第三二五号(昭一八・一・六)
   実践せよ必勝の戦争生活
   新年の戦局に対する観察      陸軍省報道部
   今年こそ激戦の年         大本営海軍報道部
   国際情勢の展望
   玄米食について          大政翼賛会
    付・炊き方と食べ方

新年の戦局に対する観察
                  陸軍省報道部

 昭和十八年、この新年こそは我が国三千年の運命を
決すべき年として、あらゆる意味で一億国民が、一大
覚悟をもつて臨まなければならない年である。次ぎに
現下内外の情勢、特にわれ/\として着意すべき要点
を説明し、さらに本年の戦局の推移を考察し、われ/\が
如何なる覚悟と、如何なる態度をもつてこれに処すべきか
について述べよう。

緒戦の戦果の意義

 緒戦に於ける赫々たる戦果によつて、わが軍は、戦略的
に、経済的に、絶大の価値を有する南方地域を、その掌中
に収めた。
 関戦頭初、憂慮されてゐた問題は、米英を相手に果して
順調に南方作戦を遂行できるかどうか、また、南方を占領
後、果して建設、開発がうまく進むであらうかといふこと
であつたが、それは杞憂に終り、今日までのところ、極め
て順調な足取りをもつて進んでゐることは、国家のため
まことに慶賀に堪へないところである。
 かやうに偉大な戦果を、しかも短時日の間に収めた戦史
は未だ嘗てなく、まことに喜ばしい限りである。しかし、
こゝに注意を要するのは、緒戦の勝利が爾後の戦争遂行を
容易にすることは確かであるが、しかし、それは必ずしも
戦勝を意味するものではないといふことである。これは前
ヨーロッパ大戦において、ドイツ軍が緒戦で世界を驚倒さ
せる程の赫々たる戦果を収め、勝つた/\の連続であつ
たが、このために国内は、真の総力戦体制、長期戦体制の
確立に対する熱意を欠き、作戦当局や政府当事者もまた大
局的な判断を過まり、方策に徹底を欠いたため、結局、政
略的、戦略的に極めて不利な状況に陥り、遂に戦ひに勝ち
ながら、戦争に敗れざるを得なかつたといふことによつて
も明らかである。
 故にわれ/\は、この赫々たる戦果の価値を、戦争全局
から十分考察することが必要である。
 まづ戦略的にみると、帝国は開戦前におけるA・B・C・D
対日包囲陣を突破撃砕することに成功した。しかしこれを
さらに大局からみると、未だこれを完全に分断するまでに
は達してゐないのであつて、現在もなほ敵の航空包囲圏内
にある
のである。従つて、大東亜戦争に必勝を期すために
は、米本国に対する我が攻撃拠点の獲得を要することは勿
論、東亜に対する敵の進攻作戦を覆滅し得る態勢を確立す
ることが必要である。
 ところが、敵は却つて濠洲を対日進攻作戦の前進基地と
して重視し、これが連絡保持のためには、全力を傾注す
るのを厭はない現状である。現に昨年八月以来、ソロモン方
面において大激戦が展開されてゐるのはこのためである。
 また英国覆滅のためには、単に東亜の根拠地シンガポー
ルを占領するにとゞまらず、さらにインド或ひは濠洲に対
する徹底的な方策を必要とするのである。
 かやうに考へると、現在の我が戦略態勢は、守るには概
ね足りるが、攻めるにはなほ十分ではない体制ともいへる
のであつて、われ/\は今後とも一層この敵包囲陣の突破
に邁進すると共に、敵を屈服させるために、あらゆる積極
手段を講じなければならない。
 次ぎに資源関係からみると、開戦前においては、米英蘭
の対日一斉経済封鎖によつて、帝国は日に/\ぢり貧状態
に陥り、生存の脅威をひし/\と感じてゐたのであるが、
これは南方作戦の断行と、その成功によつて危険状態を脱
却することが出来、今日においては、最早や対日経済封鎖な
るものは全く痴人の夢にも等しいことになつたのである。
 しかしながら、この豊富な南方資源も、これを現在大東
亜戦争遂行のための戦力へ編入するためには、船腹その他
の制約を受け、直ちにその価値を十分には発揮できない状
態である。
 以上、戦果の価値を、戦略、資源関係からみたが、これに
よつて明らかなことは、緒戦の戦果の偉大であつたことは
いふまでもないことであるが、しかし、大東亜戦争の完遂
といふ戦争全般からみると、この赫々たる緒戦の戦果も、
単なる序幕に過ぎない
ともいへるのであつて、戦ひは正に
これからなのである。

