第二一八号(昭一五・一二・一一)
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情報局の設置
十二月六日付官報を以て情報局官制が公布され、こゝに内閣情報部の機構は拡充強化され、情報局が政府の情報宣伝の重責を担つて時局下に登場することとなつた。
〜〜情報宣伝の重要性〜〜
政府が国政の各部門に於て不抜の国策をたて、これを四囲の情勢に照応して適切に実施して行くためには、常に内外の事情について正確な認識を持つてゐなければならない。この認識と判断の基礎となるものが情報である。また政府はその国策を内外に伝へ、内には国民に対して皇國の進むべき道を明示し、国政に関する十分な知識を与へ、健全な輿論を培つて国策遂行の原動力とし、外には外国に対して皇國の理想を閘明してこれに理解共鳴させ皇國の真の姿を示して認識を深からしめ、以て国際情勢をわれに有利に推進して、国策遂行を容易ならしめなければならない。
この目的は、報道及び啓発宣伝によつて達成されるものである。かう考へる時、情報、報道及び啓発宣伝は国策の樹立及び遂行に欠くことの出来ない重要な事務なのである。
殊に戦時、事変に際しては、情報宣伝の事務はます/\重要性を加へて来る。時々刻々に変化する情勢に対して、常に正確な情報を蒐集して判断を誤たぬやうにせねばならぬことは勿論であるが、一方近代戦争の重要な一部門となつて来た思想戦において、その攻防手段は主として報道及び宣伝に頼る外はないのである。国内においては戦争目的に対する透徹した認識を基礎とし、いよ/\挙国一致大勢を鞏固にして最後の勝利に邁進し、敵国に対しては我が正しき主張を知らしめてこれに帰一させ、また敵国内の抗戦思想を破壊してこれを弱体化する。第三国に呼びかけては同じく我が方の真意を理解させ協力を求めて国際事情を好転させる。これらの報道、宣伝が近代戦に於て如何に重要な役割りをつとめてゐるかは改めてこゝに説くまでもない所である。
〜〜各国の情報宣伝機構〜〜
情報宣伝の重要性が痛感されるに従つて、列強は何れもその機構の整備拡充に余念なき有様であるが、中にもドイツはナチスが政権を獲得するや、一九三三年直ちに世界最初の宣伝省たる国民強化宣伝省を設置してゐる。イタリアも一九三四年従来の宣伝部を昇格させて大規模な宣伝省とした。前回の欧州大戦において英国が宣伝省を臨時に設置し、戦争の勝敗を決したともいはれる程の活躍をしたのは周知の事実であるが、今次の欧州戦争が勃発するや宣戦の翌日、すなはち、昨年九月四日に情報省を新設し、外務省その他の情報機関を統合して政府発表竝びに宣伝工作一切を管掌させることとなつた。フランスにおいても宣戦の直前、すなはち九月一日に内閣情報局を設けたが、これは本年三月拡充強化されて情報省となつてゐる。その他の国について見れば、アメリカにおいては昨年九月十一日白亜館内に政府情報局が設置され、また豪州においては宣伝省、カナダにおいては政府情報局、ベルギーにおいては宣伝省、フィンランドにおいては内閣情報本部等々が相次いで設置されている。
今次欧州戦争における思想戦の激烈さは、しば/\報道されてゐる通りであるが、大体においてドイツ側が英国側を圧倒してゐるといはれる。これには色々な理由をあげることが出来ようが、早くから陣容を整へ準戦時的な活動をして来てゐたドイツ宣伝省に対し、急設の英国情報省が陣容未だ整はず、改組に改組を重ねてその機能を十分に発揮出来ずにゐる事実がその一因であることは争へない。これを見る時、我が国においても非常時局に処すべき強力な情報宣伝機構を確立することの急務が痛感されてゐたのであつた。
〜〜情報局の設置〜〜
従来我が国においては、情報宣伝の事務はその目的性質に従つて各庁に分属されてをり、その主な機構としては、外務省情報部、陸軍省情報部、海軍省海軍軍事普及部等があり、また内務省警保局図書課も検閲等の立場から宣伝事務の重要な一面を担当して来ていた。しかしこのやうに各省に分属されてゐる結果は、自然各省事務の間に連絡統一を保持する必要を生じ、このため昭和十一年七月、内閣に情報委員会が設置された。情報委員会は昭和十二年九月に改組拡充されて内閣情報部となつたが、その職務は依然情報、報道及び宣伝に関する各庁事務の連絡調整を主体とするものであつた。およそ情報事務は各方面の情報を出来るだけ広く深く蒐集して、全局から見た総合的な判断を下すのでなければ完璧を期し得ない。また啓発宣伝も全局から見て判断決定された一定の主義方針に則り、軽重緩急宜しきを得、上下一貫した体系組織によつて統一を欠く事なく実施されるのでなければ万全の效果は期待し得ない。こゝに情報宣伝事務の一元化の根本的要請が生れて来るのである。既に情報委員会の設置、内閣情報部への昇格は、我が国情報宣伝事務の一元化への傾向を示したものであるが、政府においては更に内外時局の趨勢に鑑みて、情報、報道及び啓発宣伝の統一及び敏活を期すこととなり、本年八月十三日の閣議において
