第二七四号(昭一七・一・七)
大東亜戦下 新春を迎ふ
大詔奉戴日の設定
進め、戦ひの生活へ
大東亜戦争の性格と戦局の推移
燦たり、マニラに日章旗 大本営陸軍報道部
大東亜建設と制海権 大本営海軍報道部
変貌するフィリピン
開所する国民訓練所 厚 生 省
敵産管理法について 大蔵省為替局
中南米諸国の動き
英米罪悪史(三)
支那事変第五年の戦闘一覧
大東亜戦争日誌
進め、戦ひの生活へ
大東亜戦争は第二年に入つた。御稜威の下、皇軍の戦果は燦とし輝き、太平洋及び東亜における米英の拠点は相次いで潰滅し、数世紀に亘つて横暴を極めた米英支配の旧勢力は、今や我々の眼前において脆くも崩壊の一路を辿りつゝある。これに代つて、東亜の、否、世界新秩序建設の息吹きが、早くも皇師の往くところ赤道近く南方戦塵の中から感じられるのである。長い間の圧制と虐待に喘いでゐた南方民族に今や解放の喜びが訪れ、搾取と壟断の対象でしかなかつた南方資源が真に東亜のために、全人類のために開発され、利用される日が到来しようとしてゐる。
日本は米英的旧体制に反抗し新秩序建設のために立上つた最初の国家であり、世界の強敵米英に対して堂々挑戦した最初の国家である。大東亜戦争こそは、日本が世界に呼びかけた新秩序への解放戦であり、それと同時に、日本に取つては、自存自衛の止むなきに出でた大東亜共栄圏確立の資源戦でもある。
戦勝と共に朗報早くも南方より至る。マレー戦線においては、皇軍は世界一の錫の産地タイピンを攻略し、英領北ボルネオの上陸作戦において、直ちに敵の破壊した石油施設の復興に着手し、もし修理が希望通り進捗するならば来年度五十万トンの採油も可能であるとのことである。
一面戦闘、一面建設、戦ひつゝ建設し、機敏なる成果を挙げつゝある皇軍のこの措置に、我々は感謝と喜びの言葉を知らないが、これを以て南方の資源が労せずして輸入され、我々の生活を霑し、経済界に昔のやうな時代が復帰すると考へるが如きは甚だしき認識不足といはざるを得ない。
如何にも大東亜共栄圏に含まるべき地域は世界の宝庫である。マレーは世界一の産額を誇るゴム及び錫を始め鉄鉱、石炭、マンガン、タングステン、螢石、ボーキサイト等を多量に産し、フィリピンは鉄、麻を始め、石炭、クローム鉱、マンガン鉱等の資源がある。蘭印には多量の石油、ゴム、錫のほか、石炭、鉄鉱、ボーキサイト等があり、既に大東亜共栄圏の一環として盟約せる仏印、タイには米、鉄、石油、ゴム、チーク等があり、わが国の自給自足経済に寄与しつゝあることは周知の通りである。このほかこの地域には、特産物としてコプラ、椰子油、規那皮、水産物等があり、世界の国々の垂涎措く能はざるところである。
かゝる南方資源が、米英の支配と搾取とから解放され、開発利用される暁には、日本、否、東亜の経済力の増強はいふまでもなく、米洲、欧洲、ソ聯等の広域経済圏の経済力にも勝るとも劣らぬ実力を有するのであつて前途まさに洋々たるものがある。
併しながら、どれだけ資源があつても、その開発利用には、資金もいる、資材もいる、労力もいる、技術もいる、船舶の輸送力もいるなどと、幾多の条件が必要である。而もこの大戦争を多方面において戦ひつゝこの建設事業をやつて行かぬばならぬところに、今後我々が直面する大いなる困難がある。即ち内に生産力の増強をはじめ戦争遂行のための国力を充実強化しながら、外に向つて大規模な建設戦をやつてゆかねばならぬ二重の負担を負ふ結果になるのである。資源開発の目先に走る傾向があるが、この国力増強あつてこそはじめて、かゝる偉大なる歴史的建設戦が併行出来ることを知らねばならぬ。また逆に赫々たる戦果を生かし、建設の実を挙げるために我々は戦勝の感激を国内戦争態勢の確立に注ぎ込まねばならない。
