フィリピン共和国誕生す

 大御稜威の下、大東亜戦争下に、先に独立したビルマ国についで、大東
亜共栄圏内に生誕する独立国フィリピン共和国の光栄ある独立式典は、昭
和十八年十月十四日、マニラ市国会議事堂前広場で、厳粛盛大に挙行され
た。
 即ち、この日の朝、わが比島派遣陸軍最高指揮官黒田重徳中将は、バル
ガス比島行政府長官以下を招致し、同日を以てほゞ一年に亘る比島に対す
るわが軍政を撤廃する旨を通達し、これによつて、わが軍政を離れたフィ
リピンは、直ちに新独立国を建設すべく、同日午前九時四十分より、その
歴史的独立式典を挙行したのであつた。
 式はまづ、バルガス長官のわが軍政撤廃に関する発表報告から始めら
れ、ついで独立宣言に移り、新国家の大統領候補者であるホセ・ベー・ラウ
レル氏は、別項の如き独立宣言文を堂々と発表、これが終るや、三色日星
の新国旗が、新国歌「うまし国」吹奏のうちに、老志士アギナルド将軍ら
の手によつて、式場の檣頭高く掲げられ、ついで十時十分、ラウレル氏は
殷々たる祝砲のとゞろくうちに、厳かに大統領就任の宣誓を行ひ、こゝ
に、フィリピン群島を領土とする「フィリピン共和国」は、ラウレル新大統
領統率の下に雄々しく誕生、ラウレル新大統領は直ちに枢軸各国ならびに
中立諸国に対して、その独立に関する正式通告を発した。
 かくして、フィリピンの独立を寿ぐ帝国は、この新国家の成立と共に、
直ちに同国を承認し、且つ同国との間に同盟条約を締結することとなり、
同日、別項情報局発表如く、わが特命全権大使村田省蔵氏とフィリピン共
和国全権委員クラーロ・エメ・レクト氏との間に、日比間同盟条約の署名
調印が行はれた。さらに帝国政府は、新国家との間に、正規の外交関係
を設定すべく、同十四日付をもつて、新フィリピン共和国の首都マニラに大
使館を開設し、すでに特派大使として同国に出張中の村田省蔵氏をもつて
フィリピン駐箚を仰せつけられ、なほ同日夜フィリピン独立に関する帝国
政府声明を発表、帝国はフィリピン共和国と共に大東亜共栄圏の建設なら
びに大東亜戦争の完遂に対し、政治・経済・軍事上について緊密に提携協力
する旨を力強く中外に閘明した。
 思へば、十六世紀の初頭、スペインの治下に入りてより約三百年、スペ
インにつぐアメリカの桎梏下に四十有余年、千八百万比島民衆が、「比島
人の比島建設」を目指して戦つてきたその努力は、万邦をして各々其の所を
得しめんとするわが肇國の大理想の顕現によつて、今こそ酬いられ、強力
な新国家は創成され、帝国と共に大東亜の建設に、世界新秩序の確立に、
邁進することとなり、かくて、新比島は、かつての民族的英雄ホセ・リサー
ルが念願した「南海の真珠」としての光彩を、全世界に輝かし得ることが約
束されるに至つたのである。

 


日比条約に関する情報局発表    (昭和十八年十月十四日)

 フィリピンは十月十四日、独立を宣
言せり。帝国は即日同国を承認し、特
命全権大使村田省蔵をしてフィリピン
共和国全権委員クラーロ・エメ・レクト
との間に、日本国・フィリピン国間同
盟條約に署名調印せしめたり。
 その要旨左の通り
 前文に於ては大日本帝国 天皇陛下
及びフィリピン共和国大統領は、日本
国がフィリピン国を独立国家として承
認することに決したるにより、同国は
相互に善隣としてその自主独立を尊重
しつゝ、緊密に協力して道議に基づく
大東亜を建設し、以て世界全般の平和
に貢献せんことを期し、碓乎不動の決
意を以てこれが障碍たる一切の禍根を
芟除せんことを欲し、これがため同盟
条約を締結することに決したる旨を述
ぶ。
 条約の各条項においては
一、締約国間ニハ相互ニ其ノ主権及領土
  ノ尊重ノ基礎ニ於テ永久ニ善隣友好ノ
  関係アルヘキコト
二、締約国ハ大東亜戦争完遂ノ為政治
  上、経済上及軍事上緊密ナル強力ヲ為
  スヘキコト
三、締約国ハ大東亜ノ建設ノ為相互ニ緊
  密ニ協力スヘキコト
四、本条約実施ノ為必要ナル細目ハ締約
  国当該官憲間ニ協議決定セラルヘキコ
  ト
五、本条約ハ締約国ニ於テ其ノ批准ヲ了
   シタル日ヨリ実施セラルヘキコト
六、本条約ハ成ルヘク速ニ批准セラルヘ
   ク且批准書ノ交換ハ「マニラ」ニ於テ成
   ルヘク速ニ行ハルヘキコト
を約す。
 なほ、本条約には附属了解事項あ
り、大東亜戦争完遂のための軍事上の
緊密なる協力の主たる態様は、フィリ
ピン国が日本国のなすべき軍事行動の
ため、一切の便宜を供与すべきこと、
また日・此両国はフィリピン国の領土
及び独立を防衛するため、相互に緊密
に協力すべきことなるべき旨を定む。

