第二七九号(昭一七・二・一一)
   大東亜戦争と教育        文 部 省
   大東亜共栄圏への教育職員派達   文 郡 省
   技術院の誕生         技 術 院
   隣組常会の防空研究会      内 務 省
   マレー半島を席巻す       大本営陸軍報道部
   「大東亜海」の制圧      大本営海軍報道部
   汎米外相会議の帰趨
   祗 年 祭


大東亜戦争と教育  文部省

教育の本義

 大東亜戦争は、東亜共栄圏の建設を目的とする。即ち政治
的には東亜より米英の勢力を一掃し、経済的には米英の搾取
を根絶して大東亜自給自足経済体制を確立し、文化的には欧
米文化の追随を排し東洋文化を興隆して、正しい東亜の秩
序確立を期さねばならなぬ。御稜威の下、皇軍は緒戦におい
て赫々たる戦果をあげつゝあるとはいへ、相手は富強を誇る
米英である。今こそ国民は真に挙国一体となり、この大業を
遂行すべき決意を固め、政治、経済、文化、教育等国民生活のあ
らゆる部門に亘つて、高度国防国家体制を確立するため万全
の方策を樹立し、いかなる困難をも突破しなければならぬ。
 高度国防国家体制確立に向つては有形無形の国力のすべて
が、国家の最高目的に向つて動員集結されなければならな
い。従つて高度国防国家体制においては、国民の全部が同一
の人生観と同一の世界観において統一された思想をもつて団
結することが肝要である。かゝる精神的統一と思想的団結こ
そは、あらゆる障碍を突破し、試練を克服する原動力であ
る。かくて現下の教育は、肇國以来わが国民が抱懐し来つた
世界観を体得し、皇國の歴史的使命を自覚してこれが実現に
邁進する人物を錬成することを眼目とせねばならない。

 そも/\人は孤立せる個人でもなければ、普遍的な世界人
でもない。具体的歴史的の存在であり、国家的な存在であ
る。従つてわれ/\の践み行ふべき道は、抽象的人道でもな
く、また観念的な規範でもなく、具体的な我が国史として展
開されて来てゐる皇國の道である。吾々において人たること
は日本人であることであり、日本人であることは皇國の道に
則り、臣民たるの道を行ずることである。従つてわが国教育
の根本義は皇國臣民としての修練を積ましめることにある。
これ即ち国民学校令に「皇國ノ道ニ則リテ初等普通教育ヲ施
シ国民ノ基礎的錬成ヲ為ス」と規定された所以であつて、
それはまた、やがて中等教育高等教育を通ずるわが国教育の
根本義にほかならない。

時局下教育の根本方針

 今次聖戦に関する大詔の御趣旨を奉体して、わが国の教
育の負ふべき任務は、皇國の使命を負荷するに足る知識技能
を具へ、且つ旺盛なる実践力に富んだ国民を錬成してゆくこ
とである。皇國の使命とは、即ち肇國の精神にもとづいて、
大東亜の各国家及び各民族をして各々そんところを得せし
め、皇國を中核とする道義にもとづく共存共栄の秩序を確立
するといふ大使命にほかならない。この大使命を負荷すべき
大国民を育成すべきわが国の教育の任務たるや極めて重大で
あつて、今やその方策を確立し、その刷新充実を期すること
は極めて緊切である。この任務を達成するため、根本的な目
標とする所は左の通りである。
 第一 肇國の大精神を昂揚し日本的世界観の閘明徹底を図
ること
 第二 教学の刷新、学術の振興を図り、以てわが国独自に
して高度なる学問、文化を創造建設すること
 第三 皇國の道の実践を通じて全一的なる国民的性格を陶
冶し知徳相即、心身一体の修練によつて、皇國の使命を
負荷するに足る識能及び実践力を体得した大国民を錬成
すること
 かくて国民が斉しく國體の本義に徹し、皇國臣民としての
道を修練し、各々その職域に応じて國體の精華を顕揚するこ
とは、征戦目的遂行の根幹である。大東亜戦争は、根源に
遡つて考ふるならば、わが肇國の大精神の発現にほかなら
ぬ。東亜はこの肇國の大精神によつて指導され、団結し、自主
的な共栄圏とならねばならぬ。さればこの精神を国民に徹底
し、さらに東亜諸民族に閘明理解せしめると共に、従来の英
米的思惟を脱却して、悠久二千六百年の国史の上に培はれて
来た真の日本的世界観を確立し、徹底しなければならない。
 教学を刷新し、学術を振興することは、国民の識見を長養
する所以であり、また国策を樹立し、その実現の方途を明ら
かにし、国民の国家奉仕、大東亜共栄圏建設への実践的基礎
を確立する所以でもある。文化の精華を究め、独自の且つ高
度なる学術、文化の創造建設に努力することは、わが国の教
育、学問に課せられた使命である。
 かくて教育に関する制度及び内容の刷新を図り、教育の方
法について改善を加へることが、絶対の必要である。その中
には国民学校制度の如く、すでに実施されたものもあり、師
範学校制度の如く、昭和十八年度より実施するやう決定した
ものもあり、また目下企画中のものもある。しかしこれと共
に、広大なる大東亜共栄圏の各地域における教育が、相互に
統一ある方針の下に行はれるやう、殊に各地域において活躍
すべき邦人子弟の教育に関しては内外一体の方策が確立され
ねばならぬ。各外地、各国、各地域が相互に緊密に協力連携
して、各地の教育が、大東亜共栄圏の最高目標に向つて
綜合的計画の下に一体化して行はれねばならないのである。

