第二四五号(昭一六・六・一八)
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不良児は如何に保護されるか  -- 少年教護事業の話 --   厚生省

少年教護事業とは 

 今やわが国は、大東亜共栄圏の確立に向つて邁進しつゝあるが、この大事業達成のためには物的資源の必要もさることながら、これを活用する多数のしかも優秀な人材を最も必要とする。そしてその対策としては、一方において人口の増強を図ると同時に、他面、第二国民たる児童の保護を怠らず、その心身の健全なる育成に努めねばならない。
 殊に、将来有為の少年がその生育の中途で途(みち)を誤り不良化するやうなことは、本人や親兄弟のために悲しむべきことであるばかりでなく、国家のためにも憂慮すべき問題である。
 そこで少年の不良化を予じめ防止し、また、既に不良化し或ひは不良化する虞れのある者に対し出来るだけ早期に適切な保護を加へ、やがて成長してからは健全な国民として国の役に立ち得るやうに種々の方法を講ずることは、極めて重要な事柄である。少年教護とはこのやうな事業である。
 この事業は、明治三十三年に制定された感化法に源を発し、その後数回の改正を経て、昭和九年に少年教護法として公布施行され、それ以来これを中心として少年教護の事業を行つてきてゐる。その目的はさきに述べたやうに (一)少年の不良化を防止し (二)既に不良化し或ひは不良化する虞れのある少年を、出来るだけ早期に発見して保護するとともに、その心身の正常な発達を遂げさせるために各般の科学的方法と相俟つて、教育の力により将来立派な皇國民たるべく錬成し善導することにある。
 では、その少年教護法の内容はいつたいどんなものか、以下それを説明してみよう。

少年教護法とは 

 少年の不良行為の芽生えは幼少のころに既に萌してゐるものである。そこで、出来るだけ幼少の頃に適当な保護を与へて善導することが極めて肝要である。
 少年教護法は、少年法による保護処分が実施されてゐない地区では、十八歳未満の少年を対象としてゐるのであるが、少年法による保護処分の実施されてゐる地区では、十八歳未満の少年を対象としてゐるのであるが、少年法による保護処分の実施されてゐる地区では満十四歳未満の少年を対象としてゐる。すなはち、幼少のうちに保護の手を差延べるところに本法の重要な意義があるのである。
 この少年教護法は、わが国社会法制として最古の歴史をもつ感化法に源を発してゐるのであるが、昭和九年本法の施行によりまず従来の「感化」といふ文字を「教護」と改め、この種の少年の処置に当つて、教育、保護の立場から善導すべきことを明示してゐる。次ぎにこれら少年の院内教護(収容保護)の施設として後に述べるやうな少年教護院を全国の各道府県に設置すべきことを規定し、更に新たに院外教護の施設としてまず全国に少年教護委員の制度を設け、該当少年の早期発見と少年不良化の防止に努め、また、収容保護を必要としない程度の少年を、居宅のまゝ委員の観察に付しその善導を図るほか、委員をして少年教護院退院者の観察に当らしめその予後の指導に全きを期することとしてゐる。次ぎに、少年教護院に入院させるまでの差当つての一時的保護処置として、適当な施設或ひは家庭に委託することができる規定を設け、なほ、少年に対して有效適切な教護の方途を講ずるため、科学的鑑別をなす鑑別機関を設けるなど、昔の感化法とは全く面目を一新したのである。
 これをまとめてみると、少年教護法は
 (一) 不良行為をなし又はその虞れのある少年を早期に発見し早期に教護する
 (二) その施設として少年教護院といふ院内教護施設を設置するほか、少年教護委員制度を設けて進んで院外教護に乗り出した。
 (三) 少年の教護に科学的方途をとり入れて少年鑑別機関を設けることが出来る
 大体以上のやうな三つの点に特徴を持つてゐるのである。

