第二二〇号(昭一五・一二・二五)
国家総動員態勢の進展 企 画 院
経済新体制について 企 画 院
臨時中央協力会議の経過
大政翼賛会実践要綱について
燃料の話 木炭
中国国民党三中全会
大政翼費会実践要綱について
大政翼賛会では十二月十四日大政翼賛会実践要綱を発表したが、十六日の臨時中央協力会議に於て有馬事務総長から右実践要綱の説明があつた。左にその全文を掲げる。
大政翼賛会実践要綱
今や世界の歴史的転換期に直面し、八紘一宇の顕現を国
是とする皇國は、一億一心全能力を挙げて天皇に帰一し奉
り、物心一如の国家体制を確立し、以て光輝ある世界の道
義的指導者たらんとす。茲に本会は、互助相誡、皇國臣民
たるの自覚に徹し、率先して国民の推進力となり、つねに
政府と表裏一体協力の関係に立ち、上意下達・下情上通を
図り、以て高度国防国家体制の実現に努む。左にその実践
要綱を提唱す。
一、臣道の実践に挺身す。即ち、無上絶対普遍的真理の顕
現たる國體を信仰し、歴代詔勅を奉体し、職分奉公の誠
をいたし、ひたすら惟神(かんながら)の大道を顕揚す。
二、大東亜共栄圏の建設に協力す。即ち、大東亜の共栄体
制を完備し、その興隆を図るとともに、進んで世界新秩
序の確立に努む。
三、翼賛政治体制の建設に協力す。即ち、経済・文化・生活
を翼賛精神に帰一し、強力なる綜合的翼賛政治体制の確
立に努む。
四、翼賛経済体制の建設に協力す。即ち、創意と能力と科
学を最高度に発揮し、翼賛精神に基く綜合的計画経済を
確立し、以て生産の飛躍的増強を図り、大東亜における
自給自足経済の完成に努む。
五、文化新体制の建設に協力す。即ち、國體精神に基き雄
渾、高雅、明朗にして科学性ある新日本文化を育成し、内
は民族精神を振起し、外は大東亜文化の昂揚に努む。
六、生活新体制の建設に協力す。即ち、翼賛理念に基き、
新時代を推進する理想と気魄を養ひ、忠孝一本、国民悉
く一家族の成員として、国家理想に結集すべき科学性あ
る生活体制の樹立に努む。 (昭和十五年十二月十四日)
実勢要綱の説明
本会の実践運動要綱は、既に発表された通りでありま
す。この決定を見るまでには、本会成立以来、殆んど寧日
なく、中核部に於て凝議を重ね、漸くにして得た要網であ
ります。旧き自由放恣の姿を改め、國體の本義を明確に
把握して、政治・経済・文化・生活の改新を企図せんとする。
時、本要綱の及ぼす影響の甚大なるに鑑み、本実践要綱の
決定に当つては深く慎重を期しましたのは、元より当然の
ことであります。
御承知の通り、今や我が国は、世界未曾有の変局に際会
し、大東亜共栄圏確立の途上にありますが、生成発展、万
有化育の歴史的哲学的基本原理は、人類の進歩と向上を推
進するものであつて、歴史の展開は実にこの軌道を邁進す
ることによつて可能であります。
東亜の状勢も世界の現状も、この例に漏れることなく、
我が国は今やこの歴史的発展の途上にあるのであります。
それは広い意味に於ける我等の闘(たゝか)ひであり、そして又人類
の進歩と向上に寄与せんとする我が国前進の姿でもありま
す。
前進のための力、それはいかにして確保され、いかにし
て発揮されるか?即ち我が国の前進は常に肇國の精神に還
り、國體の精華を発揚する点に始まるのであります。これ
は我が国の歴史における不動の大原則でありまして、我等
皇國臣民たるものは、この歴史の大原則に従ひ、全個一
如、総てを国家の中心たる皇室に帰一し奉り、一死奉公の
決意を固め天壌と共に窮りなき皇運奉賛に挺身すべきであ
ります。かくすることが、云ふところの臣道実践であつて、
又かくすることによつてのみ、我が国前進の力は、確保さ
れ、発揮されるのであります。我々の父祖達は、常にこの
道を歩いたのであつて、我々の子孫達も、またこの道を歩
かなければならないのであります。この伝承は、太陽の恒(つね)
にあるが如く無限の過去に始まり永遠の将来に伝はらねば
なりません。この輝かしき我が歴史軌道の一時代、即ち現
在に処する我々としては、その誇らかなる伝統を受け継ぎ、
受け渡す名誉と義務を持つのでありますが、この観念が
我々全国民の持つあらゆる力に裏付けられ、昂揚され、結
集され、そして組織化された時に、始めて大政翼賛の実を
挙げることが出来るのであります。
今回決定した実践要網は、今申上げた根本精神を、具体
的に表現したものでありまして、臣道の実践に挺身するこ
とは、元より皇國の臣民として不抜の信念でありますが、
この信念を一段と昂揚し、国民個々の生活の全部面にまで
浸透せしめ、国家の大目的に向つて、渾然一致の態勢を執
らしめ、国民精神の能動的発揚を図ることが、この運動の
第一義的要点であります。既に幾度か繰返して申しました
通り、大政翼賛は、政府と表裏一体をなすものであり、
政府に協力することを目的とするものでありますから、独