 米英の戦争遂行能力

 敵米・英・重慶の戦争遂行能力については、既に各方面の
権威者が詳しく述べてゐるので、こゝでは極く簡単にその
要点を述べよう。

米国は、欧州戦争の勃発以来、参戦の機運が昂ま
るに従つて、次第に軍備充実に対する熱意を
昂めつゝあつたが、大東亜戦争の緒戦において我が軍のた
め痛撃を受けるや、さらに一段と軍備の充実強化に狂奔
し、特に緒戦における我が戦勝の基因が、整備された優秀な
航空勢力にあることを痛感し、軍備充実の主眼を航空機の
生産においてゐる。そして、このために年産五百万台とい
はれる自動車工場の運転を停止し、これを全部飛行機工場
に振り替へ、また不足資源を中南米に求めるなど、徹底し
た政策を断行してをリ、現在すでに飛行機の月産は五、六
千機といはれ、特に重爆撃機と長距離輸送機には相当の力
を入れてゐるとのことである。
 またこれと並行して、造艦においては航空母艦の建造
に、これまた必死の努力を払つてゐる。しかし純航空母艦
の建造には、相当の長年月を要するので、遂行で建造中の
巡洋艦、高速度商船を改造して航空母艦の代用に充て、
目下改造中のものは八十数隻にのぼると伝へられてゐ
る。
 なほ、米国現下の最も苦痛とするところは、船腹の不足
であつて、商船の建造に対しても絶大な努力を払つてゐ
る。かやうに米囲の生産力は、日を逐つて厖大なものとな
つてゐるが、しかし米国内には、各種の困難な問題が潜ん
でゐることを見逃がすことは出来ない。即ち資材、熟練工
の不足、配給の不円滑、政府部内の意見の対立等がみら
れるのである。次ぎに
英国の戦力はどうかといふと、差当りは概ね現状
を維持することであらうが、しかし、制海権と
属領植民地の喪失、さらに海上輸送力の減退に伴つて、そ
の戦力は次第に低下せざるを得ないものと思はれる。敵米
英の戦力は我が国と同様、その海上輸送力に依存すること
が極めて大きいので、枢軸国側による商船の撃沈は、戦争
遂行に重大の支障を与へてゐるのである。しかし、今年
後半期以後における米英の戦闘能力は、相当に上昇する

ものとみなければならない。従つて、米英の戦争遂行能力
の前途は、決して過小評価することは出来ないのであ
る。

  重慶の動向と抗戦力

 重慶の戦力は大東亜戦争以来、一段と低下ゐるもの
のやうであるが、今なほ依然として消極的な抗戦能力をも
ち、大東亜戦争の遂行上、一つの障碍をなすことは今後と
も変りないであらう。唯一の海外援蒋ルートであつたビル
マが、わが軍によつて占領され、援蒋路は実質的に全く
遮断されたにもかゝはらず、重慶が今日なほ依然として抗戦
を続けてゐるのは、支那の特質によつて自力抗戦態勢が概
ね確立されてゐることと、蒋介石を中心とする民族意識が
相当昂揚されてゐることに、その基因があるものと認めら
れるが、また一つには、米英の最後的勝利を妄信し、蒋介
石はもとより、支那民衆はこれによつて遠い将来に一縷の
光明を認め、米英側の抗日第一線に狂奔してゐることに
もよるのである。
 従つて、海外からの物資援蒋路が全く遮断されたとして
も、尋常一様の手段では簡単に我に屈服することは先づな
いものと考へなければならない。そして今後、、敵はいよい
よ自力抗戦体制の強化を図り、特に米英の戦力向上に伴
ひ、援蒋の復活に努めると共に、次第に米英の対日航空作
戦を促進強化することであらう。重慶軍は現在もなほ、約
三百ケ師−三百万の兵力を擁し、蒋介石の統率は今なほ相
当のもののやうで、その抗戦能力は絶対に軽視することは
出来ない
。以下さらに支那大陸の戦況について詳しく並べ
てみよう。