学徒の錬成と修練組織

 皇國民の錬成は、國民学校制度によつて打ち樹てられた皇
國教育の大きな旗じるし(#「じるし」傍点)である。國民学校が皇國の道の修練
を旨として内容に一大刷新を加へ、教科の全一的統合により
教育の徹底をはかり、國民精神の昂揚、知能の啓培ならびに
体位の向上につとめ、知徳体一体の錬成を行ひ、内には養正
の心を以て国力を充実し、外には八紘を掩ひて宇と為す肇國
精神を顕現する次代の大国民を育成しようとする根本精神は、
中等学校より大学に至るわが國教育の根本義にほかならない。
これによつてわが教育はその理念を明確にしたのである。
 大東亜における指導者たるためには、我が國民は剛健にし
て高潔なる気節と雄渾なる気魄と堅実なる実践力を必要とす
る。
今後の教育は、授業中心の教育を一擲して、師弟行を同
じくして倶に学び倶に進み知行合一の体得を教育の方針とせ
ねばならぬ。そのためには集団勤労作業、学校諸行事が教育
訓練の体系にとり入れられ、武道教練を強化し、国防訓練を
実施する等団体的規律を尚び、節度を重んじ、鞏固なる意
志と旺盛な身体を錬磨することが授業と一体となつて、実践
力が培はれなければならぬのである。昭和14年中等学校
の入学試験制度を改正したのは畢竟錬成教育に支障なから
しめるためであり、本年三月より六大都市の中等学校につい
て学区制を設ける途をひらいた所以もそのためである。國民
学校が学術的教科を午前にとゞめた所もまたこゝにある
 
 昭和15年以来中等学校、高等学校、専門学校及び学友
 会を改組して報国団を結成せしめ、学内団体を挙げてこれを統合
 し、学校長たる団長の統率の下に師弟相携へ思想、文化、体育、
 武道、国防訓練等に修練をつましめ、以て学徒の風尚の作興に
 努力してきたが、更に昨年八月報国団の中に指揮系統の確立した
 全校編隊の隊組織を作らせ、総力をあげて適時に国防、生産力拡
 充等の要務に出動するといふ積極的な態勢をとらせたのは、時
 局の要請に応へて学徒の錬成を一層徹底するの趣旨にほかならぬ。

 今や吾人は戦ひつゝ建設しなければならないのであるが、
そのためには、青少年学徒が真に皇國民として修練を重ね、
東亜の指導者として錬成されねばならぬ。今後学校教育と学
校外の生活とは、かくの如き目標に向つて一体化されるやう
改善しなければならない。

