第二七四号(昭一七・一・七)
   大東亜戦下 新春を迎ふ
   大詔奉戴日の設定
   進め、戦ひの生活へ
   大東亜戦争の性格と戦局の推移
   燦たり、マニラに日章旗      大本営陸軍報道部
   大東亜建設と制海権        大本営海軍報道部
   変貌するフィリピン
   開所する国民訓練所        厚 生 省
   敵産管理法について        大蔵省為替局
   中南米諸国の動き
   英米罪悪史(三)
   支那事変第五年の戦闘一覧
   大東亜戦争日誌

 

大東亜戦争の性格と戦局の推移

    一

 対米英戦争開戦劈頭、帝国海軍がハワイ及びマレー沖海
戦において、敵海軍の主力を撃滅したことは啻に敵を戦慄
せしめたのみに止まらず、その後の対日武力戦遂行に非常な
違算を生ぜしめることとなつた。またわが陸海空部隊の
作戦宜しきを得、忽ちにして敵航空勢力とこれまた殆ん
ど撃滅したことにより、前者と相俟つて制空、制海権は我
れに帰した。これがためわが上陸作戦は次ぎ/\に成功を
収め、敵の対日作戦基地は日と共に東亜から抹殺されつゝ
ある。
 英国の支那における最後の拠点であつた香港も、攻撃僅か
十八日を以てわが軍の手に帰し、米国の東亜における作戦
基地をなすフィリピンのマニラも終に陥落した。
残るはシ
ンガポールのみである
。シンガポールまでは距離も未だ相
当にある。わが第一線将兵は赤道直下、炎熱と戦ひ、悪疫と
戦ひ、しかもジャングル、湿地等の地形の険難を克服して進
撃を続けてゐる。大英帝国の東亜根拠地シンガポールにはそ
の名も高い難攻不落の要塞がある。シンガポールの喪失は
取りも直さず英帝国崩壊の端緒を作るものであつて、その
政略的意義は極めて大なるものがある。従つて英国として
はたとへ、無援孤立とはいへ、悲壮なる決意を以て最後ま
で抵抗するものと考へられる。シンガポールの攻略こそは
容易なことではなからう。これが攻略には相当の時日を要
することであらう。しかし結局陥落は時間の問題である。
 そして攻略後における東亜の情勢には相当の変化が齎らさ
れることであらう。また重慶残存抗日勢力もいよ/\没落
の運命を辿るであらう。
 一方、海戦と空中戦とは絶えず繰り返へされ、作戦地域
は日と共に拡張されることであらう。今年一年の間にど
の程度にまで日章旗が進められるかは一寸想像し難い。何
しろ支那大陸より太平洋に亘る全地域を戦場として、史上
未だ嘗つてみざる大戦争が展開されることになる。しかし
大東亜を戦場とする限り、我れに時の利があり、地の利が
あり、人の和がある。
 支那事変五年の我等の労力は、米英支蘭のいはゆるAB
CD対日包囲陣結成に際し、先づ抗日重慶政権を完膚な
きまでに撃ち破つたのである。蒋介石は今こそ総反攻の好
機なりと叫んではみたものの既にその実力を失つてゐる。
今回の香港攻略に当り、蒋介石は余漢謀に命じわが軍を背
後より攻撃すべく命じたが、遅疑逡巡遂にその機を逸し
たのも、実は攻勢に出づべき能力を持たなかつたためであ
るとみられる。
 いま若し仮りに支那事変がなかつたならば、蒋介石抗日
軍は米英と呼応し南京、上海辺で大出撃戦を敢行する能力
を保有してゐるわけで、わが南方作戦の円滑なる遂行は到
底期し得なかつたことであらう

 大東亜戦争は敵、米英にしてみれば東亜での戦争であ
る。余りにも距難が遠い。今日の発達した科学の力でも、
この大自然を制するのには余りにも貧弱である。従つて大
東亜において戦ふ米英軍は無援孤立、結局各個に撃破され
ることになる。米英軍当局は対日攻勢戦備のため太平洋の
島嶼を作戦基地としてその強化に努めてゐたが、これ等は
今や殆んどわが軍の領有に帰せんとしてゐる。わが軍がこ
れを占領するからには、敵の対日攻勢作戦は極めて困難な
ものとなる。これに反して、わが作戦基地は南支より仏印、
仏印より泰、泰よりマレーと一歩々々着実に進められてゐ
る。これは全くわが軍が地の利を占めるがためであるとい
ふべきである。
 大東亜戦争は帝国としては死活存亡の戦ひである。出征
将兵は申すに及ばず、一億の日本国民は決死の覚悟を以て
戦つてゐる。しかるにわが敵は如何なる有様か。英国はさ
ておき米国に至つては、一体何のためにかくも戦はなけれ
ばならないのかと反問されても返答が出来ないであらう。
西半球の防衛のためならば、英国や重慶のために余計な手
出しをしなければそれで済むではないか。火中の粟を拾ふ、
といふのは正にルーズヴェルト大統領のことである。戦争
目的がか様な状態である。しかも敵はすべて利害を以て集
散離合してゐる聯合軍に過ぎない。英は米を利用せんと
し、米は重慶と利用せんとし、重慶は英米を利用せんと
し、互にくらはすに利を以てしなければならない聯合戦線
である。また東当にある敵軍はインド、マレー、フィリピ
ン、カナダ、濠洲等、各地出身の混合部隊である。到底忠
勇なるわが軍に敵すべくもない。
 かやうに考へ来れば大東亜戦争において、我は時の利を
得、地の利を占め、人の和を得てゐるのであつて常に必勝
の信念を以て戦ひ、勝ち抜き得ることは必然のことであ
る。
 しかも、この大東亜戦争は、欧洲戦争と共に世界戦争の
一環であり、今年においてその進展と共に枢軸側の攻勢が
期待される。即ち地中海方面、又はソ聯方面において更に
勝利がもたらされ、米英的体制を崩壊へと導くであらう。

