世界情勢と我が決戦態勢の強化

イタリア新政府の承認

 日独伊三国条約締結三周年記念日の九月二十七日、帝国は
ドイツと共に新生イタリア国ファシスト共和政府を承認、日
独伊三国の盟約を確認し、戦争完遂の決意を全世界に表明し
たことは、まことに意義深いものがあつた。
 顧みれば九月三日、バドリオ政府は、敵米英の謀略に乗ぜら
れて売国的裏切り行為を敢へてなし、敵陣営に無条件降伏の
単独講和条約を内密調印し、輝かしいイタリアの歴史に一大
汚点を印し、敵米英側はこゝに枢軸の一環崩ると喜んだもの
であるが、それは三日天下にも等しいものとなつた。
 バドリオ政府の背信に憤激したドイツ軍は直ちにローマに
進駐し、バドリオは身を以て逃れ、反枢軸側に投ずるの醜を
さらし、反枢軸側が引渡しを要求してやまなかつたムッソ
リーニ統帥は、ドイツ親衛隊のあの劇的な冒険によつて、
九月十二日救出せられ、十五日には早くもムッソリーニ統帥
の名を以て共和ファシスト党の結成が宣言され、対米英戦争
完遂の決意は表明されたのであつた。
 爾来、ムッソリーニ統帥はドイツ大本営にヒトラー総統を
訪問し、新事態に処する政戦両略について協議を遂げてゐた
が、九月二十三日、新内閣を組織し、自ら主班に就任し、こゝ
に新たにイタリア国ファシスト共和政府は成立し、ドイツ国
外交機関を通じて正式に通告して来たので、帝国政府は二十
七日、承認方を向じくドイツ国外交機関を通じて通告するに
至つたのである。
 日独両国政府は、九月十五日、すでに共同声明を発して三国
条約の不変を宣言したが、ムッソリーニ政府の成立により、
同政府がこれを継承することになり、名実ともにこの三国盟
約は再確認されたわけであつて、敵米英側の枢軸離間の夢は
破れ、盟邦満洲国、中華民国国民政府、タイ国、ビルマ国、ハ
ソガリー国をはじめ、東亜及び欧州の盟邦諸国も相次いでイ
タリア新政府を承認し、枢軸の紐帯いよいよ固く、米英撃滅
に邁進してゐるのである。

敵の欧州反攻の態勢

 かくの如くムッソリーニ新政府の成立、各地におけるドイ
ツ軍の善戦等によつて、反枢軸側のイタリア攻勢は挫折した
かに一応みえるが、決して情勢はさう簡単ではない。
 米大統領ルーズヴェルトは、去る九月十七日、議会に送つ
た教書において、
 「イタリア半島においては今後更に困難且つ高価な戦ひ
を覚悟せねばならない。英本土を基地とし単に一つの方向
だけでなく、多数の方面に圧倒的な兵力と整備を以て反攻
を開始する準備を整へねばならない。」
といひ、またドイツは「欧州要塞に屋根をつくることを忘れ
てゐる」と称して空襲強化をも示唆してゐるのである。
 最近敵はフランス海岸線方面の空襲を強化し、また、英艦隊
による示威を行つてをり、イタリア方面において、敵軍のサ
ルジニア、コルシカ島への進攻故、エーゲ海、ドデカネーゼ群
島方面への上陸あり、またアドリア海方面には英第八軍やゲ
リラ部隊の蠢動あり、バルカンに脅戚を与へんとしてゐるも
ののやうである。彼等の狙ひとするところは、自己の軍事
的、政治的実力を誇示するととによつて、枢軸陣営並びに中立
国の動揺をはかるにあることは、ルーズヴェルトが欧州の枢
軸諸国に動揺の兆があるなどとデマを飛ばしてゐることによ
つても想像がつかう。勿論、ドイツはこれ等に対して万全の
陣を布いてゐることはいふまでもない。
 一方、独ソ戦線、即ち東部戦線においては、敵側は盛んに
赤軍の優勢を宣伝してゐる。事実、七月上旬以来、赤軍は攻勢
に出で、戦線はオリョール方面から現在のドニュプルの線に
まで移動してゐるが、これはドイツ軍が防衛態勢を強化する
ために、戦線を短縮しようと計画的に撤収を行つたともみら
れるのであつて、この間、ソ聯の戦力に与へた消耗は大なるも
のがあり、兵站戦の延長はソ聯にとつて相当苦しい結果にも
なつてゐろやうである。
 ともあれ、冬季を間近に、北はスモレンスク方面から、南
は黒海に至る現在の東部戦線こそ独ソが死力をつくし、国
力を傾けての決戦場であり、これをめぐり、或ひはイギリス
の、或ひはアメリカの懸命の外交諜略戦も火花を散らして展
開されてゐるのであるから、我々は盟邦諸国の健闘を祈りつ
つ、情勢の推移に注目せねばならないのである。

