第二一五号(昭一五・一一・二〇)
   紀元二千六百年祝典を終って
   紀元二千六百年式典と奉祝会
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紀元二千六百年式典と奉祝会


紀元二千六百年式典

 一億民の歓喜と感激を以て紀元二千六百年を寿ぐ曠古
の盛典、紀元二千六百年式典は 天皇陛下御即位の佳日を
卜して、昭和十五年十一月十日午前十一時から宮城外苑
に 天皇、皇后両陛下の行事啓と仰いで、盛大且つ厳粛に
挙行された。
 一点の雲もなく澄み渡つた秋空の下、大内山の翠映ゆ
る式場に、民草の代表五万五千の御待ち申上ぐる中に
天皇、皇后両陛下には式殿に出御、近衛内閣総理大臣、正
面中央階段前に参進、式典開始の旨を恭しく奏上した。
 次いで 天皇、皇后両陛下立御、諸員最敬礼の後、一同
「君が代」を奉唱、終つて近衛内閣総理大臣正面の階段を
昇つて御前に参進、恭しく寿詞(よごと)を奏し奉つた。






    内閣総理大臣寿詞

  文麿謹ミテ言ス伏シテ惟ミルニ

皇祖国ヲ肇メ統ヲ垂レ
皇孫ヲシテ八洲ニ君臨セシメ錫フニ 神勅ヲ以テシ授ク
  ルニ 神器ヲ以テシタマフ 宝祚ノ隆天壌ト窮リ無
  ク以テ
神武天皇ノ聖世ニ及ブ乃チ 天業ヲ恢弘シテ 皇都ヲ
  橿原ニ奠メ 宸極ニ光登シテ 徳化ヲ六合ニ敷キタ
  マヒ
  歴朝相承ケテ益々 天基ヲ鞏クシ 洪猷ヲ壮ニシ一系
  連綿正ニ紀元二千六百年ヲ迎フ國體ノ尊厳万邦固ヨリ
  比類ナシ 皇謨ノ宏遠四海豈匹儔アランヤ文麿誠
  懽誠慶頓首頓首恭シク惟ミルニ
天皇陛下聡明聖哲允ニ允ニ武夙ニ
祖宗ノ丕績ヲ紹ギタマヒ宵治ヲ図リ文教ヲ弘メ武備ヲ
  整ヘ 威烈ノ光被スル所昭明ノ化普率ニ洽ク億兆臣
  民皆雨露ノ恵沢ニ浴ス方今世局ノ変急ナルニ臨ミ或ハ
  六師ヲ異域ニ出シ或ハ盟約ヲ友邦ニ結ビ以テ東亜ノ
  安定ヲ確立シ以テ世界ノ平和ヲ促進ツタマハントス
  洵ニ絶代ノ盛徳曠古ノ大業ニシテ
皇祖肇國ノ 宸意ト
神武天皇創業ノ 皇謨トニ契合セザルハナシ臣等生ヲ
  昭代ニ享ケ此ノ隆運ヲ仰ギ感激抃躍ノ至リニ堪ヘズ曩
  ニ光輝アル紀元ノ佳節ニ当リ優渥ナル 聖詔ヲ拝シ恐
  懼措ク能ハズ臣等協心、戮力誓ツテ大訓ニ率由シ益々
  國體ノ精華ヲ発揮シテ非常ノ時艱ヲ克服シ八紘一宇
  ノ 皇謨ヲ翼賛シテ宏大無辺ノ 聖恩ニ奉対センコ
  トヲ期ス本日此ノ式典ヲ挙クルニ際シ
天皇陛下皇后陛下ノ 臨御ヲ辱クス臣等更ニ遠ク心ヲ肇
  國ノ淵源二馳セ思ヲ創業ノ雄図ニ致シ感激益々深シ
  文麿乏シキヲ承ケテ台閣ノ首班ニ居リ茲ニ帝国臣民ニ
  代リ叨リニ 天顔ニ咫尺シテ恭シク 聖寿ノ万歳ヲ祝
  シ 宝祚ノ無窮ヲ頌シ奉ル文麿誠懽誠慶頓首頓首

