第三三三号(昭一八・三・三)
   昭和一八年度予算の概要       大 蔵 省
   二百三十億貯蓄もあと一息      大 蔵 省
   日露戦争と大東亜戦争        陸軍省報道部
   撃ちてし止まむ
   大東亜戦争各方面の戦況       陸軍省報道部
   「頼母しい戦争生活例」当選発表

 大東亜戦争各方面の戦況   陸軍省報道部

 最近の世界戦局を大観すると、日独
伊は、開戦以来の巧妙な電撃作戦によ
つて必勝不敗の基礎態勢を確立し、欧
州及び東亜の要域を作戦根拠地とし
て、物博地大を誇る米英を対子とし
て、堂々長期戦を戦ひ抜き得ることに
なつた。敵米英はこれを坐視するに忍
びず、わが建設戦を妨害するとともに
不利な態勢を挽回せんものとあせり
出し、これが東西の反撃作戦となつた
のである。
 即ち東亜においては、北の方アリュー
シャン、南はビルマ、ソロモン方面の
反撃作戦、欧州戦争における北阿方面
の反撃作戦、西阿方面の上陸作戦等が
これである。しかし、これ等はすべて
わが方の勇戦奮闘によつて、一つとし
てまだその目的を達したものはない。
 以下、各方面の戦況を略述しよう。

戦況の概要

アリューシャン方面

 昨年六月わが一部隊がアリューシャ
ン群島の西端にあるアッツ、キスカの
両島を占領して以来、敵は専ら飛行機
による爆撃、およぴ潜水艦によりわが本
土との補給線を脅かすことに努めてゐ
たが、冬期天侯不良のため漸次平静に
帰してゐた。しかるに敵は一月以来
漸次積極的になつて来た。
 また昨年三月頃から着手されたアラ
スカ公路は十一月末概ね完成したも
のゝやうである。全長約二千八百キ
ロ、米軍当局がこの方面への積極的な
企図遂行の現はれとして注目すべき
であらう。敵ばかりでなく、寒さと強
風と濃霧とも戦ひつゝ、北辺を護るわ
が将兵の辛労は察するに余りある。
 ベーリング海峡を横断して行ふ米ソ
の定期航空路も、既に実現の域にまで
進んでゐるものと考へられ、将来米国
のソ聯または重慶援助には、西阿方面
への空輸よりも、寧ろ、この方面を利
用するのではないかとも考へられ、今
後、北方は逐次その重要性を増すもの
とみられる。

  満ソ国境方面

 満ソ国境方面は、その後、大なる変化
はない。依然として狙撃師団二十数ケ
師、飛行機、戦車各々一千台以上のもの
が駐屯し、戦備おさ/\怠りない情況
である。ソ聯邦側では独ソ戦局が切迫
せる折柄、厳に日ソ紛争の惹起を恐
れ、こゝ暫くは却つて平穏になつてゐ
るといへる。関東軍は待つあるを恃む
万全の態勢を整へてゐる。

   支那大陸戦線

 重慶その後の情勢も余り大した変化
はないものといへる。依然として三百
ケ師三百万の兵力を有し、戦力の保持
増強、経済の自給自足、米英ソとの連絡
強化に努力してゐる。経済方面は海外
との連絡が遮断され、日に/\窮乏し
つゝあることは、その物価の暴騰によ
つても明らかである。
 即ち昨年末、約五十倍の物価昂騰で
あつたものが、今では百倍にまで達
してゐる。重慶当局の一番の悩みは、
この経済苦況を如何にして打開するか
にある。昨年新たに着手された西北方
面の開発工作は、その後順調に進展
し、概ね所期の目的を達してゐる模様
である。
 現在の援蒋状況をみると、米国がイ
ンドを経て行ふ航空機輸送力は明らか
ではないが、大体月教百トン程度のも
のではないかと思はれ、西北ルートに
よる交易も若干ある模様である。支那
大陸今後の情勢において着意すべき
は、米空軍力の増強である。現在、重
慶空軍は約百五十機程度であらう。別
に少将チェンノルドが指輝する米空軍
部隊は、重慶奥地を根拠地として戦
備を固めつゝある。昨年の夏、我が支
那派遣軍の作戦によつて破壊せられた
玉山、その他の飛行機を復旧整備中で
ある。我が支那派遣軍飛行隊は、しば
しばこれに攻撃を加へ、敵の企図破摧
に努めてゐる。
 支那派遣軍は去る二月十三日から、
重慶軍撃滅を期して春季進攻作戦と開
始した。なかにも中支那方面では、十
三日から魯蘇戦区第八十九軍主力に対
し、江西、湖北、湖南方面では十五日
から第六戦区の敵に対して開始された
作戦が大きいものである。
 魯蘇戦区の作戦は、国民政府の和平
地区内に残存して命脈を保ち、わが後
方攪乱に蠢動しようとしてゐた敵の
出鼻を制した撃滅戦で、これには航
空部隊も協力し、逐次包囲圏を圧縮し
て、徹底的掃蕩を実施中である。国民
政府軍の有力新鋭部隊も勇躍これに参
加してゐる。
 次ぎに南昌及び沙市方面の奇襲進撃
に引続き、沙市東南方の揚子江河畔に
展開された第六戦区挺身軍及び第百十
八師の殲滅戦は、作戦開始以来、天候悪
く雨雪のため、戦場一帯の湿地は全く
泥濘と化し、地上進撃部隊の辛酸労苦
は筆舌に尽し難いものがあつたが、地
上部隊将兵はかゝる自然の悪条件をも
のともせず進撃に努め、二月十七日、
十八日の両日にわたり、沙市南方の揚
子江畔において第六戦区の敵四ケ師を
完全に包囲しこれと潰滅した。

