第二七一号(昭一六・一二・一七)
大東亜戦争完遂へ
大東亜戦争と国民の覚悟 東条内閣総理大臣
宣戦の布告に当り国民に愬ふ 奥村情報局次長
対米英戦における陸軍戦況 大本営陸軍報道部
開戦劈頭における海軍戦果 大本営海軍報道部
太平洋図
今次開戦後の世界の動き
決戦下国民の心構へ
金融非常対策について 大 蔵 省
決戦下の食糧問題
大東亜戦争日誌 大本営海軍部発表に依る
大東亜戦争と国民の覚悟
―第七十八回帝国議会における東條首相演説―
本日開院式に当りまして特に優渥なる勅語を拝しましたることは、洵に恐懼感激の至りであります。私は謹んで聖旨を奉体し、一意専心報效の誠を竭(つく)し、この前古未曾有(みぞう)の重大難局を克服し、以て宸襟を安んじ奉りたいと存ずるものであります。
過般第七十七回帝国議会におきまして、私は国策遂行に関する政府の所信を率直に披瀝し各位の御協力を願つた次第であります。その後も政府は引き続き米国に対し既に当時申述べましたる通り、第三国が帝国の企図する支那事変の完遂を妨害せず、帝国を囲繞(ゐねう)する諸国家が、帝国に対する直接的軍事的脅威を行はざることは勿論、経済封鎖の如き敵性行為を解除し、経済的正常関係を恢復すること、及び欧州戦が拡大して禍乱の東亜に波及することを極力防止することの目的を外交交渉によつて貫徹せんがため、忍び難きを忍び耐へ難きを耐へ、有らゆる努力を重ねたのであります。しかるに米国は帝国の隱忍と自重とを以て与(くみ)し安しと為し、帝国の公正なる主張に耳を藉(か)さざるのみならず、従来の彼自身の提案すらもこれを裏切り、密(ひそ)かに英国と謀議して新たに暴慢なる提案をなし来つたのであります、その詳細は既に政府より発表したところであります、而して帝国として最も忍び得ざる点は、
(一) 支那及佛印より陸、海、空及び警察を含む一切の帝国軍隊を撤收すること。
(二) 重慶政府を除く如何なる政權をも軍事的、政治的、経済的に支持せざること。
(三) 第三国と締結しゐる如何なる協定も太平洋全地域の平和確保に矛盾するが如く解釈さられざることに同意すること。
の三点にあるのであります、これは換言すれば、帝国の支那及び仏印よりの全面的撤兵、南京政府の否認、三国条約の破棄を要求するものでありまして、米国の意志は、経済断交と武力脅威とを以て我に挑戦し、これにより帝国を屈従せしめんとするに在ることが明かとなつたのであります。若し我にして米国の要求に屈従せんか、大東亜の安定の為め傾注し来れる帝国積年の努力は、悉く水泡に帰するのみならず、帝国の存立すらも危殆に瀕し、かつ又、世界平和の克復に協力せんことを約したる盟邦との誓を放棄し、帝国の信義の失墜をも強要せられるものであります。かくの如きは帝国として断じて忍ぶべからざるものであります。事こゝに至りましては如何に平和愛好の念に燃ゆる帝国と致しましても、その権威と自存とを擁護するため、断乎として起たざるを得なかつたのであります。すなはち本月八日畏くも米国及び英国に対する宣戦の大詔が渙發せられた次第でありまして、聖慮の程を拝察して誠に恐懼感激に堪へません。
一度開戦と定まりまするや、大命一下、我が陸海軍の将兵は、未だ旬日を出でずして忽ち敵の要衝を撃破し、布哇(ハワイ)を基地とする米国艦隊の大半を覆滅し、英極東洋艦隊の主力を撃滅する等、敵が誇張して宣伝し且つ脅喝(けふかつ)に努めてをりました対日包囲陣も随所に突破せられ、既に崩壊の一途を辿りつゝあるのであります。この偉大なる戦果は世界の驚異の的となり、国威を中外に輝かすに至つたのであります。これ偏に御稜威(みいつ)の然らしむるところでありまして、誠に感激に堪へません。
