第三二一号(昭一七・一二・二)
大東亜戦争一周年第一特輯
大東亜の現況
十二月二日発行 第三二一号
目次
詔 書
第一章 大東亜戦争の前途と我等の覚悟
第二章 大東亜建設の現況
緒言
一、満州国
二、支那
三、香港
四、フィリピン
五、ビルマ
六、マレー、スマトラ
七、ジャワ
八、北ボルネオ
九、セレベスその他
大東亜戦争日誌抄
大東亜戦争の前途と我等の覚悟
輝かしき一年
昭和十六年十二月八日、畏くも宣戦の大詔を拝してより
こゝに一年、この間、天佑神助我にあり、御稜威の下、陸
海軍将兵の勇戦奮闘と、一億国民の協心戮力とによつて、
未だ世界戦史に見ざる赫々の戦果を収め、東亜及び太平洋
の天地より米英の勢力を駆逐し、輝かしい大東亜建設の大
業はすでにその巨歩を踏み出したのである。
試みに世界地図を見よ、昨年まで太平洋の真只中に孤立
してゐた日本が、その南にマレー、スマトラ、小スン
ダ、大スンダ列島からニューギニアの島々を抱きかゝへる
やうに、新たなる占領地としてこれを掌中に収め、その
面積は、支那大陸の占領地を加へると、わが本土の約十倍
に達するのである。眼を北に転ずれば、中華民国、満洲の
建設は着実に進み、北方の守りまた固く、北辺アリュー
シャン列島にまでわが作戦は進展し、敵米国の根拠地の
アッツ、キスカ両島を強襲してこれを占領、熱田、鳴神
と改名して、わが戦略拠点として確保したのである。
米英が世界制覇の野望を秘めてゐた太平洋とインド洋と
は、今や日本の海に還り、東は遠く米国、カナダの沿岸を
脅かし、西はインド洋を越えてマダガスカル島を急襲し、
さらに喜望峰を廻つて大西洋にまで進撃し、東西枢軸国の
連繋なり、必要とあればどこまでも、世界の海にわが日章
旗の偉容を誇示することも出来るやうになつたのである。
これがわずか一年間の出来事である。まさしく枢軸国の
勝利によつて世界の地図は塗りかへられ、世界の歴史は
書き替へられて来たのである。
我々はかゝる勝利の歴史に限りない感激と喜びを禁じ得
ないのであるが、静かに思ひを今後の戦局の前途に馳せる
とき、来るべき戦ひに備へるところがなくてはならない。
米英の世界制覇の野望
過去一年の戦果によつて、戦略的にも、政略的にも、この
大戦争を戦ひ抜き、米英を屈服せしむべき基礎が築き上げ
られたことはいふまでもない。それはまづ、武力戦の面で
みるならば、いはゆるABCD包囲陣をなしてゐた敵
米英側の戦略拠点を、わが方は相次いで占領し、敵の兵力、
艦船等の戦力に大損害を加へたことによつて明らかである
が、経済戦の面においても、いはゆる南方物資を敵の手よ
りわが掌中に収め、これによつてわが方は、敵の拠点を
わが拠点となし、敵の戦力を充実してゐた物資を全幅的
に活用することによつて、わが戦力の拡充を期し、積極的
に敵に攻勢に出ることが出来るやうになつたのであつて、
現に、我々はかゝる積極的な建設戦を戦ひつゞけ、日一日
と成果を収めてゐるのである。
しかしながら、この戦ひは決してこの緒戦の大勝を以
て、直ちにわが方の勝利に終るやうな生易しい戦争でな
く、実に交戦国のすべてが国力を賭して戦ひつゝある世界
指導権争奪の長期決戦であることを知らねばならない。
米英側が自己の敗戦の責任を逃れるために、戦争挑発の
責任をわが方に転嫁せんとする如き議論を未だに行つてゐ
る今日、正義や人道の陰にかくれた好戦的な、世界制覇の
彼の野望を暴露することは、我々にとつても特に必要なこ
とであり、これによつて我々はこの征戦完遂の決意をい
よいよ固めねばならない。
そも/\日米戦争は、宣戦の詔書を拝察し、日米交渉の
経過を省みることによつて明らかなやうに、彼の暴虐不遜
