第二七七号(昭一七・一・二八)
   大東亜の建設方針
   増税と国民生活          大 蔵 省
   マレー進撃作戦          大本営陸軍報道部
   味噌、醤油の配給の仕方      農 林 省
     −味噌醤油等配給統制規則について−
   大東亜戦争日誌
   常会の頁           内務省・国民貯蓄奨励会・軍事保護院

大東亜の建設方針

 大東亜戦争一度び開始されるや、精鋭無比の皇軍は、僅か十二日で難攻不落を誇つた香港を屠り、二十四日にして比島の首府マニラを攻略、長駆してマレー半島を殆んど制圧、さらに最近に至つては蘭印の要衝を相次いで占拠する一方、重慶政権が最後の輸血路と恃むビルマにも進攻、今や米、・英が過去百年間に亘つて侵略の魔手をほしいまゝに振った東亜の重要拠点は、殆んど我が掌中に帰し、亦た帰さうとしてゐる。
 かゝる広大なる地域に対して、我が国が今後如何なる方策をもつて、その念願である大東亜共栄圏の建設を達成し、世界新秩序の完成に寄与するかは、独り一億国民だけでなく、実に東亜十億の民族が均しく知らんと欲したところである。
 去る一月二十一日第七十九議会再開の劈頭、東條内閣総理大臣によつてなされた演説及び各国務大臣の答弁は、この要望に余すところなく応へたものであつて、こゝに大東亜戦争並びに大東亜共栄圏建設の具体的方針は、洋々たる希望のうちに早くも確立され、全世界に向つて率直明快に閘明されたのである。

大東亜戦争の指導方針

 まづ大東亜戦争の指導方針として、大東亜に於ける戦略的拠点を確保すると共に、重要資源地域を我が管制下に収め、これによつて我が戦力を拡充しつゝ盟邦独伊両国と協力、相呼応してます/\積極的作戦を展開、米、英両国を屈服せしめるまでは、断乎として戦ひ抜く帝国の気概と決断が明らかにされたのである。
 さらに、全世界注視の的である大東亜共栄圏建設は如何にして行はれるかについては、もと/\大東亜共栄圏の根本方針は我が肇國の大精神に淵源するものであつて、大東亜の各国家及び各民族をして、各々そのところを得しめ、帝国を核心とする道義に基づく共存共栄の秩序を確立することにあるのでありて、その建設は広大なる地域に亘つて各種の民族と相椅り相携へて行はるべきであると述べられ、世界史上に一紀元を劃すべき大東亜民族の解放とその発展とは、今こそ力強く約束されたのである。
 しかしながら、各民族がそのところを得、生々発展するためには、日本が武力戦に最後の勝利を得ることが絶対条件であることはいふまでもない。しかも東亜の安定は、帝国が根幹となることによつてのみ確保される。こゝに大東亜防衛陣の鉄桶(てつとう)の備へが要望されるのであつて、この防衛に絶対必要な地域は、帝国が自らこれを把握措置し、その他の地域に関しては、各民族の伝統、文化等に応じ、それ/"\適当な処置がとられることになつた。

各作戦地に対する方針

 香港及びマレー半島は、多年英領であつた上に、東亜攪乱の基地となつてゐたので、帝国は徹底的に禍根を芟除(さんぢよ)するばかりでなく、これ等を大東亜防衛の拠点たらしめる。
 比島は、今後民衆が帝国の遂行しつゝある大東亜戦争の真意を解し、大東亜共栄圏の一翼として協力する場合には帝国は欣然として彼等に独立の栄誉を与へ、ピルマ等についても帝国の企図するところは比島と同様である。
 蘭印及び濠洲は、現在のやうに帝国に対して抗戦を続ける場合は、容赦なく撃砕する。しかしその住民が帝国の真意を解して協力的態度に出てくれば、その福祉と発展とのために十分理解を以て、これに力を漆へるに吝かではない。
 皇軍の制圧下にある各地域に対し帝国が、このやうな道義に立脚し、温情に富んだ処理方針で臨むことになつた事実は、今日まで口を開けば大東亜戦争を侵略呼ばはりし、大東亜建設を終始排他的、閉鎖的と逆宣伝して来た米英を顔色なからしめたに違ひない。一方、今なほ米英依存を空頼みに無意義な抗戦を続ける重慶政権が、今や皇軍の徹底的破砕下に余命すでに尽きんとしてゐるのは、自業自得とはいひながら憐れむべきであつて、今こそ米英依存の旧套(きうたう)を脱して大東亜建設の大栄に馳せ参ずべき時期である。
 これに反し、満、華、タイの諸国民が帝国と一丸となり、仏印また協力して共に大東亜共栄圏建設に邁進、さらに独伊が帝国との間に周知の通り対米英戦完遂の協定を結び、和携へて世界新秩序建設のため、軍事、外交、経済の各方面に亘つて緊密に結束し、米英打倒に総力を傾けてゐることは真に力強い限りである。

