力を発揮し得るやうにとの心
遣りに基づくのであり、いはゞ諸君に
贈る壮行の餞(はなむ)けであるから、諸君はこ
の趣旨のあるところを深く体し、勇躍
征途につき、ひたすら御奉公の誠を致
されんことを念ずるのである。
光栄の日は目睫に迫つてゐる。この
短い期間においても、諸君は学窓にある
限り学業に精励すると共に、一層心身
を錬磨し、如何なる艱苦にも堪へ得る
強健な心身のカを養ふことに努められ
たい。かくて戦争目的達成の日まで、
粉骨砕身、負荷の大任に応へ奉ること
を望んでやまない。