の圧迫に対して、帝国が自存自衛のため蹶然起つて、一切の
障礙を破砕せんとするに至つた已むなきに出でた戦ひなの
である。万邦共栄の楽しみを偕にすることを国交の要義と
して来た日本は、決して徒らに事を好むものではなかつ
た。日米交渉は、険悪化した太平洋の平和、延いては世界
平和の維持のために妥協点を見出さうと、わが方としては
忍ぶべからざるを忍んで来たのであつたが、彼の態度はど
うであつたか。
それには、一年前の十一月二十六日、国務長官ハルがも
たらした彼の回答文書を思ひ起す必要がある。それは周知
の通り、第一にまづ支那及び仏印よりの一切の軍隊(陸海
空軍および警察)の撤廃、第二に国民政府の否認、第三に日
独伊三国条約の廃棄を含む乱暴な内容のもので、これをき
かねば一切商議を進めずといふ態度を持し、この回答と
同時に、米国政府は海軍作戦部長スタークをして、在ハワ
イの太平洋艦隊司令長官キンメルに改選準備を命じたので
ある。
過去五年に亘つて十万の英霊を捧げ、血を以て戦つて来た
支那を放棄し、 政断の下に世界新秩序の戦ひを誓つた日独
伊三国条約を廃棄せよといふやうな、我が方として到底き
くことの出来ない相談を持ちかけて、一度、戦ひに敗れる
と、戦争挑発者は枢軸国なりと語つてはゞからざる米英が、
どうして世界の平和の擁護者であり、人類の友であらう。
口に正義人道を称へながら、彼等の過去数百年に亘つてな
し続けて来たことは何であつたか。今さら米英のインド、
支那、豪州、東印度、太平洋諸島に対する天人ともに許さ
ざる侵略と搾取の歴史を繙くまでもなく、開戦後における
わが在外居住民をはじめ、枢軸人に対する取扱ひをうかゞ
ふだけでも、思ひ半ばに過ぎるものがあるのである。
或る米国の日本人収容所では、五人づゝテントに収容し、
厳寒中でも簡単な寝台に毛布が二、三枚、テントは破れて
雨露にさらされ、炊事は勿論、便所掃除までをさせられ、
歯痛を訴へれば、麻酔もかけずに歯を抜いて「真珠湾を覚
えてゐろ」とうそぶいてはゞからない彼等なのである。
そしてサボテンの荒地を開拓して、今日の豊沃なカリフォ
ルニアを築き上げたわが在米移民を、山間の荒地に追ひや
つて、雨露をしのぐばかりの宿舎を与へて新らたなる開墾
を強制し、米国籍の第二世に対しても、日本人の血が流れ
てゐるといふだけの理由で、これを強ひてゐる彼等なので
ある。
我々はまづ第一に、この大東亜戦争が、米英のかゝる暴
虐不遜の世界政策に対して、日本が反撥した帝国の自存自
衛、死活の戦ひであることをしらねばならないのである。
皇道宣布の征戦
しかしながら、大東亜戦争は決してかゝる消極的な目的
のみに終始するものではない。それは大きくは、八紘為宇、
万邦万民をして、各々その所を得しめんとする皇道宣布の
聖戦であり、日露戦争を緒戦として、満洲事変、支那事変
を経て、この大東亜戦争に発展した國體の顕現であり、皇
國歴史の所産であることを我々ははつきりと認識せねばな
らないのである。
昭和十五年九月二十七日、日独伊三国条約締結に際して
下し賜はつた詔書に、
大義ヲ八紘ニ宣揚シ乾坤ヲ一宇タラシムルハ実ニ皇祖
皇宗ノ大訓ニシテ朕ガ夙夜眷々措カザル所ナリ
と仰せられてゐる如く、この肇國の大理想を東洋に、否世
界に宣布し、顕現せんとすることこそ、皇國不動の国是で
あり、この皇道に服せざる敵米英に対して、神武の剣が抜
かれた聖戦が、大東亜戦争なのである。
従つて、事こゝに至れば、敵米英の武力を一応破砕した
からとか、これによつて一応の経済的目的を達したからと
いふやうなことで、中途において妥協など考へられぬ最後
的決戦である。我が主張するところに彼を屈服させ、心服