南方経済建設の方針

 戦争の現段階における南方経済建設の方針は、まづ重要資源の需要を充足して当面の戦争遂行に遺憾なきを期すると共に、大東亜自給自足の体制の基礎を確立することを主眼とし、
 具体的方針は、第一には資源獲得、特に戦争遂行上緊要なる資源を確保すること、第二には南方資源が敵性国家に向け流出するを阻止すること、第三には作戦軍の現地の生活を確保すること、第四には在来の企業のわが方に対する協力を誘導すること、にあることが、二十四日の議会に於ける東條内閣総理大臣の答弁によつて明らかにされた。
 次いで鈴木企画院総裁は、これについて一層具体的に述べたが、その概略は、南方資源開発の順位は戦局の推移に応じ、需要の緩急、輸送の状況等を考慮の上、中央においてこれを定め、開発した重要物資はすべて物資動員計画に組入れて、一元的にその用途を規制する方針である。
 石油、鉱産、農林産等の開発に当つては、新らしい綜合会社、共同企業等の形は避け、経験と能力のある企業者の熱意と創意とを十分に発揮させることを原則とする。その企業者が真に国家の代行機関的使命に徹底して国家的に活動することを期待してゐるのである。
 南方諸地域との物資の交易は、物資動員計画に基づき予じめ計画的に予定された品目と数量について行はれるが、戦争といふ特殊な状態の下に行はれるのであるから、現地からの対日供給は差当り政府の会計で買取輸入をなし、我が国から現地への供給も同様に買取輸出をすることになる。
 南方物資の輸送も、需要の緩急に応じ、輸迭の順序、数量等を定め、陸海軍の統制の下に船腹の最も友効な利用を図ることになる。又南方占領地への一般人の渡航は、差当つては差止め、情勢の展開に応じて必要と認める者から逐次その進出を図る方針で、要するに、現段階においては武力戦に勝つといふことが大眼目であり、以上はこの点に出発しこれを目指すものである。

戦争完遂の国内態勢

 帝国の企図する大東亜共栄圏の建設は、かゝる方針に基づき緒戦においては、まづ軍政下において戦争遂行上緊要なるものから着手し、将来防衛、治安が確立されるに従つて、逐次民間参与の範囲を拡充する方針であるが、大東亜建設の方策は国家百年の長計に俟たねばならないので、政府は慎重を期し、広く官民各方面の智能を総動員して万全の策を講ずることになつてゐる。
 従つて政府は、国政各部門に亘つて戦争遂行に必要な方策を確立し、これを迅速に実行しなければならないのであつて、すでに南方地域の資源の開発利用に必要な資金を供給する南方開発金庫法案も今議会に提案してをり、さらに銃後にあつては戦時生産力の維持増強を図るため、時に緊要な企業家中優秀なものには重点的に資材、労力、電力、資金等を集中して重要国防産業の生産拡充に努めるほか、船舶の建造、国民貯蓄の増強等に今後一段の努力を払ふべき準備は着々進められてゐる。一方、国民の素質の向上と人口の増加は戦争遂行のために絶対に必要で、これがためには教育全般の刷新強化、国民の保健施設や医療制度の根本的整備も当然なされなければならない。
 今や我が国は国家の総力をあげて米英打倒に邁進、皇軍は大東亜の各地域に驚異的な戦果を収めてゐる。しかしながら、米英両国は、永年に亘り世界制覇の基礎を固め、世界最大の富強を誇る国であるから、必ずや緒戦の大敗にかゝはらず執拗な反撃を続け、大勢の挽回に躍起となることは明らかである。従つて我等の前途には今後各種の困難な事象が発生し、戦ひが長期戦となることは覚悟せねばならない。即ち戦争は正に今後にあるのだ。宜しく一億国民は寒暑を克服して勇戦力闘する忠勇なる我が陸海軍将兵の労苦と武勲に対して心からの感謝の意を表すると共に、いよ/\必勝の信念を固くし、戦争生活に徹し、如何なる艱難辛苦にも堪へ忍び、以て皇國に報ずべき覚悟と決意を新たにすべきである。