高等教育の刷新

 大東亜共栄圏確立に向つて國民の指導者を育成する高等教
育は特に今日重要であつて、国家が大学、高等学校及び専門
学校に期待するところは誠に大なるものがある。
 以前において学問のための学問、研究のための研究といふ
ことが唱へられ、その結果歴史の現実を離れた抽象的概念と
理論を弄ぶの弊風が生じ、学生、生徒のみならず一般社会の
思想の混迷を来したが、わが國の教学の本義に鑑みるとき、
学問研究は皇國民としての立場で行はるべきものであり、大
学は爾来国家に須要なる学術の蘊奥を攻究すると共に学生の
国家思想の涵養を図り、人格の陶冶に努むべき使命を有する
ものである。しかるに、かゝる立場が閑却され、国家的使命
が自覚せられず、殊に教と学とが相分離したことが既往の種
種の弊害の原因であつた。こゝに鑑み、昭和15年12月、
文部大臣より官公私立の大学長に対して訓令を発し、大学教
授が研究者たると同時に教育者たるの責務を有することを示
し、教と学との一体を説いて大学教授もまた國體の本義に徹
し、師弟同行の間に学生を薫化啓導すべきことを促したので
ある。
 すでに昭和15年秋大学、高等専門学校等の学友会を解組
して報国団を結成させ、同時に文化、体育各種の団体をこれ
に一元的に統合して学校長の統率の下に、学徒の修練を行は
しめることとしたことは、夙に時局に目覚め、新東亜創成の
理想に燃えつゝあつた学徒をして、更にその本分を自覚せし
める強い契機となつたのであつたが、他方従来の欧米的思惟
より脱却せんとしつゝあつた学会の各方面において、真の歴
史的社会的実在に立脚した日本的諸学の研究、樹立の努力は
次第にその成果を挙げんとしつゝあるのである。東亜の指導
者を育成し、東洋の自主的な新文化を創成し、また国力の根
源に培ふ自然科学の振興を図ることは、わが国高等教育機
関の現下の最も大き(ママ)なる使命である。高等学校、専門学校に
おける教育はもちろん大学における教育は、右の如き国家的
要求と更に人口政策、産業国策並びに兵役上の必要等をも考慮
してその制度及び内容の両面において再検討されねばならな
いのであつて、殊にその思想的混迷を許さないのである。

勤労青少年の教育訓練

 青年学校教育は、近年質的にも量的にも著るしい躍進を遂
げつゝある。その教育訓練が、地方の実情に応じ生徒の日常
実際の生活に触れてゐるために、農山村、漁村、都市それぞ
れの地方において生活の改善合理化を促し、生産力の拡充
に貢献し、また体位の向上、国防力の増強に資したその成果は
まことにめざましいものがある。試みに、昭和12年度と昭
和16年度とを比較してみると、学校数において約二千を増
加し、教員四万人、生徒約九十三万人を激増し、経費をもても
約二・四倍に増嵩(ぞうかう)してゐる。かく就学、普及の状態が良好で
あるのみならず、内容において農学校、工業学校を凌ぐものす
らあつて、最もよき青年学校をもつてゐる会社ほど能率がよ
いと称されてゐる程である。しかしながら、青年学校の教育
は学校だけでは到底不十分であることを免れない。青年学校
教育を完うし、その高度国防国家よりみた使命を果すために
は、彼等の隣保団体たる青年団と相補ひ相輔けることが肝要
である。そこで昨年一月、全国の青年団及び少年団を一元的
に統合して大日本青少年団を設立し、文部大臣を団長として
その指導の下に青年学校教育と表裏一体の関係において全国
の青少年訓練を一元的に統制することとなつた。爾来國民
志気の昂揚に、国策の普及徹底に、生活の刷新に、生産力の拡
充に、満蒙開拓に、体育。国防訓練の振興や徹底に、また国
土の防衛等、その活動は時局の進展とともにめざましいもの
がある。
 今日ほど勤労青少年をしてその職域に目覚めしめ、自己の
任務を自覚して、規律節制を重んじ、生産の維持増強に励
み、国防能力の涵養に努めしめることの肝要なる秋はない。
昨年五月 天皇陛下は畏くもこれ等の青年代表に御親閲を賜
はつたのである。勤労青少年たる者、この光栄に感奮興起し
ない者があらうか。その教育訓練こそは、大東亜戦争を完遂
するために極めて重要なる意義を持つものである。