最近世間では、北ボルネオの石油開発などに関聯して、「わが占領地にある資源が直ぐにも利用でき、忽ち今日の不自由な生活から解放されるだらう」とか「もう企業の整理統合などしなくても…」などと極めて甘い考へを抱いてゐる者が見受けられるが、これは戦争経済の本質を知らない余りにも浅薄な考へといはねばならない。
成る程、ABCD包囲陣は撃破され、我々の前途には大きな希望が開け、目安も出来たが、戦況が我に有利だからといつて、すぐに物資が這入つ来るといふことを軽々しく期待するのは非常に危険である。まだ/\戦ひに一歩踏み込んだばかりで、開発はこれからである。第一線では将兵が命を投げ出して戦つてゐるのである。戦争遂行の為めに、銃後はまだ/\年期を納めつぎ込む時期である。差し当つて我々の生活が楽になるどころか、否、むしろ今後更に倍加する苦難と戦つて行かねばならないであらう。
また南方資源の開発や交流については、今度の戦争の性質上、急速に所期の目的を達成する必要があるので、重点的に、軍の作戦と並行して国家的計画の下に実施されるべきで、昔のやうに「我先きに一もうけ」といふやうな自由主義的、個人主義的、商業的方式が許されないことはいふまでもない。
それから更に、企業整理統合の問題であるが、たとひ今まで窮屈であつた物資が或る程度入つて来るとしても、企業の形を最も合理的なものとするために必要な整理統合をやつて置くことは、将来のわが国の産業力を伸ばす所以であつて、政府でも企業の整理統合の方針をゆるめるといふやうな考へ方は持つてゐないのである。
要するに、戦争によつて、経済の戦時態勢は緩和され、また変更されるのではなく、逆に強化され、真実の戦争態勢に組織されようとしてゐるのである。これからがほんたうの戦ひの経済となり、戦ひの生活に入るのである。将来の光明に眩惑されてはならない。我々が現実に直面しつゝあるのは、この光明の彼岸に到着すべき苦難の道程である。
そしてこの苦難の道程を克服突進し得るか否かゞ、東亜の諸民族を米英の絆から解放すると共に、皇国の生存発展を期さうとする大東亜戦争の大目的達成の成否の岐れる処なのである。
宣戦の大詔を拝した十二月八日を境に、我々一億国民の気持は、あの日の日本晴れのやうに澄み切つた。真正の敵にめぐり合つて真剣勝負を戦ひ抜く心境である。相次いで到るすばらしき戦果は、我々の進むべき方向に限りなき自信と必勝の信念とを与へた。米英との関係はまさに主客転倒して日本が世界を主導する地位に立ったのである。
我々の心には、わだかまりもなも不平も不満もなく、心ゆくばかり戦ひ抜いて、日本人たる誇りを、そのねうちを世界に向つて発揚して、世界維新をめざす戦争目標の完遂を期するのみである。新らしき創造の歴史は始つた。
かつて敵英国のチャーチル首相は「近代戦の基礎が鉄鋼にありとすれば、日本は米国の如き年産九千万トンを産ずる国と無益に事を構へるのは危険至極である」と不遜な恫喝的言辞をはいたことがあつたが、聖断一度下るや、皇国の前には鋼鉄の偉大も何物でもなかつた。死を顧みざる大和魂と攻撃精神の前には敵するものはなかつた。
彼等は皇軍の赫々の戦捷に驚嘆すると同時に、日本の経済力を、実力を、過少評価することを戒めてゐるが、我々自身も緒戦において、日本の精神力が経済力、物資力を、否、米英の唯物的なものの考へ方に打勝ち、これを支配し得た事実を、もう一度しつかりと肝に銘ずべきであると思ふ。
米英との戦ひを通じて我々は、物の考へに、生活の態度にいろ/\改むべきものがあると思ふ。我々はまづ戦ひの心に徹した心の変革を行ふことが必要である。死もなく、生もなくたゞ大君の為めに魚雷をいだいて敵に体当りをやつてゆく軍人精神はたゞ戦場だけのものであつてはならない。この勇士の心が、これからの政治に、経済に、生活にもつと/\生かされねばならない。それが我々のなすべき国に奉じ国に殉ずる姿であり、聖旨に応へ奉る所以である。