默々として隱忍自重、積年練武の労を重ねて今日あるの準備を整へ一度戦ひとなりますれば、君国に殉ぜんがなめ生還を期せざる我が陸海軍の勇士の偉大なる力の発揮に対しましては、満腔の感謝と崇敬とを禁じ得ざると共に、銃後官民の責任のいよ/\重大なるを痛感する次第であります。今や帝国の隆替は正にこの一戦に懸つてゐるのであります。我が同胞は一大国難に直面すれば、必ず打つて一丸となりて殉国の精神を発揮し、如何なる艱難をも克服して国威を中外に発揚し、国運の隆昌を致しまして居りますことは明かに史績の示すところであります、およそ戦ひの要訣は必勝の信念にあります。私は全国民が我が國體の本義に徹し、建国以來二千六百余年未だ曾て戦ひに敗れたることなき帝国の光栄ある史績を回顧して固き必勝の信念の下に、如何なる艱難をも堪へ忍び、職域奉公に遺憾なきを期し、必ず終局の戦勝の光栄を招来するに至らんことを確く信じて疑はざるものであります。
しかしながら敵は領土の広大、資源の豐富を誇り、これを以て世界制覇の野望を逞しうせんとする米英両国であります。帝国は大東亜の禍乱を戡定すると共に、この強大なる敵を摧かなければならないのであります。従つて長期戦は固より覚悟の前であります。すなはち帝国は今後幾多の困難に当面することあるべきことを深く肝に銘じ、敵兵力の殲滅にいよ/\奮勵努力して、緒戦に於ける赫々たる戦果を拡充すると共に、新たに参加する南方諸地域を加へて各般に亘る一大建設を行ひ、以てこの長期戦に堪へ得る態勢を速かに整備せねばならないのであります。戦ひは寧ろ今後にあります。我等国民は個々の戦勝に酔ふことなく、又個々の現象に憂ふることなく、いよ/\正気を拡充して互に相倚り又相扶け、内は荒怠(くわうたい)を戒め外は邪悪思想の滲透を防ぎ必勝の確信の下に飽くまで献身殉国を念とし、誓つて征戦の目的を貫徹せねばならねばなりません。
この際盟邦満華両国が、帝国との一心同体の関係いよ/\厚く、戰端一度開かるるや、直ちに帝国に対して有らゆる協力を与へられつゝあることにつきましては、私はこゝに満腔の感謝の意を表するものであります。尚ほ帝国は曩に仏印と共同防衛の約を締結し、今又泰国と攻守同盟締結につき意見一致し、これら両国がいよ/\帝国との提携を固く致しまして、相共に新秩序建設のために、邁進しつゝありますることは欣快とするところであります。
抑々帝国が今回南方諸地域に対し、新たに行動を起すの已むを得ざるに至りましたのは、米英の暴政を排除して大東亜諸地域を明朗なる本然の姿に復し、新たなる大建設を行はんとするにほかならないのであります、大東亜数億の住民もまた、帝国の真意を了解して無益の抵抗を行ふことなく、寧ろ我等の同志として速かに帝国の企図する大東亜共栄圏建設の聖業に参加するに至らんことを切望して已まない次第であります。この際重慶政権がなほ抗戦を続けてをりますことは甚だ遺憾とするところであります。若し彼にして今後も依然抗戦を継続するにおいては、帝国は今後と雖も毫も圧迫の手を弛めるものではありません。しかもその抵抗の根元も今や覆滅に瀕しつゝあるのでありまして、禍乱の戡定も遠からざるものと存ずる次第であります。
この秋(とき)に当り、盟邦独伊両国が帝国の開戦と共に参戦し、帝国と共に確固不動の決意を以て一切の強力手段を尽し、世界平和のための共同の敵に対し、勝利を得るまでは断じて干戈を収めざることを誓ひ、また相互の完全なる了解によるるにあらざれば米英両国の何れとも休戦または講和をさざる[ママ]べきこと及び公正なる新秩序招来のため、将来ます/\密接に協力すべきことを約し日独伊三国の締盟いよ/\固きを加ふるに至りましたことを、洵に同慶の至りに存ずる共に、米英両国を屈服せしむるまでは断じて戈を収めざる帝国の固き決意をこゝに表明するものであります。
なほこの機会におきまして私は開戦以来の国民の熱誠溢るゝ愛国の至情に対しまして、衷心よりの感激を表明するものであります。
今回政府提出の予算案及び法律案は、何れも戦争遂行上緊急なる事項に限定せられてをるのであります、何卒速かに御審議の上御協賛を与へられんことを切望致します。 (昭和十六年十二月十六日)