  一年間の戦果

 対米英戦争が起つたならば、支那大陸にある日本軍は、
南方へ相当兵力を割かれることであらうから、在支日本軍
の戦力は低下せざるを得ない。これはうまいことになつた
と喜んだのは重慶である。この情勢の裡にわが支那派遣軍
は、南方作戦軍の背後を安全にするため、防禦に立つこと
なく、常に敵の機先を制して攻勢的に任務を解決してゐ
る。
 即ち北支方面では、昨年八月下旬から各兵団の緊密な連
繋の下に、残存共産党軍の討伐、粛清作戦を展開、また中
支方面では、五月以降四ケ月に亘り浙作戦を実施した。
即ち、我が軍は困難な地形と悪天候とを冐し、対日空襲を
企図する浙江、江西、福建方面の敵航空基地を覆滅すると
共に、敵第三戦区に対し大打撃を与へてその反攻を完封し、
さらに重要な資源地域を管制下に収める等の大戦果を挙げ
たが、この間、兵団長酒井中将の壮烈なる戦死をみた。
 大東亜戦争勃発以来、一ケ年間における支那戦線の主
要作戦は、中支における浙作戦を始め北、南支ならびに
蒙疆の各域に亘つて実に五十回を数へた。即ち十二月四日
の支那派遣軍発表によると、一ケ年の交戦回教は約二万五
千回、月平均二千回、即ち一日平均七十回弱の戦闘が行は
れた
のである。この間の交戦兵力は延数約三百六十万であ
つて、あたかも重慶軍兵力三百万、中共軍および遊撃隊六
十万を加へた数字に相当し、在支敵軍の総兵力を一人残ら
ず戦闘させた
ことになるのである。なほ、敵の遺棄死体は
総数約二十八万、捕虜約十二万三千、鹵獲兵器、迫撃砲
五十ケ師分、小銃四十八ケ師分、軽機十八ケ師分、重機十
一ケ師分の厖大な数字を示してゐる。
 この戦果の数字から敵戦力を判断すると、敵の戦死数と
捕虜との比率は四十四パーセントになり、これを前二年に
比べると、昭和十五年度は十二パーセント、同十六年度は
二十九パーセントを示し、かやうに捕虜が逐次増加の傾向
にあることは、敵軍の戦意の低下を如実に示すものといは
なければならない。
 この敵遺棄死体と捕虜以外の敵兵力の損耗を、過去の比率
から推算すると、戦傷二十万、逃亡三十万、その他(解除、
老衰、淘汰等)六十万、大東亜戦争勃発蟄後一ケ年間の敵兵
力の損耗総数は、実に百五十八万三千に達し、在支敵軍総
兵力の四十四パーセントを直接または間接に撃滅したこと
になるのである。

  重慶軍の現有勢力

 重慶軍の現有兵力は
 中央直系軍  約六十ヶ師
 同 傍系軍   約五十ヶ師
 地 方 軍   約百五十ヶ師

 地方軍内訳 旧東北軍十四ヶ師、旧宋哲元軍十三ヶ師、山東軍八
 ヶ師、山西軍二十五ヶ師、四川軍三十四ヶ師、雲南軍六ヶ師、
 広東軍十五ヶ師、広西軍十三ヶ師、陜西軍五ヶ師、寧夏軍四
 ヶ師、甘粛軍六ヶ師、青海軍一ヶ師
 新編またほ不明軍約五十ヶ師

 これ等の大部分は、各戦区に配備され、わが第一線と近
く相対峙してゐるのであるが、各戦区の配備状況は、次ぎ
のやうになつてゐる(括弧内は戦区司令官)。

第一戦区 (蒋鼎文) 河南、山西
第二戦区 (閻錫山) 山西
第三戦区 (顧祝同) 浙江、福建
第四戦区 (張発奎) 広東
第五戦区 (李宗仁) 湖北、河南
第六戦区 (陳 誠) 湖北南部、湖南北部
第七戦区 (余漢謀) 広西
第八戦区 (朱紹良) 甘粛、綏遠
第九戦区 (薛 岳) 湖南、江西