せしめるまで、国運を賭しても戦ひ抜かんとする決戦が、
この大東亜戦争であり、漸くかゝる戦ひの様相、相貌を呈
するに至つたのが昨今である。
強化された米国の戦争態勢
米大統領ルーズベルトは、去る九月三日の炉辺談話で
「・・・今次の戦争は喰ふか喰はれるかの戦ひである。自己の
安全第一と考へてゐる兵士は水兵によつて戦闘は勝ち目がな
く、また己が快楽、己が利便、己が財布を真先に考慮に入れるや
うな国民によつて、戦争の最後の勝利は獲ち得ることは出来な
い。・・・われ/\銃後にある者は、国歌に対して如何に剛毅で
あり、如何に滅私奉公の誠を捧げてゐるかを試練されてゐるの
である・・・」
といひ、帰米した前駐日大使グルーは、
「・・・日本軍の優秀な実力と国民の強固な戦意は否定できな
い。経済的困苦によつて日本を参らせることが出来るといふや
うな考へは以ての外で、日本を屈服させ得るのは、実戦におけ
る徹底的打撃のみである・・・」
と、いづれも米国民に警告を発してゐるが、これがかつて
の自由主義アメリカの現状である。これ等は、日本に対す
る敵愾心を昂揚し、日本への反攻を強化せんとする米国の
積極的な意図を反映するものと考へるべきである。
米国は開戦当初においては周知の通り、戦争に対する無
準備と敗戦の痛手のために輿論も動揺し、かなりの混乱を
見せたことは事実であるが、ルーズヴェルトの独裁の下に
「真珠湾を銘記せよ」、「生存のための戦争」といふ戦争指導が
相当の效果を収めて、漸くたち直りを示して来たことも事実
である。去る十一月三日に行はれた中間選挙においては、
共和党員の著るしい進出がみられ、これは、一応民主党の
ルーズヴェルトの不人気のやうにもみえるが、実は、ルー
ズヴェルトの戦争指導方針が微温的であるから、もつと強
力に戦争を遂行せしめよとの輿論の反映ともみられ、今度
の選挙を転機としていよ/\長期戦を戦ひ抜かんとする決
意を全面的に示しつゝあるのであつて、我々としては深い
関心をもたねばならない。
現に米国の積極的な反攻意図は、今夏来の対日反攻作戦
にもうかゞはれるところである。去る六月十六日、米海軍
の根本的編成替に伴ふ八十五億ドルの新拡張案を議会に要
求したが、それは未着工の六万トン級戦艦五隻の建造を中
止する代りに、航空母艦五十万トン、甲乙両巡洋艦五十万
トン、駆逐艦並びに護送用艦船九十万トンを建造し、航空
母艦を中心とする艦隊を編成し、これによつて航空母艦は
改装されたものを合せて八十五隻にする計画といはれ、その
一部はすでに珊瑚海海戦以後に就航してゐるやうである。
この航空母艦と共に、彼が最も力を入れてゐるのは航空
機で、十七年中に六万機建造計画をたて、現在、相当のと
ころまで目的を達し、殊に最近は、重爆及び大型輸送機の
製作に留意し、米国一流の飛行機製造業者グレン・マーチ
ンの如きは、
「・・・米国は現在、偉大なる空中奇襲力、すなはち爆撃機なら
びに輸送機の大艦隊を製作中で、新鋭機の増大せる航続距離お
よび速力は、世界に急速に縮小しつゝある。今や地上部隊は何
時でも飛行部隊と化し、大型飛行艇によつて曳航され、二列の
滑空機隊により作戦地区に運ばれることが出来よう。米国飛行
機工業は、月産五千機に近付きつゝある・・・」
と豪語し、豪州のブリスベーンからサンフランシスコま
で、一万二千キロ、三十六時間の無着陸飛行に成功したと
も報道されてゐるのである。
また造船についても、ドイツ潜水艦の活躍によつて、連
合国側の船腹難はいよ/\深刻になつたので、懸命の努力
を払ひ、年産八百万トン計画も必ずしも机上計画ではない
やうである。これにも、米国生産力の大きさというものが