体育及び国防訓練

 我が肇國の理想を実現して東亜永遠の安定を確保せんとす
るならば、わが國民は健全なる精神と剛健なる身体を保持し
生々した力を蓄はえるやうに心掛けねばならぬ。しかるに従
来産業の発達は、若い青少年の肉体を蝕み、他方物質的な都
市文化が低俗安易な享楽生活をみちびいて、都市と共に國民の
体位を低下せしめた。これは真にわが国の前途に向つて大い
に考慮すべきところであつて、われ/\は深く国民体位低下の
原因を科学的に究明して、体位向上の根本方策を打ち樹てね
ばならぬ。
 本来教育は身体の錬磨と相離るべからざるものである。国
民学校が午後を専ら勤労的教育に当ててゐるのもこの主旨に
基づくものであつて、これはすべての学校教育に通ずる方針
でなければならぬ。外国では大学生でも午後は殆んど体育に
過すのであるが、従来のわが国の高等教育は、体育、衛生を
軽視する傾向があつたが、今後体育は単に身体の健康として
でなく、教育の重要なる一部門として心身一如の錬成に向つ
てその方法内容が刷新されなければならない。
 体育を振興し、その内容方法を刷新することの必要なるこ
と今日ほど急な秋はない。文部省では、これに鑑みて、今回
新たに学徒体育振興会を設立し、戦時下の国家的要求に応じ
た体育の刷新と振興を期してゐる。われ/\の身体は単にわ
れわれ個人のものではない。実にこれは大君に捧げて国の生
命を発展せしめなければならない。したがつて身体の鍛錬は
われ/\の重大なつとめとして、常に国民としての自覚にも
とづいてなされねばならぬ。
 体育の種目もまた国家の当面の要求に従つて、国防競技、
グライダー、武道、銃剣道、教練等を重視し、身体の鍛錬が
直ちに国防力の強化であらしめねばならぬ。青少年は国家興
隆の原動力であると同時に、国防力の源泉である。大東亜戦
争の前途を想ふとき、邦家の悠久の発展に備ふるための体育
の刷新振興と、国家当面の要求にもとづく国防力の強化と
は、現代の体育に課せられた大いなる責務である。今後の体
育はこの目的の達成にむかつて、これを内容、種目、方法に
亘つて全面的に刷新すると共に、体育団体の組織についても
また全面的な改革が行はれなければならぬ。