    二

 大東亜戦争の緒戦において、大敗を満喫せしめられた敵
は今や如何にして世界戦争に当るべきかについて苦慮しつ
つある。伝ふるところによれば、チャーチル英首相はワシ
ントンに飛び、ルーズヴェルト大統領と英米聯合作戦を鳩
首凝議してゐるとのことである。恐らく当面するシンガ
ポール攻略に対し救援軍を送るべきか、送り得るかを議題
としてゐることであらう。何れにするも戦争全局に対して
は英米一体となつて長期態勢に応ずる方途を決めたことで
あらう。
 由来、米英の対日戦法なるものは、経済圧迫を主体とした
ものである。米英の言論機関は米英の対日経済圧迫によつ
て日本は遠からずして屈服せしめ得る。武力までも発動す
るには及ばないとの観念を宣伝これ努めてをつたのであ
る。
 しかるに今やこれは単なる希望的観測に過ぎなかつたこ
とを事実によつて教へられてゐる。土地大に、物豊かに、
金と物とに有り余ると称してをつた敵も、これからはゴム、
錫、麻、キニーネ、マンガンその他の国防資源を失ひ、経済
戦的にも攻守所をかへんとするの新たなる情勢が生れた。
 一方、敵はその有り余る物資、殊に農産物の市場を失ひ、
これまた悩みの種となる。従つて経済戦的にみた敵の内情
は我に決して劣らざる窮状に陥るものとみられる。
 経済戦で日本を屈伏せしめ得るとの考へは開戦によつて
一掃されたことであらう
。そこで頼みとするのは、その産
業力によつて造り出す尨大な軍備であらう。敵が呼号する
三百万噸の艦艇、二万五千の飛行機、二百万の陸軍の整備
である。これは敵の工業力を総動員すれば必ずしも不可能
ではない。
 かくて敵は我に対し長期ゲリラ戦を継続する一方、軍備
の拡充に血眼になつて努力するであらう
。さうしてこゝ
二、三年の間に大軍備を整へた後、一大攻勢に転じ最後の
戦勝を獲得しようと、対日戦法を指導してゆくであらう
と判断される。

    三

 以上のやうに敵が長期持久戦法をとるものと判断される
のに対し、帝国として如何に対処すべきか。これは申すま
でもなく一面戦闘、一面建設の両様の長期戦となる。広大
なる戦線を維持し増強するため、軍備は日に/\増強され
る。
兵員の補充、兵器、資材の補給等、軍需生産関係工場
は彌が上にも能力を向上しなければならない。又これが必
要資源は東亜共栄圏の開発、利用あるのみである。
従つて
依然として国費は膨脹の一途を辿る。消費の節約、貯蓄は
ます/\強化される。これからこの方面に国家国民の総力
が集中され、一日も速かに自給自足の態勢を整へなけれ
ばならない。この経済戦態勢が整ふか否かゞ実に対米英戦
争の重大要素となるのである。
 今後は前述の敵の戦法から考へてもて、わが作戦地域の拡
大されることから考へても、先づ戦ひ勝つために国防の要求
が絶大なものとなつて来る。もちろん長期戦下、国民生活
の安定といふことも国防の一大要素である。これがため一
方に軍需生産、一方に国民生活必需品の生産も必要といふ
ことになる。しかしこれは幾多の困難が伴ふ。全国民が一
様に最低限の衣食住に甘んじ、喜んで働く気概を以てこれ
が不足を補ふのでなければ到底戦ひ勝つことは出来ない。
 結局、この一大長期戦を戦ひ抜き得るか否かは、国内態
勢の整備、特に国民精神力の強弱如何によつて決せられ
る。
敵の一は極めてねはり強い英国である。他の一つは負
けず嫌ひの米国である。しかし共に唯物主義であり物質文
明の余弊を受けた弱点がある。敵のこの弱点を突くにわが
伝統の忠勇精神を以てしたならば敵は終に屈せざるを得な
いであらう。
 かくして今年は、わが国は独伊枢軸同盟国と協力して、
米、英、重慶等の敵に対し、武力戦に、経済戦に、思想戦
に、歩一歩攻勢的体勢を占め、大東亜共栄圏の基礎を確立
することにならう。我々は常に必勝の信念を堅持し、一億
一心、如何なる苦難が襲来しても、断じて屈しないとの堅
き決意を、年頭に当つてお互ひに誓はなけばならない。