感ぜられるのであるが、一方、枢軸国潜水艦その他の活
躍による米英側の喪失も、本年五月までに千五百万トンを
超えたといはれるから、船舶戦が如何に深刻であるかが想
像できるのである。
なほ米軍需生産局の発表によれば、飛行機、船舶、戦車、
火砲、弾薬その他各装備品を含む綜合生産指数は、昭和十
五年七月に二三だつたものが、昨年十一月に一〇〇、今年の
一月は一四九、六月は二八六と上昇してゐるさうである
が、各生産部門には相当の跛行状態があることは、当局者
も認めてをり、わが大東亜戦争のために、南方のゴム、
錫、麻、キニーネ等の重要物資の不足に悩んでゐるばか
りか、あの大国でも人の問題は深刻を極め、兵員拡充のた
めに徴兵年齢を引下げ、男子徴用の強化、学校生徒の軍需
産業や農業労働への動員、婦女子の利用等によつて補ひ、
すでに女子が軍務についてゐる有様である。
国民生活についても、ルーズヴェルトが自由主義の清算
をラジオで絶叫する有様で、また生活物資の割当、ガソリ
ンの制限、民間自動車の製造販売禁止、物価の停止令実
施、労働時間の延長等が次ぎ/\に実施され、持てる国
の生活を享受してゐた米国民に戦争生活をひし/\と味
はせてゐる有様であるが、最近これを克服して対日戦意を
昂揚してゐることは看過できない点である。
勝利の希望捨てぬ聯合国
英国は、去る九月三日のアレキサンダー海相の発表によ
れば、欧州戦争以来、四百二十三隻の艦船を喪失し、モリ
ソン内相の言によれば、三年間に空襲のため十万余の死
傷者を出したさうである。食糧、資材等を海外に依存する
英国として大きな痛手を受けてゐることは事実であるが、
まだ/\相当の軍備を有し、空軍約一万機、海軍約百三十万
トン、陸軍約四百万といはれ、独ソ戦の隙に乗じて北アフリ
カ及び西南アジア方面にも補給充実を行つたやうで、アフ
リカ戦線に呼応して反攻は漸く積極的ならんとし、著るし
い労働力の不足のため、軍需産業の荒仕事は勿論、高射砲隊
にも女子が従事してゐるほどであるが、一般国民は深刻な
戦争生活と戦ひつゝ、最後の勝利の希望を失つてゐない。
また重慶はいよ/\米英の東亜における出店となつて、
対日反攻基地として態勢を整へつゝあることは、誠に彼の
ためにも悲しむべきことである。米支武器援助協定によつ
て、航空機及び飛行士の供給を受けて、わが非占領地域の
飛行場を基地として、米支合作の対日反攻作戦に出で、香
港、冀東等の我が占領地を空襲して、いはゆる対日反攻第
二戦線的活動を行ひ、西北ルートの強化、奥地自活自給
の道を講じてゐる実情であるが、わが方は浙(せつかん)作戦以来、
重慶側の蠢動と、北支その他における共産軍の暗躍に絶
えざる反撃を加へ、三百万の重慶軍に対し、毎月平均大小
二千余回の戦闘をつゞけて、敵戦力の破摧と占領地の確保
とに邁進してゐるのである。
このやうに敵米英側は、未だに最後の勝利の希望を捨て
ず、米国を中心にお互ひに連繋をとりつゝ反枢軸の反攻作
強化しつゝある実情であつて、米国の如きは、前述の
如く、軍備並びに生産力の拡充強化を急速にはかり、来
るべき一九四四年、即ち昭和十九年には、大々的反攻を企
て、ルーズヴェルトが先頭に立つて、日本を世界の地図の上
から抹殺しようとまで豪語してゐる有様である。
そしてこの反攻意図は、アリューシャン方面および去る八
月以来の三回に亘るソロモン海戦におけるわが占領地奪還
や、大艦隊による出撃作戦、敵航空部隊の積極作戦または
敵潜水艦の活躍等によつて、十分推察できるところであつ
て、われ/\も十二分の用意と覚悟がなくてはならない。
殊に今後、敵は頼みとする物力にものを言はせて、大々的