   広州湾租借地への進駐

 二月二十一日、我が一部隊は仏国政
府と諒解の下に広州湾仏国租借地に進
駐した。即ち南支軍の新鋭部隊は、帝
国海軍部隊ならびに飛行部隊と密接な
る協力の下に、去る二月十六日未明、
雷州半島東海岸に奇襲上陸を旅行し、
同日十時三十分、要衝雷州県城を攻
略し、次いで広州湾周辺地区に蟠踞蠢
動せる重慶軍に果敢なる攻撃を加へ、
十九日十七時その拠点遂渓を完全に占
領し、引続き広州湾仏国租借地当局と
極めて友好裡に現地協定を遂げた上、
二月二十一日十四時、陸海共同して同
地に進駐した。
 広州湾租借地に対しては、これまで
帝国軍隊は派遣されてゐなかつたが、
最近、同地に対する米空軍ならぴに重
慶軍の策謀企図が露骨となつたので、
帝国陸海軍は右企図を未然に防止する
ため、仏領印度支那共同防衛に関する
日仏印間の協定に基づき、フランス側
の完全な諒解の下に敵の機先を制し
て同地に進駐を行つたものである。
 雷州半島の雷州県城東側に奇襲上陸
した我が精鋭部隊は、一キロ半に及ぶ膝
を没する浅瀬を渡渉、同日十時三十分、
雷州県城を抜き、敗敵を撃攘しつゝ二
十一日十四時、広州湾租借地に進駐を
完了し、さらにその附近を確保した。
 同地においてわが進駐部隊は仏印軍
と協力、防衛に当つてゐる。この進駐は
過般英国が行つたマダガスカル島の占
領とは全く趣きを異にし、日仏両国間の
完全な諒解の下に行はれたのである。

   ビルマ方面

 ビルマは国防上、南方地域の外壁
をなしてゐる。敵側ではビルマ奪回を
盛んに宣伝し、英軍は昨年末頃から東
部国境方面に七、八ケ師団の兵力を集
中し、ビルマ侵入の機会を覘ひ、その一
部の約一ケ師団は、我がアキャフ占領
部隊の前面に進出し、攻勢に出て来た
が、我れに撃退せられた。敵機は頻繁
にビルマ内に飛来し、ラングーン始め
各地を盲爆してゐる。もちろん我が飛
行機も昨年以来、インド及び雲南に進
撃、果敢なる爆撃を加へてゐる。
 即ちビルマ方面のわが航空部隊は、
ビルマ奪還を呼号し、執拗に反攻を企
図する敵米英、重慶航空部隊に、機先を
制して大挙出撃、十二月中に空中戦闘
または地上火器により撃墜破百二十八
機(うち不確実のもの十機)、鹵獲二機、
軍事施設の爆破炎上約五十ケ所、撃沈
破敵船舶二十六隻の大戦果を挙げた。
 即ちわが陸軍機は十二月五日および
十日の両日、インド東部緬印国境を突
破、敵航空基地チッタゴン並びに同埠
頭を急襲したのを始め、連月連日フェ
ンニィ、シルチャ、バタルプール等の
各飛行場を空襲、さらに東部インドの
心臓部たるカルカッタをも急襲した。
 なほ、同二十一日以来、後方攪乱の
目的をもつて来襲した米英新鋭機を、
アキャプ、マグウェ両飛行場において
捕捉、大打撃を与へたほか、二十五、
六日には緬支国境を越えて長駆雲南
駅飛行場を強襲、敵機多数を撃墜破し
た。
 十二月中に我が方が敵に与へた損害
は左の如くである。
一、東部インド方面
撃墜 三十四機(うち不確実八機)
撃破 二十五機
 計  五十九機
二、雲南駅方面
撃墜  五機(うち不確実二機)
撃破 十三機
 計  十八機
三、ビルマ方面
撃墜 二十機(空中戦によるもの)
    三十一機 (地上火器によるもの)
 計   五十一機、鹵獲二機
総計 百二十八機 (うち不確実十機、他に鹵獲二機)
四、敵軍事施設爆破
 炎上  約五十ケ所
五、撃沈破敵船舶
   二十六隻
我が方の損害
  自爆   二機
 未帰還   十機
 以上の如きわが陸空軍部隊の大戦果
にも拘はらず、敵はなほビルマ奪還の
反攻企図を捨てず「緬印国境に兵力を増
強中で、現在インドにある敵軍はイン
ド兵を合せ約百万、飛行機六百機とい
はれる。かくの如き大軍をインドに
駐屯せしめてゐるのは、単にインド
の治安維持といふ以外に、如何に真剣に
ビルマ奪還を企図してゐるかを示すも
のにほかならない。またビルマ東北方
の緬支国境には、敵は怒江対岸の線に十
数ケ師の重慶軍を配置してゐる。さら
に米英基軍は東部インド、雲南方面を
基地としてビルマへ来襲、十二月中の
敵襲は百数十回の多数に及んでゐる。

   西南太平洋方面

 北部ソロモン群島、ニューギニア島
の要線に展開を経つた我が軍は、戦略的
接点の編成建設を終り、攻防いづれの新
作戦にも応じ得られる態勢にある。
       ×     ×
 これを要するに、春の到来と共に各方
面とも戦況は活溌となることであら
う。