第三二八号(昭一八・一・二七)
生活を切換へよ
学制改革問答 文 部 省
米英音楽の追放
興南錬成院開く 大東亜省
「頼母しい戦争生活例」当選発表
第八一回帝国議会提出法律案件名一覧
昭和一七年下半期総目次
米英音楽の追放
大東亜戦争もいよ/\第二年を迎へ、今や国を挙げてその総力を米英撃滅の一点に集中し、是が非でもこの一戦を勝ち抜かねばならぬ決戦の年となりました。大東亜戦争は、単に武力戦であるばかりでなく、文化、思想その他の全面に亘るものであつて、特に米英思想の撃滅が一切の根本であることを思ひますと、文化の主要な一部門である音楽部門での米英色を断乎として一掃する必要のあることは申すまでもありません。
一掃せよ、米英音楽
情報局と内務省では、大東亜戦争の勃発直後に、米英音楽とその蓄音機レコードを指導し、取締るため、当面の措置として、音楽家に敵国作品の演奏をしないやうに方針を定め、また、これらのレコードの発売にも厳重な指示を与へたのでありますが、それにも拘はらず、今だに軽佻浮薄、物質至上、末梢感覚万能の国民性を露出した米英音楽レコードを演奏するものが跡を絶たない有様でありますので、今回さらにこの趣旨の徹底を期すため、演奏を不適当と認める米英音楽作品蓄音機レコード一覧表を作つて、全国の関係者に配布し、米英音楽を国内から一掃し、国民の士気の昂揚と、健全娯楽の発展を促進することになりました。
今回の措置の対象は、差当りカフェー、バー、飲食店等で、これらの場所での演奏を、内務省が地方庁警察部を通じて取締ることになつてゐますが、情報局、文部、内務両省が指導、監督に当つてゐる社団法人日本蓄音機レコード文化協会では、今回の措定に全面的に協力し、右の一覧表に該当するレコードを、蓄音機レコードの販売店から引上げ、また一覧表を販売所に配布し、備へ付けさせて、一般の方々の参考に供すると共に、進んで該当レコードを供出されようとする方に、斡旋の労をとることになつてゐます。
供出を受けた該当レコードは、昨今不足勝ちなレコード資材の再生に用ひられます。供出は献納の形で無償で行ひ、各蓄音機レコード会社が払ふ代価を、陸海軍へ国防献金することになつてゐます。
純音楽に米英作品は寥々
米英音楽の一掃といつても、純音楽の部門では、これまでわが楽壇で毎年演奏される曲目の大部分は、独伊両国の作曲家の作品であつて、最近ではフランスその他の国々のものが次第に演奏されるやうになつて来たものの、米英系の作品が紹介、演奏されることは、殆んど皆無といつてもよいくらゐでした。
例へば、英人作曲家として我が国に紹介されてゐるものは、バーゼル、サリバン、エルガー、グレンヂャー、デリュウス、スコット、ウィリヤムス、ホルスト、グーセンス等でありますが、これらの作家も一般音楽愛好者には馴染み薄く、その作品も戦前全国を通じて、僅かに年に一、二回程度演奏されるのが関の山といつた状態でした。
また米人作家も同様で、マクドウェル、ハーバート、カーペンター、スポルヂング等の名は紹介されてゐても、これらの作品が演奏される機会は絶無といつてもよい程でありました。従つて、これらのレコードも発売されることは極めて少く、管紘楽曲にカーペンターの摩天楼や、マクドウェルとデリュウスの小品が四、五枚、ピアノにグレソヂャーの小品が二、三ある程度に過ぎません。
たゞ、行進曲の作家として著名なスーザの作品だけは、わが国でも数多く紹介され、また、これまでたび/\演奏されてゐましたが、彼の代表的作品は、「星条旗よ永久なれ」にしても、また「ワシントン・ポスト」、「美中の美」、「士官候補生」、「雷神」にしても、いづれも米国人の士気を鼓舞し、米国人の精神を昂揚するものばかりで、これを今日、わが国で演奏することが不適当なことは申すまでもありません。
以上のやうなわけで、純音楽の部門では、米英の音楽を追放しても、殆んど何の影響もないといつてよいくらゐです。
ジャズ音楽の追放
米英系音楽としてわが国に輸入され、また最も多く一般に馴染まれたものは、何と言つてもいはゆるジャズ音楽と民謡調の歌曲とであります。
しかし、米国系音楽の代表とみられるジャズや、これに類する軽音楽の大部分は、卑俗低調で、頽廃的、扇情的、喧噪的なものであつて、文化的にも少しの価値もないものでありますから、この機会にこれを一掃することは極めて適切であり、また絶対に必要なことであります。
ジャズと、これに類する純音楽が、こゝ十数年間に幣くべき勢ひで各方面に多大の悪影響を与へたことは、これまでもたび/\論ぜられて来たのでありますが、これらが聴けなくなつても、大衆音楽がなくなる心配はありません。むしろ浄化されるものと見るべきであります。
