第三三五号(昭一八・三・一七)
   戦局と今後の決意
   新制師範教育問答          文 部 省
   日仏印経済協定の調印
   大東亜要員の錬成          大東亜省
   最近の米蒋関係
   大東亜戦争日誌

  戦局と今後の決意

 去る三月八日の大詔奉戴日に、二月十六日以降三月五日までにソロモン群島及びニューギニア島方面において、わが陸海軍部隊は、敵飛行機百十二十機撃墜、十一機撃破、潜水艦四隻撃沈といふ赫々たる戦果をあげたことが大本営から発表されました。それと同時に、わが方も駆逐艦二隻、輸送船五隻沈没、飛行機七機自爆及び未帰還といふ相当の損害を出したことが明らかにされたのであります。
 この事実は何を物語るものでありませうか。先づ第一に、あのガダルカナル島及びニューギニア島ブナ方面からわが軍が転進して以来、南太平洋戦線が平静に復したとでも思つてゐた者があつたとすれば、大変な思ひ違ひであつて、激烈な航空戦が、あの南海上空に来る日も来る日も展開され、前線将兵はひたすら米英撃ちてし止まむの一念に燃えて、一身をなげうつて、奮戦をつゞけられてゐるといふ厳然たる事実であります。
 わが方は転進作戦によつて、ソロモン郡島のムンダその他の前進航空基地をはじめ、ニューギニア・チモール島一帯にわたる第一線から、連日の如く敵の基地に猛爆を加へ、或る時は遠くニューヘブライズの敵基地にまで鵬翼を伸ばして敵の心臓を寒からしめてゐるが、しかしながら敵の反撃もまた最近とみに熾烈を加へて来てゐるのであります。
 即ち敵アメリカは数回に亘りソロモン方面に反攻して来ましたが、いつもわが航察部隊や艦艇の活動によつて大損害を受けたので、最近ではまづ制空権を確保しようと、どし/\航空兵力を補給増強し、ガダルカナル島を始め、モレスビー、ポート・ダーウィンなどの前線基地から、わが第一線基地や艦船に対して、絶えず空襲を行はうとしてをります。これに対しわが方は、或ひは航空決戦をいどみ、或ひは地上砲火を以てこれをむかへ、この大本営発表のやうな戦果をあげたのであります。
 しかし、敵が依然として生産力をたのみにしてかゝる攻勢を企図してゐる以上、私どもは次ぎ/\にこれが出鼻を挫き、さらに敵基地を潰滅させるためにも、当面急速な航空兵力の増強を必要とするのであります。
 空からの敵の攻勢は決して南方にとゞまるものではありません。北アリューシャン方面でも敵は前進基地を設け、熱田、鳴神両島の奪還をめざし、さらにわが本土を狙はないとも限らないのであります。
 また一方、支那本土における米空軍も拡張され、重慶から特派された宋美齢はアメリカでルーズヴェルトに会つて、支那大陸からの日本空襲を提訴してゐるやうであります。
 日本が国民政府、満洲国、仏印、泰とよ緊密に結び、世界の宝庫たる南方占領地の建設を着々と進め、大東亜共栄圏の基礎を固めることが一番恐ろしいとは、敵米英重慶陣営がしば/\公言してゐるところであります。重慶もこゝを強調してアメリカに援蒋を迫り、アメリカも自らの生産力が衰へない今のうちに、対日反攻を行はうと徒らに焦躁に駆られてゐるのであります。
 かうしてで米英の戦争指導者は、或ひは戦後世界の夢物語をでつち上げて世界の第三国を自己の陣営にひきつけようとしたり、或ひは、
 「われ/\の目的は、太平洋を島から島へ攻め上り、同時に支那から日本を駆逐して最終的に日本軍を打破することである。太平洋戦線の最も重要な作戦は支那並びに日本自身の上に展開されるであらう…」などと、わが方に対しても威嚇宣伝をやつたりしてゐるのであります。
 私どもは、敵のかゝる宣伝に乗ぜられないだけの心の用意を必要とするのは勿論でありますが、敵のかゝる揚言を爆砕するだけの現実的な準備が必要であります。現在にあける有利な戦略的態勢に物を言はせて、各方面からの敵の反攻企図を抑へ、さらにわが方より攻勢に出るためには、航空機や艦船をはじめとする軍備の拡充、軍需品の増産など、戦力増強が国家の絶対要請であり、焦眉の急とをなてゐるのであります。
 政府が今議会に提出しや戦力増強に関する多くの重要法案や予算案は、議会の積極的な協賛によつていづれも可決され、すでに次ぎ/\と公布され、実施にうつされてゐますが、今後における思ひ切つた戦争重点政策は、一般国民生活にも重大な影響を与へることでありませう。
 例へば、鉄鋼、石炭、軽金属、航空機、造船の五大産業に重点をおいて、資材、資金、労務、動力、輸送等の配分を行ふといふことも、これが実施に際しては、産業再編成上にいろ/\困難な、しかし戦争を勝ち抜くために甘んじて克服しなければならぬ重大問題を含んでゐるのであります。
 いま国民の皆さん方には、二百三十億貯蓄の最後の仕上げや、供米、供木献木、金属回収などに非常なご無理を願つてをりますが、家庭の金属回収なども、目標の十倍を供出した県もあるといふ程で、戦力増強への国民の赤誠を如実に示してゐる有様は、まことに頼母しい限りであります。
 しかし、これらにつきましても、例へば或る方面に対しては金属の非常回収を行ふなど、今後さらに一段ときついお願ひをせねばならぬことと思ひます。これも皆戦争完勝のための現実的な要請にほかならないのであります。
 要するに、憎むべき敵米英を撃つためにほかならないのであります。勝つためには生活の多少の不自由など問題でないわけですが、それが嫌なら、かくあらしめてゐる敵を憎み、敵を撃つ決意を固めるばかりだと思ひます。
 「撃ちてし止まむ」の精神は、つねに私共の心中に燃えさかつて、前線においても銃後においても、あらゆる困難を克服して戦ひの勝利をもたらす国民的信念であり、行動の原動力でなくてはなりません。