な決戦を準備するとともに、それまで七転八起の小反攻を
繰返すであらう。即ち、最近ガダルカナル島をめぐる彼
等の争奪戦に見られるごとく、敵は太平洋における残され
た島々の基地や、豪州を足場にして、今後、わが占領地の
奪還に出ることは十分予想されることであつて、これに伴
つて陸海空の決戦も行はれる機会があらう。遠く離れた
第一線において行はれるわが作戦の困難や、将兵の労苦は
想像に絶するものがあることは、ソロモン海域のあの大勝
利の陰に捧げられた、あの尊い犠牲の数々によつても判断
できるのである。
また、今後われ/\として十分の覚悟と用意がなくては
ならないのは、敵潜水艦の活動と空襲についてである。敵
の潜水艦による反日ゲリラ戦の損害は、日独伊枢軸国が敵
に与へてゐる損害に比べたら比較にならぬほど少いが、こ
れを想像して、建艦、造船に一段の努力を要するわけで、
わが本土並びに占領地に対する空からのゲリラ戦も、最近
における敵航空機の生産力の状況や、優秀な長距離機の
完成等によつて楽観は許されない。直接太平洋の基地か
ら来る場合、航空母艦による場合、支那における米支共同
基地からする場合などが考へられるのであつて、去る四月
十八日の日本空襲に味を占めてゐる米国だけに、今後一層
の警戒を要する点であらう。
枢軸軍の活躍と第二戦線
かゝる敵の反攻意図に対して、我が方は戦略的に有利な
態勢を利用して、つねに敵の出鼻を挫いて中途において反
攻計画を挫折せしめて来た。独ソ戦におけるドイツ軍のス
ターリングラード、コーカサス方面の制圧、日独伊協同作戦
の具現等と相まつて、枢軸軍の勝利の態勢は着々と強化され
つゝあるが、最近、聯合国軍がアフリカ第二戦線を結成し、
世界の様相はいよ/\判然と、枢軸対聯合国の対立争覇
の様相を示すに至つたことは注目に値ひすることである。
ソ聯側から第二戦線結成を矢の催促を受けてゐた米英側
は、さきにディエップ上陸作戦や、ドイツ国の空襲などを行
つてゐたが、フランスの弱点をついて十一月七日、アフリ
カのフランス領モロッコ、アルゼリアに侵入し、こゝを足
場として、北アフリカ、地中海、西南アジア方面に、作戦を展
開せんとし、フランス政府またこれに対し、対米国交の断
絶をなし、独伊軍はフランス防衛を理由にフランスの非占
領地域に進駐し、フランスまた国内態勢を強化するなど、
欧阿情勢は大きく転換をし始めてゐる。これ等は、我々の
大東亜戦争と切つても切れぬ関係にあり、二つの戦争は二
にして一、本質は全く一つの世界戦争の両面なのである。
大東亜戦争は、その名は大東亜であつても、その戦争の性
格において、米英の世界支配撃滅を目標とする世界戦争で
ある点にこの戦争の大なる意義がある、容易に解決のつか
ない長期戦であり、決戦となり得る理由があるのである。
そしてまた、いま、世界が枢軸国側と聯合国側の二つの陣
営に分れて戦つてゐるときに、東洋において日ソ中立条約
が締結され、大東亜戦争以後も中立関係に何等の変化をみ
てゐないことは、極めて複雑微妙な国際関係といふべく、
この間隙を縫つて、敵米英陣営その他からは、日ソ問題に
ついて種々のデマが飛ぶ虞れがあるのであるが、我々として
はかゝる策動に迷はされることなく、支那問題及び北方情
勢の推移に対して、冷静な態度を持すべきである。大東亜
戦争の開戦以来、我々の眼は、とかく南方や太平洋に集中
されて来た傾きがあつたが、わが大東亜共栄圏の確立は、
決して日満支の重要性を軽視するものではなく、寧ろ日満
支を中心に、これに泰、仏印に南方占領地域を加へて考へ
られるべきものであつたことを、開戦一周年のこの機会に
反省すべきである。