 このほか四川、貴州方面に約十万、わが占領地域内の兵
匪(へいひ)は、北支方面に四、五十万、中支方面に二、三十万、さ
らに独立師、騎兵師、共産軍(北支二十五万、中支五万と称さ
れる)と、多数の民兵がある。
 大本営発表によると、わが軍の不断の掃滅戦によつて支
那事変五ヶ年の綜合戦果は、敵の遺棄死体二百三十八万、死
傷、逃亡、帰順などを加へると、その損失は少くとも五百
万以上と推定されるのである。もちろん、敵は殆んど無尽
蔵といはれる人的資源を有するから、この厖大な損耗も一
応回復し得る可能性がある
ものと認めなければならない。

   在 支 米 空 軍

 米国の在支空軍は、昭和十六年の春、比島米空軍司令官
クラゲット少将が大統領ルーズヴェルトの特使として重慶
を訪れた時に端を発してゐる。当時は、もちろん、大東亜
戦争の勃発などは想像もされず、約二百名の米航空将校た
ちは、一つは好奇心からと、一つは報酬日当てに応募した
のであるが、目的地に到着するや否や、大東亜戦争の勃発
となり、否応なしに日本空軍相手の空中戦に参加させられ
ることになつてしまつたのである。
 日本軍のため空軍を徹底的に叩き壊されて困つてゐた重
慶当局が、米飛行磯が来たので如何に喜んだかは想像に余
りある。彼等を非常に優遇し、また大いに期待をかけたの
はいふまでもない。しかし、米飛行将校達は重慶に来て、
聞くと見るとの違ひの甚だしいのに驚いた。それに支那派
遣軍が行つた浙作戦によつて、対日空襲作戦に適する飛
行基地玉山、麗水、衡陽等は次ぎ/\に破壊され、米空軍
は湖南、広西等の奥地に退避した。
 しかし南方要域の悉くが日本軍の手に帰し、東亜から総
退却せざるを得ないことになつた米国にとつて、日本に対
しとり得る戦術としては重慶軍、殊にその空軍を増強して
対日ゲリラ戦を実施する以外にはない。いはゆる空軍によ
る対日第二戦線の結成である。
 すなはち、これまで重慶塵の哀願によつて、僅かに造られ
てゐた米空軍なるものは、今ではその性格を一変し、米英
自身のために必要な第二戦線的な役割をもつことになつた
のである。従つて、米国軍備の充実に伴つて派遣される飛
行場も次第に増加して来てをり、現に昨年六月下旬から十
一月中旬までに、我が占領地区へ二十五回も敵機が襲来し
てゐる。もちろん、わが航空部隊はその都度これに猛撃を
加へ、現に敵機五十機を撃墜破してゐる。
 なほ、米国から重慶側に送られる飛行機は、今のところ、
南米ブラジルの東端ナタールから大西洋を横断、アフリカ
のダカール辺を通つて、西亜に出て西亜からインドを経
由、重慶に出て来るものが多く、十二月現在で活動中のも
のは百数十機であり、これに重慶空軍を合せると、敵勢力
約二百五十機内外と推定され、その機数は、今後も引継
き増加するものと思はれるが、今後は我が占拠地の要点、
さらに進んで、わが本土にまで空襲を企図
すること万なし
とはいへないのである。