科学の振興

 科学に立脚しない国力は砂上の楼閣に等しい。殊にわが国
が現在の如く国防上も産業上も、一大飛躍をなさんとすると
き、科学の振興が殊に肝要なることはいふまでもない。

 科学の振興について忘れてならないことは、人文科学にお
いても、また自然科学においても、わが國體の本義に基づい
てなされねばならない
ことである。われ/\が学問するのは
日本人とするためであり、従つて日本人たるの道においてこ
れをなさねばならないからである。かゝる根本義に基づいて科
学を振興する第一の方策は、科学研究の機関を整備し拡充す
ることである。
科学を振興するためには殊にその基礎研究を
盛んにすることが大切であつて、若しこれが十分でなければ
忽ち国防や産業など主として応用方面の科学技術は行き詰つ
てしまふ。この基礎研究を行ふには大学のやうに学問の深い
研究を目的としてゐるところが最も適当である。従つて大学
を充実して、学部講座のほかに更に各種の研究所を設置し、
これに要する研究者と研究資材の製作や配給の機構を確立す
ることが大切である。現実にわが国の科学の発達は、従来大
学が担当して来たのであつて、各大学の幾多の学部、講座、
各研究所等が、それ/"\独自の研究によつて世界に誇るべき
成果を挙げて国家に貢献しつゝある。
 支那事変の勃発した昭和十二年以来大学に新設した自然科
学方面の講座の数は総計一五六を数へ、研究所の数も二一に
上つてゐる。その中で昭和十六年度新設のものが、講座四
四、研究所九である。それらのうち東亜共栄圏の人文、経済
に関するものとしては、人文科学研究所(京大)、東洋文化研
究所(東大)があり、近く東京商大に東亜経済研究所が新設さ
れんとし、医学方面では、体質医学研究所(熊本医大)、大陸
医学研究所(長崎医大)がある。東亜の資源の調査研究のため
には、昨年十二月宣戦布告当日に誕生した文部省直轄の資源
科学研究所があり、明年には更に東亜の諸民族を研究する機関
を設置する予定で、今後熱帯の科学的開発には、ます/\大
学や研究所等を拡充してゆかねばならない。
 科学振興第二の要諦は科学研究の連絡統合である。そのた
め学術会議、日本学術振興会その他の学会を強化して、学者
の研究を相互に連絡、促進せしめねばならない。更に進んで
民間の各種の学術団体や研究所、協会等の連絡や協力を促
し、広く内外の研究情勢を調査し、文献の蒐集、整備をなし
無駄を排除し研究の成績を向上せしめることが肝要である。
また科学を振興するためには優秀なる研究者、教育者、技術
者を必要とする。近年この科学要員の急激なる需要の増加に
伴つて大学、高等学校、専門学校を毎年著るしく拡充しつゝ
あるのであるが、わが国の科学陣は、欧米に比べて未だ極め
て弱い。このため明年度は、官立の大学では、学部を拡充
し、或ひは学科の定員を増加し、また高等学校では飛躍的に
理科の生徒を増募する予定である。
 科学教育を刷新し、真の科学教育を普及して国民全般が科
学に理解をもち、科学的に見、考へるやうにすることはまた
極めて大切である。この点においてわが国の現状は極めて不
満足な状態にある。国民学校、中等学校における理科教育を
人的にも内容的にも刷新整備すると共に、一般青少年に対し
て実地に科学的訓練を施し、科学知識を普及、向上せしめる
ことは非常な急務である。国民学校の科学教育については、
すでに一年の時より各教科において生活と実践とを通じて徹
底的に努力しつゝある。中等学校については、最近社会の科学
知識の水準が高くなり、学問が進歩したこと及び殊に女子の
実生活との密接を図る等の必要よりして、目下理数科の教授
要目を審議中であつて、近く実施の運びに至るであらう。た
だ今後においては、物理、化学、数学、工作等の時間におい
てのみならず、例へば修身、地理、裁縫、家事等においても生
徒を科学的に訓練するやう教育を改善せられねばならぬ。科
学の振興には、単に科学知識を与へるのみでなく、研究所の
開放、新設、大東亜博物館の如きものの設置が必要である。
大東亜戦争によつて、欧米の科学から離れたわが科学は、再
び相見ゆるときに、数段の進歩をとげてゐなければならない
が、そのためには、学者も研究家も、産業人も国民も一致協
力して科学の振興に努力せねばならない。

技術者の養成

 支那事変勃発以来、急激なる生産力拡充の必要上、実業学
校を増設または拡充して技術者を増加し、或ひは大学の学
科、講座、研究所の開設等により生産技術の新生面を開拓
し、或ひは学徒を動員して直接食糧、飼糧、木炭等の増産に
従事させる等、多大の貢献をなしつゝある。事変以来生産力
拡充に関係ある学校、学科、講座の新増設状況を見るに、大
学新設一、学部創設二、帝国大学及び官立大学を通ずる講座
の新設は工学部四七、理工学部二九、農学部一一、合計八七
に達し、学生数もまた累年躍進的な増加振りを示してゐる。
実業専門学校について昭和十二年度と昭和十六年度とを比較
すると、学校数において一三校、生徒数において二一、〇〇
〇人を増加し、そのうち高等工業学校が一〇校、約一五、〇
〇〇人を占めてゐる。中等実業学校について昭和十二年度と
昭和十五年度を比較するに、学校数において二一一校、生徒
数において約一五四、〇〇〇人を増加し、うち工業学校が八
一校、約四五、〇〇〇人を占めてゐる。これはわが産業の飛
躍的な発展に照応するものであるが、東亜共栄圏の建設上必
要なる要員は今後夥しい数に上るべく、これらの学校及び
学科は今後さらに増加する必要がある。そのため、明年度大
学の学部を拡充し、高等学校の理科生徒を増募し、実業専門
学校を及び中等実業学校の定員を増加する予定である。
 こゝで一言せねばならないのは、文科系統と理科系統の学
生の比率である。官立の大学、専門学校においては、理科系統
の学生の方が多いが、私立学校においては両者の比率は畸形的
に文化系統が多数である。従つて全体としては、文科系と理科
系の学生の比率は前者が多く、ドイツにおける四:六、ソ聯に
おける三:七に比較すれば、著るしく比率が異つてゐる。この
事情に鑑み、昨年来私立大学の文科方面は学生定員の増加を
抑制する方針をとることとなつたが、今後国策上の見地より
官民相携へて理科系の学生の増加に力を尽さねばならない。