内閣情報部の機構を改め、外務省情報部、陸軍省情報部、
海軍省海軍軍事普及部及び内務省警保局図書課の事務等を
統合し、情報竝びに啓発宣伝の統一及び敏活を期すること
を決定し、その後所要の手続を経て、こゝに前期事務を統合する情報局の完成公布を見るに至つたのである。
〜〜情報局の組織〜〜
情報局は内閣総理大臣の監理に属するもので、その専任職員は総裁(親任)の下に次長一人(勅任) 秘書官一人(奏任) 情報官五十一人(奏任、内五人を勅任とすることが出来る) 属八十九任(判任) 技手一人(判任)を配し、外に専門的な知識敬虔技能を有する嘱託陣を擁してゐる。情報局職員の構成中最も特色のあるのは、高等官たる専任職員がすべて特別任用の出来ることである。即ち次長及び情報官は「其の職務に必要なる学識経験を有する者の中より高等文官試験委員の銓衡を経て特に之を任用するを得」ることとなつゐる。すなはち情報局においては、外の官庁のやうに高等試験合格者の中からのみ任命される書記官、事務官と言ふものはなく、特別任用が出来る情報官の一本建てとなつてゐるのである。これはもとより情報、報道、宣伝事務の重要性と特質によるものであるが、広く天下に有能の材を求めると、言ふ点において、まさに官界新体制の第一線を行くものである。
前述の専任職員の外、内閣に於て関係各庁高等官の中から情報官を命ずることが出来ることになつてゐる。この情報官は、情報局と各庁との間の緊密な連絡の任に当るものである。また情報局には参与の制度がある。参与の定員は十五人以内、学識経験ある者の中から内閣において任命するもので勅任待遇であるが、情報宣伝に関係の深い有力者が選ばれて情報局の局務に参与するわけである。
情報局には総裁官房及び五部が置かれ、官房の第一課は一般庶務、第二課は主として局内外の連絡に関する事務をとる。五部は、第一部、第二部、第三部、第四部、第五部とし、部長は勅任情報官を以て、これに充てるものであるが、その事務を簡単に述べて見ると、第一部は企画、情報、調査、第二部は新聞通信、雑誌出版物、放送等報道に関する事項、第三部は対外報道、宣伝及び文化工作に関する事項、第四部は検閲及び編輯に関する事項、第五部は対内文化、宣伝に関する事項を掌る。
〜〜情報局の職務〜〜
情報局官制によると、情報局の掌る事務の第一は、「国策遂行の基礎たる事項に関する情報蒐集、報道及び啓発宣伝」である。この情報、報道宣伝の重要なことは冒頭にも述べたので重複を避けることとする。第二は「新聞紙その他の出版物に関する国家総動員法第二十条に規定する処分」である。従来新聞雑誌その他の出版物の取締や処分は内務大臣の管掌する所であつたが、国家総動員法第二十条が発動された場合、右の取締、処分は、国家総動員関係のものは内閣総理大臣がこれを管掌し、その事務は情報局が掌り、一般の安寧秩序維持の建前からする取締及び処分は従来通り内務大臣が行ふこととなるわけである。第三は「電話による放送事項に関する指導取締」である。最近無線電話の発達によつて放送が宣伝の最も有效な手段の一つとなつて来たことは周知の通りで、今後の啓発宣伝に放送の受持つ役割は極めて大きい。それ故に情報局は国内及び対外放送の内容について指導、取締を行ふわけである。第四は「映画、蓄音機レコード、演劇及び演芸の国策遂行の基礎たる事項に関する啓発宣伝上必要なる指導取締」であり、国策国政に関する啓発宣伝に映画等の協力を求めて万全を期せんとしてゐるわけである。なほ情報局は、情報蒐集、報道及び啓発宣伝を行ふに当つて必要ある時は関係各庁の共助を求め得ることになつてゐる。
これを要するに、情報局は国策遂行に関する情報蒐集、報道、啓発宣伝を総合的に行ふため、新らたに時代の脚光を浴びて登場した官庁であり、政府はこれによつて国策の樹立及び実施に遺憾なきを期してゐるわけである。これと同時に、国民は情報局の情報、報道、啓発宣伝の事務を通じて、政府との間に当時密接な連繋を持つこととなる。また情報局が報道、啓発宣伝の事務について、民間のあらゆる組織に協力を求め、これを指導監督する間において、情報局が将来の日本文化の発展の上に分担すべき任務は極めて大であることも見逃せない所である。