演奏不適当な主な曲
一世を風靡した「ヴァレンシア」、「ダイナ」、「アラビヤの唄」、「私の青空(マイ・ブルー・ヘブン)」を始め、一切の米英ジャズが、演奏不適当と認められたわけですが、以上の外「米英音楽作品蓄音機レコード一覧表」に記載されてゐる主な曲を挙げます
と、次ぎのやうなものがあります。
「堂々たる陣容」「海辺のサセックス」「支那の寺院にて」「ミネトンカの湖畔」、「ロンドン・デリー」、「聴け雲雀を(ビショップ)」、「ミズリー河」、「カミン、スルー・ザ・ライ」、「ヤソキー・ドゥードル」、「ディキシーランド」、「スザンナ」、「アソニーローリー」、「ティベラリーの歌」、「アメリカの帰還兵(アメリカン・パトロール)」、「懐しのケンタッキー」、「オールド・ブラック・ジョー」、「擲弾兵行進曲」、「ラヴ・イン・アイドルネス」、「野ばらに寄す(マクドウェル)」、「スワニー河」「ラプソディ・イン・ブルー」「夜明けの三時」、「コロラドの月」、「ジプシーの月」、「林檎の木蔭」、「ペーガン・ラヴ・ソソグ」、「峠の我が家」、「ラモーナ」、「チキーダ」「キャラバン」、「支那街」、「片思ひ」、「ロッキーの春」、「シャイン」、「メランコリー・ベビー」、「ドンキー・セレナード」、「ティティナ」、「リオリタ」、「バガボンドの唄」、「ローズ・マリー」、「ラヴ・パレード」、「乾杯の唄(スタイン・ソソグ)」、「ローロー」、「上海リル」、「タイガー・ラッグ」、「トップ・ハット」、「ピッコリーノ」、「ダーダネラ」、「サンフランシスコ」、「オールマン・リバー」、「スヰート・スー」、「ブルー・ムーン」、「アレキサンダー・ラグ・タイム・バンド」、「山の人気者」、「ショー・ボート」、「コンスタンチノープル」、「月光価千金」、「スヰート・ジェニイ・リイ」「私のエンゼル」、「カロライナの月」、「ルイス」、「フー」、「ゲイカバレロ」、「マリー」「赤い翼」、「ダンシング・イン・ザ・ハーン」、「口笛を吹く牧童」、「口笛吹きと犬」「谷間の灯ともし頃」、「ココナツ・アイランド」、「思ひ出」、「ジャニイ」、「ハッチャッチャ」、「ビールストリート・プルース」、「ライムハウス・ブルース」、「シュガー・ブルース」、「セントルイス・ブルース」、「ワイキキ・ブルース」、「ワバッシュ・ブルース」、「ワンワン・ブルース」「シボニイ」、「キャリオカ」、「クカラチヤ」、「ルンバ・タンバ」、「南京豆売」「ハワイの唄」、「ブルー・ハワイ」、「ハワイの恋」、「ハノハノハワイ」、「リリウエ」、「アレコキ」、「レイ・フラ」、「ヒロ・マーチ」、「アロハ・オエ」、「アロマ」、「ハワイホテル」、「島の歌」、「マニヒメリ」、「アロハを唄ふな」、「ホノルルの月」
なほ、一覧表には「庭の千草」、「埴生の宿」のやうな題名がありますが、これはレコード会社の営業政策上、日本語名を使用したものであつて、「ラスト・ローズ・オブ・サンマー」と「ホーム・スヰート・ホーム」のことであり、あちらの歌曲として内容も外国語で歌はれてゐる輸入盤でありますので、こゝに掲載されたのでありまして、この表題のものが日本語で歌はれてゐる場合は、これらの歌は学校でも歌はれ、長い間に日本的に消化され、国民生活の中に融け入つてゐるものでありますし、日本吹込の日本盤となりますので、今回の措置の範囲には入らないことは申すまでもありません。
米英音楽作品蓄音機レコード (曲名は略す)
日本ビクターレコード (米英盤)
1115 1151 1173 1198 1228 1235 1355 1412 1441 1446 1448 1506 1550 1566 1567 4053 4186 6143 6924 9016 9205 9487-9482 9649-9653
11250-11252
JD294 303 475 643-646 750 782 853 902-903 1193 1416 1628 1588 1630
JE20-21 22 120-123 131 146 153 189 201
JF54 64
JH30 31 45-48 49 130-132
JI68
JK1 2 3 12-13 17 18 19 20 23 24 25 37 43 58 63
コロムビアレコード (米英盤)
ラッキー・レコード (米英盤)
日本ポリドールレコード (米英盤)
日本テレフンケンレコード (米英盤)
テイチクレコード(日本盤)