第二一三号(昭一五・一一・六)
教育勅語換発五〇年式典に於て賜はりたる勅語
紀元二千六百年祝典について 内閣紀元二千六百年祝典事務局
奉祝記念事業の概況
地方に於ける奉祝記念事業
「日本文化大観」の編纂
大政翼賛会活動を開始
支那事変の近況 陸軍省情報部
伊軍、ギリシアに進入 外務省情報部
米穀の国家管理 農 林 省
−米穀管理規則の解説−
紀元二千六百年を記念する
日 本 文 化 大 観
紀元二千六百年奉祝会の奉祝記
念事業の一つに「日本文化大観」の編
纂出版がある。本事業の実施に関
しては、去る昭和十三年六月、紀元
二千六百年奉祝会より文部省にそ
の事務の委嘱があり、教学局に於
て事務を進めてゐたのであるが、そ
の重要性に鑑み、昭和十四年二月
勅令第二十九号を以て文部大臣の
管理に属する「日本文化大観編集
会」の官制が公布され、同時に会長
(教学局長官)を始め委員幹事等約四
十名の任命を見た。更に昨年四月に
は文部省構内に編修会事務所の新営
成り、事務組織も整備し、全力を挙
げて本事業の完成に努めてきたの
である。
紀元二千六百年を記念する本書の
編纂出版の趣旨は、光輝ある国史の
成跡(せいせき)と現代の盛事とを反省し、多彩
な皇國文化を通じて国民的自覚と感
激とを深め、将来の躍進に資すると
共に、海外に対して我が文化の精華
を宣揚し、新らしき世界文化の創造
に寄与せんとするに在る。
我が国は神武天皇創業以来悠久
まさに二千六百年、 一系の皇統の
下、揺ぎなき國體はいよいよ輝きを
加へ、国運はますます隆盛発展の
一途を辿つて今日に及んだ。時恰も
世界は史上空前の大転換期に当り、
この間に処して我が国は、万難を排
して大東亜の新秩序を確立すべく一
路邁進しつゝある。
我が国の歴史を一貫して展開し来
つた肇國の精神は、今や全世界を光
被すべきときに際会したものと云へ
よう。人類永遠の平和と幸福とを確
保する不易の世界新秩序の建設に指
導的役割を果し、進んで新時代の世
界文化の創造に寄与すべきは、今日
の我が国の使命であり、その責務の
重且つ大なることは先史にその比と
見ない。
この時に当り、肇國の精神の顕現
たる日本文化の生成発展の跡を回
顧し、現代我が国のもつ形相を大観
することは、当面せる八紘一宇の
歴史的使命の自覚を深くし、臣道実
践の決意を固くする所以である。し
かも他面、我が文化を進んで海外に
宣揚することは、諸外国をして我が
国を正しく認識せしめる所以であ
り、これまた今日の日本の世界的使
命を達成するために欠くべからざる
ことでなければならない。更にまた、
記念すべき紀元二千六百年の今日、
現代までの我が国の文化の精髄に関
する権威ある記録を作製し、これを
永く今後に残し伝へることは、後世
子孫に対するわれわれの文化的義務
であるともいへよう。国家的事業と
しての本書編纂の重要な意義は、蓋
しこれ等の点に存するのである。
従つて本書の編纂は、周到な準備
と綿密な考慮の下に進められたもの
であり、各方面の専門家・関係官等
より成る委員や、その他関係者達の
間に於て、内容その他について慎重
審議を重ね、その万全の成果を期し
た。
本書の内容構成について述べる
と、本文としての歴史篇上・下及び現
勢(げんせい)篇の三巻、竝びに図録上・中・下の
三巻、計六容より成る。歴史篇上巻
には古代の文化(神代及び大和時代、飛
鳥・奈良時代、平安時代)及び中世の文
化(鎌倉時代、吉野・室町時代)を述べ、
歴史篇下巻には近世の文化(安土桃山
時代、江戸時代)より現代の文化(明治
時代、大正・昭和時代)までを敍し、巻
末に年表を附する。神代及び大和時
代の章に於て肇國(てうこく)竝びに神武天皇の
二節を特に設けた外は、各時代を
通じて、それぞれ概観・政治・対外
関係・経済・農業及び宗教・教学及び
芸術の六方面に分けて説いてゐる
が、これ等は便宜上の分節であつて、
各々独立して取扱はれるものではな
く、これ等の諸方面が共通の時代
的特色を有することの考察に重点を
置くと同時に、それが日本文化全体
の中に如何なる意義を有するかを究
明しようとするものである。
次に現勢篇に於ては、以上の歴史
的敍述を背景として、国家・政治及
び社会・軍事及び国防・経済・祭祀宗
教及び風俗・教学・芸術の各部門に亙
つて日本文化の真貌と特質を明らか
にし、最後に結論的なものとして日
本文化の回顧と展望を論述する。
かくて絢爛たる現代文化が、神武天
皇御創業以来二千六百年の精華の結
晶せるものであり、光輝ある国史
の根柢の上に、よく外国文化を摂取
醇化して成れるものであることを
明らかにすると共に、東西文化の統
一者としての日本の世界に於ける地
位と、新らしき世界文化創造の大使
命とを閘明する。なほ、現勢篇巻末
には諸種の統計と図表を附する。
図録三巻は、上代遺物・建築・庭
園・彫刻・絵画・工芸・書・刀剣等、古
代より現代に至る我が国美術の代表
的名品を網羅し、これに一々簡明な
解説を附し、理解に便ならしめんと
した。而して原則として図版は本書
独自の立場より新たに撮影する方針
の下に編纂したのであつて、図録自
体としても独自の意義と価値とを有
すべきものである。
本書の印刷は内閣印刷局に委嘱
し、時局の諸制限の下に於ても、用
紙・図版・印刷・製本等に最善を尽し、
技術的にも昭和聖代の出版物として
最高水準のものたらしめ、現代日本
文化の内外への宣揚と、後世への保
存とに於て、本書の使命を名実共に
発揮せしめんとするものである。体
裁は規格判B判4番型(大約四六四倍
判)の大きさで、本文約千五百頁(一
頁約千百六十文字)、図録は約六百図で
ある。なほ、一般に広く普及させる
目的で他に普及版を刊行し、また別
に邦語版の大綱によつて外国語版を
出版する予定である。
今や光輝ある紀元二千六百年祝典
挙行の日も迫つた。「日本文化大観」
もその原稿・図録原版等すでに殆ん
ど全部完成を見、近くその第一巻よ
り逐次印刷公刊する運びになつてゐ
る。本書の重大なる使命を全からし
めるに謬(あやま)ちなからんことを期し、関
係者一同一段の努力を続けてゐる。