第二二一号(昭一六・一・一)
  事変第五年を迎ふ        内閣総理大臣公爵 近衛 文麿
  大政翼賛運動の進路       大政翼賛会
  大政翼賛会事務局各部局の解説
  支那事変の現況
  事変第四年海軍作戦の回顧
  国際政局回顧と展望(上)     外 務 省
  日泰友好和親条約批准交換
  邦人の海外発展状況(上)     拓務省拓南局
  前線から銃後へ         現地軍報道部提供
  お正月の野戦料理        陸軍糧秣本廠

事変第五年を迎ふ        内閣総理大臣 公爵 近衛文麿

 新年を迎ふるに当り、謹みて 聖寿の万歳を寿ぎ奉り、彌栄え行く皇室の御繁栄を祝し奉る。
 畏くも 天皇陛下におかせられては事変下格別多端なる政務軍務に日夜御精励遊ばされ、時局に対する深き御軫念の程を拝し、寔に恐懼感激の極みである。また今回の事変に際しては秩父宮殿下を始め奉り各宮殿下が金枝玉葉の御身を以て御参戦遊ばされ、殊に昨年北白川宮永久殿下には、尊き御身を以て蒙疆の地に御戦死あらせられたことは、誠に恐懼に堪へざる所である。我々臣民はますます奉公の誠を竭し、宸襟を安んじ奉ることを期するものである。
 事変勃発以来、陸に海に輝く連捷(れんせふ)を収めたる皇軍出征将兵に対しては深く感謝すると共に、殊に異境の地に骨を埋めたる英霊に対しては衷心より哀悼の意を表し、その意志達成を誓ふものである。また傷痍の勇士に対してはその恢復の一日も速かならんことを祈り、遺家族各位に対しては、心からなる弔意と感謝の意を表する次第である。曩に我が肇國の大精神に基づき真の世界平和を建設する目的を以て締結せられた日独伊三国の盟約はます/\拡大強化され、日満華三国の締盟も亦厳として確立した。かくて東洋に於ては日満華三国を枢軸とする大東亜共栄圏確立の第一歩が踏み出され、また欧州に於ては締盟両国を指導者とする欧州再建の工作が着々として進みつゝある。
 しかしながら、かゝる世界の新しき進展が余りにも急激にして大規模であるのみならず、それに伴つて深刻なる思想、感情又は利害関係の対立摩擦が随所に見らるる現状に於ては、我が目的貫徹の途は真に多事多難であり、国際関係の重圧は本年に至つて一段と加重さるやも知れざることを覚悟せねばならぬのである。しかも恒久的なる平和と繁栄はこの途によつてのみ達せられる。我々は確信と希望とを以て未曾有の犠牲と忍耐とを甘受し、進んで国難に立ち向はんとするものである。惟ふに、一億一心の団結と断乎不退転の決意とが、我々の上に要請されること今日の如く切実なるはない。由来、日本国民は難局に当りてます/\その志操を堅固にし、いよ/\固き決意を以てこれに対処する愛国的伝統を有してゐる。満眼荊棘の現状を打破するの途は、一に全国民がこの伝統の力を発揮し、各自がその職域に応じて、臣道の実践に邁進する以外にはない。かくてこそ我が刻下喫緊の要務たる高度国防国家体制の完成も、大東亜共栄圏の確立も、初めて可能なのである。
 今日否定的な批評は怯者と雖もよくこれをなす。総てを真正面から認識し、一切の懐疑を棄て去つて、清新明朗、更に将来に大いなる希望を見出し得る者こそ真の勇者である。国民は宜しく皇國の前途に思ひを致し、徒らなる懐疑批評を避け、常に偉大なる建設者の態度を以て現実を直視し、凡ゆる困苦欠乏に耐へ忍んで現在及び来るべき難局を突破し、以て日本国民の偉大性を世界に示し、皇運の興隆に貢献せられんことを望む。