必勝の戦場精神を昂揚せよ
ともあれ、かゝる深刻微妙な世界情勢の下に、的の反攻
意図を粉砕しつゝ、世界維新戦、世界思想戦ともいふべき
大東亜戦争を完遂すべき使命を担ふ我々の責任は重く且つ
大きい。この一年間によつて築き上げたこの有利な態勢を
いよ/\拡充強化して、一日も早く敵米英を屈服せしめ、
征戦目的を貫徹するための綜合国力を急速に発揮せしめる
のが、今われ/\に絶対命令として与へられてゐるのであ
る。そして敵の戦争態勢の強化の事実を見るとき、一分一
秒の逡巡も許されないのである。
まづ我々のなすべき第一は、今後長期に亘り、曠古の
大作戦をつゞけることの出来る軍備の充実と、国防生産力
の拡充である。
第二は物的国力増強のための輸送力強化の問題であり、
第三は食糧の増産、確保の問題である。
そして第四は一般物質の節約、国民貯蓄増強による戦費
の調達を中心とする戦争生活実践の問題である。
まづ生産力の問題についてみれば、今後いよ/\尨大化
する軍需資材の要求に応ずるために、生産力を量的に高め
ることが必要である。現に開戦当初に比べると大きな飛躍
をみせているのであるが、戦時下のことであるから、資材
労力の供給、技術設備の改善等において、十分期待できる
とはいへないにもかゝはらず、なほ且つ必要なる量と質を
整へなくてはならないのである。食糧の増産にしても、輸
送の問題にしてもすべてさうである。今までの平時の考へ
からすれば、次ぎ/\に起る非常に困難なことを、戦争に
勝つために無理をしてもやり遂げるのが戦ひである。
最近、敵米国の物的戦力が尨大で、その生産が飛躍的に
上昇する趨勢にあるのをみて、戦争の前途に杞憂をいだく
ものがありとすれば、誤れるも甚だしいものといはねばな
らない。国家の戦力は物的戦力の大小も重要な要素ではあ
るが、この外に国民の意力、精神力が大きな要素であつ
て、これが綜合されて必勝の念に燃え上るところに、真の
戦力が発揚されることをしらねばならない。即ち、生産従
事者の全部の中に、「いま戦つてゐる戦争は、国家隆替に
関はる血を以ての戦争であり、更にこの戦争は八紘為宇の
大精神に基づく、新らしい世界の建設を招来せんとするも
のである」との確乎たる認識をもつやうになれば、勤労に
大和魂が躍動し、そこに工夫も創意も生れ、戦争下の生産
条件の困難をも立派に克服することが出来ると確信する。
またこの戦争が長期戦である見透しから、一事に精力を
費やすのは持久の策でないといふやうに考へて、努力に手加
減を加へるやうな傾向があれば、これまた大なる誤りであ
る。敵に対する攻撃の手を一分一秒も弛めることなく、今に
して、一億国民があらゆる困難を甘受し、生産面の急速増強
を強行し、促進するならば、それだけ米英の屈服を速め、
長期戦を短縮するすることが出来るのである。
要するに、戦争は彼我国民の意志の衝突、信念の争闘
であり、その勝利は敵の意志を撃砕し、その信念を破壊し
たものに帰するのである。かゝる最後の勝利を獲得する
の道は、一に国民が真に敵を知り、己れを知つて時局の真相
に徹し、一大勇猛心を起し、当面するあらゆる困難を克服し
て、国家国民の総力を十二分に発揮するにあるのである。
最近における敵の反攻気勢は、かゝる征戦完遂のために
我々の敵愾心を昂揚し、戦意を燃やすばかりである。開戦
一周年に際して、我々は再び大詔を拝した時の、あの感激と
決意とを新たに、あの開戦当初のすばらしい生産力の増
強、貯蓄の増加等が、今もな完全に持続しているか
を、お互ひに心静かに反省すると共に、「国内も戦場なり」
との自覚の下に、戦争生活の実践を誓ひ、こゝに征戦第二
年を迎へる覚悟を固めねばならない。