自の政策を立てて政府を拘束するが如き態度は、決してそ
れを執らうとするものではありませぬが、政府との協力に
あたつては、よくその向ふところを誤らないやうに、その
実践すべき要綱を示すことは刻下の急務であると存するの
であります。
大東亜共栄圏の確立は、既に日独伊三国同盟に於て、我
が国の指導権の確立を見、今日に於ける我が国の不動の国
策となつたのでありまするが、この大事業を遂行し得るか
否かは、実に我が国の興廃の岐(わか)るるところでありまして、
この目的達成のためには、高度の国防国家体制を建設し、
東亜に於ける欧米による旧秩序の支配を排除し、大東亜諸
国の共栄体制を確立しなければなりませぬ。大東亜諸国が
各々その処を得て、こゝに肇國の大精神が顕現される時こ
そ、我が国の国礎は不動となり、国運は愈々興隆の一途を
進むでありませう。現下我が国の最大使命たる東亜に新秩
序を建設し、進んで世界の新秩序建設に協力するために、国
民の全能力を挙げて造られる高度国防国家体制の建設に当
つて、政治も、経済も、生活も、文化も、すべてその方向
を集結し一体として運営されなければなりませぬ。この要
請に対しては、我々国民は、私を棄て、公に奉じ、若し機
構と組織に刷新すべきものありとすればこれが刷新を断行
する必要があるのであります。
政治について云へば、國體の本義に基づく国民組織を確
立し、組織を通じて臣民翼賛の実を挙げるために、国内に
於けるあらゆる対立的利害を解消し、国家の総力を綜合帰
一する政治思想と政治体制の確立による翼賛政治の完成に
向つて、諸制度に対して政府に協力せんとするのであり
ます。
また経済に於ては、翼賛精神に基づき国家経済に綜合性と
計画性とを付与し、生産力の飛躍的増強を目的とする経済
機構の再編成を行ふことは政府に於てこれが決定を見たの
でありますが、この再編成に当り、国民の創意を促すと共
に、経済各分野の有機的連帯性を確立し、すべて国家目的
に帰一せしめなければならないのでありまして、本会は政
府に協力してこれが実現に邁進したいと思ふのでありま
す。
而して科学と技術の飛躍的進歩を図り大東亜自給資源に
基づく技術の日本的性格を樹立し、国家生産力増強のため
には、全勤労者の創意と能力とを最高度に発揮し、産業報
国精神に基づいて、勤労体制を確立しなければならないの
でありまして、故に又本会の新らしき任務があるのであり
ます。
また文化部面について云へば、教育の功利性を排し、日
本固有の教育精神に還り、人格性を昂揚し、正義、廉恥、
責任の信念を啓発培養する新らしき教育体制を確立するこ
とが刻下の急務でありまして、同時に科学精神を発揚し科
学と技術を国家目的に帰一せしめ、日本民族の伝統精神を
基調とし、大東亜文化に寄与する国民文学及び藝術の創造
を図り宗教の歴史性を尊重しつゝ各宗教団体をして、國
體的世界観の下に、国民文化の発展に寄与せしめ、民間各
種の文化団体をして、専門的機能を活溌ならしめ、且つこ
れを国家目的に協力せしむるため適正なる統合強化を図る
必要もあるのであります。
また我々国民の生活態度としては、国民各自が新時代を
担当する理想と気魄とを以て、積極的に職分奉公の忠誠を
捧げるため、臣道実践の生活倫理を確立し、これを日常生
活の上に実践すると共に剛健簡素にして科学的なる生活様
式を立て、而して生活意識に国防精神を注入し、個人経済
を国家経済に融合帰一せしむること等が、現下の緊要事で
ありますが、特に日本伝統の家族制度の美風を昂揚し、健
全なる母性と次代国民を錬成(れんせい)し、併(あは)せて人口の増加と質的
向上のために、適正なる方途を講ずるのほか、隣保共愛共
働の精神を培養し、その実践的組織の売成を図らねばなら
ないのであります。
以上申上げましたことは、今日の異常なる時代的難局を
打開し、国家の大目的を達成するために最も緊要であると
信ずるのでありますが、すべてこれらのことは、全国民が
一致協力して、國體の尊厳に徹し、義勇公に奉ずる輝かし
き我が国民性を発揮することによつて、始めて成就し得る
大事業でありまして、偶々現代に生をうけた我々としては、
肇國以来二千六百年、悠久たる歳月の間に、我々の祖先が
遭遇しなかつた未曾有の難局に際会し、その苦難の大なる
と共に、苦難の大なるの故にその光栄の大なることをも自
覚しなければならないのであります。
我々は勇躍して、この大使命達成に挺身する覚悟であり
ますが、諸君に於かれては、全国民がこの大運動に協力す
るやう啓発指導されんことを御願ひいたします。前途に如
何なる困難が横たはりませうとも、全国民が臣子の本分を
尽し、協力一致この難局打開に邁進することによつてのみ
この大使命を達成することが出来るものであると確信する
ものであります。切に各位の御協力を御願ひ申上げまして
私の説明を終りたいと存じます。