 一億国民の寿ぎを代表するこの寿詞は、ラヂオを通じて
全国に放送されたのであつた。
 天皇陛下には、内閣総理大臣の寿詞を受けさせられた
後、左の如き優渥なる勅語を賜はつた。

   勅 語

茲ニ紀元二千六百年ニ膺リ百僚衆庶相会シ
之レカ慶祝ノ典ヲ挙ケ以テ肇國ノ精神ヲ昂
揚セントスルハ朕深ク焉レヲ嘉尚ス
今ヤ世局ノ激変ハ実ニ国運隆替ノ由リテ以
テ判カルル所ナリ爾臣民其レ克ク嚮ニ降タ
シシ宣諭ノ趣旨ヲ体シ我カ惟神ノ大道ヲ中
外ニ顕揚シ以テ人類ノ福祉ト万邦ノ協和ト
ニ寄与スルアラソコトヲ期セヨ

 朗々たる玉音を拝し、参列者一同恐懼感激、胸裡に深く
至誠奉公を誓つたのであつた。
 次に陸海軍軍楽隊、東京音楽学校生徒による紀元二千六
百年頌歌の斉唱があり、終つて近衛内閣総理大臣正面南側
階段を降つて正面階下に参進、「天皇陛下万歳」を発声、諸
員これに和して万歳の声は大内山に轟き渡つた。時に午前
前十一時二十五分。近衛内閣総理大臣の発声はラヂオによ
つて全国に中継放送され、一億の迸る赤誠に聖寿窮を寿
ぐ万歳の声は津々浦々にまで轟き渡つた。かくて諸員最敬
礼、内閣総理大臣式典終了の旨を奏上して 両陛下には便
殿(びんでん)に入御、栄えある紀元二千六百年式典は目出度く終了し
た。
 この日畏き辺りでは国民に喜びを頌たせ給ふ有難き思召
から、敍位、敍勲、賜杯、文化勲章授賜、褒賞下賜の御沙
汰あらせられ、この光栄に浴する者二百五十七名の多きに
及んだ。


紀元二千六百年奉祝会

 紀元二千六百年奉祝会は、式典に引き続いて翌十一日午
後二時から、宮城外苑に、再び 天皇、皇后両陛下の行幸啓
を仰いで奉行された。
 近衛紀元二千六百年奉祝会長正面階下に参進して奉祝会
開始の旨を奏上、 天皇、皇后両陛下には立御、諸員最敬
礼、君が代奉唱の後、近衛会長本位に復し、次に紀元二千
六百年奉祝会総裁宮殿下御代理高松宮殿下には、 陛下の
御前に御参進、奉祝の詞を奏上遊ばされた。

      紀元二千六百年奉祝総裁代理奉祝詞

   紀元二千六百年奉祝会総裁代理宣仁謹ミテ言
   ス伏シテ惟ミルニ
 神武天皇
 皇祖ノ神勅ヲ奉シ天壌無窮ノ 宝祚ヲ践ミ給ヒシヨリ
   列聖相承ケテ
 陛下ノ御宇ニ逮ヒ今年恰モ紀元二千六百年ニ当レリ
 陛下斯ノ盛時ニ際シ特ニ 宮中ニ於ケル紀元節ノ祭典ヲ
   重クシ 明詔ヲ発シテ臣民率由ノ大道ヲ示シ 恩赦ノ
   令ヲ下シテ遍ク仁沢ヲ布キ又
 神宮
   山陵ヲ 親拝シテ孝敬ヲ申へ陸海ノ軍容ヲ 親閲シテ
   士気ヲ励マシ給へリ
   聖慮深厚洵ニ惶懼ニ勝へス等茲ニ令辰ヲトシ恭シ
   ク
 天皇陛下 皇后陛下ノ臨御ヲ仰キ紀元二千六百年奉祝ノ
   会ヲ行フ瑞雲靄靄トシテ宸闕ノ上ヲ繞リ和気洋洋トシ
   テ禁苑ノ外ニl溢ル普天率土手ヲ額ニシ声ヲ同シウシテ
   此ノ盛事ヲ謳歌セサルナシ顧レハ世界ハ今曠古ノ変
   局ニ臨メリ
 陛下武ヲ異城ニ用ヒテ東亜永遠ノ安定ヲ冀図シ盟ヲ友邦
   ニ結ヒテ宇内恒久ノ平和ニ寄与シ給ハントス
   聖謨宏遠洵ニ感激ニ勝へス臣等和衷協同 皇猷ヲ
   賛襄シ時艱ヲ匡済シ以テ
   天恩ノ万一ニ報イ奉ランコトヲ期ス等生ヲ昭代ニ享
   ケテ此ノ昌期ニ遭ヒ歓天喜地ノ至ニ勝フルナシ恭シ
   ク表ヲ上リ賀ヲ陳へ以テ 聞ス宣仁謹ミテ言ス