大東亜の共栄に敵焦慮の反攻

 眼を転じて太平洋並びに東亜の様相を概観しよう。大東亜
戦争の緒戦以来、大東亜における我が有利なる戦略的態勢は
すでに碓立され、資源の開発に、東亜の開放放に、大東亜共栄
の実は着々と具現されてゐることは、今更説明を要しないの
である。即ち、九月二十五日、ビルマのラングーンにおいて
は、領土に関する日本国ビルマ国間条約の調印が行はれ、さ
らにタイ国領土に編入を承認したケントン、モンバハ両州を
除くシャン諸州、カレンニ諸州並びにワー地方をビルマ国の
領土として編入することに帝国は承認を与へ、大東亜建設に対
する帝国の道義の精神を事実を以て世界に顕示したのである。
 また、フィリピンにおいては、九月二十五日、第一次国民
大会が開かれ、新フィリピン大統領候補者として独立準備委
員長ホセ・ビー・ラウレル博士が当選し、同氏をはじめ独立準
備委員の一行は九月三十日帝国の招きに応じて入京、フィリ
ピン独立の準備は着々と進めめられてゐる。
 かくの如く大東亜の建設は着々と進捗し、我が戦力に寄与
するところもすでに大きいのであつて、敵アメリカのルーズ
ヴェルトでさへ、さきの議会教書において、
 「日本軍は千島から委任統治領を経てソロモン群島に至
り、旧蘭印からマライ、ビルマ、支那にわたる尨大な戦戦
に確乎たる地歩を確立した。」
と率直に認め、それだからこそ、「この防衛環を打ち破るた
めには単に一地点だけでなく、数地点において反撃し、且つ
反撃を継続しなければならない」といつてゐるのである。
 かくして、南太平洋方面は、基地争奪をめぐつて熾烈なる
決戦が彼我の間に依然として継続されてゐるのである。最近
ニューギニア方面においては、敵はラエ地方ホボイ、フィン
シハーヘンに上陸し来り、同方面の我が軍を挟撃しつゝあ
り、プーゲンビル島のブイン方面への敵空襲の如き、三日間
に延四百九十七機といふ有様である。敵はさらに翼を延ばし
て我が占領地帯を脅かさんとしてゐるのである。勿論、わが
精強なる陸海軍は、かゝる反攻とその都度撃退するのみな
らず、機をみては積極戦法に出てゐるが、こゝでものといふ
のは飛行機の数である。一にも、二にも飛行機と補給戦の
重大要素たる船の増強が先決問題である。それはほかでもな
い、実に我等銃後国民全体の使命といふべきである。
 敵はまた、地中海の開放が、東亜における戦争に対し反枢軸
の非常な貸方となつてゐるといつて、インド洋方面へ艦隊そ
の他の回航を宣伝し、マウントバッテンを総司令官とする東
南アジア司令部をニューデリーに新設、セイロン島を基地と
して空・海・陸よりのビルマ奪回を豪語してゐるが、一方
スマトラ方面への海上作戦を企図してゐるとの情報もあり、
我々の警戒を要するところでもある。
 更にまた、最近は支那大陸における米空軍の増強もみら
れ、太平洋上よりする航空母艦を以てするわが本土空襲など
と合せて、十分警戒を要する点であつて、との点からして国
土防衛の急速な拡充強化が要請されるわけである。

一路決戦態勢の実行へ

 すでに延べたやうに、我々には緒戦における大戦果に基づく
必勝の戦略態勢があり、肇國以来三千年、世界無比の國體に
よつて培はれて来た必勝の信念は、脈々として一億国民の
中に盛り上つてゐるのである。たゞまだ足りないものといへ
は、国内態勢の徹底的強化あるのみであつた。これさへ出来
れば、我々の勝利また期して待つべきものがあるのである。
 この国内決戦化具体方針を明確にしたのが、去る九月二十
二日発表された「国内態勢強化方策」である。これが実施に際
しては、一切の行掛りに拘泥することなく、新らしい出発点
に立つて格段の決意の下に必ずこれを断行せんとするもので
あることを、登場内閣総理大臣はその夜の放送においても力
強く表明されたのであるが、発表後六日目の二十八日、早く
も軍需省創設は決定され、急速果断なる措置はとられた。
 これは国力を挙げて軍需生産の急速措置を図り、特に航空
戦力の躍進的拡充をはかるために軍需生産を計画的、かつ統
一的に決行する目的を以て設置されるものである。これに伴
つて現在の企画院及び商工省は廃止されることになり、十一
月一日開庁を目途として、至急準備を進めてゐるのである。
 このほか行政運営の決戦化についても、官庁執務の決戦化
が実施されたのをはじめ、各種の劃期的な措置が大英断を以
て着々と実施に移されることになつてゐる。
 国民動員徹底に関する措置も、更に強カに実行に移される
筈で、国内防衛態勢の徹底強化のためには、官庁の地方疎開
に関する実行本部もすでに組織され、出来るだけ速かに、且
つ強カに実施されることになつた。
 かゝる決戦態勢には、当然法律案並びに予算案等の議決を
必要とするものがあるので、政府は来る十月l二十五日臨時議
会を召集、三日間の会期を以て、現情勢下における国政運営
に伴ふ法律案及び予算案を提出し、議会を通じて政府の戦争
完遂に対する牢乎たる決意を中外に表明することになつた。
 今回の措置は、正しく国内態勢における全面的な切り替へ
であり、根本的な強化であり、わが有利なる戦略態勢を以て
敵を押し切らんとする毅然たる決意に発し、これに対する万
全の構へにするものである。大東亜戦争勃発のあの日、大詔
をいたゞいて起ち上つた感激と決意とを新たにして、官民真
に一体となつて、この決戦態勢の強化の実をあげるならば、
我々の勝利は確保されるのである。今こそ一億国民が一人残
らず総員戦闘配置に急ぎ、完勝の一途に驀進する秋となつた。
 それには容易ならぬ困難を伴ふであらう。しかしやれば
必ず出来るし、またやりとげねばならない。戦争は身近にあ
り、戦勝の道は我々自らの実践にかけられてゐる。この際徹
底的の頭の切り替へを行つて、我ら一億は、たゞ勝ち抜くた
めに一切を捧げようではないか。

(週報第364号)