第三四〇号(昭一八・四・二一)
   敵の宣伝謀略を破摧せよ
   軍人援護は如何に行はれてゐるか   軍事保護院
   改正された軍事扶助法
   傷痍軍人の職業保護
   遺族、家族の相談指導
   マユ河畔に英印軍撃滅        陸軍省報道部
   南太平洋の航空決戦         大本営海軍報道部
   隣組の婦人防空体制
   「頼母しい戦争生活例」当選発表
   大東亜戦争日誌

敵の宣伝謀略を破摧せよ

 イギリス首相チャーチルは、去る三月二十一日、全世界
に向つて放送迭して
 「恐らく明年或ひは明後年、われ/\はヒトラーを打倒する
ことが出来るかも知れない。即ち、彼と彼の悪の権力とを打倒
し、死と芥と灰とに帰してしまふことが出来よう。この場合に
は、一切の必要な増援部隊と器材とを、地球の反対側に持ち込
んで、日本帝国を膺懲し、支那を長期に亘る苦難から救ひ出
し、われ/\の領土並びに盟邦オランダの領土を解放し、濠洲
とニュージーランドとインドの海辺から、日本の脅成を、永久に駆
逐しなければならない。
 以上の想定を基礎とし、勝利を収めた三大国、即ち、英帝
国、合衆国並びにソヴイエト・ロシアが、即時、将来の組織につい
て協議を開始することは、われ/\の希望するところとなら
う。まづ犯罪人の巨頭と共犯者を処罰し、有罪諸国家を効果的
に武装解除し、かつ引続き武装させず、さらに戦禍の巷と化した
被占領各国に対し、これらの国々が、掠奪を受けた機械的資源
並びに藝術的宝物を返してやらねばならない。聯合国を包括
する代表的機構の下に、欧州会議とアジア会議とが設置される
のが想像できよう・・・・・・」
と毒々しい語気をもつて我が盟邦ドイツを誹謗し、戦後の
夢を描いて、世界の人々に大きな錯覚を起させようとした
のである。
 次いで四月八日、イギリス外相イーデンも下院に登院し
て訪米報告を行つたうちで
 「戦後計画の必要は、米英両国の双方により、等しく認識され
てをり、その概貌についても極めて近似したものである・・・米
英両国間の友好関係は、現実的な基礎、即ち世界平和の維持を二
十牢毎に繰返されるやうな、破滅的世界紛争の防止の上に築
かれねばならない。われ/\は、力によつてドイツ、イタリア及び
日本の何国も、再び彼等の侵略を繰返すことが出来ないやうに
させる必要を痛感する」
とも述べて「戦ひの勝利は分り切つてゐる。もう米英陣営
間では、戦後の経営について具体的な相談をしてゐるのだ」
といはぬばかりの印象を与へようとし努力してゐるかのや
うである。
              ◇
 しかし、かゝる敵側の謀略宣伝が、現実に即しては、如何
に意味なきものであり、自家撞着も甚だしいものであるこ
とか。大東亜戦争以来の相次ぐ敗戦を挽回しようと、或ひ
は太平洋に、或ひは大西洋に必死の反攻を企てゝゐるが、
南太平洋戦線における数を恃んでの敵の反撃も、わが精鋭
に阻まれて徒らに消耗を重ね、印緬国境方面では、ビルマ
奪回の夢もはかなく英軍旅団長が、わが軍の俘虜となる
などの敗戦の憂目に遭ひ、さらに欧州戦局も、彼等に決し
て楽観を与へず、むしろ戦争の痛手を日一日と深めつゝあ
る現状である。
 しかもなほ、彼等がかゝる戦後の夢物語を意識的に宣伝
するのは何故であらうか。
 まづ第一に考へられることは、彼等の陣営内における自
国民の人心収攬と戦意の昂揚とである。戦争が漸く長期に
旦るに従つて、国民生活も規正を受け、イギリスは勿論、ア
メリカの如きも、自動車は容易には使へなくなるし、食料品
も、砂糖、コーヒー、壜罐詰、乾燥食糧品に次いで、肉、
チーズ、バターなども配給割当制になつたので不平も出て
来てゐる。
 もと/\我々と異つて、敵国民は、はつきりした戦争目
的を把握してゐないのであるから、何か餌で釣つてゆくよ
り致方なく、こゝに「勝利だ、戦後経営だ」といふお題目が
生れ出たわけである。
              ◇
 一口に米英ソ陣営といつでも、お互ひの利害は相反し、
戦後のポーランドの領土問題ともなれば、英ソが早くもい
