第二七二号(昭一六・一二・二四)
決戦態勢強化
生活に活かせ大勝の感激を
改正された防空法 内 務 省
戦時下犯罪の厳罰 司 法 省
南方作戦の特徴 大本営陸軍報道部
ハワイ開戦の戦果 大本営海軍報道部
日泰同盟条約成立す
英米罪悪史(一)
産業再編成問答(中) 商 工 省
常会の頁
生活に生かせ大勝の感激を
大東亜戦争勃発劈頭において、早くもハワイ海戦で米太平洋艦隊を全滅せしめ、続くマレー沖海戦に英国東洋艦隊の主力をほふる。陸軍またマレー、フィリピンに戦果を拡大して米英の牙城、香港を制しシンガポールに迫る。東は遥かハワイ群島より西は印度洋へ、南は遠く濠洲に近く渺々たる太平洋を抱く大戦域が、一朝にして我々の眼前に拓けたのである。この雄大なる規模、絶大なる壮挙を思ふとき、我々は胸躍る感慨を抑へることが出来ない。
今日の大勝を開戦前において確信を以て予見した者が果してどれだけあつたであらうか。全世界を震駭せしめたこの赫々たる戦果は、わが陸海軍の血を吐く猛訓練と尊い犠牲の賜であり、一度出でて再び生還を期せざる軍人精神の然らしめたところ、我々一億国民の感謝感激措く能はざるところである。勝利はつねに御稜威と共にあり、刻一刻至る勝利の快報に我々はいよいよ皇国不敗の信念を固めるばかりである。
併しながら我々は緒戦の勝利に酔ひ、凱歌に驕つてはならない。相手は世界に冠たる大国であり、強国である。伝統のねばり強さを誇る英国であり、比類なき富を豪語する米国である。両国にして男ならば、必ずや今日の不覚を雪辱する日を期してゐるであらう。敵潜水艦の海上ゲリラ戦とわが哨戒の眼をかすめて来る敵機の来襲もないとは断言出来ない。恐れず、侮らざるの備へをつねに持ち、警戒は決して緩めてはならない。
また米英は、持てる富に物をいはせて長期戦を以て我に当らんとする戦法を選ぶであらう。長期戦、固より覚悟の前であり、何の脅えることがあらうか。短期武力戦だけで、この戦争が終るとは誰一人として思つてゐないだらう。如何に長期に亘るとも、最後の目的を達成するまで、勝ち抜かんとする必勝の決意我にあり、皇国の、否東亜の興廃かけての一戦こそ、この大東亜戦争なのである。
長期戦といつても、それは長期建設戦である。重慶のやうな長期抗戦の消耗戦ではなく、戦ひつゝ建設し、建設しつゝ戦ふのである。そして武力戦のみならず、経済戦、思想戦を以て、米英の努力を圧倒し去つて、新らしき世界の秩序を建設せんとするのである。我々は今こそ、いはゆるABCD包囲網を八方に撃破して、逆に彼等を封鎖しようとしてゐるのである。持てる国アメリカが、今や日本によつてゴム、錫等の資源を抑へられて、経済封鎖の脅威を受けるに至つたのである。
かくして情勢は一変し、我々の前には洋々たる希望が開けつゝある。太平洋と東亜を、英米の搾取から開放する大東亜共栄圏の建設が武力戦の進展と共に急速に緒につかんとしてゐるのである。この広域に雄飛する未来の日本の姿を描くとき、我々は日本民族の生き甲斐を感じ、皇国の歴史を祝福せずにはゐられない。
併しながら建設への道は荊の道であり、戦ひの道である。遠大な希望に眩惑され、或ひは眼前の功をあせつて小成に安んじてはならない。「もうこれでゴムは大丈夫だ、油は来るだらう、生活も楽になるに違ひない」といふやうな安易な考へを抱く者ありとすれば、大東亜戦争の究極の目的を解しない近視眼である。事実この広域には我々の使ひ切れぬ資源があり、これを開発することは必要である。勿論さうせねばならないが、現にそれだけであつてはならない。究極の目的はこの地を米英の支配から解放し、東亜の新秩序を樹立し、枢軸国と力を合せて世界の新秩序、世界の平和を確立せんとする戦であつて、それまでは決して矛を収めない覚悟を以て望まねばならない。
大東亜共栄圏の資源の開発だけでも実に容易ならぬことである。これを如何に賄ふか、更にこの地域において粉砕された米英的秩序の後に新らしい文化を、政治を、打ち建てねばらないのである。それには我々に今後、この地域を経営する雄大なる抱負経綸がなくてはならない。そしてその全責任が、我々日本国民の上に課せられてゐるのである。
大東亜戦争の完遂のために、大東亜共栄圏の確立のために、日本の持つあらゆるものが、武カも、経済カも、技術も、頭脳もすべてが総動員されねばならない。そして皇軍が華々しい戦果をあげるだけ銃後の我々も頑張らねばならない。
戦争はまだ始つたばかりである。真の戦争は寧ろこれからである。十年かゝるか、二十年かゝるか判らないのである。我々があらゆる職域において、生活の中において戦ふのはこれからである。
この大戦争を展開させるためには、銃後において、急速なる戦争態勢への転換が必要であり、現に政治、経済、文化、生活等あらゆる方面において強行されつゝある。困難もあらうし、犠牲もあらう。しかしそれは来るべき日に伸びんがための戦の態勢である。試練の嵐は今後我々の生活の中に吹きまくることがあらうが、それは大建設に至る当然の経路である。我々の前途は明るい、だが道は遠い。我々は今徒らに戦捷に驕らず、敵を侮ることなく、剛毅沈着に、現実を凝視しつゝ大地に足を踏みつけて一歩々々進んで行かう。このすばらしい勝利への感激と感謝とを、我々の生活の中に生かし、生活の中に戦ひ抜いてゆかうではないか。