労務動員

 学生の勤労奉仕は戦時下の教育訓練の一方法として行は
れ、農、林、商、工の多方面に著るしい成果を挙げ、昭和十五
年度は約二千万人の多きに達した。頭初は期待も小さく、能
率も悪かつたが、教職員及び学生、生徒の精神的緊張や熟練
や指導者の養成に意を注いだ結果として、最近は満足すべき
成果をあげつゝある。これと共に精神的、肉体的の両面に亘
り教育的効果また大いに見るべきものがある。これに鑑み、
文部省では、一年を通じて三十日以内授業に代つて勤労奉仕
を行ふことを許す方針をとつたが、昨年十一月に勤労報国協
力令が発布され、中等学校第三学年以上の生徒に対しては、
男女を問はず、一年を通じ三十日を限り、一定の総動員業務
に協力するの義務を負はしめることとなり、現に各方面にお
いて学校報国隊として出動、勤労生産に従事しつゝある。
生、生徒をして、直接国家的、社会的貢献の喜びを味得せし
めるこの教育方法は、今後十分に研究を重ね、國體的規律、
相互扶助、勤労愛好、体位の向上等の教育的効果を発揚する
やう努めねばならぬ。

国防教育及び訓練

 近代の著しい武器の発達と戦争形態の変化は国防教育の
徹底を必要とする。即ち高度国防国家の本質よりして、わが
国の自主的な立場に立つて、歴史を反省し、地理を検討し、
理科においても、体錬においても、工作においても、国家の
青少年に対する端的な絶対的必要が透徹教育されるやう、教
科目や課程及び教育方法が改められねばならぬ。しかし国防
教育の根本は、わが国教育の根本義にまでさかのぼらねばな
らぬ。國體の本義に徹し、君臣の分を弁へ、国家奉仕をも
つて第一義とし、そして大東亜戦争の真義を理解してゐるな
らば、いかなる思想も、謀略も、現実の危険もわが国を侵す
ことは出来ないであらう。しかし、米英は宣伝を以て得意と
する国々である。いかなる間隙に乗じて、謀略が侵入し国民
の思想を攪乱するか分らない。われ/\は深く皇國臣民たる
の分を自覚し、大東亜戦争の世界史的意義を認識して、惑は
ず騒がず目的の完遂に協力邁往せねばならぬ。
 他方国土に対する敵国の来襲ある場合を予想せねばなら
ぬ。これに備へ学校教練を徹底し、国防競技や海洋訓練、滑
空訓練及び機甲訓練等国防上必要なる訓練は速に普及し徹底
してこれを行はねばならない。
殊に国土防空に対する学徒の
使命は極めて大きい。素質において、教育訓練において、体力
において、集団の威力において、学徒は殆んどそのまゝ国土
防衛の戦士である。昨年八月学校報国隊の結成以来、重要都
市における学生の真剣な消火、救護、防毒等の訓練成績と積極
果敢なる行為は、時に専門の従事者を凌ぎ成果大いにみるべ
きものがある。
 すでに大都市おいては、学校報国隊員の防空配置計画が
定まつてゐる。今回の防空法の改正によつて、国土防衛に従
事する者も出来ることとなつた。この未曾有の戦に際会して
は、教職員、学生生徒一体となり、祖国の国土防衛に完璧
を期さねばならない。