 


比島独立宣言

 自由愛好の精神こそはフィリピン民族の
歴史的発展を通じて意義と目的とを付与さ
れたる一貫せる指導方針なり。フィリピン
陣は三百年にわたりてスペインの治下にあ
り、つゞいて四十有余年におよぶ米国の支
配をうけたるが、この間、和戦を問はず終
始自由獲得の努力および闘争を継続し、幾
多の先烈殉国の士は、その鮮血をもつてこ
の至難なる民族解放の大業完遂につとめた
り。フィリピンが多年にわたり喪失せる自
由を東洋の強邦により回復し得たるは、人
類史上正当適切なる帰結なり。
 大日本帝国は今次征戦の完遂により、大
東亜の諸被圧迫民族を解放せんとする使命
に則り、フィリピンにおける西洋の支配を
排除し、フィリピン国民をしてフィリピン
独立準備委員会を組織せしめ、もつて多年
の願望たりし自由を実現し、独立国として
の憲法を採択し、かつフィリピン共和国建
設のため、必要なる一切の措置を執ること
を得しめたり。吾人はこの独立をもつて
諸方の戦場において身命を捧げたる父祖兄
弟の犠牲のたまものなりと信ずるものな
り。吾人はこの独立をもつて世界各国に
不可欠の権利として自由と独立とを求むる
ことを許し、万邦をして各々そのところを
得しめんとする神意の顕現としてこれを讃
美するものなり。
 今や吾人待望の秋は至れり。植民地的煉
獄の曙夜はあけて、明朗なる曙は来れり。
こゝに吾人は四百有余年前、自由にして何人
にも屈従することなかりし吾人の祖先と同
じく、頭をあげて清澄なる面持ちをもつて
陽光を浴び得るに至れり。国民としての名
誉はこゝに回復せられ、自由の実現による
無限の機会を利用し、左の諸項に努力する
ことを得るに至れり。
一、如何なる外国の干渉をも受くること
  なく、自力をもつて統治すること
一、資源を開発し、以てフィリビンのた
  めのフィリピンの原則の下に、自給自
  足を確保すること
一、政治的隷属による制約または人種的
  差別待遇による迫害を受くることな
  く、各人および国家の自力を発現し、
  かつこれを発展せしむること
一、人類史最善の精華たる先人の思索
  または言行に則り、精神智能を昂進す
  ること
一、東洋本然の姿に還元し、祖先伝来の
  精神に蘇り、神と自然の意志に遵へる
  国家を建設すること 
一、平和自由および道義に基づく共和国
  を建設し、もつて大東亜共栄圏の一環
  として世界新秩序の創造に寄与するこ
  と
一、大東亜諸民族ならびに全人類の共栄
  実現のため、その職分を尽すこと
一、吾人の独立を育成し、もつて当代お
  よび将来のフィリピン民族の幸福の源
  泉として永遠に存続せしむること
 吾人は神明ならびに祖国の自由のため生
命を捧げたる先烈殉国の士の英霊の加護を
祈念し、全世界に対しいまや自由かつ独立
なる国民となり、今後いかなる外国に対し
ても隷属することなく、自由かつ独立なる
国家の権能として享有すべき一切の権限な
らびに権利を行使または保有し、その領土
の防衛と独立の保全のため誓つて一切の資
源、生命および名誉を捧ぐべきことを宣言
するものなり。
          一九四三年十月十四日
           フィリピン独立準備委員長
              ホセ・ベー・ラウレル