 敵側の戦争指導

 米英としては、緒戦の敗戦は、日本の奇襲作戦によつてや
むを得ず蒙つたものであつて、いはゞ戦争の序幕に起つた
一つの出来事に過ぎない。戦争全体としてみれば、これが
ために何ら敗けたのではなく、勝負は正に今後にあるとし
て、真剣にこれが打開策を考へて実行しつゝある。物質力
偏重の彼等は、日本は緒戦において相当の戦果を収めた
が、今や戦力の増強はもちろんのこと、その補充維持さ
へも困難に陥らうとしてゐるのに反し、米国は豊富な物質
と厖大な工業力によつて急速に生産力を拡充し、絶対優勢
の軍備を整備できるから、最後の勝利は必ず我にあり
と信じ、この考へを基調として国民の指導と生産力の拡充
に狂奔してゐる実情である。
 従つて米英側の戦争指導は、その戦力充実に伴つて次第
に各方面の作戦を積極化するものとみられる。しかも東亜
においては、差当り蒋介石に、日本が占領地域を確保開発
して戦力を増強することを妨害させ、また将来、攻勢の拠
点を奪回するために濠洲を強化し、或ひは太平洋上の島々
に反撃を行ひ、また支那の空軍を強化する一方、海上航空
路線を強化し、この間に機を見て我が本土空襲を企図する
ものと予想されるのである。
 今日、ソロモンの海戦は、その一つの序幕であるとみら
れる。また一方、独伊に対しては英ソい対する援助を強化
し、アフリカ、西アジア方面からする包囲態勢の確立に努
め、現に昨年十一月初旬には、相当の兵力をもつて西アフ
リカに上陸作戦を敢行したのである。かやうに米国は東亜
とヨーロッパの戦場に進出し、攻勢作戦を指導してゐる現
状である。
 また一方、政略的にソ聯を利用し、ソ聯を対日圧迫の具
に利用しようと各種の謀略策動をしてをり、従つてこの方
面においても、、われ/\としては深甚な関心をもたなけ
ればならない。

  我が戦力拡充の急務

 かやうな状況の下において、わが陸海軍は大東亜に絶対
必勝の態勢を確立すると共に、敵の反攻作戦を随所に撃破
しつゝ、北はアリューシャンから満洲、支那を経て、南は
帝国領土に約七倍する南方占領地域に亘り、また太平洋上
においては南洋群島その他数多の島嶼の守備を担任し、陸
海軍の責務はいよ/\重きを加へてゐる現状である。
 緒戦の戦果によつて大東亜の要域を惹く占領し、必勝不
敗の態勢を占めた今日、爾後の戦争指導は極めて有利な態
勢にあることはいふまでもないが、厖大な生産力を基礎と
して、着々と強化されてゐる敵の軍備に対して、わが国も
また極力戦力を充実強化し、敵を徹底的に撃砕しなけれ
ばならない。この戦力拡充の基礎は、いふまでもなく生産
力の拡充にある。
 ところが、わが国の生産力は開戦以来、特に船舶輸送の
関係上、十分に整備する遑がなく、作戦の進展に必ずしも
即応し得ず、絶対に楽観できない実情である。豊富な日満
支摘方の資源そのものは、持てる国、米英に対して何等の遜
色もないばかりか、錫、ゴム等の熱帯資源は、却つて敵を
圧倒してゐる程であるが、この資源を開発し、これを輸送
し、明日の戦闘に必要な飛行機、戦車、艦船、大砲を生産
しなければ、何等の効果も発揮することは出来ないわけ
で、このため政府、軍当局では、生産力の拡充のためにあ
らゆる手段方法を講じてゐるのであるが、これには一億国
民の営利、個人主義を脱却した崇高な国家観念に基づく御
奉公に俟た
なければならない。

