第二八四号(昭一七・三・一八)

 戦局の新段階と国民の覚悟
 蘭印遂に降伏す         大本営陸軍報道部
 護国の神 特別攻撃隊
 日本銀行法の改正        大 蔵 省
 新しくできた国民医療法      厚 生 省
 調停制度の拡張         司法省民事局
 大東亜戦争日誌

 戦局の新段階と国民の覚悟

 ジャヴァ島の敵軍は遂に無条件降伏した。蘭印作戦開始後六旬、ジャヴァ島敵前上陸後、僅か九日にして、皇軍は蘭印全土の死命を制するに至つたのである。これと殆んど時を同じうして、ビルマの首都ラングーンも陥落、援蒋ビルマルートは完全に遮断されるに至つた。
 開戦三ケ月にして、敵の誇称したいはゆるABCD包囲陣は完膚なきまでに粉砕され、西南太平洋の拠点は悉く我が掌中に収まり、皇軍はこゝに絶対敗の戦略的態勢を確立するに至つたのである。何たる輝かしき戦果、何たる感激であらう。
 この偉大なる戦果に対してわれ/\銃後の国民は、先づ、御稜威の下、一死報国の至誠に燃えて勇戦奮闘する皇軍将兵に、心からなる感謝を捧げねばならない。
 南方諸地域に対する帝国の方途は、三月十二日の帝国議会に於ける東條内閣総理大臣の演説によつて再び明らかにされた。帝国はインドネシア人及びビルマ人が大東亜建設の一員として新らしい発足をなし、今後いよ/\正しく繁栄せんこせを念願するものである。
 蘭印及びラングーンの陥落によって、濠洲とインドは直接わが武力の前に立つことになつたが、濠洲が今にしてその態度を改めなければ、今日の蘭印の運命は明日の濠洲の運命となるであらう。
 我が国はインド民衆を敵とするものではないが、若しインドの指導者が英国の甘言に誤られ、この天与の好機を逸するやうことがあるとすれば、インドは永遠に救はれることはないであらう。今やインドは起つて「インド人のインド」として大東亜共栄圏建設の光栄を担ふか、伏して永久に米英の桎梏の下に奴隷たるに甘んずるか、最後の決意をなすべき秋に直面してゐるのである。
 蘭印及びラングーンの陥落によって、大東亜戦争の戦局は正に一つの新らしい段階に到達した。日本は緒戦において世界戦史空前の大勝を博した。しかしわれ/\はこの赫々たる大戦果を更に拡充し、飽くまで積極的作戦を敢行して米英を徹底的に粉砕しなければならないのである。大東亜共栄圏を確立し、世界の新秩序を建設しなくてはならないのである。
 西太平洋の敵主力は壊滅し去つたとはいへ、海上、空中、或ひは地上にあけるゲリラ戦は長期に亘つて執拗に続けられるものと覚悟せねばならない。大東亜戦争は敵米英にとっても存亡に関する重大事であるから、有り余る物と金とに物を言はせて軍備を拡張し、再挙決戦の挙に出ずることは必至であらう。これを粉砕して終局の勝利を得るためには、我が国もこれに応ずる準備を整へなければならない。武力戦においてすら戦ひは正にこれからである。余りにも鮮やかな作戦の進展に、「戦は既に峠を越えた」といふやうな安易な感じを懐くことが絶対にあつてはならない。
 米英の武力的、経済的圧迫の禍根を根絶し去つた後には、更に肇國の大理想に基づく大東亜共栄圏の建設といふ大事業が残つてゐる。香港、マニラ、昭南島をはじめ、皇軍によって米英の羈絆から解放された各地の民衆は、早くも新らしい建設に向つて第一歩を踏み出したが、建設戦はいよ/\これからである。
 米英に将来再び東亜を窺はせないやうにするためには、我が国が速かに高度国防国家体制を完成しなければならない。南方の物資も、先づこの目的達成のために動員されねばならぬのである。
 戦争遂行上、国防生産力の増強が必要であるとすれば、資材、労力、資金、輸送力等すべて重点的に集中さるべきは当然である。緒戦の戦果と南方物資に眩惑されて、企業の再編成について遅疑逡巡し或ひは漫然たる南方食糧流入の期待によって、食糧増産や消費節約の実行を緩めるやうなことがあつては絶対にならない。輸送船舶の不足と敵の海上ゲリラ戦とを考慮すれば、国内において食糧の自給計足を確保しなければならぬことは当然である。
 戦局の進展によつて、戦ひの勝敗の鍵はいよ/\われ/\銃後の国民の手に移された。銃後のわれ/\に課せられた任務は、結局国内態勢の整備強化であり、思想戦、経済戦の遂行である。これからがいよ/\生活の戦ひである。
 一死殉国の誠を捧げる前線将兵の心を心として、いかなる困難も進んでこれを克服した暁に初めて輝かしい大東亜戦争完勝の彼岸に到達することができるのである。