がみ合ふ始末であるから、彼等が称へる戦後世界も、文章
にすると美しいが、現実には果しない泥試合を演ずること
であらう。
 しかし、かゝる戦後宣伝に敵が大きな期待をかけてゐる
のは、第三国並びに敵国に対してであることを知らねばな
らない。
 「米英の勝利は既定事実だ、今のうちに渡りをつけてお
いたらどうだ」と、第三国の心を誘引すると同時に、敵国
に対しては、「そろ/\考へてはどうだ」と呼びかけて、戦
意を挫折させようとする宣伝なのである。
              ◇
 敵がもつとも狙つてゐるのはこの点である。すでに我々
の周囲には、敵の宣伝謀略の弾丸が打ち込まれてゐる。敵
の豪語する日本空襲にしてもさうである。太平洋艦隊司令
長官ニミッツは、「われ/\は日本の工業中心地を吹き飛ば
す準備が出来た」と叫び、陸軍次官。パターソソは、「日本お
よび日本人は、近く本当に戦争の痛手を骨味に感ずるとき
が来るだらう」と威嚇してゐるのも、自国陣常内の戦意を
昂揚させると同時に、われ/\に対しては、事前に恐怖心
を起させようとしてゐるのである。
 「敵磯は必ず来る」、われ/\は勿論この覚悟で、あらゆ
る防空準備を整へ、軍および政府も国土防衛に万全の用意を
行つてゐるのであるが、或ひは来るべき空襲の惨禍を描い
て、「来られたら手がつかない」などといふやうな弱気をはく
者が、かりにもありとすれば、戦はずして敵の謀略弾にたほ
れたものといはねばならない。ドイツの空襲に脅えるニュー
ヨーク市民を笑ふ前に、先づわれ/\が完戦必勝の決意を
固めてかゝらねばならない。
 敵は、われ/\の心に少しでも乗ずべき隙があれば、鋭
くこゝを突いて、銃後の生産と生活とを混乱させ、いはゆ
る後方攪乱をはかり、戦意を失はしめようと虎視眈々とし
てゐるといふことを、無寐(むび)に忘れてはならない。
              ◇
 戦ひには前線銃後の区別はない。「国内も戦場」といふ言
葉があるが、枢軸国と反枢軸国家群とが死力を尽して世界指
導の決定権を争つてゐるこの熾烈な戦ひにおいては、むし
ろ「国内こそ戦場」であるともいへよう。前線将兵のあの忠
勇無雑な心を心として、一億国民の一人々々が、必勝の信
念と堅持し、飽くまで強靱な闘志を以て戦ひ抜かねばな
らないのである。
 戦前まで日本にゐた米大使グルーは、帰国後盛んに講演
行脚をやつて、日本の内部結束の強さを説き、つねにアメリ
カ国民の自己満足的な楽観を戒めてゐるば、去る三日も或
る晩餐会の席上、
 「現在の総力戦においては前線銃後の区別はない。唯一つの犠
牲と献身とがあるのみである。ドイツ人は米国人の頽廃を当て
にしてゐる。日本人は米国人を戦争の重圧に堪へぬ国民と看
做してゐる。われ/\は敵の攻撃の矢面に立つてゐるわけで、
国民の一人といへども、時間働きの兵士であつたり、臨時の愛
国者であつてはならぬ。」
と米国民を戒めてゐる。
              ◇
 かくして、今世界の国々は、敵も味方も、真に戦争の実
相に徹して、真剣に勝利の日まで戦ひつゞけようとしてゐ
るのである。ヒトラー総統の喝破したやうに、この戦ひは
亡びるものと、残るものの二つよりないのである。肇國以
来幾度か国難を突破した大和魂は、今こそその戦力を最高
度に発揮せねばならない。
 「我等、七生報國ノ實踐ヲ期ス」との絶筆を残して、還ら
ぬ壮途についたあの第二回特別攻撃隊の尽忠壮烈な十勇士
を想ふとき、銃後の生活において、われ/\はまだ/\多
くの反省すべきものがあらう。
 こゝに一万九千九百八十七柱の新祭神を祀り、靖国神社
臨時大祭の行はれるとき、散華された護国の英霊に応へ、
その心を心として、軍人援護の完璧を期すと共に、われわ
れは職域を通じ、生活を通じて粉骨砕身、己を空うして君
國に御奉公の誠を至すことを誓はねばならない。
 そしてまた、苟くも敵の宣伝謀略に乗ぜられて、必勝
の信念に
動揺を生
じたり、
国内にデ
マを撒布
伝播し
て、国民
の足並み
を乱すや
うなこと
は厳にい
ましめね
ばなら
ぬ。