   戦 争 体 制 の 確 立

 以上、戦争の現段階はどんな態勢にあるか、また今十八
年が如何に重要な意義を有するかといふことを概ね明らか
にした。ところが、世間には既に作戦段階は終結し、建
設の段階に至つてゐると考へ、今後は戦後の政策に着手す
べきであると説き、或ひはまた戦争は長期戦であるから、
さう急に政策を総て急速に処理しなくてもよいといつたや
うに、時局の認識を欠くものも少くない。
 近代戦争の特質は、常に作戦と建設が並行することにあ
るのであつて、作戦の頭初から作戦のための建設の諸政策
を進めることが必要である。特に大東亜戦争は、その戦
争の原因からしても、その必要が痛感されるのである。現
に南方のみならず支那方面においても、敵軍を掃蕩する一
面、他方では各種の開発建設が進められてをり、特に南方で
は、敵潜水艦の出没する中を往来せざるを得ない実情であ
つて、戦闘のための建設であるといふ観念に徹しなければ、
到底この困難な建設を進めることは出来ないのである。即
ち総ての政策は、作戦を強化させ、作戦遂行を容易にする
ための一点に集中しなければならないのである。
 次ぎに大東亜戦争が長期戦であることは、避けること
の出来ないことであるが、その長期戦の意味に対して多
少誤解をもつてゐる者がないではない。即ち、この戦争
は緒戦において既に雌雄を決する大決戦を終つたから、決
戦は二、三年後または数年後に行はれ、それまでは単にゲ
リラ戦か小戦のみが継続されるに過ぎないと仮定するもの
がある。
 しかし現在、南太平洋、ソロモンの戦闘は、八月以来、
渺たる島嶼をめぐつて日米両軍の大激戦が展開されてを
り、作戦中の我が将兵は、悪疫瘴癘の地に飢餓と戦ひ、
炎熱、マラリアと戦ひ、肉を食ひ、骨を削る辛苦を味はひ
つゝ死闘を繰返してゐるのである。この戦局の発展如何に
よつては、日米両国の運命をも決定するかも知れない重大
な性格を有するのであつて、一寸の油断も許さない実情
である。かやうに長期戦とはいへ、大東亜戦争は常に大小
の決戦が連続するのであつて、単なるゲリラ戦の連続とは
全く趣きを異にするのである。従つて、生産力の拡充と、国
内の体制を全力を奮つて急速に整備しなければ、ひとたぴ
不利な態勢に陥つた場合、急にこれを挽回することは、非
常に困難になるのである。
 それにもかゝはらず、最近、わが国の生産能率はやゝも
すると低下の傾向にあるのであつて、これには資材の不足、
食糧問題、交通運輸、徴用、賃金その他各種の問題が原因
してゐるとはいへ、緒戦以来の戦勝に狎れ、精神の緊張を
欠くのに原因してゐる
ことも見逃がすことは出来ない。戦
争の苦難はいよ/\国民生活に影響する今日、真に国民の
一人一人が滅私奉公の念に燃えて、生産拡充に努力するの
でなければ、どんなに機構を整備備し、どんなに法規を改め
ても、実行は期し得られないのである。

  必勝の信念を確立せよ

 この大戦争を遂行するに当つて、われ/\の前途に絶大
な苦難が横たはつてゐることは当然であつて、これを排除
するための努力を厭ふならば、絶対に最後の勝利は期し得ら
れないのである。また我々が苦しい時には、敵はわれ/\
以上に苦しいものであるといふことを考へなければならな
い。なほ、米英の物質力に恐れをなして、戦争の前途に根拠
のない杞憂を抱く者もないではないが、そも/\戦力は、
物的威力の外に、統帥、指揮、人的要素、地勢等を綜合し
たもので、わが国が相当な対策を講じ、国内態勢の強化を
図れば、今後相次いで起るべき対日反攻を断乎として撃滅
し、遂には米英の戦意を喪失させ、戦争の完勝を図り得る
ことは当然である。
 大東亜戦争は漸く緒戦の域を脱し、今年はいよ/\本格
的な段階に入つたのである。戦争は一つに我等一億国民の
活動如何によつて決せられる
。今後、苦難はます/\加は
り、激闘はいよ/\熾烈の度を加へ、従つて昭和十八年は、
時期的にみて大東亜戦争の山ともいふべきで、これに対処
するためには、全国民の総力を挙げて御奉公しなければな
らないのである。

「頼もしい戦争生活例」募集

   週報、ラジオ共同企画の頼もしい隣組生
  活例は各方面の要望であるので、新年を期
  して出題の範囲も拡大して「頼もしい戦争
  生活例」として再出発をなし、決戦下の力
  強い戦争生活指針たらしめることにしま
  した。御協力をお願ひします。

一月の出題

 一 隣組で軍兎や鶏、豚などを共同飼養してゐる実例
 二 戦争生活の中でお子さんをどう躾けてゐますか


原稿 四百字詰二枚
〆切 一月十三日(水)
宛名 東京市麹町区内幸町日本放送協会講演部「戦時生活相談係」
発表 週報一月二十七日号及び一月二十三、二十五両日のラジオ
応募に関する注意
    応募原稿には、住所、氏名に振仮名をつけて、
    職業、年齢もはつきり書入れて下さい。採用
    分には薄謝を呈します。なほ応募原稿は一切
    お返ししません。