東亜教育

 東亜教育或ひは興亜教育は現代わが国の合言葉であり、ま
た実にわが教育界の責務である。東亜教育は、端的にいへば
国民に対して真の東亜を教へ、東亜共栄圏に進出して肇國の
精神を実現するために、臣民の道を行ずる人物を育成するこ
とをいふ。従つて今後わが国民は、東亜共栄圏に属する国
国や地方等についてその歴史や地理を学ばねばならぬ。最近、
東亜共栄圏に関する政治、経済、産業、民族、風土等に関す
る数多の書籍や記事によつてこれを知るやうになつて来た
が、それは未だ玉石混淆の全く未整理な、知識の原鉱にす
ぎない。真に東亜教育或ひは興亜教育を行ふには、東亜の自
国及び文化の万般に真剣な科学的調査、研究が行はれ促進さ
れねばならぬ。
 このため、昭和十四年以来大学に東洋の政治、経済、文化
等の講座が新たに設けられて来たが、その後各帝大、官立大
学に研究所が設立され、或ひは産業の方面につき、或ひは資
源を目途とし、或ひは人文科学の医学等の各方面に研究調査
が進められつゝあり、今後さらに拡充し、殊に青年の自らの
研究と調査を促すことが大切である。
 国民の海外発展の気力を養成し、且つ東亜に関する知識を
深め、指導国民としての識見を涵養することについては、初
等教育より行ふことにしてゐるが、特に大陸に発展すべき人
材を育成する施設もまた近年相ついで各種の学校に設けられ
て来た。また学科内容としても、東亜建設の国策と学校教育
の密接なる一元化を策し、学生、生徒をして東亜建設の理念
及び政策の全貌を認識せしめる目的をもつて、興亜講座一科
目を官立大学、専門学校に設けさしてゐるが、将来更にこれ
を拡充する方針である。
 かく学校の講座、学科、研究所にして大陸発展を目指すも
のは官公私立を通じ、実業学校を含むときは、総計百を超
え、今後はさらに多くの南方に対する施設がこれに加はらね
ばならぬ。
 そこで、今後かゝる施設に対しては強力なる指導を与へ、
監督もし助成も行はねばならぬのであらう。かゝる共栄圏の
第一線において他の民族と協働する者に対しては、真に日本
人らしい教育を徹底しなければならぬからである。
 次ぎに邦人は、支那事変以来驚くべき勢で大陸に移住し
てゐるが、今後更に南方に進出するであらうから、これら現
地に在る邦人子弟の教育については、教育の方針、内容、教
師の養成、学校の制度等に亘り速かに統一ある計画を樹立し
着々実行に移さねばならぬ。また将来逆に東亜共栄圏内の諸
国民の子弟の内地へ留学する者が激増するであらうが、彼等
にわが国の長所を理解せしめ、国民に親愛の情を懐かしめ、
帰国後よく提携してゆくやうに指導し、錬成することが必要
である。これら留学生の指導については、文部省、外務省、
興亜院、対満事務局等が相協力して当つて来たが、明年度よ
りは本省に専任の職員を増置してこれが積極的指導に当らせ
る予定である。

教育内容及び制度の改革

 教育は国力を根気に培ふものであり、これを軽々に改革
すべからざることはいふまでもない。しかしながら事変以来
わが国の教育は、高度国防国家建設の必要にもとづき青年学
校男子生徒に就学義務制を布き、またわが国教育の根本義に
則り時代の要求に応じて初等普通教育制度の大改革を断行し
て国民学校制度を実施した。
 かゝる客観的な情勢は中等教育についても、実業教育に
ついても、はた又高等教育についても、旧来の自由主義、個
人主義、功利主義に基づく教育思想を一掃して、皇國民の錬
成の教育理念を確立せしむるに至つた。
 かく教育制度を改革し、教育内容を改善し、教育の方法を
再検討することは今日喫緊の要務でなければならぬ。修学年
限の臨時短縮はかくの如き情勢に対応するものではあるが、
それはあくまでも臨時的な措置にすぎぬ。
 従つて今後教育制度の全般に亘り慎重なる検討を加へ、順
を追うて改革を行つてゆかねばならないのであるが、その改
革の眼目としては飽くまで大東亜戦争の遂行、大東亜共栄圏
確立の見地より考察すべきものであつて、他の国防産業経済
等に関する他の国策と密接なる関連の下にヘ行くに関する企
画を樹立し、これに即応する改革が行はれなければならない
のである。