男子の従業禁止と女子動員  厚生省


 「国民皆働」は、戦力増強を至上命令とする現決戦下、我ら一億の逞しき合言葉となつてゐる。我らは、老いも若きも、男も女も、そのすべての力を捧げて、大東亜戦争を勝ち抜くために働き抜かねばならない。
 しかし、戦力増強のためには、単に一億が皆働するのみで事たり得るものでは決してない。我ら一億がそれぞれ適材適所を得て、欣然としてその職場に敢闘するとき、そこに初めて真の戦力が最高度に発揚され、量を誇示する敵米英を、生産戦においてもまた撃砕し尽し得るのである。
 今次の男子の従業禁止、女子勤労挺身隊の結成は、十八年度当初計画に基づき、さらに最近の情勢に応じた具体策であり、過般の「国内態勢強化方策」に基づく国民動員は、更に徹底的に行はれることになつてゐるのであつて、新らしき職場に挺身すべく選ばれた男女勤労戦士の責務こそは、まことに重大であるといはなければならない。

日本男子の底力を

 毎日の新聞やラジオでご承知のやう
に、南に北に敵米英の反攻は執拗を極
めてをりますが、この不逞極まる敵の
企図を撃砕するには、銃後における重
点産業の生産力拡充、とくに現戦局の
様相からいつて、航空兵力の飛躍的埠
強が絶対に緊要であります。そして、
このために、基礎産業や航空機関係の
産業に必要な勤労者は尨大な数に上
り、その需要は日一日と増加する一方
であります。
 これに対応して政府では、既に重要
産業部門へ勤労者を優先的に充足する
やう、勤労者の確保に万全を期してを
りますが、決戦段階に即応し、さらに

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一層、国民動員を徹底することが絶対
に必要になつて来ました。
 現在の国内勤労態勢をみますと、
女子の動員は、すでにそれぞれ適当な
施策を行つて、着々と強化されてはを
りますが、それでもなほ、相当多教の
遊休婦女子が無為に日を送つてゐる現
状は、大いに考へなければならぬこと
であります。
 周知の通り、いま盟邦ドイツは勿論
のこと、遊ぶことを当然のやうに考へ
てゐた敵米英の婦女子までが、紅白粉
を投げ捨て、生産戦に挺身してゐるこ
とを思ひますと、国内のこれらの遊休
婦女子は大いに反省せねばなりません
し、また銃後で敢闘してゐる同性達に
対しても顔向けが出来ない筈でありま
す。
 従つてこの際、女子に適した職種
は、すべて女子に当らせ、国内から遊
休婦女子を一掃するやう、女子の総動
員態弊を更に一段と強化することが何
よりも肝要であります。
 ところで一方、男子についてみます
と、働いてゐない男子は一人もないと
いつてよい程でありますが、女子で十
分できる軽易な職場に、なほ多数の青
壮年が従事してゐますことは、まこと
にもつたいない話で、これらの人達は
進んで男子でなくては役に立たない重
工業、化学工業方面に進出し、自分の
持つてゐる力を十二分に発揚すべきで
あります。
 このやうにして、私どもが男女それ
ぞれの特性を活かして職場で敢闘すれ
ば、戦力は目にみえてグングンと増強
されることは必定であります。
 このため政府では、去る六月十八日、
労務調整令を改正して、厚生大臣また
は地方長官(東京都は警視総監)は、特定
の業種・職種を指定し、男子従業者の雇
入、使用、就職、従業を禁止・制眼す
ることにしましたが、九月二十三日、
第一次として十七の職種を指定し、
禁止当日に満14歳以上40歳未満の
男子従業者は、これらの職場から他の
職場、とくに軍需産業へ転換し、その
後へは主として女子を進出させること
になりました。

十七の禁止職種

 こんど指定された職種は、簡易な事
務的職業、軽易な商業的職業、娯楽・
接客的職業の中から
(イ)専ら女子の職業分野と認められる
   職種
(ロ)女子または四十歳以上の男手で代
   替できる職種
(ハ)戦時下、とくに男子の従業を禁止
   すべき職種
を調査して決めたもので、次ぎのやう
なものであります。
一、事務補助者(昭和十九年三月十五日以降禁止)
 一般事務の補助をなす者で、主とし
て左記の一つに該当する業務に従事す
るもの
1 文書の受付、発送、仕訳
2 文書、カード、図書、資料、その他こ
  れに類するものの浄書、謄写、複写
3 文書、カード、図面、図書、資料そ
  の他これに類するものの分類、整理、
  出納
4 所定の方法形式による伝票、カード、
  帳簿の記載
5 所定の方法形式による伝票、帳簿、
  諸計表等の集計または計算
6 伝票、証票、カード、乗車券、諸計
  表その他これに類するものの照合検査
7 所定の方法形式による証票、案内
  書、通知書、請求書、報告書、諸計表
  等の記載
 つまり官公署、会社、銀行、工場、
学校、病院、事務所等で一般事務に従事
する者のうち、補助者として簡易な機
械的な事務は、男子の従業を禁止する
ものであります。従つて企画、立案、
文書起草、決裁、対外交渉等のやうに、
相当智能的判断を要する事務に従業す
ることは差支へないわけで、また、従
業を禁止された業務の従事者を監督指
揮する者で、その業務に直接従事しな
い者も含まれません。
 なほ、事務補助者を例示しますと、
次ぎのやうな業務に従事する者が該当
します。
(1) としては、往復文書、新聞、雑誌、一
  郵便物の受理、発送、およびその記帳、
  各部課または個人別の仕訳等の業務
(2) としては、筆写およぴタイプライ
   ター、謄写版、複写紙等の機械的方法に
   よる文書、カード、図書、資料等の浄
   写、複写、謄写の業務
但し図面の複製、例へば写図工、青写
真の作成に従事する者は男子でも結構
です。