少年教護事業の現状

 それでは、現在はどんなふうに事業が進められてゐるか、それを眺めてみよう。
 現在わが国における少年教護院は国立のものが一、道府県立のものが47、その他認可を受けた公私立のものが三、合計五一あり、またこれら少年の心身の状態を科学的に鑑別する少年鑑別所が十五ある。そして少年教護委員は約一万三千人あつて、全国に亘つて置かれてゐる。
 なほ、これ等の施設に協力するものとして、各道府県庁、市町村、警察署、国民学校を始めとし、方面委員、工場などがあり、少年教護法の施行に関する事務を取扱つてゐる中央官庁としては厚生省社会局児童課がある。又、少年教護思想の普及徹底を図るとともに本字業の進展を期するため、厚生省社会局児童課内に日本少年教護協会が設立されてゐる。
 では、これらの事業の実際について概略を説明してみよう。
少年教護院
 少年教護院はその源を感化院に発してゐる。感化院は、明治十八年に設立された東京感化院が、そのはじめだと言はれてゐるが、今日の少年教護院は名実ともに昔の感化院ではない。
 少年教護院では、前にも述べたやうに温い愛護の精神で、いはゆる家族舎の制度をとり、院長をはじめ教護職員がそれ/"\およそ十数名の生徒とともに一家庭をつくり、常に寝食を共にし、両親に成り代つて日常生活の面倒から家庭教育の任にまで当るのである。これらの職員は主人も奥さんもそして子供までも、全く生徒と一しよになつて一意専心生徒の善導のため、あらゆる角度から犠牲的に尽力してゐる。
 更に教室では、国民科、理数科、芸能科等の教科を授け、また、運動場を設けて体錬科の教育に資するなど、国民学校令の趣旨に則つて将来立派な国民たるべくこれが錬成に努めるは勿論、作業場、農場等を設けて木工、縫工、鉄工、印刷、農業等の実業科を授け、勤労の精神の涵養とともに、生徒の将来における職業生活に資するやうに努力してゐる。
 従来、やゝもすれば、少年教護院を少年の刑務所のやうに考へる人も少くなかつたが、以上述べたやうに事実は全くそれと違つてゐるのであつて、そのやうな誤解はぜひとも一掃したいと思ふのである。
少年教護委員の活躍
 少年教護委員の制度は前にも述べたやうに、昭和九年少年教護法の実施によつて新たに設けられた。今日ではその数約一万三千に達し、その活躍も少年教護院の職員に劣らず、一方において各自の業務を有する繁忙の身でありながら、全く奉公の精神を以て、少年の不良化防止、或ひは教護を要する少年の早期発見、その院外教護のために、献詞的の努力を払つてゐるのであつて、まことに感激のほかはない。
 これ等委員には宗教家、教育家、社会事業家など、人格見識ともにすぐれた人々が選任されてをり、その活動に多大の期待がかげられてゐる。
 一体、不良行為といふものは、多くは病気のやうに種々な原因が集つてゐるときに、ちよつてとしたきつかけから始まつたものが、これを放任しておくうちに次第に良心を蝕み遂には常習的行為となるものである。だから少年の不良化は、出来るだけ未然に防止しなければならぬとともに一度不良の悪習に陥つた場合は、できる限り早い時期に発見することが大切である。少年教護委員の第一の任務はこの不良化防止と早期発見にある。そして第二の任務は、いはゆる院外教護即ち少年の行状、交友関係或ひは職務の勤惰など少年の生活状態一切に対し不断の注意を払ひ適当な保護指導を与へてその性行の改善を図るのであつて、これを観察といつてゐる。
 だから少年救護委員は学校の先生、父兄等は勿論、警察、勤務先などと出来るだけ密接な聯絡をとつてその子供の指導、監督に遺憾なきを期さねばならないから、その労苦は察するに余りあるのである。一口にいへば少年教護委員は少年の保護網の先端、第一線であり、少年の親ともなり、兄姉でもあり、先生でもあり、時には友達ともなつて指導誘掖に努めてくれるのである。
少年鑑別所
 一口に不良少年、教護を必要とする少年といつても、これにはいろいろある。
 例へば変質や低能といふ病的原因が主となつてゐる者もあれば、家庭環境その他本人の生活の経歴のやうな環境的原因が主となつてゐる者もある。この前者の中でその程度の甚だしいものは、むしろその不良性を矯(た)めるといふことよりその病的原因の除去に努めねばならないのであつて、これは他の適当な施設、例へば白痴院や精神病院に入院させる方が適当なのである。このやうな場合に、医学的に心理学的に社会的に、いはゆる「要教護少年」を鑑別して果して教護院に入院させることが適当かどうかを定める必要がある。
 この科学的鑑別を行ふのが少年鑑別所の任務の一つである。
 次ぎに、教護院に入院させるとしても、少年の性状、知能程度等によつてそれ/"\適切な教護を施さねばならない。そのためにも、医学的、心理学的、社会的見地から鑑別して、教護上参考となるべき指針を与へねばならない。これも少年鑑別所の任務の一つである。
 更に進んで鑑別所は、不良少年発生の原因を科学的に探究しその発生防止に示唆を与へ、また、一般の児童の教育養護上の相談指導にも当り、不良化防止に貢献することも将来の任務として考へられる。

少年の不良化防止に協力しよう

 以上は少年教護事業の現状についてその極めて大要を述べたのであるが、今日、教護を必要とする少年は遺憾ながら数万の多きに上つてゐる。それにもかゝはらず現在少年教護院で教護を受けてゐる者は三千人足らずであり、加ふるに事変の影響としてこの種の少年が増加する傾向にあるのであつて、さきの欧州大戦に際して諸外国において不良少年が激増した事実に徴しても、少年教護の施設を拡充強化する必要を痛感するのである。
 しかしながら「予防は治療にまさる」といふ諺のやうに、不良化する以前に防止することが最も肝要である。そして、少年の不良化防止のためには、学校、工場、警察そして一般家庭の親達が協力しなければ、その効果をあげることはできない。従つて、これら各方面の方々が、いかに本事業が時局下ます/\その重要性を加へつゝあるか、そして殊に、本事業が幼少な少年をその対象として幼少の頃にその不良化の芽を刈り取らうといふ、いはば抜本塞源的な事業であり、これを完遂することによつて現在頻発しつゝある少年犯罪をむしろ絶滅し得るものであるところに注目され、認識を高められんことを望むのである。
 わけても本事業の対象とする少年が幼少であるが故に、国民学校の先生方や一般家庭の親達に特に深い理解を持たれるやう切望する。国民学校では既に各学級に教護係り或ひは教護主任のやうなものを置いて少年教護院或ひは少年教護委員と密接な連絡を取つてゐる向もあるが、すべての国民学校にこの種の連絡機関を設けて児童の不良化の防止と万一不良化の虞れある少年を発見したならば時を移さず適当な処置を取られるやうに少年教護委員若くは少年教護院等と連絡していたゞきたい。
 また、一般家庭の親達は学校とよく連繋して子女の家庭における教育に万全を期し、不幸にもこの種少年の発生を見た場合には、学校の先生なり少年教護委員なり少年教護院なり或ひは警察、市町村役場、道府県社会課、その他少年鑑別所等最寄りの機関に早く何事も打明けて相談して適当な処置を取るやうにせねばならない。
 言ふまでもなく、児童は家の宝であるばかりでなく貴い国の宝である。 陛下の赤子である。この貴重な国の宝を愛護し立派に成長させることは、国民すべての責務であると思ふ。