 高松宮殿下の奉祝詞奏上の後、外国使臣首席グルー米国
大使御前に参進、奉祝の詞を奏上した。


  外国使臣首席奉祝詞

 陛下

 大日本帝国建国ノ歴史的記念日ノ荘重森厳ナル祝典
 ニ参列スルノ光栄ニ浴シ諸外国使臣ハ感激措ク能ハズ
 茲ニ一同ヲ代表シ謹ミテ深厚ナル謝意ヲ表シ奉ル
 今次祝典ハ誠ニ大日本帝国ノ光輝アル歴史卜伝統ノ悠
 久性ヲ象徴シ之ヲ四海ニ昂揚スルモノナリ
 本日此ノ曠古無此ノ盛典ニ際シ在京外交団員ハ
 陛下及大日本国民ニ封シ最モ恭敬ニツテ誠実ナル
 祝意ヲ表スルト共ニ 陛下、皇后陛下、皇太后陛下及
 皇室ノ康寧ト繁栄ヲ悃祷ツ大日本帝国ノ国運愈々隆昌
 ヲ加へ益々人類ノ文化ト福祉ノ増進ニ貢献スル所アラ
 ンコトヲ祈願シテ已マザルモノナリ
 謹ミテ奏ス

 次いで 天皇陛下には、再び優渥なる勅語を賜はつた。

 勅  語

 爰ニ紀元二千六百年慶祝ノ讌ニ臨ミ各国代
 表者竝ニ朝野ノ代表者ト歓ヲクシ楽ヲ偕
 ニスルハ朕ノ深ク懌フ所ナリ
 今ヤ一大世変ニ際会スルモ平和ノ日ナラス
 シテ恢復セラレ万邦卜倶ニ其ノ慶ニ頼ラ
 ンコトヲ望ム


 世界の平和を御軫念あらせらるる大神心を拝して、参列
の栄に浴した外国使臣を始め、一同恐懼し奉つたのであつた。
 かくて 天皇、皇后両陛下には御椅子に着御、御膳竝びに
御酒を供し奉つて、開宴となつたが、この供御は国民と慶
びを共にせさせ給ふ有難き思召から全く参列者と御同様の
野戦食であつたと承はる。
 開宴と同時に正面の舞台では紀元二千六百年奉祝舞楽
「悠久」が奏され、続いて陸海軍軍楽隊の奉祝音楽「大歓喜」
「紀元二千六百年頌歌行進曲」吹奏集「奉祝頌歌」の演奏があ
り、最後に全国学生生徒代表二千余名の奉祝国民歌「紀元
二千六百年」の斉唱があつた。
 宴終つて、総裁宮御代理高松宮殿下には、階下の舞楽舞
台上に御参進、 天皇陛下万歳を御発声、諸員これに和し
て万歳を三唱し奉つた。
 かくて近衛奉祝会長、奉祝会終了の旨を奏上、両陛下に
は便殿に入御、午後三時過、御機嫌麗しく還幸あらせら
れ、曠古の祝典は滞りなく終了したのであつた。

           (勅語の振仮名は編輯部に於て謹んで附したものである)